35 / 201
第34話
しおりを挟む
「………………」
日向たちが庭で遊んでいる間、司雀は異形妖魔のことを調べていた。
今までも、何体かの異形妖魔を調べてきたが、姿を変えて言葉を発したのは、龍牙と戦った異形妖魔のみ。
誰も寄り付かない地下に運び、特別な結界を張って様子を伺っていた。
「動きませんね……」
司雀は近くにあった石などを投げてみるが、異形妖魔は何一つ反応しない。
その事を不思議に思いながら、司雀は昨日のことを思い出していた。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「主の命令?」
司雀の結界で異形妖魔を運んでいた時、司雀は龍牙から異形妖魔が発した言葉のことを聞いていた。
城へと帰るその道中、たった2人で。
龍牙は両手を頭の後ろに持っていき、気だるげそうに歩いていた。
「そう言ってた。アルジノメイレイって。もうすっげぇカタコトでさぁ。聞き取りづらかったわぁ」
「他には、何か?」
「んー。あ、あとこんなことも言ってた。
オウ、シンノメザメノタメ……
カムナギノスベテ、メッスル……って」
「っ…………」
普通の言葉で表すならば……
王、真の目覚めのため
〈カムナギ〉の全て、滅する
ということになる。
「王……魁蓮のことでしょうか」
「俺もそう思ったんだけどさぁ、もう魁蓮目覚めてんじゃん?だから違うんじゃねえかなって。あと、カムナギって……んなの聞いたことないんだけど」
「……ますます謎が深まりますね……
とりあえず、その事は証拠として記録します」
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「………………」
龍牙との戦い、人間の姿への変身、発した言葉、知能の有無。
異形妖魔に関する全てのことを、司雀は紙に書き記していた。
今までの異形妖魔とは異なる種類。
何かしらの手がかりが掴めると期待をしたものの、訳の分からないことが増えるばかりで迷宮入り。
司雀は目頭を手で抑え、目に溜まる疲労に耐えていた。
「人工的……そんなもの、本当に……?」
魁蓮の仮定した考えに、司雀は頭を悩ませる。
いつもとんでもない閃きをする魁蓮は、何かが見えているのかもしれない。
封印から解かれたばかりだと言うのに、積極的に異形妖魔のことを調べてくれている。
司雀は感謝していた。
だからこそ、早めに謎を明かしたい。
「っ……」
その時、司雀はあることを思い出した。
唯一、疑問に思っていた。
異形妖魔が黄泉に来た理由もそうだが、それよりも気になる点。
「そういえば、この妖魔が狙っていたのって……」
司雀は記録から顔を上げ、異形妖魔を見上げた。
昨日の戦い、異形妖魔は森に突然現れたというのに、真っ先に町中へと向かってきた。
そして、その行き先が……日向だったということ。
「なぜこの妖魔は、日向様に向かってきたのでしょう」
考えてみれば、おかしな話だ。
もし強い力を持っている者に反応するならば、龍牙か虎珀、日向ではなく隣にいた司雀に矛先が向くはず。
龍牙が1度動けなくなった時、異形妖魔は龍牙など目もくれずに日向へと矛先を変えた。
虎珀が対抗するも、その矛先を変えることはなかった。
初めから、日向を狙っていた可能性が高かったのだ。
「人間に反応した……?いや、だとしたら現世で暴れるはずです。その時は魁蓮も現世にいた……
いや、違う……」
もし、異形妖魔の狙いが日向だとしたら……。
魁蓮が黄泉にいなかった時を、狙われたのか。
龍牙と互角だったならば、魁蓮が来たら異形妖魔は間違いなく負けている。
ただの偶然かもしれない。
でも、考えられるのはそれだけだった。
「魁蓮が居ないのをいいことに、日向様を狙ってきた……あるいは、ただ日向様を殺しに来たか……」
昨日明かされた、日向の全快の力。
彼を狙う理由としては、それが一番に上がる。
魁蓮も興味を持った力だ。
本人の反応からして、現世にいた間もあまり人前では使っていなかったのだろう。
限られた人にしか知られていない、大きな秘密だったのかもしれない。
「……嫌な予感がしますね……」
魁蓮の、人工的に作られたという仮定。
日向の力を知っているのが、極わずかな人間だという仮定。
その全てが事実だとしたら……
日向をよく知る存在の、企みという結果になる。
司雀は頭に浮かんだ自分の考えに、歯を食いしばった。
「そんなのっ……日向様がどう思うかっ……」
日向の根明な性格、優しい人柄。
その数日で分かってしまった、彼がどういう人間なのか。
自分が知っている存在に命を狙われているなど、どれだけのショックを受けるか分からない。
できれば、顔見知りでないことを願うしか無かった。
「魁蓮。これは、想像より酷いことになるかもしれませんよ……」
司雀がそう呟いた、その時。
ボワっ!!!!!!!!!
