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第141話
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「楊!楊!?いる!?」
あれから日向は、階段を必死に降りていた。
突然現れた階段は、驚く程に暗かった。
肉眼で見るのも難しいほどで、日向は足を踏み外さないように、慎重に降りていく。
こんなに暗い状態が続くのならば、灯りのひとつでも持ってくれば良かったと、日向は今になって後悔した。
(というか、どうして楊はこんな所にっ……)
ここはそもそも、どこに繋がっているのだろう。
日向は城に地下があるなんて知らなかった。
魁蓮も、教えてくれなかったのだから。
それに、どうにも気になることがある。
この階段と扉、あれは日向の力で開いた。
どうしてそんな条件が付いていたのだろうか。
日向の力は唯一無二、同じ力を持っている者はいない。
ではなぜ。
(とにかく、今は楊を追わなきゃ)
少なからず、彼は何か知っているのだろう。
それに賭けるように、日向は楊を呼び続けた。
「楊ー!?」
「ピィー!」
「っ!」
不安になっている日向を落ち着かせるような、楊の声。
日向は楊の声が聞こえた安心感と、早く行かなければという焦りで、階段を下る足を早める。
間違っていない、楊はこの先へ行きたがっている。
ちゃんと、理由がある。
「ピィ!」
「楊!良かった……」
しばらく下ると、階段の終わりのところで楊が日向を待っていた。
相変わらず空間は暗いままで、先が見えない階段は無駄に長く感じていた。
その階段だけでも下り終えたのは、むしろ良かった。
日向はホッと一息つくと、汗を拭いながら顔を上げた。
「……また扉?」
階段の終わりの先にあったのは、大きな扉。
また、見たことの無い扉がある。
今度は先程より大きく、そして頑丈。
圧倒的な存在感を放つ扉を、日向はじっと見上げた。
この城は、本当に洞窟のように謎が多い。
すると楊は、コンコンと扉をくちばしで叩いている。
どうやら、楊はこの中に行きたいようだった。
「あ、ちょっと待って。今開けるから」
日向は楊を扉から離すと、重たい扉をグッと開ける。
扉はギィッと重たい音を出しながら、ゆっくりと開いた。
直後、開いた扉の隙間から、ふわっと花の香りがした。
様々な花の香りが混ざり合い、華やかさを感じる。
中に香水のようなものでも置いているのだろうか?
そのことを不思議に思いながら、日向は扉を開け切る。
すると、室内にあったロウソクが、扉が開いたのを合図に、ボッと火をつけた。
「何、ここ……」
開けた扉の向こう側、ロウソクが照らす室内。
そこで待ち構えていたのは……研究室のような場所だった。
壁には、古い言葉や文字を使った文や化学式などがビッシリと書かれており、所々には紙が貼られている。
研究室内は、たくさんの机が並んでいて、その上には分厚い書物や巻物、研究する器具、花や資材のようなものが置かれていた。
それだけで無く、壁に張り付くように立つ高い本棚には、隙間なく本が詰められている。
「凄い……」
地下とは思えない室内の広さ。
漂う花の香りと、室内に入って分かる薬草や研究の際に使われる薬物の匂い。
ここは、研究室と一言で言いくるめていいものか分からない、むしろこれはもっと深い、考古学や歴史学に関する何かを秘めているような、そんな場所。
日向はその圧倒的な存在感に、開いた口が塞がらない。
「ここ、本当に城の一部なのか……?」
ここまでの規模、だだっ広い部屋。
貴重なものや、あまり触れてはいけないようなものが置かれているのは分かるのだが、何の研究をしているのかはさっぱりだった。
何か分かるようなものはないかと、日向は文字がビッシリ書かれた壁へと近づく。
綺麗な達筆で、矢印を沢山引っ張ったりしながら、記録を細かく書いている。
随分と、几帳面なやり方だ。
「……分からねぇ」
しかし、何が書かれているのかを理解するのは無理だった。
そもそも、この文字は何なのだろう。
日向は歴史や古いものに詳しい訳では無いから、解読なんてできる訳がない。
知っている文字を探そうにも、手がかりすらなく、結局何の研究を行っているのかは分からず終いだ。
(一体、誰がっ……)
「ピィ!」
「っ!」
その時、ふと楊が声を上げた。
日向がその声に振り返ると、何やら楊が日向を見つめて飛んでいる。
先程と同じ、「ついてきて」の合図だろう。
日向は周りの光景を気にしながら、再び楊について行った。
「な、なぁ楊。ここって何?」
「ピィー」
「いや、ピィーじゃ分からねぇんだけど……」
「ピィピィ!」
「……ごめん、聞いた僕が悪かったよ」
「ピィ?」
考えてみれば、なぜ楊はこの場所を知っていたのだろう。
以前、司雀に貰った城の間取りが書かれた紙には、地下など無かったはずだ。
あの紙に元々書かれていなかったのは、あの蓮の湖の空間だけ。
あの空間は、魁蓮と、魁蓮の力で守られている日向だけが通れる条件付きの空間だ。
となれば、やはりここも魁蓮だけが知る場所なのだろうか。
魁蓮が作った、彼だけが通れる場所。
楊が知っているくらいなのだから、むしろその可能性の方が高い。
では、楊が日向をここに連れてきたのは、魁蓮の指示?
「楊ー?どこまで行くのー?」
楊について行けばついて行くほど、この研究室の広さが分かる。
大きな研究をしているのか、それとも別の理由があるのか。
真相は定かでは無いが、とりあえず日向は楊について行くことにした。
ここまで来れば、楊が何かを知っているのは確定だ。
そしてその可能性として、魁蓮が何かしら関わっているのではないか、という推測も。
「楊?」
「ピィ」
その時、楊はある場所で止まった。
翼を休めて、近くにあった机の上へ降り立った。
そして、何かをじっと見上げる。
「どうしたんだ?」
突然止まった楊に、日向は首を傾げた。
楊は一体、何を見つめているのだろう。
日向はゆっくりと近づいて、楊が見上げているものに視線を移す。
そして……日向は息を飲んだ。
「………………えっ」
積み上がった書物を掻い潜り、長く暗い階段を降り、不思議な研究室へと迷い込み。
分からないことだらけの日向の脳内、そんな頭に叩き込まれた衝撃。
日向は、自分の目に映るものが信じられなかった。
「な、何でっ……………………」
日向の視線の先には、不思議な素材で作られた、ある役職の者だけが扱うことの出来る武器。
古くから存在し続ける敵を倒すため、生まれ持った力で戦い、そして守り抜くもの。
黒く輝く立派なそれは、人間からすれば象徴的な部類にあたるものだ。
あの国で生まれ育った者は、誰もが知っている。
「何で、これが、ここにあるんだよっ……」
研究室の最奥、部屋にある全てのものに守られて存在しているそれは………………
仙人の剣だった。
あれから日向は、階段を必死に降りていた。
突然現れた階段は、驚く程に暗かった。
肉眼で見るのも難しいほどで、日向は足を踏み外さないように、慎重に降りていく。
こんなに暗い状態が続くのならば、灯りのひとつでも持ってくれば良かったと、日向は今になって後悔した。
(というか、どうして楊はこんな所にっ……)
ここはそもそも、どこに繋がっているのだろう。
日向は城に地下があるなんて知らなかった。
魁蓮も、教えてくれなかったのだから。
それに、どうにも気になることがある。
この階段と扉、あれは日向の力で開いた。
どうしてそんな条件が付いていたのだろうか。
日向の力は唯一無二、同じ力を持っている者はいない。
ではなぜ。
(とにかく、今は楊を追わなきゃ)
少なからず、彼は何か知っているのだろう。
それに賭けるように、日向は楊を呼び続けた。
「楊ー!?」
「ピィー!」
「っ!」
不安になっている日向を落ち着かせるような、楊の声。
日向は楊の声が聞こえた安心感と、早く行かなければという焦りで、階段を下る足を早める。
間違っていない、楊はこの先へ行きたがっている。
ちゃんと、理由がある。
「ピィ!」
「楊!良かった……」
しばらく下ると、階段の終わりのところで楊が日向を待っていた。
相変わらず空間は暗いままで、先が見えない階段は無駄に長く感じていた。
その階段だけでも下り終えたのは、むしろ良かった。
日向はホッと一息つくと、汗を拭いながら顔を上げた。
「……また扉?」
階段の終わりの先にあったのは、大きな扉。
また、見たことの無い扉がある。
今度は先程より大きく、そして頑丈。
圧倒的な存在感を放つ扉を、日向はじっと見上げた。
この城は、本当に洞窟のように謎が多い。
すると楊は、コンコンと扉をくちばしで叩いている。
どうやら、楊はこの中に行きたいようだった。
「あ、ちょっと待って。今開けるから」
日向は楊を扉から離すと、重たい扉をグッと開ける。
扉はギィッと重たい音を出しながら、ゆっくりと開いた。
直後、開いた扉の隙間から、ふわっと花の香りがした。
様々な花の香りが混ざり合い、華やかさを感じる。
中に香水のようなものでも置いているのだろうか?
そのことを不思議に思いながら、日向は扉を開け切る。
すると、室内にあったロウソクが、扉が開いたのを合図に、ボッと火をつけた。
「何、ここ……」
開けた扉の向こう側、ロウソクが照らす室内。
そこで待ち構えていたのは……研究室のような場所だった。
壁には、古い言葉や文字を使った文や化学式などがビッシリと書かれており、所々には紙が貼られている。
研究室内は、たくさんの机が並んでいて、その上には分厚い書物や巻物、研究する器具、花や資材のようなものが置かれていた。
それだけで無く、壁に張り付くように立つ高い本棚には、隙間なく本が詰められている。
「凄い……」
地下とは思えない室内の広さ。
漂う花の香りと、室内に入って分かる薬草や研究の際に使われる薬物の匂い。
ここは、研究室と一言で言いくるめていいものか分からない、むしろこれはもっと深い、考古学や歴史学に関する何かを秘めているような、そんな場所。
日向はその圧倒的な存在感に、開いた口が塞がらない。
「ここ、本当に城の一部なのか……?」
ここまでの規模、だだっ広い部屋。
貴重なものや、あまり触れてはいけないようなものが置かれているのは分かるのだが、何の研究をしているのかはさっぱりだった。
何か分かるようなものはないかと、日向は文字がビッシリ書かれた壁へと近づく。
綺麗な達筆で、矢印を沢山引っ張ったりしながら、記録を細かく書いている。
随分と、几帳面なやり方だ。
「……分からねぇ」
しかし、何が書かれているのかを理解するのは無理だった。
そもそも、この文字は何なのだろう。
日向は歴史や古いものに詳しい訳では無いから、解読なんてできる訳がない。
知っている文字を探そうにも、手がかりすらなく、結局何の研究を行っているのかは分からず終いだ。
(一体、誰がっ……)
「ピィ!」
「っ!」
その時、ふと楊が声を上げた。
日向がその声に振り返ると、何やら楊が日向を見つめて飛んでいる。
先程と同じ、「ついてきて」の合図だろう。
日向は周りの光景を気にしながら、再び楊について行った。
「な、なぁ楊。ここって何?」
「ピィー」
「いや、ピィーじゃ分からねぇんだけど……」
「ピィピィ!」
「……ごめん、聞いた僕が悪かったよ」
「ピィ?」
考えてみれば、なぜ楊はこの場所を知っていたのだろう。
以前、司雀に貰った城の間取りが書かれた紙には、地下など無かったはずだ。
あの紙に元々書かれていなかったのは、あの蓮の湖の空間だけ。
あの空間は、魁蓮と、魁蓮の力で守られている日向だけが通れる条件付きの空間だ。
となれば、やはりここも魁蓮だけが知る場所なのだろうか。
魁蓮が作った、彼だけが通れる場所。
楊が知っているくらいなのだから、むしろその可能性の方が高い。
では、楊が日向をここに連れてきたのは、魁蓮の指示?
「楊ー?どこまで行くのー?」
楊について行けばついて行くほど、この研究室の広さが分かる。
大きな研究をしているのか、それとも別の理由があるのか。
真相は定かでは無いが、とりあえず日向は楊について行くことにした。
ここまで来れば、楊が何かを知っているのは確定だ。
そしてその可能性として、魁蓮が何かしら関わっているのではないか、という推測も。
「楊?」
「ピィ」
その時、楊はある場所で止まった。
翼を休めて、近くにあった机の上へ降り立った。
そして、何かをじっと見上げる。
「どうしたんだ?」
突然止まった楊に、日向は首を傾げた。
楊は一体、何を見つめているのだろう。
日向はゆっくりと近づいて、楊が見上げているものに視線を移す。
そして……日向は息を飲んだ。
「………………えっ」
積み上がった書物を掻い潜り、長く暗い階段を降り、不思議な研究室へと迷い込み。
分からないことだらけの日向の脳内、そんな頭に叩き込まれた衝撃。
日向は、自分の目に映るものが信じられなかった。
「な、何でっ……………………」
日向の視線の先には、不思議な素材で作られた、ある役職の者だけが扱うことの出来る武器。
古くから存在し続ける敵を倒すため、生まれ持った力で戦い、そして守り抜くもの。
黒く輝く立派なそれは、人間からすれば象徴的な部類にあたるものだ。
あの国で生まれ育った者は、誰もが知っている。
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研究室の最奥、部屋にある全てのものに守られて存在しているそれは………………
仙人の剣だった。
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