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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)

EP171 暇な一日 <☆>

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 セレアは忙しくて家事が出来ない。
 ミサラが作る料理は、控えめに言って"ダンゴムシ"や"フナムシ"のような味がした。鉄分の味なのだろうか、それすらも分からない。

 そうなると自然に、征夜の足は食堂に向かう。
 自分で朝食を作っても良いが、流石にその気は起きなかった。

(ミサラ・・・やる気はあるんだけど・・・。)

 何度も何度も作り直しては、新たな料理に挑戦する。その開拓精神は評価できる。
 問題は、一向に腕が上がらない事だ。彼女の料理を食べる事は、味覚への拷問と言っても過言ではない。

 征夜は昨晩の夕食を、ミサラと二人で食べた。
 セレアは友人とディナーを食べると言い、昨晩は帰って来なかった。

 朝食を終えた征夜は、部屋に戻ろうとした。
 しかし戻れば、彼女の料理を食べさせられる可能性がある。

 そしてタチの悪い事に、彼女は料理の腕に自信があるようなのだ――。

(僕のために作って来れてるんだ。文句は言えない・・・言えないけど・・・!!!)

 それとこれとは、完全に話が別だ。
 彼女に真実を伝える勇気も、彼女の料理を受け止める勇気もない。だからこそ、彼女に会う勇気も無い。

(我ながら情けない・・・僕は勇者なのに・・・。)

 そんな事を考えながら、征夜は町に出て行った。
 まるで、部屋にて待ち構えるミサラから逃げ出すように――。

~~~~~~~~~~

 とあるホテルの一室、カーテンから差し込む光が照らすベッドの上で、一人の男が眠っていた。
 その男の肩を叩き、そばに居た女が彼を揺り起こす。

「おはよう、シン♡」

「あぁ・・・おはよう。・・・おぉっ!よく似合ってるじゃないか!」

「プレゼントありがとう♡」

 シンが起きると、既にセレアは着替えていた。
 彼女が身に付けている服は、昨晩シンが買い与えた物だ。

「お前、今日はどうするんだよ?・・・デートでもするか?」

「しても良いけど、一応は仕事しないと。今晩も、ディナーは一緒に食べましょうね♡」

「そうするか!・・・よし!まずは朝飯食いに行こうぜ!」

 シンがセレアの腰に手を回し、連れ添って食堂に向かおうとしたところ、突如として花が寝室に入ってきた。
 少しだけ苛立った顔を浮かべながら、エプロンを掛けるその姿は、まるで母親のようである。

「シン!いつまで寝てるの!もう朝ごは・・・あら?セレアさん?」

「ご無沙汰してるわ、花さん♪」

「いえいえ、大丈夫ですよ!・・・朝ご飯食べます?」

「それじゃ、お言葉に甘えるわね!」

 セレアがそう言うと、三人の男女による奇妙な会食が始まった。
 花の料理は机上に用意されていたが、皿は二人分しかない。

「セレアさんは、私の分を食べてください。」

 花は自分の席に置いてあった食事を、全てセレアに渡してしまった。
 この事に対し、セレアは少しだけ申し訳なくなる。

「あら、良いの?お腹空かないかしら?」

「じ、実は・・・ダイエット中で・・・。」

 外食のしすぎで5キロも増えていた事など、言えるわけがない。しかしセレアは、彼女の意図を汲み取った。

「それは大変ね・・・それじゃ、いただきます!・・・美味しいっ♪あなた、とっても料理上手なのね!?」

 彼女の朝食を口に運んだセレアは、思わず頬が落ちそうになった。
 簡単な料理であるはずなのに、想像以上に素晴らしい味が滲み出て、彼女の味覚は至福に包まれている。

「ありがとうございます!父が料理人なので♪」

「お店を持てるレベルよ!本当に、素晴らしい味だわ!・・・あっ、そうだ!これ要ります?」

 セレアはそう言うと、手鞄の中からタッパーを取り出した。
 その中には昨晩、ミサラが料理した唐揚げが入っている。

「普通に食べれそうですね!私の朝ごはんにします!」

 花はタッパーを受け取ると、自分の前でそれを開けた。
 少しだけ変わった匂いがするが、気にせず食べてみる。



「うぐぅっ!?こ、これは・・・これは・・・。」

 言葉を失うほど、超次元的な味。
 おおよそ、人間の食べる物ではないと感じるほど、生臭くて鉄っぽい味がする。

「なんだ?不味かったのか?」

 シンはデリカシーのない事を言うと、花からタッパーを引ったくった。
 フォークで唐揚げを突き刺し、口の中に運んでみる。

「・・・ふんぐぅ!!!???」

 口の中で炸裂した強烈な味に、シンは堪らず吐き出した。
 ティッシュの中に吐いたため、机は汚れていない。

「唐揚げを、ここまで不味く出来るのは天才だろ!?
 セレア、お前マジで才能あるぞ!?」

「えっ?作ったのは私じゃなくて、友達の女の子だけど。」

 "出会った者は全員友達理論"が炸裂した。
 これは決して悪い事ではない。彼女の心の広さと、社交的な能力の高さの現れである。

「だとしたら伝えろ!この味はヤバい!人を不幸にする!」

「ちょっと言い過ぎじゃない?花さんはどう・・・。」

「あんまり・・・美味しいとは言えません・・・。」

 セレアは花に弁護を求めたが、流石の彼女も擁護出来ない。この味は正に悪魔的、怪物的な味だった。

「そんなに不味いの?食べてみるわね。」

 セレアはそう言うと、残った一つの唐揚げを口に放り込んだ。咀嚼し、味わいながら、ゆっくりと食べていく。

「・・・?不味くないわよ?」

「はぁっ!?」

 シンは驚いた。あの恐ろしい味を体感したセレアは、何事もないかのように飲み込んでいる。
 お世辞でも、冗談でもない。本気でミサラの料理を美味いと感じているようだ。

「なんていうか・・・お母さんの料理に似てる?あなた達の口に合わないだけで、普通に美味しいと思うわよ?」

 食レポの結果は、まさかの"母の味"だった。
 こんな料理を食べて育ったのなら、彼女は間違いなくバカ舌だろう。

「まぁ良いわ!二人のお口直しに、私が作ったクッキーあげるわね。」

「おいちょっと待て!お前、バカ舌だろ!本当にそれ食えるのか!?」

 シンは思わず躊躇した。あの味を美味いと感じる舌が、真っ当な料理を作れる訳がないと思ったのだ。

「大丈夫よ!友達の二人も、美味しいって言ってたし!」

「ま、まぁ・・・それなら・・・。」

 シンはそう言うと、渋々クッキーを受け取った。
 目を瞑り、死を覚悟しながら、ゆっくりとクッキーを噛み砕く。



「あれっ!?めっちゃ美味いぞ!?」

「ほぉら、言った通りじゃない♡」

 セレアは自信満々に微笑むと、もう一枚のクッキーを取り出した。そしてそれは、シンではなく花に向けられる。

「花さんも食べる?」

「いえ、私はダイエット中で・・・。」

「運動すれば大丈夫よ!それに、食べないダイエットは胸とお尻も痩せちゃうわよ?」

 "わがままボディ模範例"の彼女が言うと、やはり説得力が違う。痩せるのは良いが、出る所が引っ込まれては困るのだ。

「そ、それは困ります!」

「なら運動しましょう!
 あなた、とっても良い体してるじゃない♪私の仕事場でも、それほどスタイルの良い子は珍しいわよ!」

「えへへ、嬉しいなっ♪」

 花の純粋な笑顔を見て、セレアは思った。自分の仕事場が娼館であるなど、口が裂けても言えないと。

「それじゃ、今日はジムに行きましょう!色々と教えであげるわ!」

「は~い!」

 セレアの姉御肌に当てられた花は、即落ちしてしまった。
 彼女の魅力は、どうやら肉体だけでなく人格でも、人を自然と惹きつけるようだ。

「おいおい、俺を差し置いてデートかよ?」

「焼き餅焼いちゃって♡・・・それなら、あなたも一緒にジムに行きましょうよ!」

「今日はカジノに行こうと思ってたが・・・まぁ良いか!今日は筋トレ日和だしな!」

 "筋トレ日和"という謎の概念によって納得したシンは、セレアとの"ジムデート"を承諾した。
 三人は不思議なハイテンションに包まれ、更に仲が深まった気がする。そうなると、他人行儀な言葉遣いは邪魔になってきた。

「ねぇ、花さん?」

「どうしました?」

「敬称使うのやめない?友達っぽくないわよ・・・。」

 これは、先ほどから花も感じていた。
 その圧倒的な身長と、一回り高い年齢から敬語を使っていたが、友人として考えるとそれは不自然であり、失礼な気もする。

 セレアと花は完全に意気投合し、既に"女友達"となっていたのだ――。

「・・・セレア!これからよろしくね!」

「フフッ♪その方が良いわよ花♪」

 二人が手を繋いだまま扉から出ていく後ろ姿を見て、シンは沁みじみと感慨に耽っている。

(凄えなアイツ、俺並みに女誑しじゃん。)

 ナンパ同好会の男は、"類は友を呼ぶ"という言葉を再認識していた。

