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第一章 社畜、パパになる

21.社畜、集落に向かう ※一部別視点

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 朝起きるといつものようにスキルポイントを割り振る。

 割り振――。

「あれ、今日は出てこないのか?」

 いつもなら朝になったら半透明の板が出てくるはずだ。

 朝じゃないかと思ったが、ゴボタとリーゼントは起きた時におはようと言っていた。

「ゴボッ!」

 それにゴボタは鶏から卵をもらっていた。

 リーゼントの胸の中に入れて暖めようとしているが、そいつは短毛種だ。

 それに短毛種だと毛の生え変わりが早いし、今は換毛期のような気がする。

 卵を暖める毛はないからな。

 春のような陽気だから体もそれに合わさってるのだろう。

 スキルポイントが貰えないなら、それは仕方ない。

 そういう不具合の日もあるのだろう。

 リーゼントの胸で暖めていた卵を受け取り、スクーターの中に入れておいた。

 あそこは冷蔵庫になっているから、腐ることもないのだろう。

 果実を食べ終わると、早速今日の日程を確認することにした。

「今日は集落に行きます!」

「しゅーらく?」

「ああ、ゴブリン達に会って鍋に良さそうな素材を聞こうと思ってな!」

 あのゴブリン達なら、俺達が知らないものを知っているはずだ。

 お土産に魔宝石を持って行くことにした。

 森の中には石がほとんど落ちていないからな。

 牛と鶏は拠点で放置という名の留守番を頼み、俺達は森の中に入って行く。

 もちろんスクーターはリーゼントが運転し、俺は後部座席に……乗ろうとしていたらゴボタはこっちを見ていた。

 どうやら手押し車の上が俺の特等席だろう。

 ただ、嫌な予感しかしない。

 事前に危ない運転はするなと声をかけているが、大丈夫なんだろうか。

「じゃあ、集落まで出発進行!」

「ワオオオオオン!」

「ゴボオオオオオ!」

 俺達は集落に向かって出発した。

 ただ、俺の嫌な予感は違う意味で的中していた。


 集落までの道のりはゴボタの感覚とリーゼントの嗅覚頼りだ。

 リーゼントは他の生物が何となくどこにいるかはわかるらしい。

「ボスゥ」

「なんだ?」

 スクーターに乗っているリーゼントが声をかけてきた。

 今日はちゃんと安全運転をしているからか、そこまで速度も出ていない。

 いや、むしろスクーターと同じ速さで押せるゴボタが凄すぎる。

「なんか、ボスに似ているけど違うにおいがする」

「ん? それはゴブリンのことか?」

「ゴブリンはゴボタと同じだけど、何かボスと近い――」

――バーン!

 森の奥で爆発音のような音が聞こえてくると、周囲に爆風が広がっていく。

 俺達は咄嗟に立ち止まり、その場で固まって伏せる。

 周囲にあった果実は風によって落とされて、鳥は遠くへ飛んでいく。

 明らかに何か異常が起きたんだとわかった。

「ゴボタとリーゼント大丈夫か?」

「ゴボッ!」

「ワン!」

 どうやらどこも怪我をしていないようだ。

 スクーターと手押し車は少し吹き飛ばされたが、特に壊れた様子もない。

「とーたん、ひ!」

「ひ?」

「ボス、あそこが燃えている!」

 森の奥が燃えているのか赤く染まっていた。

 たしかあっちの方ってリーゼントがゴブリンの集落があったところと言っていた。

 彼女達を助けにいくのか、それとも俺達だけでも逃げていくのか。

 いや、そんなことも考えることもなく、俺達は行動に出た。

 あれだけ優しくしてくれたゴブリンを助けに行かない理由はない。

 俺達は再び集落に向かって走り出した。

 ♢

「なんか拍子抜けなダンジョンだな」

「ああ、魔物も中々出てこないし、トラップもないからな」

 俺達は三人でパーティーを組んでいる探索者だ。

 新ダンジョンの探索依頼を受けて、中に入ってきている。

「これだと撮れ高悪くないか?」

「ははは、新ダンジョンの配信って視聴率良いから大丈夫じゃないか」

 俺達が新ダンジョンの探索依頼を受けられたのは、ダンジョン配信者として活躍しているからだ。

 普通のカメラでは撮影できないが、ダンジョンの素材とアイテムで作ったドローン型のカメラがあればダンジョンで撮影ができる。

 魔法石の消費は激しいが、それだけ視聴者達から金を巻き上げることができるからな。

 それにこの配信で他の探索者も情報を得ることができる。

 国からも補助金がもらえるから、一石三鳥ぐらいだろう。

「それにしてもゴブリンの集落を爆発させたのにゴブリンの一匹もいないぞ?」

「元々集落だったとかじゃないのか?」

 せっかく撮れ高良くするために、ダンジョン産の爆弾を使ったのに何も倒せていなかった。

 普通、集落があるならゴブリンキングがいるのは当たり前だ。

 だが、ゴブリンの一匹もいなかった。

「この森はハズレだな。違うところに移動するぞ」

「ああ」

 俺達は再びカメラを起動させて、森を出ることにした。


「おっ、こんなところにイチゴみたいなのがあるぞ?」

「こっちはバナナがある」

 森の中を歩いていると、たくさんの果実を見つけた。

 ダンジョンにはいくつかの種類がある。

 その中で確実にこのダンジョンは食料が多いダンジョンだと俺達は気づいた。

 ダンジョン産の食べ物は俺達探索者にとっては貴重なものだ。

「うぉ、ステータスが強化されたぞ」

「俺も基礎魔力値が上がった」

 探索者にとってステータスやスキルは重要な役割を持っている。

 ダンジョン産の食べ物は、そのステータスやスキルを強化することができるのだ。

「これで金持ちになるんじゃないのか?」

「ああ、袋に入れられるだけ詰めていこうぜ!」

「ひょっとしたら魔法石より儲けられるぞ」

「ははは、探索者も引退できるかもな」

 その後も俺達は外を目指し、果実を袋に詰めながら移動した。

 だが、あの爆発が恐ろしいやつを目覚めさせるとは思いもしなかった。
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