愛恋の呪縛

サラ

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第5話

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 それから、3人は凪の部屋でお喋りを楽しんでいた。
 だが、ずっと2人を心配していた日向は、その疲れからか眠ってしまった。
 寝台に日向を寝かせると、瀧と凪は静かに部屋を出て、ある場所へと向かう。

 樹の、1番奥の部屋。
 どこよりも広く、重たい空気を感じる扉の前。
 2人は扉の前に並び、コンコンと扉を叩く。



「仙主、瀧と凪です。今よろしいでしょうか」

「……お入り」



 凪の声に、中から返事が聞こえた。
 2人は返事の代わりに扉を開け、そして部屋の中へと入る。
 そこは、仙主であり祖父である仁の部屋だった。
 2人は部屋の扉を閉めると、軽く一礼する。
 そして、再び凪は口を開いた。



「東の村に現れた妖魔は、全て退治しました。村人は数名怪我人がいましたが、死者はいません」



 凪は、今日の任務の報告をしていた。
 任務の報告は、今の凪のように口頭でするか、報告書を書くかのどちらかだ。
 殆どは報告書が多いのだが、ついでに用がある場合は、口頭で報告をする手もある。 
 今回、2人は仁と話をしたくて、報告がてら部屋に来たというわけだ。
 もちろん、それは仁も気づいている。



「ああ、2人ともご苦労さま。凪は怪我をしていたと聞いたが……日向に治してもらったんだね」

「彼のおかげで、なんとか」

「それは良かった、でも無理はしないように」

「はい」



 凪が報告を終えると、仁は優しい笑みを浮かべた。



「ここからは、祖父と孫として、話をしよう」



 堅苦しい仙人と仙主ではなく、家族として。
 遠回しに告げた仁の言葉に、瀧と凪は顔を上げる。
 今からは、何も気にすることなく話そう。
 そう言ってくれた仁の言葉に、2人は仙人としての意識は捨て、話し始めた。
 最初に口を開いたのは、瀧だ。



「じいちゃん。日向の力が、強くなってる。今日凪を治しているのを見たけど、前より治る速度もはやくなってたし、傷跡すら残らないくらいまで治ってた」

「以前は治療が完了しても、体のダルさがあった。でも今回治してもらったら、体のダルさも無く、今のように普通に動けている。怪我したのが嘘のように」



 瀧に続いて、凪も体を動かしながら話す。
 そう、2人が話していたのは日向のこと。
 今いる3人しか知らない、秘密の内容だ。
 2人が気にしていたのは、日向の力が強くなっていること。
 幸いにも、本人はあまり自覚をしていなかったため、重く受け止めるような心配は無かった。
 それでも、力が抑え込めているのかと言われると、分からない。



「日向の力は、一般人でも仙人でも、感じ取ることは出来ない。でも、妖魔は分からねぇ……。
 もし妖魔に、日向の力を感じる何かがあるとすれば……」

「日向は間違いなく、妖魔たちに狙われます。
 今のうちに、対策を練るべきかと。それと……」



 そこまで言うと、凪はグッと拳を握った。
 最近薄々感じていた、悪い話だ。



「……ここ最近、妖魔の力が強くなっているんです。無関係、と思いたいですが……
 に、関係があるのではないかと」

「それは俺も同意。任務も俺たちにお鉢が回ることが多くなった。一端の仙人じゃ、戦うことも出来ねぇほどにな。黄泉でなにか起きてんじゃねえの?」

「今も、鬼の王の封印場所を探していますが、手がかりすら掴めません。なにか、起きているとしか考えられないんです」



 2人の不安は爆発寸前だった。
 何が1番心配か、そんなことすら判別できないほどには冷静ではいられなかった。
 だが、優先したいことはある。
 でも、それを優先したら何が起こるかわからない。
 だから壁にぶち当たっていたのだ。



「なあじいちゃん……日向を、どこかに隠すことは出来ねぇのか……」



 2人の考えは、日向を守ること。
 そのために、日向をどこかに隠すということ。
 いいことでは無い、むしろ日向を縛ることになる。
 それでも、妖魔の危険性や強さが上がっているのは、実際に戦っている2人がよく分かっている。
 その上での、提案だった。

 2人の提案に、黙っていた仁が口を開いた。



「まず、日向の力が強くなっていることと、妖魔の力が強くなっているのは無関係だろう。偶然と考えていい。
 でも、どちらも問題なのは変わらない……」



 仁はそこまで話すと、顎に手を当て考える。
 妖魔の力が強くなっているのは、仙人にとっては深刻な問題。
 規模で言えば、日向に比べれば大きいもの。
 優先すべきは妖魔の対処だろう。



「日向の方は、今のままで大丈夫だよ。それに、あの子に無駄な心配をかけてしまったら、それこそ弁解するのも大変だ」

「「っ…………」」

「妖魔に関しては、仙人たちの修行に力を入れた方がいいだろう。見回りも広げる。鬼の王の調査については現状のままで」

「「了解」」



 2人が返事をすると、2人は一礼して背を向けた。
 しかし、それを止めるように、仁は声を出す。



「頼りにしているよ。瀧、凪」

「おう、じいちゃん。任せてくれ」

「おやすみなさい」



 そう言うと2人は、部屋を出ていった。
 1人になった仁は、窓の外を見つめる。
 正直、仁も2人と同じ考えをしていた。
 ここ最近、不思議なことが多い。
 日向のことも、心配だった。



「何も、起きなければいいんだが……」



 仁の部屋を出た2人は、自室がある方へと向かっていた。
 しばらく黙ったまま並んで歩いていたが、沈黙に耐えられなくなったのか、渋々瀧が口を開く。



「やっぱり、日向をどこかに隠したい」

「っ……瀧……」

「怖ぇんだよ、俺たちが任務に行っている時に。もし、何かあったらって……気が気じゃねえわ」

「気持ちはわかるけど、それだと日向の自由を奪うことになる。閉じ込めたりするのは出来ないよ」

「っ…………」

「今は警戒しておこう、妖魔に狙われないように」

「……ぜってぇ、日向は渡さねぇ……」



 その日の夜に誓った思いは、実るのか……。
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