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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)
EP171 暇な一日 <☆>
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セレアは忙しくて家事が出来ない。
ミサラが作る料理は、控えめに言って"ダンゴムシ"や"フナムシ"のような味がした。鉄分の味なのだろうか、それすらも分からない。
そうなると自然に、征夜の足は食堂に向かう。
自分で朝食を作っても良いが、流石にその気は起きなかった。
(ミサラ・・・やる気はあるんだけど・・・。)
何度も何度も作り直しては、新たな料理に挑戦する。その開拓精神は評価できる。
問題は、一向に腕が上がらない事だ。彼女の料理を食べる事は、味覚への拷問と言っても過言ではない。
征夜は昨晩の夕食を、ミサラと二人で食べた。
セレアは友人とディナーを食べると言い、昨晩は帰って来なかった。
朝食を終えた征夜は、部屋に戻ろうとした。
しかし戻れば、彼女の料理を食べさせられる可能性がある。
そしてタチの悪い事に、彼女は料理の腕に自信があるようなのだ――。
(僕のために作って来れてるんだ。文句は言えない・・・言えないけど・・・!!!)
それとこれとは、完全に話が別だ。
彼女に真実を伝える勇気も、彼女の料理を受け止める勇気もない。だからこそ、彼女に会う勇気も無い。
(我ながら情けない・・・僕は勇者なのに・・・。)
そんな事を考えながら、征夜は町に出て行った。
まるで、部屋にて待ち構えるミサラから逃げ出すように――。
~~~~~~~~~~
とあるホテルの一室、カーテンから差し込む光が照らすベッドの上で、一人の男が眠っていた。
その男の肩を叩き、そばに居た女が彼を揺り起こす。
「おはよう、シン♡」
「あぁ・・・おはよう。・・・おぉっ!よく似合ってるじゃないか!」
「プレゼントありがとう♡」
シンが起きると、既にセレアは着替えていた。
彼女が身に付けている服は、昨晩シンが買い与えた物だ。
「お前、今日はどうするんだよ?・・・デートでもするか?」
「しても良いけど、一応は仕事しないと。今晩も、ディナーは一緒に食べましょうね♡」
「そうするか!・・・よし!まずは朝飯食いに行こうぜ!」
シンがセレアの腰に手を回し、連れ添って食堂に向かおうとしたところ、突如として花が寝室に入ってきた。
少しだけ苛立った顔を浮かべながら、エプロンを掛けるその姿は、まるで母親のようである。
「シン!いつまで寝てるの!もう朝ごは・・・あら?セレアさん?」
「ご無沙汰してるわ、花さん♪」
「いえいえ、大丈夫ですよ!・・・朝ご飯食べます?」
「それじゃ、お言葉に甘えるわね!」
セレアがそう言うと、三人の男女による奇妙な会食が始まった。
花の料理は机上に用意されていたが、皿は二人分しかない。
「セレアさんは、私の分を食べてください。」
花は自分の席に置いてあった食事を、全てセレアに渡してしまった。
この事に対し、セレアは少しだけ申し訳なくなる。
「あら、良いの?お腹空かないかしら?」
「じ、実は・・・ダイエット中で・・・。」
外食のしすぎで5キロも増えていた事など、言えるわけがない。しかしセレアは、彼女の意図を汲み取った。
「それは大変ね・・・それじゃ、いただきます!・・・美味しいっ♪あなた、とっても料理上手なのね!?」
彼女の朝食を口に運んだセレアは、思わず頬が落ちそうになった。
簡単な料理であるはずなのに、想像以上に素晴らしい味が滲み出て、彼女の味覚は至福に包まれている。
「ありがとうございます!父が料理人なので♪」
「お店を持てるレベルよ!本当に、素晴らしい味だわ!・・・あっ、そうだ!これ要ります?」
セレアはそう言うと、手鞄の中からタッパーを取り出した。
その中には昨晩、ミサラが料理した唐揚げが入っている。
「普通に食べれそうですね!私の朝ごはんにします!」
花はタッパーを受け取ると、自分の前でそれを開けた。
少しだけ変わった匂いがするが、気にせず食べてみる。
「うぐぅっ!?こ、これは・・・これは・・・。」
言葉を失うほど、超次元的な味。
おおよそ、人間の食べる物ではないと感じるほど、生臭くて鉄っぽい味がする。
「なんだ?不味かったのか?」
シンはデリカシーのない事を言うと、花からタッパーを引ったくった。
フォークで唐揚げを突き刺し、口の中に運んでみる。
「・・・ふんぐぅ!!!???」
口の中で炸裂した強烈な味に、シンは堪らず吐き出した。
ティッシュの中に吐いたため、机は汚れていない。
「唐揚げを、ここまで不味く出来るのは天才だろ!?
