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第265話
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日向と桜の前に立ちはだかる、重々しい扉。
加えて、頑丈に作られた扉に、これまた頑丈な結界が張られている。
これは誰がどう見ても、この奥には宝が隠されていると考えるだろう。
まして長の屋敷にあるとなれば、最初に思い浮かべるのは、この地に関する秘密か何か……。
「この扉だけ、他とは雰囲気が違うよね。
やっぱり、何か隠されてるのかな」
これには桜も気づいたようで、不思議そうに扉を見上げている。
一風変わっているどころではない扉は、ここにたどり着いた者の注意を引くのには十分だ。
対して日向は、この奥に何があるのかは大方予想が出来ているため、彼だけは次の段階に進んでいた。
(この結界…………)
日向が気にしていたのは、扉に張られた結界。
日向はこの半年、いくつもの結界を目にしてきた。
そしてこの瑞杜に入ってからも、実に2回。
結界というものは見慣れたが、今回ばかりは、少し引っかかる。
(この結界の、気配……どこかで……)
日向が気にしていたのは、扉に張られた結界から滲み出ている、ある気配。
仙人や妖魔のように断定は出来ないが、感知する能力がない日向でも、この結界の気配に違和感を抱く。
その違和感とは……ありえない話だとは思うが、どこかで感じたことがあるような気がするのだ。
結界自体は初めて見たというのに、気配だけは初めてではない。
それが、日向は不思議でたまらなかった。
(とりあえず……壊すか?)
この奥には、日向の求めているものがある。
黒神の記録が残されている書物が、扉の向こうで待っているのだ。
と、日向が考えていたその時…………
「ひ、日向くん?」
「……ん?」
ふと、桜が声を上げた。
日向が結界から視線を外し、桜の方へと振り向くと、桜は日向の腰あたりを指さしていた。
「何か……光ってる」
「…………?」
端的な言葉に、日向は首を傾げた。
そしてそのまま、桜の指さす方向に導かれると……
「…………えっ」
日向の腰に下げている矢籠。
その中で、1本の矢が淡い光を放っていた。
揺れもせず、音も立てず、ただ静かに。
そしてその矢は……
「これ…………龍牙の、矢…………」
なんと虎珀ではなく、龍牙の矢だったのだ。
今までは、白い結界に近づいた瞬間、虎珀の矢はカタカタと動いて反応していた。
だが今回は、虎珀の矢は動くこともせず静かで、代わりに龍牙の矢に反応がある。
これは、予想外すぎる展開だ。
その時、日向はあることに気づく。
(……そういや、この結界の気配って……)
どこかで感じたことのある、結界の気配。
思えばこの気配……龍牙に似ているのだ。
彼の矢に反応があったことで、日向はどこかで感じたことのある気配の正体が、龍牙だと気づいた。
龍牙は、よく日向に抱きついて回る。
そのため龍牙の気配は、日向でも少しは感知出来るようになっていた。
だが、どうして結界の気配が龍牙と一致するのだろう。
「……………………」
日向はじっと矢に視線を落とす。
本来ならば、今まで通り矢を放つのがいいのだろうが……この先が、どういう構造になっているか分からない。
万が一、日向がこの扉に向かって矢を放った瞬間、扉の向こう側に何かしら影響が起きてしまったら。
日向が追い求めている黒神関連の書物が、無傷でいられるとは限らないだろう。
日向は龍牙の矢をギュッと握ると、そっと結界に近づいた。
(頼むっ…………)
日向は縋る思いで、その矢を結界に近づけた。
結界は、壊す以外にも解除方法はある。
それを信じて、日向が龍牙の矢を結界に触れさせた瞬間…………
フワッ………………………………。
結界は、まるで霧が晴れるかのようにスゥっと消えていった。
まさか本当に解除できるとは思わず、日向も、ずっと様子を伺っていた桜も驚く。
そして結界が無くなった瞬間、扉は重々しい気配を消して、よくある扉へと戻る。
直後……扉は何故か、ギイっと音を立てながら開いた。
その時…………………………………………。
(…………あれ…………)
目の前の扉が開いた瞬間。
扉の向こうから、ふわっと甘い香りが漂った。
それは、日向の好む匂いで、且つ魁蓮を連想するもの……。
そう、蓮の花の香りだったのだ。
そして同時に、その香りに懐かしさを感じる。
(何で、蓮の匂いなんか…………)
「ひ、日向くん。凄い……」
その時、ふと桜が驚いたまま声をかける。
その声に、日向は我に返った。
桜からすれば、どうやって解除すればいいか分からない結界を、日向がいとも簡単に解除したのだ。
仙人でもないというのに、確かに不思議だろう。
日向は「あはは……」と何かを誤魔化すように笑うと、再び扉の奥へと視線を向ける。
(暗い……何があるか全然分からねぇ……)
扉の先は、暗くて何も見えない。
壁がどこにあるか分からないうえに、少し怪しい雰囲気もある。
そもそも結界で守られていた時点で、この先が普通の場所なわけがないのだ。
(流石に、危ないか……?)