「っ!?」
突然、異形妖魔の体が炎に包まれた。
司雀が驚いていると、異形妖魔はほんの一瞬で塵となってしまった。
結界を解き、警戒しながら塵に触れるが、もうそこには異形妖魔の欠片も無かった。
「っ……やられたっ……」
正真正銘の、証拠隠滅だ。
何かを条件に、自分の体が燃えるようになっていたのだろうか。
せっかくの資料だった異形妖魔の消失に、司雀は悔しさで拳を握る。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「おっと」
誰もいない、暗闇。
音すら聞こえないほどの静寂が流れるその場所で、佇む姿が1人。
「やっぱり、ダメだったか……
あの青い龍は、随分強いみたいだねぇ。流石は、彼の部下ってところかなぁ」
片手に煙管を持ち、ゆらゆらと揺らす。
足を組んで寛ぐ姿は、どこか退屈そうな雰囲気を感じる。
「まあでも、せっかく復活したんだから……
期待に応えて貰わないと、困るからね」
ニヤリと、口角を上げて笑う姿。
だが、その目は決して笑っておらず、ただ表向きに楽しんでいるようだった。
「早く君に会いたいよ、鬼の王……」
日向たちが庭で遊んでいる間、司雀は異形妖魔のことを調べていた。
今までも、何体かの異形妖魔を調べてきたが、姿を変えて言葉を発したのは、龍牙と戦った異形妖魔のみ。
誰も寄り付かない地下に運び、特別な結界を張って様子を伺っていた。
「動きませんね……」
司雀は近くにあった石などを投げてみるが、異形妖魔は何一つ反応しない。
その事を不思議に思いながら、司雀は昨日のことを思い出していた。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「主の命令?」
司雀の結界で異形妖魔を運んでいた時、司雀は龍牙から異形妖魔が発した言葉のことを聞いていた。
城へと帰るその道中、たった2人で。
龍牙は両手を頭の後ろに持っていき、気だるげそうに歩いていた。
「そう言ってた。アルジノメイレイって。もうすっげぇカタコトでさぁ。聞き取りづらかったわぁ」
「他には、何か?」
「んー。あ、あとこんなことも言ってた。
オウ、シンノメザメノタメ……
カムナギノスベテ、メッスル……って」
「っ…………」
普通の言葉で表すならば……
王、真の目覚めのため
〈カムナギ〉の全て、滅する
ということになる。
「王……魁蓮のことでしょうか」
「俺もそう思ったんだけどさぁ、もう魁蓮目覚めてんじゃん?だから違うんじゃねえかなって。あと、カムナギって……んなの聞いたことないんだけど」
「……ますます謎が深まりますね……
とりあえず、その事は証拠として記録します」
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「………………」
龍牙との戦い、人間の姿への変身、発した言葉、知能の有無。
異形妖魔に関する全てのことを、司雀は紙に書き記していた。
今までの異形妖魔とは異なる種類。
何かしらの手がかりが掴めると期待をしたものの、訳の分からないことが増えるばかりで迷宮入り。
司雀は目頭を手で抑え、目に溜まる疲労に耐えていた。
「人工的……そんなもの、本当に……?」
魁蓮の仮定した考えに、司雀は頭を悩ませる。
いつもとんでもない閃きをする魁蓮は、何かが見えているのかもしれない。
封印から解かれたばかりだと言うのに、積極的に異形妖魔のことを調べてくれている。
司雀は感謝していた。
だからこそ、早めに謎を明かしたい。
「っ……」
その時、司雀はあることを思い出した。
唯一、疑問に思っていた。
異形妖魔が黄泉に来た理由もそうだが、それよりも気になる点。