~~~~~~~~~~

「やっぱり!ソントは美味しい物が多いなぁ!」

 暇を持て余した征夜は、市場で食べ歩きをしていた。
 片っ端から店を回り、屋台の物を買い漁っていく。

 立ち食いをするのは下品だと分かっていたが、それでも止められないほどにソントの食品は美味だった。

「次はどこ行こうかなぁ!?・・・アレって・・・。」

 移ろい行く征夜の視線は、とある一点で止まった。
 昼間から騒音を垂れ流し、七色の光が窓から流れ出ている家屋には、大きな金色のコインが描かれている。

「これは・・・カジノだよね?」

 征夜はこれまで、ギャンブルとは無縁な生活を送ってきた。パチスロは勿論、競馬や競輪、ゲームセンターのコインゲームすらやっていない。
 そんな彼にとって、カジノという未知の娯楽は他の何よりも光り輝いて見えたのだ。

「横にあるのは・・・ジムかな?」

 煌びやかなカジノの真横には、古風なスポーツジムが隣接していた。
 少しくたびれているが、作りはしっかりしている。そして何よりも、手入れが行き届いている。

「どうしよう・・・どっちに行くべきなのか・・・。」

 征夜は一瞬だけ迷った。勇者として、戦士として、武士として、どちらを選ぶべきなのか。
 張り詰めた日々のガス抜きか、高みを目指す地道な鍛錬か。どちらが良いのかは、普通に考えれば分かる事だ。

「・・・まぁ、一日二日のジムじゃ何も変わらないよね!ここはカジノに行ってみよう!」

 普通に考えれば分かる事なのに、征夜は悪い方を取った。
 確かにガス抜きも大切だが、今する事でもないだろう。

「よし!ミサラも連れてこよう!きっと楽しくなるぞ!」

 征夜は無意識のうちに、17歳の少女を"賭博"へと引き込もうとしていた。彼にそんな気はなく、法律違反だと言う認識もないが、事実は事実である。

 勇み足で駆け出した征夜は、ギルドへと戻って行った。
 ミサラと共に、カジノに入ろうと決心したからだ。



 ちょうどその頃、彼とすれ違うようにしてセレア達三人組がやって来た。

「ここのスポーツジムなんて、結構良いんじゃない?」

「セレアがそう言うなら、私はそこにする!」

 何も知識の無い花は、セレアに迎合した。
 花の了承を得た彼女は、今度はシンに聞き返す。

「シンはどう思う?このジムで良いかな?」

「俺は設備さえあればなんでも良いぞ。」

 筋トレ上級者のシンは、セレアの質問に適当に返した。
 その目線は、隣接するカジノに向けられている。

「カジノが気になる?行ってみたい?花は私が見ておくけど。」

 彼を気遣うようにして、セレアは声を掛けた。
 しかし、シンは一切揺れる事ない意志で、彼女の誘いを断る。

「いや、お前がジムに行くなら俺も行くさ。お前とは恋人って訳じゃないが、他の男が言い寄ったら不快だ。
 それに、いつ教団が襲って来るか分からない以上、修行は多い方が良い。スロットはいつでも出来るしな。」

