愛恋の呪縛

サラ

文字の大きさ
5 / 302

第4話

しおりを挟む
 鬼の王の伝説。
 これは、仙人になった者ならば全員が知っている。

 時は、1000年前。
 今よりまだ、妖魔が多くいた時代の頃。
 この世に、ある一体の妖魔……いや、が誕生した。
 なんの前触れもなく現れたその鬼は、持ち得る全ての力を使って、人間を鏖殺していった。
 その力は凄まじく、当時現れていたであろう全ての妖魔の頂点に立つ強さだった。

 目的は分からない、何がしたいのかも不明。
 ただ、鬼は何も言うことなく人々を殺し続けた。
 実力を持っていた仙人が、どれだけ束になって立ち向かっても、ほとんどが返り討ちにあってしまった。
 仙人の力は削られ、一般人は殺され続ける。
 まさに、地獄絵図だった。



「でも、妖魔は人間と違って仲間意識が薄い。突然現れたその鬼のことを、他の妖魔は良く思っていなかったんだ。だから、その鬼の敵は人間だけじゃなかった」



 己より強い妖魔が現れたことに腹を立てた数多の妖魔たちは、力を振りかざすその鬼に戦いを挑んだ。
 だが、仙人と同じく返り討ち。
 結果は見るも無惨な姿で終わっていく。
 誰一人として、その鬼を倒せる者はいなかった。
 そして、その鬼がしたのはそれだけでは無い。



「その鬼は、私たち人間が住む【現世】の裏側に、妖魔が住む【黄泉】の世界を作り出したんだ。そこは、人間は決して立ち入ることが出来ない、暗黙の領域。現世で生きることが出来なくなった妖魔や、住処が欲しかった妖魔が、ぞろぞろと黄泉へと入っていった」



 結果、現世と黄泉は拮抗する関係となり、今も尚それが続いている。
 誕生してからというもの、後世には言い伝えられるほどのことをしてきたその鬼を、世は「鬼の王」と呼んだ。
 黄泉を創った、人間の天敵である存在として。



「でも、ある日。歴史に刻まれる大事件が起きたんだ」



 それは、星が輝く7月7日のこと。
 ひとつの知らせが世に轟いた。

 【鬼の王 封印】

 この知らせは、瞬く間に知れ渡り、人々の喜びを湧き上がらせた。



「でも問題があった。誰が鬼の王を封印したのか、未だに判明していないんだ。ただ封印されたという事実だけが残って、そのまま」



 封印されたのは、当時の仙人の調べで分かったこと。
 霊力には、それを感知できるものがある。
 だが、誰が鬼の王を封印したのか。
 ましてや、どこに封印されたのかが分からなかった。



「仙人たちは、懸命に探し続けた。でも、封印場所は見つからなかった。見回りも強化して、言葉が話せる妖魔がいれば、捕らえて尋問もした。
 でも、結果は分からなかった」



 そしてそれが何年も続き、気づけば1000年。
 伝説とはいえ、今の時代までずっと、仙人たちは鬼の王の封印場所を探し求めている。
 来るかもしれない、地獄に備えて。



「鬼の王が、いつ復活するか分からない。それほど恐ろしい史上最強の鬼の王を、今の私たちが倒せるのか。今の平和を保てるのかも……
 だから、あの時日向に「そうでも無い」って言ったんだ。未来は、誰にも分からないからね」

 凪は、鬼の王の伝説を話し終えた。
 だが、意外だったのはここからだった。





「んー、よくわかんねぇ」

「えっ」



 ひと通り話したはずの、鬼の王の伝説。
 ずっと黙って聞いていた日向は、腕を組んで首を傾げていた。
 そして、どこか不満そうな顔を浮かべている。



「仙人様たちが、そういう調査をずっと続けてきたのは分かった。でも変じゃねぇ?
 なんで1000年も探してんのに、見つからねぇのか。霊力とかで封印されたことは感じ取れたとしても、なんで封印したのが誰かわからないのに信じるんだ?鬼の王自体、存在してないかもしれないのに」

「そ、それは……」

「はぁ……やっぱ、日向はそう言うと思ったよ」



 今までずっと黙って話を聞いていた瀧は、長いため息を吐いた。
 瀧は後頭部をかきながら、凪の話につけ加える。



「正直、この伝説は俺も半信半疑だけどよ。全部嘘ってわけでもねぇ。実際、今も黄泉は存在してるし、妖魔も人を襲っている。辻褄が合う部分はあるんだよ」

「うーん……」



 それでも、日向は納得していないようだった。
 そもそも謎の方が多い気がする。
 実際、日向はずっと守られてきたせいで、未だに妖魔を見たことがない。
 だから、彼らの恐ろしさだって、想像が限界なのだ。
 そんな中で、1番恐れられた妖魔がいたという話。
 彼が全て納得出来るわけもなく。



「よくわかんねぇけど、まあいいや」

「ひ、日向……」



 信じなかった日向に、凪はガクッと項垂れる。
 想像通りの反応に、瀧も再度ため息を吐いた。
 日向は2人の反応に、コテンと首を傾げる。



「とにかく2人とも!お土産の大福食べようよ!」

「能天気かよお前」

「あははっ、日向らしいね」



 この時は、まあいいか。で済ますことが出来た。
 そう……この時は。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...