愛恋の呪縛

サラ

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第33話

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「コホン。では!今から俺たちの~?必殺技お披露目会を始めま~すっ!」

「いぇーい!」

「はぁ……」

「おっと~?そこの虎さ~ん?ちょっと気分低くな~い?ほらもっと、あげてあげて!日向も言っちゃって~!」

「虎珀!楽しもーぜ!ほら、いぇーい!」

「朝っぱらから。全く、どこから来る元気なんだ……」

「うっわ、ジジ臭。つまんねぇ男は嫌われるぞ~。そんなんだから女の子にモテねぇのかなぁ?
 ……ははっ、想像したら笑いそう。がんばっ♪」

「やかましいわ!」



 朝餉を終えた日向、龍牙、虎珀の3人は、城の庭へと来ていた。
 庭はとても広く、気持ちのいい草が生い茂っている。
 龍牙は2人の前に立って、司会進行のような気分で盛り上がっていた。



「ほんじゃ早速。日向、何が見たい?」

「とりあえず、白虎から!」

「俺かよ」



 手をバッと元気よくあげて発言する日向に、虎珀はすかさずツッコミを入れる。
 そんな日向の元気さに乗っかるように、龍牙はパチンと指を鳴らした。



「それじゃあ行ってみよー!はいはい虎くん、さっさと白虎に変わっちゃって~」

「頼むぜ!虎珀!」

「……ったく……」



 虎珀はため息を吐きながら立ち上がると、全身に妖力を巡らせた。
 周りに障害物が無いことを確認すると、パンっと手を合わせる。 
 直後、虎珀は眩い光に包まれて、ぐんぐんと形を変えていった。
 そして、眩い光から、昨日見た大きな白虎が現れる。



「うおおお!やっぱかっけぇぇぇぇ!!!!!」



 目の前に現れた白虎に、日向は両手をあげて喜んだ。
 白色の虎は実に珍しく、加えて大きさは普通の虎の何倍もある。
 立派な姿、何度観ても圧巻だ。



「うっひゃあああ!」



 日向は我慢ができなくなり、思わず虎珀の前足へと飛びついた。
 これには虎珀も、驚きで目を見開いている。
 対して日向は、柔らかくもふもふな毛並みに頬が緩んでいた。



「はぁぁぁ、気持ちぃぃぃぃ……」

「ちょっ、人間!何だ急に!」

「いやぁ、これは熟睡出来そう……天国……」

「何を言っているんだ!?」



 虎珀は戸惑うも、あまりにも日向が喜んでいるため、振り払おうにも振り払えない。
 どう抵抗していいか分からず、頭が困惑していた。
 だが、もっと困惑を招く存在が1人……。



「おい!虎だけいい思いしてんじゃねえよ!!!」

「してないわ馬鹿者!!!」



 2人の様子を後ろから見ていた龍牙は、虎珀が日向に気に入られている光景に嫉妬して、怒りの矛先を虎珀に向けていた。
 そんな状態になっているとも知らず、日向はずっと虎珀から離れない。
 遂には虎珀が羨ましくなり、龍牙はビリビリと妖力を強めていく。



「クソ虎ぁ!日向から離れろや!」

「どこをどう見たら、俺が引っ付いてると思うんだ!」

「日向独り占めしてんじゃねえよ!さっさとどけ!」

「俺ではなく、コイツに言え!!」

「ほ~ん?反抗すんのかテメェ……いい度胸じゃねえかよ、日向を奪いやがって。やんのかあ゛あ゛ん゛?」

「もう面倒臭い!!!!!!」

「上等だゴラァ!!!黒青こくせいっ」

「っ!待て!バカ龍!!!!!!」





















「なあ、もう元気出せってー……」 



 数十分後。
 あれから龍牙が嫉妬で暴れそうになり、日向と虎珀が全力でなだめて、なんとか龍牙の機嫌をとることができた。
 現在、草むらに座る日向に龍牙は抱きついて、ぐりぐりと顔を埋めている。
 日向より体が大きいはずなのに、その姿はまるで拗ねた子どもだ。



「だって……日向が虎ばっかり褒めるもん……
 俺の方が、強いし、かっこいいもん……」

「ごめんごめん、虎ってあんまり見たこと無かったから、つい」

「もう虎は終わりぃぃぃぃ……」

「あはは、はいはい」



 そんなふたりの様子を、虎珀は見つめていた。
 刺激を与えるといけないと思い、虎珀は既に元の姿へと戻っていた。
 虎珀は先程の龍牙の怒った姿を思い出し、呆れて長いため息が出てしまう。



「まさか、あんなに怒るとは……」

「龍牙そっちのけにしてたのが、悪かったっぽいねぇ。これから気をつけんと」

「はぁ……餓鬼か、全く……」



 虎珀は龍牙が暴れた際に乱れた衣を整えると、龍牙を宥める日向の隣へと腰かける。
 こうしてみると、龍牙は完全に日向に心を開いているようだった。
 魁蓮に出会うまでは1人でなにもかもを背負い、黄泉に来てからは魁蓮ばかりを追いかけていた。
 世間知らずで、好き嫌いがはっきりしている。
 まだまだ思考は子どもよりだ。



「どう?元気なった?」



 日向はずっと顔を埋めている龍牙に尋ねるが、龍牙は首を横に振る。
 日向は、ははっと困ったように笑うと、龍牙の頭に手を置いて撫で始めた。
 それに応えるように、龍牙は日向に甘えるように擦り寄る。
 子ども……というより、本当に犬だ。



「そういやさ」



 虎珀がじっと眺めていると、ふと日向が口を開いた。
 虎珀は日向へと視線を移す。



「魁蓮って、どんだけ強いの?龍牙でも超強いのに、魁蓮はそれ以上なんだろ?」



 日向が尋ねると、ずっと顔を埋めていた龍牙が、突然顔を上げる。
 そして、満面の笑みで口を開いた。



「もちろん!魁蓮が1番強いんだ!」

「みんなそう言うけど、昨日の龍牙の戦いみちゃったからさ。あんま実感ないんだよな」

「俺なんて、比べ物にならねぇよ?
 なんてったって、を倒したんだからな!」

「……こくしん?」



 龍牙が言った言葉に、日向は首を傾げた。
 何だろうかと考えていると、龍牙の言葉に続くように、今度は虎珀が口を開く。



「大昔に存在したと言われる、史上最強の仙人のことだ。その当時、黒神は妖魔たちの天敵で、誰一人として彼に傷をつけることが出来なかったらしい」

「え、すげぇ。英雄じゃん」

「だが、その男は仙人でありながら、他の仙人を仲間と認識せずに、たった1人で行動していたらしい。
 妖魔は倒しても、人間を守っていた訳ではない。その冷酷な様から、「黒神こくしん」という異名で呼ばれていた」

「仙人なのに、周りの人はみんなどうでもよかったってこと?だいぶ冷めてんな、そいつ。
 でも、そんな強い仙人を魁蓮は倒したってこと?」

「ああ。あくまで言い伝えではそう語られている。でも魁蓮様は、「興味無い」の一点張りだがな。相手が誰であろうと、人間である以上はどうでもいいんだろう」

「………………」



 魁蓮らしいといえば、らしい反応だ。
 どれだけ強くても、負けてしまえば用済み。
 魁蓮はきっと、人間の強者には興味が無いのかもしれない。
 自分を愉しませてくれる戦いをする存在、求めているのはそれくらいだろう。
 きっと、自分の功績も眼中に無いはずだ。



 (瀧と凪が、ボロボロにやられるくらいだもんな……)



 現最強の2人が、手も足も出なかったのだ。
 十分、魁蓮の強さは物語られている。
 自分を犠牲にする代わり、魁蓮が人間を殺さないのは本当に運が良かっただけだ。
 日向の力の全てを知ってしまえば、殺しにくるかもしれない、そんな日々。



「はぁ……とんでもねぇやつに捕まったなぁ……」



 日向は苦笑して、そう言葉をこぼした。
 何はともあれ、まだ命がある間は、人間たちも魁蓮に殺される心配はない。 
 今は、それを喜ぶしか無かった。
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