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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)

EP148 黒き不死鳥

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ある者は、"憎悪するに足らない仇敵"を見た。
ある者は、"穢れを持たない愚者"を見た。

そして、ある者は"無限に広がる虚無"を見た――。

―――――――――――――――――――――


「ひぃ~・・・ヤバかったぁ~・・・。」

 大きくため息を吐いた征夜は、前のめりになって船外へ転がり出た。
 そこは目的地の浜辺であったが、どうにも人の気配がない。尤も、現地民に襲われなかっただけマシとも取れるが。

 冷たい砂を握りしめながら立ち上がった征夜は、船に備わった望遠鏡を使って、遠方の海洋を眺める事にした。
 対岸に存在する、港町と思わしき建物群。その港から放射状に広がっている戦場は、色とりどりの光で飾られている。

「あんなに倒したのに・・・まだ居るのか・・・。」

 征夜は正直言って、かなり落胆した。
 自分が死力を尽くして討伐した他にも、未だに大量の海竜がこの近海を遊泳しているのだ。

 シャノン近海には、この数年ほど人の手が一切加えられなかった。その主な原因は、当然ながら破海竜の存在である。
 それまでのシャノン住人は、共存とまでは言えないが、ある程度は海竜の存在を"生態系の一部"として容認していた。
 しかし、突如として現れた一頭の破海竜が、その文化さえも破り捨てたのだ。

 ここ数年間で、近海に生息する海竜の数は約3倍に増加した。そして、今もなお増え続けていた。
 そんな現状は打破するために決行されたのが、此度の掃討作戦なのだ。当然ながら、その最大の討伐目標は破海竜にあった。

 そんな中で、征夜は魔法を使えないながらも多大な戦果を上げた。生存したままの討伐数だけで言えば、現在も水中で戦闘を続ける"小さな英雄・サム"よりも多いだろう。
 だがそれでも、たった一人の戦果などでは変えられないほどに、この近海は海竜の世界と化していた。だからこそ、今もなお戦闘は続いているのだ。

「みんな・・・頑張ってるんだなぁ・・・。」

 これ以上の加勢が出来ない事は、征夜自身が最も良く理解していた。全身の疲労が大きすぎて、船を漕ぐことも不可能だろう。
 ただ呆然と遥か遠方を眺めながら、そこで繰り広げられる死闘を夢想することしか出来ない。

 そんな事を続けているうちに、戦局に動きがあったーー。

「・・・は?」

 思わず、彼は目を疑った。
 疲労が理由なのか、それとも溺れたことが理由なのか。どちらにせよ、絶対にあり得ない光景が映り込んで来たのだ。

 望遠鏡のレンズには、が映っていたーー。

「そんな馬鹿な!確実に殺した!食い荒らされた後に、氷漬けにした!生きてるわけがな・・・・・・はぁっ!!!???」

 驚愕の連続で、空いた口が塞がらない。
 殺したはずの破海竜が生きていた事も、確かに驚愕した。しかし、その光景はそれすらも凌駕していた。

 足の生えた破海竜が、港町に上陸したーー。

 あの巨大な体を支えるだけの足が、一体どこに仕舞われていたのだろうか。さらに問題なのは、それが一頭でない事である。

「1・・・2・・・嘘だろ・・・破海竜ってのは、繁殖するのか?・・・これはきっと夢だ。忘れよう・・・。」

 常識を外れたその状況に対して、征夜は思考を停止した。

~~~~~~~~~~

 数分の間、彼の思考は完全に停止していた。
 目を傷める事にも構わずに、水平線を眺める。

 ふと気がつくと、破海竜が上陸した港町は、踏み鳴らされて消え去っていたーー。

「踏み潰されたのか・・・?いや、これは夢なんだ。気にしても仕方がない。」

 もしも町ごと踏み潰されたなら、そこに住む人々は死滅している。
 海に出払っていた海兵達を、陸と海で挟み撃ちにして全滅させる事も出来るだろう。

 しかし今の征夜には、そこまでの思考を回す余力が無かった。
 そしてその結果、悲惨な現状を想像しないために"夢幻"と断じる事にした。



「そろそろ、宿を探そ」

カッシャーンッ!!!

「うわぁっ!!??」

 征夜は遠洋を眺めるのを止め、今夜の宿を探すために立ち上がった。
 しかしその意思は、突如として背後から響いた盛大な金属音によって遮断された。

 その音はもしかしたら、ずっと前から聞こえていたのかも知れない。
 征夜が気付かなかっただけで、その二人の死闘は明らかに今始まった物ではない。おそらくだが、得物と得物が衝突する音もまた、戦闘開始時から聞こえていただろう。

 望遠鏡を覗くと、そこには"二つの人影"があった。
 一人の姿は靄が掛かっており見えず、もう一人の姿は黒いマントに身を包んだ人物だ。その体格からして、男であると推察される。

 二人の戦闘領域は、怪物のひしめく海洋の遥か上空。
 雲海にも程近いほどの天空にて、宙を舞うようにして展開されていたーー。

 心臓の鼓動が鳴り止まず、うるさい程に生命の危機を主張する。
 まるで征夜に対して、「こんな所に居てはいけない!」と警告するかのように、その鼓動は加速していく。
 しかし彼の意思は肉体の本能さえも無視して、好奇心を優先させた。

「凄い・・・!」

 それはまさに、人知を超越した戦闘。
 武道の道に入って間もない征夜にも、それは分かっていた。

 男は全身に暴風を纏いながら、空中を優雅に飛び回る。
 そして、クルクルとスピンをしながら上昇し、遠心力をその身に受けながら、両手の中に黄金と紅蓮のエネルギー弾を生成した。

 敵対者の動きもまた、人間をやめていた。
 こちらは"飛ぶ"という表現よりも、文字通り"舞って"いた。まるで空中だという事を忘れさせるように、華麗なステップを踏みながら、ヒラヒラと踊っている。

「アレは・・・何だ・・・?」

 もはや、理解が追いつかない。その戦闘は明らかに、人の理解を超える速度で展開されていた。

 凄まじい速さで飛んでいる男は、空中に黒い残像を残しながらも未だに加速し続けている。放たれた魔弾を避けながら、次々と斬撃を繰り出した。
 敵対者は放たれた斬撃を、魔法や手に持った"巨大な鎌"で受け流しながら、相手を挑発しているようだ。

 七色に輝く刀と、赤黒い大鎌が衝突するたびに、天地を割り裂くような爆裂音が響き渡り、大地と空気を強振させる。
 衝撃により発生したエネルギーは、緋色の稲妻となって直下に広がる海洋に降り注ぐ。

 よく見ると、男の残した残像は敵対者の肉体に、確実な傷を与えていた。
 周囲を飛びながら繰り出した斬撃は、たとえそれが既に過去の残穢と化していても、現在の助けをしようと奮闘している。

 そこには、"質量を持った残像"が存在していたーー。

 男が残した残像に敵対者が触れるたびに、青空を汚す鮮血が飛び散る。
 しかし、そんな事には興味ないと言わんばかりに、男は更なる攻撃を敵対者に加える。
 自分のしている行為、それがいかに驚異的か。彼にとってはどうでも良いのだ。

 男は敵対者と距離を取り、右手と左手を脇腹の位置で重ね合わせる。
 右手に纏った炎と、左手に纏った稲妻が手中で混ざり合い、橙色の球体となった。

 敵対者もそれに対抗するように、ポーズを取り始める。
 握りしめた大鎌を体の前でクルクルと高速回転させ、その中心にある自分の手に魔力を貯める。

 お互いに発動の準備を整えると、溜め込んだエネルギー波を相手に向けて射出したーー。

<<<雷炎裂空砲>>>

<<< Lődd le!!!>>>

カァァァンッッッ!!!

 男の放った"炎を纏った稲妻"と、敵対者の放った赤黒いエネルギー波が空中で激突した。
 甲高い炸裂音が近辺に響き渡り、衝突した地点から暴風が吹き荒れる。大気を押し流す勢いで気流が噴出し、征夜は危うく吹き飛ばされそうになった。

 エネルギー波の撃ち合いは、完全に互角だった。
 お互いが背後に吹き飛ばされ、海面に落下していく。

「どっちが勝った!?」

 征夜は既に、戦闘を行なっている者たちの虜となっていた。勝敗が気になって仕方がなく、落下する男に望遠鏡を合わせた。

 まるで、死んでしまったかのような様子で、男は自由落下を続けていた。
 それは海面に激突しても止まる事はなく、落下の速度を減速する事もなく水中へと沈み込んで行くーー。

「死んだ・・・のか・・・?」

 征夜には、どうしても信じられなかった。
