愛恋の呪縛

サラ

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第31話

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 翌日。
 昨日、龍牙にたくさんの力を使った日向は、疲れからぐっすりと眠っていた。
 普段目覚めがいい日向も、この日は深い眠りに落ちている。
 そんな中、日向に近づく影があった。
 深く眠り続ける日向に、影は上から覗くと……





「日向ぁぁ!!!!!」

「ぎゃああああ!!!!!」





 真上から大声を上げた。
 眠っている頭に突然響いた大声に、どん底まで落ちていた日向の意識は、半ば強引に呼び起こされる。
 ドクドクと心臓が早く脈を打ち、目はカッ開いていた。
 そして、



「えへへ!起きた?」



 日向の前には、満面の笑みを浮かべる龍牙がいた。
 日向は龍牙に気づくと、ため息を吐いて顔を手で覆う。
 龍牙は楽しそうに笑い、日向の隣でぴょんぴょんと跳ねている。
 強烈な目覚ましだ。



「びっくりしたぁ……」

「日向、全然起きてこねぇんだもん。司雀が心配してたから、起こしに来た!」

「いや他にもやり方あるだろ……死ぬかと思った」

「はぁ!?死なせねーし!勝手に死ぬとか許さねぇ!」

「違う、そういうことじゃない……」

「とにかく!朝飯食お!腹減った!!」

「うおぉ……引っ張らんでぇ……」



 龍牙は早く早くと急かすように、日向の手を引っ張って無理やり起こす。
 日向はフラフラしながら着替えると、龍牙に引っ張られながら食堂へと向かった。



















「司雀!日向、連れてきた!」



 食堂へとたどり着くと、龍牙は台所にいる司雀に声をかける。
 司雀は手を止めて、振り返り優しい笑みを浮かべた。



「ありがとうござっ……龍牙、どのように起こしたのですか?心做しか、日向様がぐったりしてますが?」

「え?気のせいじゃない?」

「もう……大丈夫ですか?日向様」

「……はははっ……」



 日向の反応に、司雀も苦笑いだ。
 龍牙は日向の気持ちに気づかず、ただニコニコと笑っている。
 余程、日向を起こしに行けたのが嬉しかったのだろう。



「すぐご用意しますので、どうぞお席の方へ」

「あ、ありがとう」

「行こうぜ日向!日向は俺の隣ぃ!」

「はいはい」



 日向はまた龍牙に引っ張られながら、食堂の席へと向かう。
 どうやら龍牙は決まった席にいつも座るらしい。
 龍牙はご機嫌なまま日向を引っ張ると……



「あああああああああ!!!!!!!!!!!」



 食堂の大机につくなり、龍牙は大声を上げた。
 日向は思わず耳を塞ぐ。
 どうしたのかと顔を上げると、龍牙は怒った顔をして大机を指さしていた。



「虎ぁ!そこは日向の席だぞ!!!」

「?」



 日向が大机へと視線を移すと、そこには先に朝餉を摂っていた虎珀がいた。
 虎珀は食事の手を止めたまま、嫌そうな顔を浮かべている。



「そんなの知るか」

「俺の隣は日向なの!だから、虎の座ってるその席は、俺の席の隣だから日向のなんだよ!代われ!」

「無茶言うな!」

「いや、龍牙?僕、別の席でも構わんよ?先に来てた虎珀に移動してもらうのは、申し訳ないし」

「嫌だぁ!俺は日向の隣がいいの!」

「えぇ……」



 昨日をきっかけに、龍牙は完全に日向に懐いてしまっている。
 龍牙からすれば、優しく真っ直ぐに接してくれたことが嬉しかったようだ。
 その結果、完全に日向を独り占め。
 龍牙は虎珀の元に近づくと、肩に手を置いてグラグラと揺らす。



「どーいーてー!」

「ちょっ、揺らすなバカ龍!」

「だったらどいてよー!俺、日向の隣じゃなきゃご飯食べない!」

「だったらそのまま餓死しておけ」

「ああん!?んだとゴラァ!!!!」

「ちょっ、あの、2人とも……」



 また喧嘩が始まった。
 日向は困った表情を浮かべて、その場に立ち尽くしている。
 正直、こういう時はどうすればいいのか。
 どちらを守っても、どちらかを刺激してしまいそうだ。
 まだ黄泉に来て間もない日向は、対処法が分からない。
 その時、後ろから足音が聞こえてきた。



「こら、2人とも?日向様を困らせないでください」



 やってきたのは、司雀だった。



 (か、神様っ!)



 台所から朝餉を運んできた司雀に、日向は期待の眼差しを向ける。
 城が崩壊する大喧嘩になる前に来てくれたことが、日向にとっては何より救いだった。
 司雀の姿に、虎珀はハッと我に返る。



「も、申し訳ございません」



 虎珀は立ち上がって謝罪するが、背後に立っていた龍牙はムスッとした顔で、虎珀を指さす。



「虎が悪いんだもん!日向の席奪ったから!」

「まだ言うのか!このバカ龍!!」

「あ゛あ゛ん゛!?!?!?!?」

「まあまあ龍牙、落ち着きなさい。日向様と一緒に食べるのは初めてでしょう?ならば、日向様に好きなところに座ってもらった方が良いのでは?」



 その時、龍牙は雷に打たれたような衝撃を受けた。
 日向が不安そうに様子を伺っていると、龍牙は親指をビシッとたてて、満面の笑みを浮かべる。



「司雀……頭いいな!さすがだぜ!」



 (た、単純だなアイツ……)



 上手く丸め込まれた龍牙に、日向は苦笑する。
 流石と言うべきか、司雀は龍牙の扱いに慣れすぎている。
 そもそも、大きな丸い机に椅子が並んでいるだけ。
 特に変化など感じられない、どれも同じに見える。
 龍牙なりのこだわりでもあったのだろうか。
 日向はそんなことを考えながら、適当な椅子に座ると、龍牙は喧嘩してたのが嘘のようにご機嫌になり、日向の隣へと座ってきた。
 まるで、飼い主に懐く犬のようだ。



「日向とご飯~♪」

「そんな喜ぶ?」

「もちろん!」



 司雀は2人が座ったのを確認すると、運んできた朝餉を並べていく。
 その間、向かい合って座っている虎珀は、眉を顰めた。



「人間、あまり龍牙を甘やかすなよ。俺たちの方が手に負えなくなる」

「え?お、おう」

「分かってねぇな、お前……」



 虎珀は日向の反応に、ガクッとうなだれた。
 日向はポカンとして、虎珀を見つめている。
 そんな光景に、司雀は思わず吹き出した。



「ふふっ、随分大きな番犬がついたものですね」

「番犬?龍牙が?」

「ええ。これは、魁蓮もヒヤヒヤしますねぇ」



 日向は、ふと龍牙へと視線を移した。
 龍牙は既に朝餉を食べていて、日向たちの話はひとつも聞いていない。
 少し子どもっぽいと思いながら、日向は小さく微笑む。
 龍牙からどう思われているのかは分からないが、心を開いてくれているようで、日向は嬉しく思っていた。
 日向も手を合わせると、司雀の用意してくれた朝餉を口に入れていく。



「やっぱ美味い~、最高だよ司雀ぅ」

「ありがとうございます」



 相変わらず、司雀の料理は絶品だ。
 日向は頬を押えて、口に広がるおいしさに顔が緩む。
 司雀が3人の食事を見守っていると、「おや?」となにかに気づいた。
 日向がその声に首を傾げると、つられて虎珀も食事の手が止まる。



「この時間に来るとは……珍しいですね」

「まだ朝……何かあったのか……?」

「ん?」



 日向が首を傾げると、なにやら足音が聞こえたきた。
 だんだんと近づいてくると、その足音は扉の前で止まる。
 そして、食堂の扉がゆっくりと開かれた。



「っ……!」



 扉の前にいたのは、忌蛇きじゃだった。
 魁蓮の傘下にあたる肆魔の1人で、特徴的な鬼の仮面をつけている。
 忍者のような格好に、手には黒い手袋をしていた。
 忌蛇は食堂に入ると、その場に片膝をつき、衣から巻物のようなものと、大きな酒瓶を取り出した。



「これ……魁蓮さんが、司雀さん宛に」



 忌蛇はそう言うと、巻物と酒瓶を司雀に差し出す。
 司雀は「ありがとうございます」と一言言うと、酒瓶を机に置いて巻物を広げた。
 巻物には、伝言のようなものが書かれていて、司雀は黙って文字を追う。



「おや、にご協力を……お酒は、要様からですか。では、何かお礼の品を用意しなければいけませんね。
 ふふっ、要様のことです。きっと魁蓮に会えて喜んだことでしょう」



 文を読み終えた司雀は、なにやら微笑んでいた。
 いい事でも書かれていたのだろうか。
 司雀は巻物を丸めると、忌蛇に向き直る。



「いつもご苦労様です、忌蛇。丁度朝餉を召し上がっているところですが、ご一緒にどうです?」

「いや、もう行くから……大丈夫」

「そうですか、分かりました」



 忌蛇がゆっくりと立ち上がると、ふと日向へと視線を向けてきた。
 こちらを見てくると思わなかった日向は、驚いて手が止まってしまう。
 顔ははっきり見えない、どんな表情をしているのかも謎だ。
 視線を外せずに困っていると、忌蛇はフッと日向から視線を外して、そのまま食堂を出ていった。



「相変わらず、一匹狼だな」



 忌蛇が居なくなると、朝餉を食べ終えた龍牙がそんなことを口にする。
 続けて虎珀も、その言葉に乗っかるように口を開いた。



「仕方ないことだ、特にあの子は」

「ほーんと、何考えてんのか分かんねぇ」

「……あの、忌蛇ってどういう子なの?」



 二人の会話が気になった日向は、少し遠慮がちに尋ねる。
 すると、龍牙はニコッと笑いながら口を開いた。



「いーっつも現世に入り浸ってる変な奴だよ~?」

「え、変?」

「龍牙、口が悪いぞ。
 忌蛇は、主に魁蓮様の伝達係。潜入とか、影に潜んで動く作業が得意なんだ。動きの速さなら、龍牙よりも速い」

「え、龍牙より?すごっ」

「ほとんどの月日を現世で過ごしているから、基本黄泉には帰ってこないんだ」

「肆魔なのに?どうして?」



 日向が首を傾げると、ずっと答えてくれていた虎珀が、なにやら言いにくそうに口を閉じる。
 日向が片眉を上げると、ふと司雀が口を開いた。



「触れられないようにするためです」

「えっ……?」

「……忌蛇は……
 生まれつき体にを宿しています。命あるものが彼に触れれば、毒に犯されて死に至るのです」

「っ!」
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