この中に入った途端、何も無いとは言えない。
日向は仙人でもないため、何か罠があったとしても、桜を守れるとは限らない。
ならば、桜を連れていかないのが最善だろう。
日向はそう考えると、少し申し訳なさそうに桜に向き直る。
「桜。この先は、何があるか分からねぇ。桜を危険な目に合わせたくないから、ここからは僕一人で行く。
それに、この場でずっと待たせるのも悪い。桜が良ければ、先に家に帰っててくれ」
日向は優しくそう言うと、桜は日向の気持ちを察したのか、反論することなく頷いた。
「そうね。元々私は、この場所に案内するだけの役目だったもの。ここからは、日向くんの事情だし。
分かった、先に家に帰ってる。気をつけてね」
「おう、ありがとな」
日向は桜に微笑むと、桜の頭をそっと撫でた。
ここまで連れてきてくれたのも、屋敷がまだ残っていると教えてくれたのも、全て桜のおかげだ。
感謝してもしきれない。
桜は日向に頭を撫でられることにドキッとしながらも、優しく微笑み返す。
(さてと…………)
日向は桜の頭から手を離し、扉へと振り返った。
この先に、きっと黒神の全てが。
「じゃあ桜。行ってくる」
「うん。気をつけて」
桜にそう言うと、日向は深呼吸をして心を落ち着かせた。
そしてようやく、日向は扉の奥へと足を踏み入れる。
1歩、また1歩、桜に後ろから見守られながら。
その時……………。
バタンっ!!!!!!!!!
「っ!?」
日向が中に入った途端、どういう訳か扉が激しい音を立てて閉じてしまった。
どうやら、勝手に閉じたようだ。
これには扉の向こうにいる桜も焦ったのか、向こう側から日向を呼ぶ桜の声が微かに聞こえる。
「桜!桜!!僕は大丈夫!!先に帰っててくれ!」
日向は暗闇の中から、桜に向かってそう叫ぶ。
自分の声が聞こえれば、きっと桜も安心するだろう。
そんな日向の考えが通じたのか、微かに聞こえた日向の声に、桜は心配しながらも納得した。
そして心の中で日向の無事を祈りながら、桜はその場を後にした。
(まずい、やっぱり罠かっ……?)
桜が居なくなった後、日向は周りを見渡す。
扉がしまった途端、完全に視界が使い物にならなくなってしまった。
音もなく、何も見えず、構えようにも手元が見えない。
完全に詰んでしまった。
(とにかく、弓矢だけでもっ…………)
そうして日向が、弓矢を構えようとした直後……
ボッ…………!!!!!
突如、中にあったロウソクに火が灯り始めた。
誰もいないのに、火は一つ一つ順番に灯り始める。
妖魔の妖力か、それともこの場に隠された罠の一種なのか。
日向が灯されていくロウソクを目で追っていると……ここに隠されていたものが、日向の前に姿を現す。
「っ……………………」
日向が顔を上げると……
そこは、隙間なくぎっしりと書物が詰められた、いくつもの高い棚が立つ部屋だった。
そしてその部屋の壁際には、あるひとつの屏風が。
「まさかっ……あれが伏魔のっ……」
恐らくこの屏風が、虎珀が言っていた「伏魔の乱」を描いたものだろう。
黒神の名が轟くきっかけとなった、彼の戦績。
つまり……………………
「……ここが、黒神の全てが書かれた書物の、隠し場所」
日向が瑞杜に来た、最大の目的。
黒神に関する全てが記載された書物の山が、
今……日向の前に。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
その頃。
「………………………………」
日向が黒神の書物が隠された部屋にたどり着いた頃、司雀は地下にある自身の研究室に来ていた。
壁一面に書かれた研究内容や研究結果、机にずらっと並べられた記録や書物。
その全てに目を通しながら、司雀は新たな研究結果を追い求めていた。
「…………ふぅ…………」
ひと段落ついたところで、司雀は小さく息を吐く。
魁蓮も知らない、司雀の秘密の部屋。
長年隠し通してきた研究室は、今となっては宝庫と言っても過言ではない。
ここにあるのは、歴史書にすら記載されていないようなことも残っている。
考古学を極める者が訪れれば、きっと気を失うだろう。
「……………………」
軽く伸びをした後、司雀はふと視線を巡らせる。
それは、研究室の奥に飾られた、黒神の剣。
真っ黒に輝くその剣は、使い古された割には綺麗にされており、持ち主の性格が表れているようだった。
司雀はその剣を見つめながら、ゆっくりと近づく。
「そろそろ、これを隠すのも限界でしょうか……」
黒神の剣の側まで来ると、司雀は剣に刻まれた「黒神」の文字を見つめた。
仙人は、自分の剣に名を刻む。
理由は色々とあるが、役目を全うするための決意みたいなものだろう。
そんな黒神の文字に、司雀は眉間に皺を寄せた。
(黒神は、鬼の王によって殺された…………)
心の中で呟くと、司雀は怒りのままに拳を握る。
「……こんな伝説……ふざけてるっ……」
司雀は目を閉じると、脳裏に過去の記憶を浮かび上がらせた。
何度も目にしてきた、激しい戦い。
その中心には、いつも彼がいた。
あの頃感じていた幸せが、この先もずっと続くのだと信じ続けて……。
でも………………
【雀、先に逝く…………いずれ、また会おう】
脳裏に焼き付いた、あの言葉。
涙で目が熱くなるのを感じながら、司雀は黒神の剣を再び見つめた。
この剣を、この名前を、見る度湧き上がる怒り。
誰にも打ち明けたことの無い憎悪は、今も司雀を蝕んでいく。
「私は、信念を貫かなければ。たとえそれが、
我らが王を、裏切ることになっても……」
加えて、頑丈に作られた扉に、これまた頑丈な結界が張られている。
これは誰がどう見ても、この奥には宝が隠されていると考えるだろう。
まして長の屋敷にあるとなれば、最初に思い浮かべるのは、この地に関する秘密か何か……。
「この扉だけ、他とは雰囲気が違うよね。
やっぱり、何か隠されてるのかな」
これには桜も気づいたようで、不思議そうに扉を見上げている。
一風変わっているどころではない扉は、ここにたどり着いた者の注意を引くのには十分だ。
対して日向は、この奥に何があるのかは大方予想が出来ているため、彼だけは次の段階に進んでいた。
(この結界…………)
日向が気にしていたのは、扉に張られた結界。
日向はこの半年、いくつもの結界を目にしてきた。
そしてこの瑞杜に入ってからも、実に2回。
結界というものは見慣れたが、今回ばかりは、少し引っかかる。
(この結界の、気配……どこかで……)
日向が気にしていたのは、扉に張られた結界から滲み出ている、ある気配。
仙人や妖魔のように断定は出来ないが、感知する能力がない日向でも、この結界の気配に違和感を抱く。
その違和感とは……ありえない話だとは思うが、どこかで感じたことがあるような気がするのだ。
結界自体は初めて見たというのに、気配だけは初めてではない。
それが、日向は不思議でたまらなかった。
(とりあえず……壊すか?)