「そういえば、この妖魔が狙っていたのって……」
司雀は記録から顔を上げ、異形妖魔を見上げた。
昨日の戦い、異形妖魔は森に突然現れたというのに、真っ先に町中へと向かってきた。
そして、その行き先が……日向だったということ。
「なぜこの妖魔は、日向様に向かってきたのでしょう」
考えてみれば、おかしな話だ。
もし強い力を持っている者に反応するならば、龍牙か虎珀、日向ではなく隣にいた司雀に矛先が向くはず。
龍牙が1度動けなくなった時、異形妖魔は龍牙など目もくれずに日向へと矛先を変えた。
虎珀が対抗するも、その矛先を変えることはなかった。
初めから、日向を狙っていた可能性が高かったのだ。
「人間に反応した……?いや、だとしたら現世で暴れるはずです。その時は魁蓮も現世にいた……
いや、違う……」
もし、異形妖魔の狙いが日向だとしたら……。
魁蓮が黄泉にいなかった時を、狙われたのか。
龍牙と互角だったならば、魁蓮が来たら異形妖魔は間違いなく負けている。
ただの偶然かもしれない。
でも、考えられるのはそれだけだった。
「魁蓮が居ないのをいいことに、日向様を狙ってきた……あるいは、ただ日向様を殺しに来たか……」
昨日明かされた、日向の全快の力。
彼を狙う理由としては、それが一番に上がる。
魁蓮も興味を持った力だ。
本人の反応からして、現世にいた間もあまり人前では使っていなかったのだろう。
限られた人にしか知られていない、大きな秘密だったのかもしれない。
「……嫌な予感がしますね……」
魁蓮の、人工的に作られたという仮定。
日向の力を知っているのが、極わずかな人間だという仮定。
その全てが事実だとしたら……
日向をよく知る存在の、企みという結果になる。
司雀は頭に浮かんだ自分の考えに、歯を食いしばった。
「そんなのっ……日向様がどう思うかっ……」
日向の根明な性格、優しい人柄。
その数日で分かってしまった、彼がどういう人間なのか。
自分が知っている存在に命を狙われているなど、どれだけのショックを受けるか分からない。
できれば、顔見知りでないことを願うしか無かった。
「魁蓮。これは、想像より酷いことになるかもしれませんよ……」
司雀がそう呟いた、その時。
ボワっ!!!!!!!!!
「っ!?」
突然、異形妖魔の体が炎に包まれた。
司雀が驚いていると、異形妖魔はほんの一瞬で塵となってしまった。
結界を解き、警戒しながら塵に触れるが、もうそこには異形妖魔の欠片も無かった。
「っ……やられたっ……」
正真正銘の、証拠隠滅だ。
何かを条件に、自分の体が燃えるようになっていたのだろうか。
せっかくの資料だった異形妖魔の消失に、司雀は悔しさで拳を握る。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「おっと」
誰もいない、暗闇。
音すら聞こえないほどの静寂が流れるその場所で、佇む姿が1人。
「やっぱり、ダメだったか……
あの青い龍は、随分強いみたいだねぇ。流石は、彼の部下ってところかなぁ」
片手に煙管を持ち、ゆらゆらと揺らす。
足を組んで寛ぐ姿は、どこか退屈そうな雰囲気を感じる。
「まあでも、せっかく復活したんだから……
期待に応えて貰わないと、困るからね」
ニヤリと、口角を上げて笑う姿。
だが、その目は決して笑っておらず、ただ表向きに楽しんでいるようだった。
「早く君に会いたいよ、鬼の王……」
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
103
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる