31 / 302
第30話
しおりを挟む
その頃。
黄泉の様子を見てきた魁蓮は、現世のある場所へと来ていた。
暗い森を抜けた先にある、人間が決してたどり着けない見えない結界の中。
朝でも薄暗いそこは、不思議な雰囲気のとても大きな屋敷があった。
綺麗な提灯がいくつも並び、毎時間夜の雰囲気を漂わせる。
魁蓮は屋敷の扉の前まで行くと、扉はギィッと重たい音を立てながら、ひとりでに開いた。
「あらやだっ」
開いた扉の向こうから聞こえたのは、男の声。
魁蓮が顔を上げると、そこには掌よりも小さい盃を持って酒を飲む妖魔の姿。
魁蓮はその姿に気づくと、薄ら笑みを浮かべる。
対して酒を飲んでいた妖魔は、盃を机に置いて、ゆっくりと首を傾げた。
「柚香から話を聞いた時は驚いたけど、やっぱり本当だったのねぇ。復活したって話は……」
「久しいな、要」
「んっふ。何年経っても、男前ね?魁蓮ちゃん。
ぎゅーって抱きしめて欲しいわっ♡」
「断る」
「相変わらず冷たいんだからっ」
要と呼ばれた妖魔は、笑みを浮かべる。
ここは、行き場の無くなった女妖魔たちが集う夜の間。
名を「遊郭邸」
そんな女妖魔たちを匿っているのが、この屋敷の主である「要」
体は男だが、心は女。
着ているものも女性物の着物を纏っている、いわゆる、おネエというやつだ。
外に張られた結界も、要のもの。
妖魔しか出入り出来ず、妖魔でなければ認識することもできない。
妖魔たちだけが楽しむ、夜の遊び場だ。
「んもう、来るなら来るって言ってくれない?今日、アタシ適当に化粧しちゃったんだけど~?」
「知らん、興味無い」
「まっ!魁蓮ちゃんに「可愛いな、要」って言われるために頑張ってるんだから!そんな冷たいこと言わないでよねぇ!でもアタシ……魁蓮ちゃんに冷たくされると、萌えちゃうわ~♡」
「どうでもいい。我は様子を見に来ただけだ」
「ん?様子って、なんの?
あ、もしかして……アタシが元気かって?アタシに会いたくなっちゃったの~?愛しの要ちゃんって♡」
そう言いながら、要はあざとく両手を頬へ持ってきて、キャッキャと喜んでいる。
何を隠そう、要は魁蓮が大のお気に入りだ。
昔から変わらない要の姿に、魁蓮はむしろ呆れている。
「なんだその仕草……相変わらず、読めん奴だ」
「おネエを舐めてもらっちゃ困るわよ~?そんなこと言って、こういうアタシが大好きなんでしょ?」
「くだらん……」
「キャー!魁蓮ちゃんの不機嫌な顔、アタシ好みぃ♡」
「はぁ……うざ」
魁蓮にこれだけの態度を取られても平気なのは、要を除いていないだろう。
ある意味、どんな態度でも受け入れる鋼の心の持ち主だ。
要がキャッキャと喜んでいると、魁蓮は要を無視して屋敷の中へと進んでいく。
奥へと入ると、大きな池を囲むような形で建つ屋敷の内装が見えてくる。
陽の光をほとんど入れないこの場所は、ところどころ吊るされている提灯の明かりが頼りだ。
周りの部屋からは、客の男妖魔たちと、遊女である女妖魔たちの楽しげな声が聞こえてくる。
男妖魔たちは、酒に酔ってどんちゃん騒ぎだ。
「魁蓮ちゃんも、一杯飲んだら?小娘ちゃんたちも、貴方が来たら大喜びよ?みんな貴方にメロメロなんだから」
「断る。酒ならば、城で飲む」
「まあ、つれないわねぇ?