セレア、お前マジで才能あるぞ!?」
「えっ?作ったのは私じゃなくて、友達の女の子だけど。」
"出会った者は全員友達理論"が炸裂した。
これは決して悪い事ではない。彼女の心の広さと、社交的な能力の高さの現れである。
「だとしたら伝えろ!この味はヤバい!人を不幸にする!」
「ちょっと言い過ぎじゃない?花さんはどう・・・。」
「あんまり・・・美味しいとは言えません・・・。」
セレアは花に弁護を求めたが、流石の彼女も擁護出来ない。この味は正に悪魔的、怪物的な味だった。
「そんなに不味いの?食べてみるわね。」
セレアはそう言うと、残った一つの唐揚げを口に放り込んだ。咀嚼し、味わいながら、ゆっくりと食べていく。
「・・・?不味くないわよ?」
「はぁっ!?」
シンは驚いた。あの恐ろしい味を体感したセレアは、何事もないかのように飲み込んでいる。
お世辞でも、冗談でもない。本気でミサラの料理を美味いと感じているようだ。
「なんていうか・・・お母さんの料理に似てる?あなた達の口に合わないだけで、普通に美味しいと思うわよ?」
食レポの結果は、まさかの"母の味"だった。
こんな料理を食べて育ったのなら、彼女は間違いなくバカ舌だろう。
「まぁ良いわ!二人のお口直しに、私が作ったクッキーあげるわね。」
「おいちょっと待て!お前、バカ舌だろ!本当にそれ食えるのか!?」
シンは思わず躊躇した。あの味を美味いと感じる舌が、真っ当な料理を作れる訳がないと思ったのだ。
「大丈夫よ!友達の二人も、美味しいって言ってたし!」
「ま、まぁ・・・それなら・・・。」
シンはそう言うと、渋々クッキーを受け取った。
目を瞑り、死を覚悟しながら、ゆっくりとクッキーを噛み砕く。
「あれっ!?めっちゃ美味いぞ!?」
「ほぉら、言った通りじゃない♡」
セレアは自信満々に微笑むと、もう一枚のクッキーを取り出した。そしてそれは、シンではなく花に向けられる。
「花さんも食べる?」
「いえ、私はダイエット中で・・・。」
「運動すれば大丈夫よ!それに、食べないダイエットは胸とお尻も痩せちゃうわよ?」
"わがままボディ模範例"の彼女が言うと、やはり説得力が違う。痩せるのは良いが、出る所が引っ込まれては困るのだ。
「そ、それは困ります!」
「なら運動しましょう!
あなた、とっても良い体してるじゃない♪私の仕事場でも、それほどスタイルの良い子は珍しいわよ!」
「えへへ、嬉しいなっ♪」
花の純粋な笑顔を見て、セレアは思った。自分の仕事場が娼館であるなど、口が裂けても言えないと。
「それじゃ、今日はジムに行きましょう!色々と教えであげるわ!」
「は~い!」
セレアの姉御肌に当てられた花は、即落ちしてしまった。
彼女の魅力は、どうやら肉体だけでなく人格でも、人を自然と惹きつけるようだ。
「おいおい、俺を差し置いてデートかよ?」
「焼き餅焼いちゃって♡・・・それなら、あなたも一緒にジムに行きましょうよ!」
「今日はカジノに行こうと思ってたが・・・まぁ良いか!今日は筋トレ日和だしな!」
"筋トレ日和"という謎の概念によって納得したシンは、セレアとの"ジムデート"を承諾した。
三人は不思議なハイテンションに包まれ、更に仲が深まった気がする。そうなると、他人行儀な言葉遣いは邪魔になってきた。
「ねぇ、花さん?」
「どうしました?」
「敬称使うのやめない?友達っぽくないわよ・・・。」
これは、先ほどから花も感じていた。
その圧倒的な身長と、一回り高い年齢から敬語を使っていたが、友人として考えるとそれは不自然であり、失礼な気もする。
セレアと花は完全に意気投合し、既に"女友達"となっていたのだ――。
「・・・セレア!これからよろしくね!」
「フフッ♪その方が良いわよ花♪」
二人が手を繋いだまま扉から出ていく後ろ姿を見て、シンは沁みじみと感慨に耽っている。
(凄えなアイツ、俺並みに女誑しじゃん。)
ナンパ同好会の男は、"類は友を呼ぶ"という言葉を再認識していた。
~~~~~~~~~~
「やっぱり!ソントは美味しい物が多いなぁ!」
暇を持て余した征夜は、市場で食べ歩きをしていた。
片っ端から店を回り、屋台の物を買い漁っていく。
立ち食いをするのは下品だと分かっていたが、それでも止められないほどにソントの食品は美味だった。
「次はどこ行こうかなぁ!?・・・アレって・・・。」
移ろい行く征夜の視線は、とある一点で止まった。
昼間から騒音を垂れ流し、七色の光が窓から流れ出ている家屋には、大きな金色のコインが描かれている。
「これは・・・カジノだよね?」
征夜はこれまで、ギャンブルとは無縁な生活を送ってきた。パチスロは勿論、競馬や競輪、ゲームセンターのコインゲームすらやっていない。
そんな彼にとって、カジノという未知の娯楽は他の何よりも光り輝いて見えたのだ。
「横にあるのは・・・ジムかな?」
煌びやかなカジノの真横には、古風なスポーツジムが隣接していた。
少しくたびれているが、作りはしっかりしている。そして何よりも、手入れが行き届いている。
「どうしよう・・・どっちに行くべきなのか・・・。」
征夜は一瞬だけ迷った。勇者として、戦士として、武士として、どちらを選ぶべきなのか。
張り詰めた日々のガス抜きか、高みを目指す地道な鍛錬か。どちらが良いのかは、普通に考えれば分かる事だ。
「・・・まぁ、一日二日のジムじゃ何も変わらないよね!ここはカジノに行ってみよう!」
普通に考えれば分かる事なのに、征夜は悪い方を取った。
確かにガス抜きも大切だが、今する事でもないだろう。
「よし!ミサラも連れてこよう!きっと楽しくなるぞ!」
征夜は無意識のうちに、17歳の少女を"賭博"へと引き込もうとしていた。彼にそんな気はなく、法律違反だと言う認識もないが、事実は事実である。
勇み足で駆け出した征夜は、ギルドへと戻って行った。
ミサラと共に、カジノに入ろうと決心したからだ。
ちょうどその頃、彼とすれ違うようにしてセレア達三人組がやって来た。
「ここのスポーツジムなんて、結構良いんじゃない?」
「セレアがそう言うなら、私はそこにする!」
何も知識の無い花は、セレアに迎合した。
花の了承を得た彼女は、今度はシンに聞き返す。
「シンはどう思う?このジムで良いかな?」
「俺は設備さえあればなんでも良いぞ。」
筋トレ上級者のシンは、セレアの質問に適当に返した。
その目線は、隣接するカジノに向けられている。
「カジノが気になる?行ってみたい?花は私が見ておくけど。」
彼を気遣うようにして、セレアは声を掛けた。
しかし、シンは一切揺れる事ない意志で、彼女の誘いを断る。
「いや、お前がジムに行くなら俺も行くさ。お前とは恋人って訳じゃないが、他の男が言い寄ったら不快だ。
それに、いつ教団が襲って来るか分からない以上、修行は多い方が良い。スロットはいつでも出来るしな。」
「ウフフ♡それじゃ、私が"バニーガール"として働き出したら来てくれるのかしら♡」
「当たり前だろ!お前と過ごす方が楽しいしな!」
二人は、花をそっちのけでイチャつき始めた。
抱き合って口付けを交わし、完全に自分達だけの世界に入っている。
「えぇーっと、二人とも・・・。そろそろ、中に入らない?」
「・・・そうね!待たせてごめんなさい!」
抱擁を解いたセレアは、花の手を引きながらジムへと入って行った。シンもすぐさま、それに続いた。
~~~~~~~~~~
それから数時間後、日没が近くなりジムの閉館時刻が近づいた頃――。
「ふぅ・・・今日は、たくさん運動したわ・・・。」
汗だくになった花は、スポーツウェアを着替えていた。
疲れ切った表情には、どこか清々しい笑みを浮かべている。
「初めてのジムで疲れたでしょう?今日はたくさん食べて、明日に備えましょうね!」
セレアは明日もジムに来る約束を、既に花と取り付けていた。仕事は疎かになるが、体型を保つのも仕事のうちだと割り切っている。
「分かった!今日はありがとね!ディナーは食べて行って!」
夕飯を作り、セレアに奢る事は花の中で決まっていた。
しかし彼女は、おそらく夕食後もホテルに帰らないだろう。
「今夜も・・・エッチするんだよね・・・///」
「やっぱり聞こえてた?」
「その・・・壁が薄くて・・・。」
二日連続、薄い壁を貫通する声に悩まされていた花は、正直言って限界だった。
セレアの事は好きだが、流石にこのままだと辛い。なので、思い切って伝えてみる。
「分かった!なら、今夜は私のホテルにシンを連れて行くわ!」
「ご、ごめんね!文句言ったりして・・・。」
「良いの良いの!」
「それじゃお願いね!先に帰って、夕食作っておくから!」
そう言った花は、ちょうど着替え終わったようだ。上着を着て、悠々と外に出て行った。
淫猥な女子トークを久しぶりに交わしたセレアは、少しだけ嬉しそうである。
(ああいう、対等な友達って出来辛いのよね!)
彼女にとって、ミサラは後輩や妹のような物だった。
まだ"幼い子供"であり、"守ってあげる存在"なのだ。それは、対等な友人とは言えないだろう。
それに対して花は、完全に同じ目線で話が出来る友人だった。こういう存在は、はっきり言って貴重である。
(よし!そろそろ着替えましょう!)
残された彼女が着替えようとしたところ、突如として更衣室にシンが入って来た。
「花の前じゃ言えなかったが、スポーツブラも似合うじゃないか・・・!」
「もう!女子更衣室に入るなんて、スケベなんだから♡」
「花はもう飯を食いに行ったし、他に女の客は居ない。閉館時刻が近いし、誰も入館して来ない。・・・この意味が分かるか?」
「だ、ダメよっ・・・こんな所で・・・///」
「そんな格好してるのが悪いだろ!」
「あぁんっ♡え、Hぃ・・・♡」
胸元に伸びたシンの指先は、セレアの乳に触れた。
揉みくちゃにされたスポーツブラが乳首に擦れ、揉みしだかれるたびに、鋭い快楽が全身を駆け巡る――。
「おっぱい揉むの・・・上手すぎるよぉ・・・♡」
「おいおい、まだ始まったばかりだぞ?」
「あっ♡あぁっ♡だ、ダメぇッ・・・きゃぁっ!♡」
マットに押し倒されたセレアは、ブラとパンティーを剥ぎ取られ、息つく間も無く全裸に剥かれた。
ヒンヤリと冷たいコンクリートに背中で触れながら、力強く吐き出される熱い欲情。
それは正に、"至高の快楽"だった――。
ミサラが作る料理は、控えめに言って"ダンゴムシ"や"フナムシ"のような味がした。鉄分の味なのだろうか、それすらも分からない。
そうなると自然に、征夜の足は食堂に向かう。
自分で朝食を作っても良いが、流石にその気は起きなかった。
(ミサラ・・・やる気はあるんだけど・・・。)
何度も何度も作り直しては、新たな料理に挑戦する。その開拓精神は評価できる。
問題は、一向に腕が上がらない事だ。彼女の料理を食べる事は、味覚への拷問と言っても過言ではない。
征夜は昨晩の夕食を、ミサラと二人で食べた。
セレアは友人とディナーを食べると言い、昨晩は帰って来なかった。
朝食を終えた征夜は、部屋に戻ろうとした。
しかし戻れば、彼女の料理を食べさせられる可能性がある。
そしてタチの悪い事に、彼女は料理の腕に自信があるようなのだ――。
(僕のために作って来れてるんだ。文句は言えない・・・言えないけど・・・!!!)
それとこれとは、完全に話が別だ。
彼女に真実を伝える勇気も、彼女の料理を受け止める勇気もない。だからこそ、彼女に会う勇気も無い。
(我ながら情けない・・・僕は勇者なのに・・・。)
そんな事を考えながら、征夜は町に出て行った。
まるで、部屋にて待ち構えるミサラから逃げ出すように――。
~~~~~~~~~~
とあるホテルの一室、カーテンから差し込む光が照らすベッドの上で、一人の男が眠っていた。
その男の肩を叩き、そばに居た女が彼を揺り起こす。
「おはよう、シン♡」
「あぁ・・・おはよう。・・・おぉっ!よく似合ってるじゃないか!」
「プレゼントありがとう♡」
シンが起きると、既にセレアは着替えていた。
彼女が身に付けている服は、昨晩シンが買い与えた物だ。
「お前、今日はどうするんだよ?・・・デートでもするか?」
「しても良いけど、一応は仕事しないと。今晩も、ディナーは一緒に食べましょうね♡」
「そうするか!・・・よし!まずは朝飯食いに行こうぜ!」
シンがセレアの腰に手を回し、連れ添って食堂に向かおうとしたところ、突如として花が寝室に入ってきた。
少しだけ苛立った顔を浮かべながら、エプロンを掛けるその姿は、まるで母親のようである。
「シン!いつまで寝てるの!もう朝ごは・・・あら?セレアさん?」
「ご無沙汰してるわ、花さん♪」
「いえいえ、大丈夫ですよ!・・・朝ご飯食べます?」
「それじゃ、お言葉に甘えるわね!」
セレアがそう言うと、三人の男女による奇妙な会食が始まった。
花の料理は机上に用意されていたが、皿は二人分しかない。
「セレアさんは、私の分を食べてください。」
花は自分の席に置いてあった食事を、全てセレアに渡してしまった。
この事に対し、セレアは少しだけ申し訳なくなる。
「あら、良いの?お腹空かないかしら?」
「じ、実は・・・ダイエット中で・・・。」
外食のしすぎで5キロも増えていた事など、言えるわけがない。しかしセレアは、彼女の意図を汲み取った。
「それは大変ね・・・それじゃ、いただきます!・・・美味しいっ♪あなた、とっても料理上手なのね!?」
彼女の朝食を口に運んだセレアは、思わず頬が落ちそうになった。
簡単な料理であるはずなのに、想像以上に素晴らしい味が滲み出て、彼女の味覚は至福に包まれている。
「ありがとうございます!父が料理人なので♪」
「お店を持てるレベルよ!本当に、素晴らしい味だわ!・・・あっ、そうだ!これ要ります?」
セレアはそう言うと、手鞄の中からタッパーを取り出した。
その中には昨晩、ミサラが料理した唐揚げが入っている。
「普通に食べれそうですね!私の朝ごはんにします!」
花はタッパーを受け取ると、自分の前でそれを開けた。
少しだけ変わった匂いがするが、気にせず食べてみる。
「うぐぅっ!?こ、これは・・・これは・・・。」
言葉を失うほど、超次元的な味。
おおよそ、人間の食べる物ではないと感じるほど、生臭くて鉄っぽい味がする。
「なんだ?不味かったのか?」
シンはデリカシーのない事を言うと、花からタッパーを引ったくった。
フォークで唐揚げを突き刺し、口の中に運んでみる。
「・・・ふんぐぅ!!!???」
口の中で炸裂した強烈な味に、シンは堪らず吐き出した。
ティッシュの中に吐いたため、机は汚れていない。
「唐揚げを、ここまで不味く出来るのは天才だろ!?
セレア、お前マジで才能あるぞ!?」
「えっ?作ったのは私じゃなくて、友達の女の子だけど。」
"出会った者は全員友達理論"が炸裂した。
これは決して悪い事ではない。彼女の心の広さと、社交的な能力の高さの現れである。
「だとしたら伝えろ!この味はヤバい!人を不幸にする!」
「ちょっと言い過ぎじゃない?花さんはどう・・・。」
「あんまり・・・美味しいとは言えません・・・。」
セレアは花に弁護を求めたが、流石の彼女も擁護出来ない。この味は正に悪魔的、怪物的な味だった。
「そんなに不味いの?食べてみるわね。」
セレアはそう言うと、残った一つの唐揚げを口に放り込んだ。咀嚼し、味わいながら、ゆっくりと食べていく。
「・・・?不味くないわよ?」
「はぁっ!?」
シンは驚いた。あの恐ろしい味を体感したセレアは、何事もないかのように飲み込んでいる。
お世辞でも、冗談でもない。本気でミサラの料理を美味いと感じているようだ。
「なんていうか・・・お母さんの料理に似てる?あなた達の口に合わないだけで、普通に美味しいと思うわよ?」
食レポの結果は、まさかの"母の味"だった。
こんな料理を食べて育ったのなら、彼女は間違いなくバカ舌だろう。
「まぁ良いわ!二人のお口直しに、私が作ったクッキーあげるわね。」
「おいちょっと待て!お前、バカ舌だろ!本当にそれ食えるのか!?」
シンは思わず躊躇した。あの味を美味いと感じる舌が、真っ当な料理を作れる訳がないと思ったのだ。
「大丈夫よ!友達の二人も、美味しいって言ってたし!」
「ま、まぁ・・・それなら・・・。」
シンはそう言うと、渋々クッキーを受け取った。
目を瞑り、死を覚悟しながら、ゆっくりとクッキーを噛み砕く。
「あれっ!?めっちゃ美味いぞ!?」
「ほぉら、言った通りじゃない♡」
セレアは自信満々に微笑むと、もう一枚のクッキーを取り出した。そしてそれは、シンではなく花に向けられる。
「花さんも食べる?」
「いえ、私はダイエット中で・・・。」
「運動すれば大丈夫よ!それに、食べないダイエットは胸とお尻も痩せちゃうわよ?」
"わがままボディ模範例"の彼女が言うと、やはり説得力が違う。痩せるのは良いが、出る所が引っ込まれては困るのだ。
「そ、それは困ります!」
「なら運動しましょう!
あなた、とっても良い体してるじゃない♪私の仕事場でも、それほどスタイルの良い子は珍しいわよ!」
「えへへ、嬉しいなっ♪」
花の純粋な笑顔を見て、セレアは思った。自分の仕事場が娼館であるなど、口が裂けても言えないと。
「それじゃ、今日はジムに行きましょう!色々と教えであげるわ!」
「は~い!」
セレアの姉御肌に当てられた花は、即落ちしてしまった。
彼女の魅力は、どうやら肉体だけでなく人格でも、人を自然と惹きつけるようだ。
「おいおい、俺を差し置いてデートかよ?」
「焼き餅焼いちゃって♡・・・それなら、あなたも一緒にジムに行きましょうよ!」
「今日はカジノに行こうと思ってたが・・・まぁ良いか!今日は筋トレ日和だしな!」
"筋トレ日和"という謎の概念によって納得したシンは、セレアとの"ジムデート"を承諾した。
三人は不思議なハイテンションに包まれ、更に仲が深まった気がする。そうなると、他人行儀な言葉遣いは邪魔になってきた。
「ねぇ、花さん?」
「どうしました?」
「敬称使うのやめない?友達っぽくないわよ・・・。」
これは、先ほどから花も感じていた。
その圧倒的な身長と、一回り高い年齢から敬語を使っていたが、友人として考えるとそれは不自然であり、失礼な気もする。
セレアと花は完全に意気投合し、既に"女友達"となっていたのだ――。
「・・・セレア!これからよろしくね!」
「フフッ♪その方が良いわよ花♪」
二人が手を繋いだまま扉から出ていく後ろ姿を見て、シンは沁みじみと感慨に耽っている。
(凄えなアイツ、俺並みに女誑しじゃん。)
ナンパ同好会の男は、"類は友を呼ぶ"という言葉を再認識していた。
~~~~~~~~~~
「やっぱり!ソントは美味しい物が多いなぁ!」
暇を持て余した征夜は、市場で食べ歩きをしていた。
片っ端から店を回り、屋台の物を買い漁っていく。
立ち食いをするのは下品だと分かっていたが、それでも止められないほどにソントの食品は美味だった。
「次はどこ行こうかなぁ!?・・・アレって・・・。」
移ろい行く征夜の視線は、とある一点で止まった。
昼間から騒音を垂れ流し、七色の光が窓から流れ出ている家屋には、大きな金色のコインが描かれている。
「これは・・・カジノだよね?」
征夜はこれまで、ギャンブルとは無縁な生活を送ってきた。パチスロは勿論、競馬や競輪、ゲームセンターのコインゲームすらやっていない。
そんな彼にとって、カジノという未知の娯楽は他の何よりも光り輝いて見えたのだ。
「横にあるのは・・・ジムかな?」
煌びやかなカジノの真横には、古風なスポーツジムが隣接していた。
少しくたびれているが、作りはしっかりしている。そして何よりも、手入れが行き届いている。
「どうしよう・・・どっちに行くべきなのか・・・。」
征夜は一瞬だけ迷った。勇者として、戦士として、武士として、どちらを選ぶべきなのか。
張り詰めた日々のガス抜きか、高みを目指す地道な鍛錬か。どちらが良いのかは、普通に考えれば分かる事だ。
「・・・まぁ、一日二日のジムじゃ何も変わらないよね!ここはカジノに行ってみよう!」
普通に考えれば分かる事なのに、征夜は悪い方を取った。
確かにガス抜きも大切だが、今する事でもないだろう。
「よし!ミサラも連れてこよう!きっと楽しくなるぞ!」
征夜は無意識のうちに、17歳の少女を"賭博"へと引き込もうとしていた。彼にそんな気はなく、法律違反だと言う認識もないが、事実は事実である。
勇み足で駆け出した征夜は、ギルドへと戻って行った。
ミサラと共に、カジノに入ろうと決心したからだ。
ちょうどその頃、彼とすれ違うようにしてセレア達三人組がやって来た。
「ここのスポーツジムなんて、結構良いんじゃない?」
「セレアがそう言うなら、私はそこにする!」
何も知識の無い花は、セレアに迎合した。
花の了承を得た彼女は、今度はシンに聞き返す。
「シンはどう思う?このジムで良いかな?」
「俺は設備さえあればなんでも良いぞ。」
筋トレ上級者のシンは、セレアの質問に適当に返した。
その目線は、隣接するカジノに向けられている。
「カジノが気になる?行ってみたい?花は私が見ておくけど。」
彼を気遣うようにして、セレアは声を掛けた。
しかし、シンは一切揺れる事ない意志で、彼女の誘いを断る。
「いや、お前がジムに行くなら俺も行くさ。お前とは恋人って訳じゃないが、他の男が言い寄ったら不快だ。
それに、いつ教団が襲って来るか分からない以上、修行は多い方が良い。スロットはいつでも出来るしな。」
「ウフフ♡それじゃ、私が"バニーガール"として働き出したら来てくれるのかしら♡」
「当たり前だろ!お前と過ごす方が楽しいしな!」
二人は、花をそっちのけでイチャつき始めた。
抱き合って口付けを交わし、完全に自分達だけの世界に入っている。
「えぇーっと、二人とも・・・。そろそろ、中に入らない?」
「・・・そうね!待たせてごめんなさい!」
抱擁を解いたセレアは、花の手を引きながらジムへと入って行った。シンもすぐさま、それに続いた。
~~~~~~~~~~
それから数時間後、日没が近くなりジムの閉館時刻が近づいた頃――。
「ふぅ・・・今日は、たくさん運動したわ・・・。」
汗だくになった花は、スポーツウェアを着替えていた。
疲れ切った表情には、どこか清々しい笑みを浮かべている。
「初めてのジムで疲れたでしょう?今日はたくさん食べて、明日に備えましょうね!」
セレアは明日もジムに来る約束を、既に花と取り付けていた。仕事は疎かになるが、体型を保つのも仕事のうちだと割り切っている。
「分かった!今日はありがとね!ディナーは食べて行って!」
夕飯を作り、セレアに奢る事は花の中で決まっていた。
しかし彼女は、おそらく夕食後もホテルに帰らないだろう。
「今夜も・・・エッチするんだよね・・・///」
「やっぱり聞こえてた?」
「その・・・壁が薄くて・・・。」
二日連続、薄い壁を貫通する声に悩まされていた花は、正直言って限界だった。
セレアの事は好きだが、流石にこのままだと辛い。なので、思い切って伝えてみる。
「分かった!なら、今夜は私のホテルにシンを連れて行くわ!」
「ご、ごめんね!文句言ったりして・・・。」
「良いの良いの!」
「それじゃお願いね!先に帰って、夕食作っておくから!」
そう言った花は、ちょうど着替え終わったようだ。上着を着て、悠々と外に出て行った。
淫猥な女子トークを久しぶりに交わしたセレアは、少しだけ嬉しそうである。
(ああいう、対等な友達って出来辛いのよね!)
彼女にとって、ミサラは後輩や妹のような物だった。
まだ"幼い子供"であり、"守ってあげる存在"なのだ。それは、対等な友人とは言えないだろう。
それに対して花は、完全に同じ目線で話が出来る友人だった。こういう存在は、はっきり言って貴重である。
(よし!そろそろ着替えましょう!)
残された彼女が着替えようとしたところ、突如として更衣室にシンが入って来た。
「花の前じゃ言えなかったが、スポーツブラも似合うじゃないか・・・!」
「もう!女子更衣室に入るなんて、スケベなんだから♡」
「花はもう飯を食いに行ったし、他に女の客は居ない。閉館時刻が近いし、誰も入館して来ない。・・・この意味が分かるか?」
「だ、ダメよっ・・・こんな所で・・・///」
「そんな格好してるのが悪いだろ!」
「あぁんっ♡え、Hぃ・・・♡」
胸元に伸びたシンの指先は、セレアの乳に触れた。
揉みくちゃにされたスポーツブラが乳首に擦れ、揉みしだかれるたびに、鋭い快楽が全身を駆け巡る――。
「おっぱい揉むの・・・上手すぎるよぉ・・・♡」
「おいおい、まだ始まったばかりだぞ?」
「あっ♡あぁっ♡だ、ダメぇッ・・・きゃぁっ!♡」
マットに押し倒されたセレアは、ブラとパンティーを剥ぎ取られ、息つく間も無く全裸に剥かれた。
ヒンヤリと冷たいコンクリートに背中で触れながら、力強く吐き出される熱い欲情。
それは正に、"至高の快楽"だった――。
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