愛恋の呪縛

サラ

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第4話

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 鬼の王の伝説。
 これは、仙人になった者ならば全員が知っている。

 時は、1000年前。
 今よりまだ、妖魔が多くいた時代の頃。
 この世に、ある一体の妖魔……いや、が誕生した。
 なんの前触れもなく現れたその鬼は、持ち得る全ての力を使って、人間を鏖殺していった。
 その力は凄まじく、当時現れていたであろう全ての妖魔の頂点に立つ強さだった。

 目的は分からない、何がしたいのかも不明。
 ただ、鬼は何も言うことなく人々を殺し続けた。
 実力を持っていた仙人が、どれだけ束になって立ち向かっても、ほとんどが返り討ちにあってしまった。
 仙人の力は削られ、一般人は殺され続ける。
 まさに、地獄絵図だった。



「でも、妖魔は人間と違って仲間意識が薄い。突然現れたその鬼のことを、他の妖魔は良く思っていなかったんだ。だから、その鬼の敵は人間だけじゃなかった」



 己より強い妖魔が現れたことに腹を立てた数多の妖魔たちは、力を振りかざすその鬼に戦いを挑んだ。
 だが、仙人と同じく返り討ち。
 結果は見るも無惨な姿で終わっていく。
 誰一人として、その鬼を倒せる者はいなかった。
 そして、その鬼がしたのはそれだけでは無い。



「その鬼は、私たち人間が住む【現世】の裏側に、妖魔が住む【黄泉】の世界を作り出したんだ。そこは、人間は決して立ち入ることが出来ない、暗黙の領域。現世で生きることが出来なくなった妖魔や、住処が欲しかった妖魔が、ぞろぞろと黄泉へと入っていった」



 結果、現世と黄泉は拮抗する関係となり、今も尚それが続いている。
 誕生してからというもの、後世には言い伝えられるほどのことをしてきたその鬼を、世は「鬼の王」と呼んだ。
 黄泉を創った、人間の天敵である存在として。



「でも、ある日。歴史に刻まれる大事件が起きたんだ」



 それは、星が輝く7月7日のこと。
 ひとつの知らせが世に轟いた。

 【鬼の王 封印】

 この知らせは、瞬く間に知れ渡り、人々の喜びを湧き上がらせた。



「でも問題があった。誰が鬼の王を封印したのか、未だに判明していないんだ。ただ封印されたという事実だけが残って、そのまま」



 封印されたのは、当時の仙人の調べで分かったこと。
 霊力には、それを感知できるものがある。
 だが、誰が鬼の王を封印したのか。
 ましてや、どこに封印されたのかが分からなかった。



「仙人たちは、懸命に探し続けた。でも、封印場所は見つからなかった。見回りも強化して、言葉が話せる妖魔がいれば、捕らえて尋問もした。
 でも、結果は分からなかった」



 そしてそれが何年も続き、気づけば1000年。
 伝説とはいえ、今の時代までずっと、仙人たちは鬼の王の封印場所を探し求めている。
 来るかもしれない、地獄に備えて。



「鬼の王が、いつ復活するか分からない。それほど恐ろしい史上最強の鬼の王を、今の私たちが倒せるのか。今の平和を保てるのかも……
 だから、あの時日向に「そうでも無い」って言ったんだ。未来は、誰にも分からないからね」

 凪は、鬼の王の伝説を話し終えた。
 だが、意外だったのはここからだった。





「んー、よくわかんねぇ」

「えっ」



 ひと通り話したはずの、鬼の王の伝説。
 ずっと黙って聞いていた日向は、腕を組んで首を傾げていた。
 そして、どこか不満そうな顔を浮かべている。



「仙人様たちが、そういう調査をずっと続けてきたのは分かった。でも変じゃねぇ?
 なんで1000年も探してんのに、見つからねぇのか。霊力とかで封印されたことは感じ取れたとしても、なんで封印したのが誰かわからないのに信じるんだ?鬼の王自体、存在してないかもしれないのに」

「そ、それは……」

「はぁ……やっぱ、日向はそう言うと思ったよ」



 今までずっと黙って話を聞いていた瀧は、長いため息を吐いた。
 瀧は後頭部をかきながら、凪の話につけ加える。



「正直、この伝説は俺も半信半疑だけどよ。全部嘘ってわけでもねぇ。実際、今も黄泉は存在してるし、妖魔も人を襲っている。辻褄が合う部分はあるんだよ」

「うーん……」



 それでも、日向は納得していないようだった。
 そもそも謎の方が多い気がする。
 実際、日向はずっと守られてきたせいで、未だに妖魔を見たことがない。
 だから、彼らの恐ろしさだって、想像が限界なのだ。
 そんな中で、1番恐れられた妖魔がいたという話。
 彼が全て納得出来るわけもなく。



「よくわかんねぇけど、まあいいや」

「ひ、日向……」



 信じなかった日向に、凪はガクッと項垂れる。
 想像通りの反応に、瀧も再度ため息を吐いた。
 日向は2人の反応に、コテンと首を傾げる。



「とにかく2人とも!お土産の大福食べようよ!」

「能天気かよお前」

「あははっ、日向らしいね」



 この時は、まあいいか。で済ますことが出来た。
 そう……この時は。
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