流石、うちで1番人気の柚香に、唯一落ちなかっただけあるわ?柚香に惚れないなんて、魁蓮ちゃんってばどんな子がお好みなのよ~」
「くだらん話をするな、要」
「んもう!教えてくれてもいいじゃないのよ!」
要は魁蓮の隣にならび、頬を膨らませる。
そんな要など目もくれず、魁蓮は屋敷内を見渡した。
特に怪しいところはない、いつもの遊郭だ。
その時。
「見て!魁蓮様よ!」
「え、どこどこ!」
「キャー!本当だわぁ!」
「やだっ、化粧直ししなきゃ!」
仕事を終えた遊女たちが、魁蓮の姿を見るなり黄色い歓声を上げている。
魁蓮は横目で遊女たちを見るが、特に気にすることなく視線を逸らした。
だが、そんな冷たい態度も遊女たちは虜だ。
魁蓮の姿に、キャーと盛り上がっている。
すると、遊女の中から1人飛び出してきて、魁蓮の元へと走ってくる。
「魁蓮!」
走ってきたのは、柚香だった。
魁蓮は柚香の声に気づくと、柚香へと向き直る。
そして、薄ら笑みを浮かべながら小声で話す。
「励んでいるか?」
「もちろんよ!要さんにも話して、何人かには協力してもらってるわ!」
「良い良い、上出来だ」
「えへへっ」
柚香はニコッと笑った。
話の始まりは、昨夜……
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「それで、私に何の用かしら?」
「ああ。柚香、お前に助力願いたい」
「あら、うふふっ……
いいわよ。貴方の為ならば、本望だわ」
柚香は笑みを浮かべて魁蓮の言葉を待つと、魁蓮は薄ら笑みを浮かべながら口を開いた。
「遊郭邸に来た客の、素性を聞き出せ。全員だ」
「っ!」
魁蓮が頼んできた内容は、柚香が驚くものだった。
遊郭邸の遊女にとって、自らお客さんのことを聞き出すのは、あまり良くないこと。
失礼に値する行為だということを、柚香は分かっていた。
それはもちろん、魁蓮も承知の話。
その上で持ちかけてきた頼みは、何か考えがあるのだと柚香は思っていた。
「……何か、良くないことでもあったの?」
「なに、案ずることは無い。悪事を対処する場合、早めに手を打つのが得策だろう?」
「悪事って、何かあった口ぶりじゃない」
「ククッ、さてな」
柚香がそう言うと、魁蓮は不気味な笑みを浮かべる。
この男は、肝心なことは何も言わない。
いつも何を考えているのかが分からず、決して他者を懐に入れてはくれない。
「でも素性を聞き出すって。それ、要さんに頼まないと出来ないことよ?」
「ならばお前から伝えろ。我が直接頼んでもいいが……生憎、あれはある意味面倒だからな。毎度、抱擁を求めてくるのは気色が悪くて敵わん」
「ふふっ。要さんは、ただ魁蓮のことが大好きなだけよ。その辺は許してあげて?
そんなこと言って、要さんのこと信用してるくせにぃ」
「信用などない。
要は司雀のように、痒いところに手が届くだけだ」
「もうっ……
とりあえず分かったわ、要さんに言ってみる」
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
それから柚香は、要に魁蓮からの頼まれ事を報告し、限られた人数の中で実行することとなった。
「何か分かれば、すぐ知らせろ」
魁蓮は初めから、皆が本音を零しやすい酒の場に目をつけ、遊郭邸に協力を仰いでいた。
異形妖魔は人工的に作られている存在、そう仮定した今、遊郭邸での情報提供は大きな鍵となる。
魁蓮は酒に酔いしれる妖魔たちの声を聞き、「滑稽なものだ」と言葉を零した。
その時、ふと要が魁蓮の顔を覗き込む。
「ねえ魁蓮ちゃん。さっき貴方の顔を見た時からずっと思ってたんだけど……
最近何か、いい事でもあった?」
「っ……!」
要の質問に、魁蓮は少し目を見開く。
なぜそんなことを聞くのか、質問の意図が分からなかった柚香は首を傾げた。
だが、魁蓮は要の質問に、どこか愉しそうに笑った。
「ククッ……相変わらず、お前は厄介だなぁ?要」
「んっふ♡魁蓮ちゃんのことなら、何でもお見通しなのよ~?その感じだと、図星ね?」
「ああ」
魁蓮の笑みに、柚香はドキッとしていた。
今まで魁蓮を見てきたが、彼がここまで愉しそうに笑っているところは見たことがない。
余程嬉しいことでもあったのかと、柚香は興味津々だ。
「ねぇ魁蓮。何があったの?」
柚香は堪らず尋ねると、魁蓮は目を伏せた。
そして、思い出す。
自分に反抗してくる、日向の姿を。
【僕の力を知りたいなら、あぶり出せばいい!
どんな目に合おうとも、僕は生き永らえてやる!
皆は、絶対に殺させない!!!!!】
その姿を思い出す度に、魁蓮は愉しげに笑った。
今まで見たことの無い、威勢のいい人間。
百面相をする無邪気な姿に、魁蓮に怖気付くことなく立ち向かってくる姿。
その全てが面白くて仕方がない。
普段なら無礼者だと言ってすぐ殺している魁蓮でも、日向の威勢のよさは、遊戯の感覚で見ていた。
(実に、愉快極まれり……)
「ククッ……あれは、なかなかどうして……」
「?」
「なに、語るほどでも無い。
ただ、活きのいい玩具を拾っただけだ」
魁蓮はそれだけ言うと、くるっと振り返り、遊女邸の扉へと向かった。
その時、要はあることを思い出す。
「そうだ魁蓮ちゃん!いいお酒が入ったのよ~。良かったら、黄泉に持って帰ってちょうだい?」
「黄泉には1週間戻らんつもりだ。今夜、ここに忌蛇を向かわせよう。贈物ならば忌蛇に渡せ」
「まぁ!蛇ちゃんに会うなんて久しぶりだわっ!
司雀ちゃんと、龍ちゃんと、虎ちゃんも元気?」
「ククッ、己の目で確かめろ……また来る」
そう言うと魁蓮は、振り返ることなく遊女邸を出ていった。
適当な返事を返された要は、少し怪しげな笑みを浮かべる。
「あの魁蓮ちゃんを喜ばせたオモチャ、ねぇ?
んっふ。これは、面白いことが起きそうね♡」
「どういうこと?要さん」
「お子ちゃまにはまだ早いわよっ。
やだわぁ、なんだか楽しくなってきたじゃない~!お酒飲み直そ~っと♡」
黄泉の様子を見てきた魁蓮は、現世のある場所へと来ていた。
暗い森を抜けた先にある、人間が決してたどり着けない見えない結界の中。
朝でも薄暗いそこは、不思議な雰囲気のとても大きな屋敷があった。
綺麗な提灯がいくつも並び、毎時間夜の雰囲気を漂わせる。
魁蓮は屋敷の扉の前まで行くと、扉はギィッと重たい音を立てながら、ひとりでに開いた。
「あらやだっ」
開いた扉の向こうから聞こえたのは、男の声。
魁蓮が顔を上げると、そこには掌よりも小さい盃を持って酒を飲む妖魔の姿。
魁蓮はその姿に気づくと、薄ら笑みを浮かべる。
対して酒を飲んでいた妖魔は、盃を机に置いて、ゆっくりと首を傾げた。
「柚香から話を聞いた時は驚いたけど、やっぱり本当だったのねぇ。復活したって話は……」
「久しいな、要」
「んっふ。何年経っても、男前ね?魁蓮ちゃん。
ぎゅーって抱きしめて欲しいわっ♡」
「断る」
「相変わらず冷たいんだからっ」
要と呼ばれた妖魔は、笑みを浮かべる。
ここは、行き場の無くなった女妖魔たちが集う夜の間。
名を「遊郭邸」
そんな女妖魔たちを匿っているのが、この屋敷の主である「要」
体は男だが、心は女。
着ているものも女性物の着物を纏っている、いわゆる、おネエというやつだ。
外に張られた結界も、要のもの。
妖魔しか出入り出来ず、妖魔でなければ認識することもできない。
妖魔たちだけが楽しむ、夜の遊び場だ。
「んもう、来るなら来るって言ってくれない?今日、アタシ適当に化粧しちゃったんだけど~?」
「知らん、興味無い」
「まっ!魁蓮ちゃんに「可愛いな、要」って言われるために頑張ってるんだから!そんな冷たいこと言わないでよねぇ!でもアタシ……魁蓮ちゃんに冷たくされると、萌えちゃうわ~♡」
「どうでもいい。我は様子を見に来ただけだ」
「ん?様子って、なんの?
あ、もしかして……アタシが元気かって?アタシに会いたくなっちゃったの~?愛しの要ちゃんって♡」
そう言いながら、要はあざとく両手を頬へ持ってきて、キャッキャと喜んでいる。
何を隠そう、要は魁蓮が大のお気に入りだ。
昔から変わらない要の姿に、魁蓮はむしろ呆れている。
「なんだその仕草……相変わらず、読めん奴だ」
「おネエを舐めてもらっちゃ困るわよ~?そんなこと言って、こういうアタシが大好きなんでしょ?」
「くだらん……」
「キャー!魁蓮ちゃんの不機嫌な顔、アタシ好みぃ♡」
「はぁ……うざ」
魁蓮にこれだけの態度を取られても平気なのは、要を除いていないだろう。
ある意味、どんな態度でも受け入れる鋼の心の持ち主だ。
要がキャッキャと喜んでいると、魁蓮は要を無視して屋敷の中へと進んでいく。
奥へと入ると、大きな池を囲むような形で建つ屋敷の内装が見えてくる。
陽の光をほとんど入れないこの場所は、ところどころ吊るされている提灯の明かりが頼りだ。
周りの部屋からは、客の男妖魔たちと、遊女である女妖魔たちの楽しげな声が聞こえてくる。
男妖魔たちは、酒に酔ってどんちゃん騒ぎだ。
「魁蓮ちゃんも、一杯飲んだら?小娘ちゃんたちも、貴方が来たら大喜びよ?みんな貴方にメロメロなんだから」
「断る。酒ならば、城で飲む」
「まあ、つれないわねぇ?
流石、うちで1番人気の柚香に、唯一落ちなかっただけあるわ?柚香に惚れないなんて、魁蓮ちゃんってばどんな子がお好みなのよ~」
「くだらん話をするな、要」
「んもう!教えてくれてもいいじゃないのよ!」
要は魁蓮の隣にならび、頬を膨らませる。
そんな要など目もくれず、魁蓮は屋敷内を見渡した。
特に怪しいところはない、いつもの遊郭だ。
その時。
「見て!魁蓮様よ!」
「え、どこどこ!」
「キャー!本当だわぁ!」
「やだっ、化粧直ししなきゃ!」
仕事を終えた遊女たちが、魁蓮の姿を見るなり黄色い歓声を上げている。
魁蓮は横目で遊女たちを見るが、特に気にすることなく視線を逸らした。
だが、そんな冷たい態度も遊女たちは虜だ。
魁蓮の姿に、キャーと盛り上がっている。
すると、遊女の中から1人飛び出してきて、魁蓮の元へと走ってくる。
「魁蓮!」
走ってきたのは、柚香だった。
魁蓮は柚香の声に気づくと、柚香へと向き直る。
そして、薄ら笑みを浮かべながら小声で話す。
「励んでいるか?」
「もちろんよ!要さんにも話して、何人かには協力してもらってるわ!」
「良い良い、上出来だ」
「えへへっ」
柚香はニコッと笑った。
話の始まりは、昨夜……
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「それで、私に何の用かしら?」
「ああ。柚香、お前に助力願いたい」
「あら、うふふっ……
いいわよ。貴方の為ならば、本望だわ」
柚香は笑みを浮かべて魁蓮の言葉を待つと、魁蓮は薄ら笑みを浮かべながら口を開いた。
「遊郭邸に来た客の、素性を聞き出せ。全員だ」
「っ!」
魁蓮が頼んできた内容は、柚香が驚くものだった。
遊郭邸の遊女にとって、自らお客さんのことを聞き出すのは、あまり良くないこと。
失礼に値する行為だということを、柚香は分かっていた。
それはもちろん、魁蓮も承知の話。
その上で持ちかけてきた頼みは、何か考えがあるのだと柚香は思っていた。
「……何か、良くないことでもあったの?」
「なに、案ずることは無い。悪事を対処する場合、早めに手を打つのが得策だろう?」
「悪事って、何かあった口ぶりじゃない」
「ククッ、さてな」
柚香がそう言うと、魁蓮は不気味な笑みを浮かべる。
この男は、肝心なことは何も言わない。
いつも何を考えているのかが分からず、決して他者を懐に入れてはくれない。
「でも素性を聞き出すって。それ、要さんに頼まないと出来ないことよ?」
「ならばお前から伝えろ。我が直接頼んでもいいが……生憎、あれはある意味面倒だからな。毎度、抱擁を求めてくるのは気色が悪くて敵わん」
「ふふっ。要さんは、ただ魁蓮のことが大好きなだけよ。その辺は許してあげて?
そんなこと言って、要さんのこと信用してるくせにぃ」
「信用などない。
要は司雀のように、痒いところに手が届くだけだ」
「もうっ……
とりあえず分かったわ、要さんに言ってみる」
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
それから柚香は、要に魁蓮からの頼まれ事を報告し、限られた人数の中で実行することとなった。
「何か分かれば、すぐ知らせろ」
魁蓮は初めから、皆が本音を零しやすい酒の場に目をつけ、遊郭邸に協力を仰いでいた。
異形妖魔は人工的に作られている存在、そう仮定した今、遊郭邸での情報提供は大きな鍵となる。
魁蓮は酒に酔いしれる妖魔たちの声を聞き、「滑稽なものだ」と言葉を零した。
その時、ふと要が魁蓮の顔を覗き込む。
「ねえ魁蓮ちゃん。さっき貴方の顔を見た時からずっと思ってたんだけど……
最近何か、いい事でもあった?」
「っ……!」
要の質問に、魁蓮は少し目を見開く。
なぜそんなことを聞くのか、質問の意図が分からなかった柚香は首を傾げた。
だが、魁蓮は要の質問に、どこか愉しそうに笑った。
「ククッ……相変わらず、お前は厄介だなぁ?要」
「んっふ♡魁蓮ちゃんのことなら、何でもお見通しなのよ~?その感じだと、図星ね?」
「ああ」
魁蓮の笑みに、柚香はドキッとしていた。
今まで魁蓮を見てきたが、彼がここまで愉しそうに笑っているところは見たことがない。
余程嬉しいことでもあったのかと、柚香は興味津々だ。
「ねぇ魁蓮。何があったの?」
柚香は堪らず尋ねると、魁蓮は目を伏せた。
そして、思い出す。
自分に反抗してくる、日向の姿を。
【僕の力を知りたいなら、あぶり出せばいい!
どんな目に合おうとも、僕は生き永らえてやる!
皆は、絶対に殺させない!!!!!】
その姿を思い出す度に、魁蓮は愉しげに笑った。
今まで見たことの無い、威勢のいい人間。
百面相をする無邪気な姿に、魁蓮に怖気付くことなく立ち向かってくる姿。
その全てが面白くて仕方がない。
普段なら無礼者だと言ってすぐ殺している魁蓮でも、日向の威勢のよさは、遊戯の感覚で見ていた。
(実に、愉快極まれり……)
「ククッ……あれは、なかなかどうして……」
「?」
「なに、語るほどでも無い。
ただ、活きのいい玩具を拾っただけだ」
魁蓮はそれだけ言うと、くるっと振り返り、遊女邸の扉へと向かった。
その時、要はあることを思い出す。
「そうだ魁蓮ちゃん!いいお酒が入ったのよ~。良かったら、黄泉に持って帰ってちょうだい?」
「黄泉には1週間戻らんつもりだ。今夜、ここに忌蛇を向かわせよう。贈物ならば忌蛇に渡せ」
「まぁ!蛇ちゃんに会うなんて久しぶりだわっ!
司雀ちゃんと、龍ちゃんと、虎ちゃんも元気?」
「ククッ、己の目で確かめろ……また来る」
そう言うと魁蓮は、振り返ることなく遊女邸を出ていった。
適当な返事を返された要は、少し怪しげな笑みを浮かべる。
「あの魁蓮ちゃんを喜ばせたオモチャ、ねぇ?
んっふ。これは、面白いことが起きそうね♡」
「どういうこと?要さん」
「お子ちゃまにはまだ早いわよっ。
やだわぁ、なんだか楽しくなってきたじゃない~!お酒飲み直そ~っと♡」
20
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる