愛恋の呪縛

サラ

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第34話

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「………………」



 日向たちが庭で遊んでいる間、司雀は異形妖魔のことを調べていた。
 今までも、何体かの異形妖魔を調べてきたが、姿を変えて言葉を発したのは、龍牙と戦った異形妖魔のみ。
 誰も寄り付かない地下に運び、特別な結界を張って様子を伺っていた。



「動きませんね……」



 司雀は近くにあった石などを投げてみるが、異形妖魔は何一つ反応しない。
 その事を不思議に思いながら、司雀は昨日のことを思い出していた。





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





「主の命令?」



 司雀の結界で異形妖魔を運んでいた時、司雀は龍牙から異形妖魔が発した言葉のことを聞いていた。
 城へと帰るその道中、たった2人で。
 龍牙は両手を頭の後ろに持っていき、気だるげそうに歩いていた。



「そう言ってた。アルジノメイレイって。もうすっげぇカタコトでさぁ。聞き取りづらかったわぁ」

「他には、何か?」

「んー。あ、あとこんなことも言ってた。
 オウ、シンノメザメノタメ……
 ノスベテ、メッスル……って」

「っ…………」



 普通の言葉で表すならば……

 王、真の目覚めのため
 〈カムナギ〉の全て、滅する

 ということになる。



「王……魁蓮のことでしょうか」

「俺もそう思ったんだけどさぁ、もう魁蓮目覚めてんじゃん?だから違うんじゃねえかなって。あと、カムナギって……んなの聞いたことないんだけど」

「……ますます謎が深まりますね……
 とりあえず、その事は証拠として記録します」





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈




「………………」



 龍牙との戦い、人間の姿への変身、発した言葉、知能の有無。
 異形妖魔に関する全てのことを、司雀は紙に書き記していた。
 今までの異形妖魔とは異なる種類。
 何かしらの手がかりが掴めると期待をしたものの、訳の分からないことが増えるばかりで迷宮入り。
 司雀は目頭を手で抑え、目に溜まる疲労に耐えていた。



「人工的……そんなもの、本当に……?」



 魁蓮の仮定した考えに、司雀は頭を悩ませる。
 いつもとんでもない閃きをする魁蓮は、何かが見えているのかもしれない。
 封印から解かれたばかりだと言うのに、積極的に異形妖魔のことを調べてくれている。
 司雀は感謝していた。
 だからこそ、早めに謎を明かしたい。



「っ……」



 その時、司雀はあることを思い出した。

 唯一、疑問に思っていた。
 異形妖魔が黄泉に来た理由もそうだが、それよりも気になる点。



「そういえば、この妖魔が狙っていたのって……」



 司雀は記録から顔を上げ、異形妖魔を見上げた。
 昨日の戦い、異形妖魔は森に突然現れたというのに、真っ先に町中へと向かってきた。
 そして、その行き先が……だったということ。



「なぜこの妖魔は、日向様に向かってきたのでしょう」



 考えてみれば、おかしな話だ。
 もし強い力を持っている者に反応するならば、龍牙か虎珀、日向ではなく隣にいた司雀に矛先が向くはず。
 龍牙が1度動けなくなった時、異形妖魔は龍牙など目もくれずに日向へと矛先を変えた。
 虎珀が対抗するも、その矛先を変えることはなかった。
 初めから、日向を狙っていた可能性が高かったのだ。



「人間に反応した……?いや、だとしたら現世で暴れるはずです。その時は魁蓮も現世にいた……
 いや、違う……」



 もし、異形妖魔の狙いが日向だとしたら……。
 魁蓮が黄泉にいなかった時を、狙われたのか。
 龍牙と互角だったならば、魁蓮が来たら異形妖魔は間違いなく負けている。
 ただの偶然かもしれない。
 でも、考えられるのはそれだけだった。



「魁蓮が居ないのをいいことに、日向様を狙ってきた……あるいは、ただ日向様を殺しに来たか……」



 昨日明かされた、日向の全快の力。
 彼を狙う理由としては、それが一番に上がる。
 魁蓮も興味を持った力だ。
 本人の反応からして、現世にいた間もあまり人前では使っていなかったのだろう。
 限られた人にしか知られていない、大きな秘密だったのかもしれない。



「……嫌な予感がしますね……」



 魁蓮の、人工的に作られたという仮定。
 日向の力を知っているのが、極わずかな人間だという仮定。
 その全てが事実だとしたら……

 日向をよく知る存在の、企みという結果になる。
 司雀は頭に浮かんだ自分の考えに、歯を食いしばった。



「そんなのっ……日向様がどう思うかっ……」



 日向の根明な性格、優しい人柄。
 その数日で分かってしまった、彼がどういう人間なのか。
 自分が知っている存在に命を狙われているなど、どれだけのショックを受けるか分からない。
 できれば、顔見知りでないことを願うしか無かった。



「魁蓮。これは、想像より酷いことになるかもしれませんよ……」



 司雀がそう呟いた、その時。





 ボワっ!!!!!!!!!





「っ!?」



 突然、異形妖魔の体が炎に包まれた。
 司雀が驚いていると、異形妖魔はほんの一瞬で塵となってしまった。
 結界を解き、警戒しながら塵に触れるが、もうそこには異形妖魔の欠片も無かった。



「っ……やられたっ……」



 正真正銘の、証拠隠滅だ。
 何かを条件に、自分の体が燃えるようになっていたのだろうか。
 せっかくの資料だった異形妖魔の消失に、司雀は悔しさで拳を握る。





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





「おっと」



 誰もいない、暗闇。
 音すら聞こえないほどの静寂が流れるその場所で、佇む姿が1人。



「やっぱり、ダメだったか……
 あの青い龍は、随分強いみたいだねぇ。流石は、の部下ってところかなぁ」



 片手に煙管きせるを持ち、ゆらゆらと揺らす。
 足を組んで寛ぐ姿は、どこか退屈そうな雰囲気を感じる。



「まあでも、せっかく復活したんだから……
 期待に応えて貰わないと、困るからね」



 ニヤリと、口角を上げて笑う姿。
 だが、その目は決して笑っておらず、ただ表向きに楽しんでいるようだった。



「早く君に会いたいよ、鬼の王……」
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