「ウフフ♡それじゃ、私が"バニーガール"として働き出したら来てくれるのかしら♡」

「当たり前だろ!お前と過ごす方が楽しいしな!」

 二人は、花をそっちのけでイチャつき始めた。
 抱き合って口付けを交わし、完全に自分達だけの世界に入っている。

「えぇーっと、二人とも・・・。そろそろ、中に入らない?」

「・・・そうね!待たせてごめんなさい!」

 抱擁を解いたセレアは、花の手を引きながらジムへと入って行った。シンもすぐさま、それに続いた。

~~~~~~~~~~

 それから数時間後、日没が近くなりジムの閉館時刻が近づいた頃――。

「ふぅ・・・今日は、たくさん運動したわ・・・。」

 汗だくになった花は、スポーツウェアを着替えていた。
 疲れ切った表情には、どこか清々しい笑みを浮かべている。

「初めてのジムで疲れたでしょう?今日はたくさん食べて、明日に備えましょうね!」

 セレアは明日もジムに来る約束を、既に花と取り付けていた。仕事は疎かになるが、体型を保つのも仕事のうちだと割り切っている。

「分かった!今日はありがとね!ディナーは食べて行って!」

 夕飯を作り、セレアに奢る事は花の中で決まっていた。
 しかし彼女は、おそらく夕食後もホテルに帰らないだろう。

「今夜も・・・エッチするんだよね・・・///」

「やっぱり聞こえてた?」

「その・・・壁が薄くて・・・。」

 二日連続、薄い壁を貫通する声に悩まされていた花は、正直言って限界だった。
 セレアの事は好きだが、流石にこのままだと辛い。なので、思い切って伝えてみる。

「分かった!なら、今夜は私のホテルにシンを連れて行くわ!」

「ご、ごめんね!文句言ったりして・・・。」

「良いの良いの!」

「それじゃお願いね!先に帰って、夕食作っておくから!」

 そう言った花は、ちょうど着替え終わったようだ。上着を着て、悠々と外に出て行った。
 淫猥な女子トークを久しぶりに交わしたセレアは、少しだけ嬉しそうである。

(ああいう、対等な友達って出来辛いのよね!)

 彼女にとって、ミサラは後輩や妹のような物だった。
 まだ"幼い子供"であり、"守ってあげる存在"なのだ。それは、対等な友人とは言えないだろう。

 それに対して花は、完全に同じ目線で話が出来る友人だった。こういう存在は、はっきり言って貴重である。

(よし!そろそろ着替えましょう!)

 残された彼女が着替えようとしたところ、突如として更衣室にシンが入って来た。

「花の前じゃ言えなかったが、スポーツブラも似合うじゃないか・・・!」

「もう!女子更衣室に入るなんて、スケベなんだから♡」

「花はもう飯を食いに行ったし、他に女の客は居ない。閉館時刻が近いし、誰も入館して来ない。・・・この意味が分かるか?」

「だ、ダメよっ・・・こんな所で・・・///」

「そんな格好してるのが悪いだろ!」

「あぁんっ♡え、Hぃ・・・♡」

 胸元に伸びたシンの指先は、セレアの乳に触れた。
 揉みくちゃにされたスポーツブラが乳首に擦れ、揉みしだかれるたびに、鋭い快楽が全身を駆け巡る――。

「おっぱい揉むの・・・上手すぎるよぉ・・・♡」

「おいおい、まだ始まったばかりだぞ?」

「あっ♡あぁっ♡だ、ダメぇッ・・・きゃぁっ!♡」

 マットに押し倒されたセレアは、ブラとパンティーを剥ぎ取られ、息つく間も無く全裸に剥かれた。
 ヒンヤリと冷たいコンクリートに背中で触れながら、力強く吐き出される熱い欲情。

 それは正に、"至高の快楽"だった――。
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