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第四章 恋の身支度

79.騎士、弟を導く ※アルヴィン視点

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 俺は貴族街の方に向かってクロを探しにいく。

「おーい、クロー!」

 門の近くまで行くと、何やら小さい子が門番と話していた。

「おい、クロ!」

 俺の声に反応して子どもは振り返った。

 そこにいたのはクロだった。

 だが、クロはその場から逃げようとしていた。

「その子をすぐに捕まえろ」

「あっ、はい!」

 門番のやつは俺の存在を知っている。

 俺が教育した後輩達だから、すぐに俺の言葉に従ってクロを捕まえた。

「なんで来たんだ! オラなんていらない子だろ!」

 クロは自分のことをいらない子だと言っていた。

 なぜそういう考えになったのだろうか。

「どうやったら早く騎士になれるか、俺らのところまで聞きに来たんだ」

「なっ!? 勝手なことを言うな!」

 クロは騎士になることに執着している。

 それはマミ先生を守りたいと常日頃思っているところから来ているのだろう。

「クロは騎士じゃないとマミ先生を守れないと思っているのか?」

「大事な人を守るのが騎士の役目だ!」

 きっと野菜屋の奥さんが言ったことを気にしているのだろう。

 あの時からクロの様子がどこかおかしくなった。

「ならクロがマミ先生の騎士になればいい」

「えっ……」

「俺はマミ先生……いや、マミさんを女性として愛している」

 俺はマミ先生を守れる存在になりたい。

 ただ、それは騎士じゃなくてもできる。

 あの人に出会ってから本当の自分に出会えた気がする。

 俺を"公爵家の三男"や"勿体無い公爵家の予備"と言うこともない。

 ただただ、アルヴィンという人物として見てくれた。

 そんな人を好きにならないわけがない。

「オラだってママ先生が好きだ!」

「ならマミ先生を心配させるな! 今だって必死にお前を探している」

「そんなの嘘だ……」

「クロがいらない子ならマミ先生も俺も探しに来ないぞ」

 クロの目からはポロポロと涙が溢れてくる。

 自分はいらない子。

 それは俺も幼い頃から何度も思っていた。

 だからクロの気持ちがわからないわけではない。

 ただ、大事な人を悲しませてまで消えようとするのは間違っている。

「オラは必要な子なの?」

「ああ。俺も一緒に謝ってあげるから帰るぞ」

「うん……」

 クロはトボトボと俺のところまで戻ってくる。

 本当にバカな弟だ。

「本当にバカな弟だ」

 思っていたことが口から出てしまった。

 ゆっくりと抱きしめるとクロは震えていた。

 自分を責めて、それでも必要とされる人になりたいと思ったからここにきたのだろう。

 種族が違っても俺と似た弟は、自分のためではなく人のために頑張れる子だ。

 ただ、そんな弟にも譲れないものはある。

「マミ先生の騎士は譲っても、婚約者は譲らないからな」

今は・・それで良いもん!」

 胸の中にいるクロは笑顔で笑っていた。

 相変わらず憎たらしいけど、可愛い俺の弟だ。

「先輩……これって愛の告白を聞かされているんですか?」

「くっ、アルヴィンも聖女様を狙っていたのか。バッカアといいライバルが多いぞ」

「あー、先輩も聖女様のことが気になっていたんですね」

 一方、門番はお互いにコソコソと話していた。
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