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第一章 社畜、パパになる

20.社畜、魔宝石の使い方を知る

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 旅に出ることをやめた俺はとりあえず牛をどうするかを決めることにした。

 見ているとお腹が減るため、逃そうと思ったが一向にどこかに行く様子がなかった。

 むしろ水も飲めるし、森の中は草も豊富に生えているため、牛としては環境が良いのだろう。

 俺にわりかし懐いているところを見ると、ここに一緒に住む気なんだろう。

「ボス、また連れてきたぞ!」

「こっこっこおおおお!」

 また何かを発見したリーゼントは再びスクーターに乗ると、次に連れてきたのは鶏だった。

 どこか焦った感じで鶏も鳴いている。

「チキンソテー……唐揚げ……」

「とーたん、メッだよ!」

 どうやら鶏を食べることもダメなようだ。

 それにしても牛や鶏って、俺に牧場でもやれってことだろうか。

 うん……?

 牧場……。

「そうか! 卵と牛乳は手に入るのか!」

 俺は肉を食べることばかり考えていた。

 だが、牛と鶏がいたら牛乳と卵を手に入れることができるはず。

 卵があれば料理のレパートリーは広がっていくからな。

 俺は牛と鶏を見るとギクッとしていた。

 いや、今はお前達は食べるつもりはないからな。

 食べたらゴボタに怒られる。

 あの頭突きはもうこりごりだ。

 ただ、牛や鶏にも働いてもらうつもりだ。

 その辺にある草と水を食べ飲みしているだけなのに社畜だって?

 こんなのは社畜とは言わない。

 毎日家に帰って、ベッドで寝れるだけで十分だ。

「牛乳と卵は出せるのか?」

「ンモォ?」

「コケ?」

 お互いに顔を合わせると、大きく頷いていた。

 どうやら俺が思っていた通りのようだ。

「おい、牛乳と卵は出せるらしいぞ!」

 ゴボタとリーゼントに声をかけるが、若干引いているような気がした。

 いや、食料問題は大事だからな。

 牛乳と卵があればレシピの幅が広がる。

 カルボナーラやホットケーキに……。

「小麦がなかった……」

 しばらくは食料問題がつきまとってくるだろう。

 それにいざ牛乳と卵があっても、一度熱してから食べないとお腹を壊しそうだ。

 それにずっと日中だったから気づかなかったが、火を使うこともなかった。

 それが幸いだったのかはわからない。

 ただ、今後のためにも火をつける手段を考えておいた方が良さそうだ。

 火をつけるなら日陰ではないところにある葉っぱや枯れ木や草が必要になる。

 それは確保できるが、問題はどうやって火種をつけるかになるだろう。

 マッチやライターがあれば楽だが、俺はタバコを吸わないため持っていない。

 木を擦り合わせれば火がつく知識はあるが、やり方は全くわからない。

 やはり牛乳と卵を諦めないといけないのだろうか。

 そんな俺をゴボタとリーゼントは慰めてくれた。

「あっ、リーゼントなら火をつける道具を作れるか?」

 手先が器用なリーゼントに、記憶の片隅にある木を両手で擦り合わせて、火をつける道具を地面に書いていく。

「さすがに疲れちゃうよ?」

 知識と経験がない人間がずっと木を擦り合わせて着火させるのは難しいのだろう。

 それに自慢ではないが、俺は体力もないからな。

 そんなことを思っていると、ゴボタは枯れ草と枝を集めて持ってきた。

「何をするんだ?」

「とーたん、みて!」

 ゴボタは赤色の魔宝石を両手に持つと、お互いをぶつけた出した。

――ボッ!

「へっ!?」

 目の前には少し小さいが火の玉が出現した。

 あまりにも摩訶不思議なことが目の前に起きて、俺は反応すらできないでいた。

 まるで目の前で魔法を見ている気分だ。

「いや、魔宝石のって魔法のってことか!」

 俺は近くにあった魔宝石を手に取り、同じようにぶつけた。

 だが、何も反応はなかった。

「色が同じじゃないとできないよ?」

 リーゼントも知っているのか、青色の魔宝石をぶつけると蛇口から水が出てくるように湧き出てきた。

 本当に魔法みたいな現象に俺の胸が高鳴った。

 緑色だと風が吹くし、黄色だと静電気を感じた。

 ただ、紫色は毒々しい液体が出てきたりと危ないものも中には存在していた。

 中でも黒色と白色、そして虹色に見える魔宝石は全く使い方がわからなかった。

 何か俺が知らない資源なんだろうか。

 それでも魔宝石の使い方を知っただけで、俺達の生活レベルが変わりそうだからな。

 火がつけられるようになったら、明日はオムレツが食べられるだろう。

 鶏だったら朝に一つは卵を産むはずだからな。

 俺は明日のことが楽しみになっていたが、肝心なことを忘れていた。

「いや、鍋がないと調理できないじゃないかー!」

 さすがに会社に行くのに鍋は持ち運びしていない。

 卵料理を食べるには、まずは鍋を作るところから始めないといけないことがわかった。



 
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