この奥には、日向の求めているものがある。
黒神の記録が残されている書物が、扉の向こうで待っているのだ。
と、日向が考えていたその時…………
「ひ、日向くん?」
「……ん?」
ふと、桜が声を上げた。
日向が結界から視線を外し、桜の方へと振り向くと、桜は日向の腰あたりを指さしていた。
「何か……光ってる」
「…………?」
端的な言葉に、日向は首を傾げた。
そしてそのまま、桜の指さす方向に導かれると……
「…………えっ」
日向の腰に下げている矢籠。
その中で、1本の矢が淡い光を放っていた。
揺れもせず、音も立てず、ただ静かに。
そしてその矢は……
「これ…………龍牙の、矢…………」
なんと虎珀ではなく、龍牙の矢だったのだ。
今までは、白い結界に近づいた瞬間、虎珀の矢はカタカタと動いて反応していた。
だが今回は、虎珀の矢は動くこともせず静かで、代わりに龍牙の矢に反応がある。
これは、予想外すぎる展開だ。
その時、日向はあることに気づく。
(……そういや、この結界の気配って……)
どこかで感じたことのある、結界の気配。
思えばこの気配……龍牙に似ているのだ。
彼の矢に反応があったことで、日向はどこかで感じたことのある気配の正体が、龍牙だと気づいた。
龍牙は、よく日向に抱きついて回る。
そのため龍牙の気配は、日向でも少しは感知出来るようになっていた。
だが、どうして結界の気配が龍牙と一致するのだろう。
「……………………」
日向はじっと矢に視線を落とす。
本来ならば、今まで通り矢を放つのがいいのだろうが……この先が、どういう構造になっているか分からない。
万が一、日向がこの扉に向かって矢を放った瞬間、扉の向こう側に何かしら影響が起きてしまったら。
日向が追い求めている黒神関連の書物が、無傷でいられるとは限らないだろう。
日向は龍牙の矢をギュッと握ると、そっと結界に近づいた。
(頼むっ…………)
日向は縋る思いで、その矢を結界に近づけた。
結界は、壊す以外にも解除方法はある。
それを信じて、日向が龍牙の矢を結界に触れさせた瞬間…………
フワッ………………………………。
結界は、まるで霧が晴れるかのようにスゥっと消えていった。
まさか本当に解除できるとは思わず、日向も、ずっと様子を伺っていた桜も驚く。
そして結界が無くなった瞬間、扉は重々しい気配を消して、よくある扉へと戻る。
直後……扉は何故か、ギイっと音を立てながら開いた。
その時…………………………………………。
(…………あれ…………)
目の前の扉が開いた瞬間。
扉の向こうから、ふわっと甘い香りが漂った。
それは、日向の好む匂いで、且つ魁蓮を連想するもの……。
そう、蓮の花の香りだったのだ。
そして同時に、その香りに懐かしさを感じる。
(何で、蓮の匂いなんか…………)
「ひ、日向くん。凄い……」
その時、ふと桜が驚いたまま声をかける。
その声に、日向は我に返った。
桜からすれば、どうやって解除すればいいか分からない結界を、日向がいとも簡単に解除したのだ。
仙人でもないというのに、確かに不思議だろう。
日向は「あはは……」と何かを誤魔化すように笑うと、再び扉の奥へと視線を向ける。
(暗い……何があるか全然分からねぇ……)
扉の先は、暗くて何も見えない。
壁がどこにあるか分からないうえに、少し怪しい雰囲気もある。
そもそも結界で守られていた時点で、この先が普通の場所なわけがないのだ。
(流石に、危ないか……?)
この中に入った途端、何も無いとは言えない。
日向は仙人でもないため、何か罠があったとしても、桜を守れるとは限らない。
ならば、桜を連れていかないのが最善だろう。
日向はそう考えると、少し申し訳なさそうに桜に向き直る。
「桜。この先は、何があるか分からねぇ。桜を危険な目に合わせたくないから、ここからは僕一人で行く。
それに、この場でずっと待たせるのも悪い。桜が良ければ、先に家に帰っててくれ」
日向は優しくそう言うと、桜は日向の気持ちを察したのか、反論することなく頷いた。
「そうね。元々私は、この場所に案内するだけの役目だったもの。ここからは、日向くんの事情だし。
分かった、先に家に帰ってる。気をつけてね」
「おう、ありがとな」
日向は桜に微笑むと、桜の頭をそっと撫でた。
ここまで連れてきてくれたのも、屋敷がまだ残っていると教えてくれたのも、全て桜のおかげだ。
感謝してもしきれない。
桜は日向に頭を撫でられることにドキッとしながらも、優しく微笑み返す。
(さてと…………)
日向は桜の頭から手を離し、扉へと振り返った。
この先に、きっと黒神の全てが。
「じゃあ桜。行ってくる」
「うん。気をつけて」
桜にそう言うと、日向は深呼吸をして心を落ち着かせた。
そしてようやく、日向は扉の奥へと足を踏み入れる。
1歩、また1歩、桜に後ろから見守られながら。
その時……………。
バタンっ!!!!!!!!!
「っ!?」
日向が中に入った途端、どういう訳か扉が激しい音を立てて閉じてしまった。
どうやら、勝手に閉じたようだ。
これには扉の向こうにいる桜も焦ったのか、向こう側から日向を呼ぶ桜の声が微かに聞こえる。
「桜!桜!!僕は大丈夫!!先に帰っててくれ!」
日向は暗闇の中から、桜に向かってそう叫ぶ。
自分の声が聞こえれば、きっと桜も安心するだろう。
そんな日向の考えが通じたのか、微かに聞こえた日向の声に、桜は心配しながらも納得した。
そして心の中で日向の無事を祈りながら、桜はその場を後にした。
(まずい、やっぱり罠かっ……?)
桜が居なくなった後、日向は周りを見渡す。
扉がしまった途端、完全に視界が使い物にならなくなってしまった。
音もなく、何も見えず、構えようにも手元が見えない。
完全に詰んでしまった。
(とにかく、弓矢だけでもっ…………)
そうして日向が、弓矢を構えようとした直後……
ボッ…………!!!!!
突如、中にあったロウソクに火が灯り始めた。
誰もいないのに、火は一つ一つ順番に灯り始める。
妖魔の妖力か、それともこの場に隠された罠の一種なのか。
日向が灯されていくロウソクを目で追っていると……ここに隠されていたものが、日向の前に姿を現す。
「っ……………………」
日向が顔を上げると……
そこは、隙間なくぎっしりと書物が詰められた、いくつもの高い棚が立つ部屋だった。
そしてその部屋の壁際には、あるひとつの屏風が。
「まさかっ……あれが伏魔のっ……」
恐らくこの屏風が、虎珀が言っていた「伏魔の乱」を描いたものだろう。
黒神の名が轟くきっかけとなった、彼の戦績。
つまり……………………
「……ここが、黒神の全てが書かれた書物の、隠し場所」
日向が瑞杜に来た、最大の目的。
黒神に関する全てが記載された書物の山が、
今……日向の前に。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
その頃。
「………………………………」
日向が黒神の書物が隠された部屋にたどり着いた頃、司雀は地下にある自身の研究室に来ていた。
壁一面に書かれた研究内容や研究結果、机にずらっと並べられた記録や書物。
その全てに目を通しながら、司雀は新たな研究結果を追い求めていた。
「…………ふぅ…………」
ひと段落ついたところで、司雀は小さく息を吐く。
魁蓮も知らない、司雀の秘密の部屋。
長年隠し通してきた研究室は、今となっては宝庫と言っても過言ではない。
ここにあるのは、歴史書にすら記載されていないようなことも残っている。
考古学を極める者が訪れれば、きっと気を失うだろう。
「……………………」
軽く伸びをした後、司雀はふと視線を巡らせる。
それは、研究室の奥に飾られた、黒神の剣。
真っ黒に輝くその剣は、使い古された割には綺麗にされており、持ち主の性格が表れているようだった。
司雀はその剣を見つめながら、ゆっくりと近づく。
「そろそろ、これを隠すのも限界でしょうか……」
黒神の剣の側まで来ると、司雀は剣に刻まれた「黒神」の文字を見つめた。
仙人は、自分の剣に名を刻む。
理由は色々とあるが、役目を全うするための決意みたいなものだろう。
そんな黒神の文字に、司雀は眉間に皺を寄せた。
(黒神は、鬼の王によって殺された…………)
心の中で呟くと、司雀は怒りのままに拳を握る。
「……こんな伝説……ふざけてるっ……」
司雀は目を閉じると、脳裏に過去の記憶を浮かび上がらせた。
何度も目にしてきた、激しい戦い。
その中心には、いつも彼がいた。
あの頃感じていた幸せが、この先もずっと続くのだと信じ続けて……。
でも………………
【雀、先に逝く…………いずれ、また会おう】
脳裏に焼き付いた、あの言葉。
涙で目が熱くなるのを感じながら、司雀は黒神の剣を再び見つめた。
この剣を、この名前を、見る度湧き上がる怒り。
誰にも打ち明けたことの無い憎悪は、今も司雀を蝕んでいく。
「私は、信念を貫かなければ。たとえそれが、
我らが王を、裏切ることになっても……」
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