 見ている者を戦慄させるほどの頂上決戦。その決着が、あれほどにあっさりと着くものだろうか。

 答えはNOだ。

「どうしたどうしたぁっ!?怖気付いたかぁッ!!!」

 吹き飛ばされた後に体勢を直した敵対者は、嬉々とした声で叫びながら、海面へと突っ込んで行く。
 両手に赤黒い稲妻を込めて、それを男の落下地点の海面に向けて発射した。

<<<<< Pop és mix!!!!!>>>>>

 放たれた稲妻は、放射状に広がりながら降り注いだ。弾け飛び、混ざり合いながら、シャノン近海全体に広がる。
 それはまるで、全身を巡る血管のようにコバルトブルーの海を染めた。

 塩水は電流を伝えやすい。
 超常的な能力を持ったあの男の命運も、ついに潰えたかと思われたーー。





<<<<< 海捻斬かいねんざん鳴門なると>>>>>

 突如として、巨大な咆哮が深海から轟いた。
 それと同時にシャノン近海の海流が、まるで"鳴門"を描くように流動する。そして、その渦は男の落下地点へと集約した。

 集約点を根元として、巨大な水の柱が立ち昇る。そして、その柱は一切の迷いもなく敵対者へと直進した。
 その巨大な水流の中には、海面へと降り注いだ稲妻が込められているーー。

「ギャァァァッッッッッ!!!!!・・・なぁんてな!」

 断末魔の叫びを上げたかと思えば、まるで演技だったと言わんばかりに、敵対者は余裕のある嘲笑を浮かべる。

 自らが放った電流を、そのまま打ち返された。そして、それをまともに喰らったのだ。
 普通なら驚愕するか、地団駄を踏むはずなのに、何の動揺も見せない。まるで、"自分には分かっていた"と示すかのようだ。

 海底へと墜落した男は死んでなどいなかった。それどころか、その不利な状況さえも攻勢の一手へと変えた。
 刃渡りは征夜の刀と大差ないのに、そこに込めたエネルギーが違い過ぎる。一切の魔力を纏う事も無く、腕力と遠心力だけを利用し、刀身の延長線上に広がる海を巻き込んだ。

 シャノン近海を包み込んだ渦は、男が空中で放った回転斬りによるものだ。
 そして、巻き取った海を渦状に練り上げて、ある程度まで渦の形を整えた彼は、浮遊する敵対者に向けて打ち放った。

 男の刀を起点としたうず潮は、敵対者に直撃した水の柱と言う終着点を以って、一本の道となった。
 そのため、流れ込む水の柱は留まる事も無く重力に逆らい続いている。

 征夜としては、海中に沈み込んだ男がどのように浮上するのか、気になって仕方ない。
 海を突き破って登場するのか、空中に瞬間移動するのか。対戦者以上に、その動向を気にしている。

「どうしたどうしたぁ?溺れちまったかぁ!!!???だっせぇ奴だなぁ!!!オラッ!オラオラオラぁッッッ!!!待たせてんじゃねぇよクソがぁッッッ!!!」

 いつまでも潜水したままの男に、敵対者はシビレを切らしている。未だに男が潜ったままと思われる地点に向けて、大量の魔法を乱射する。
 叫び散らしながら罵詈雑言を放ち、口撃でも相手を責め立てる戦法らしい。自分でも歯止めが利かないほどにヒートアップし、文字に起こすのを憚られる程度の暴言も、無尽蔵に飛び出して来る。



 だが狂乱を纏った敵対者とは違い、男は冷静だった。

「待たせたな。」

「・・・ハッ!」

 気が付くと、男は背後に回っていた。
 いや、正確には”男の通った道”に、自ら背を向けていたのだ。

 まるで滝を登る鯉のように、男は自分が生み出した水の柱を遡って来た。
 その殺気と、隠しきれない覇気を水の中に隠しながら、凄まじい速度で浮上してきたのだ。

 完全に背後を取られた敵対者のうなじに、光速を超える斬撃が放たれるーー。

「ぐげぇあああッッッッッ!!!!!」

「汚らしく叫ぶな。虫唾が走る。」

 斬り飛ばされた生首が、鮮血を撒き散らしながら水面へと落下していく。
 断末魔の叫びを上げ、抵抗も出来ずに落下する。しかしそれは、海面下へと沈み込む事は無かった。

「ふぅ・・・危なかった・・・!」

 波打っている水面に衝突した首は、まるでテニスボールのように放物線を描いた。
 そして、わざとらしくため息を吐きながら、再び胴と合体した。



 征夜にはその光景が、とてつもなく輝いて見えた。
 人間の限界を超えた者同士が、その実力をぶつけ合う頂上決戦。そこに、武人として興奮せざるを得ない。

 しかし同時に、悲しい物にも見えたーー。

(僕はきっと・・・100年を費やしても、あれほどに強くはなれない・・・。特に、男の人は格が違う・・・。)

 数十頭もの海竜が作り出した渦を以って、ようやく小さなうず潮を作った征夜。
 それに引き換え、男はたった一人で海全体をかき混ぜた。その差は圧倒的だ。

 彼の夢は、”宇宙最強になってより多くの人を救う”だ。
 途方も無く子供じみてはいるが、目指しても損はないほどに壮大な夢。強さの果てに、掴み取れる平和が有ると信じているからこその夢だ。

 だがどうだろう。目の前で繰り広げられる光景は、それに矛盾しているでは無いかーー。

(何故、アレほどの力を持ってるのに・・・戦いを求めるんだ・・・。)

 征夜はそこに、人と言う存在の”業”を見た気がした。
 戦いの果てに強さを手に入れても、何も変わらない。全ては、更なる闘争の下準備に過ぎないのだ。

 積み重ねた勝利の先には、結局のところ何も無いーー。
 そんな事を、僅かながら悟った気がした。



「お互い、決定力が無いな。」

「不死身同士の死闘だぜ?不毛に決まってるんだよなぁ?」

 その言葉が合図となったのだろう。空中で睨み合う両者は、お互いに”決着の一撃”を放つ準備を始めた。
 男はフードに隠された耳に右手を当てながら、誰かと交信を取る。

「・・・本気を出すために使役を解除する。急いで、その場から逃げるんだ。」

 右手が塞がっている好機を逃すほど、敵対者も甘くはない。
 大量のエネルギー弾と稲妻、炎や竜巻と言った飛び道具を放ち、相手の妨害をする。

 しかし男は、その全てを左手で構えた刀によって受け流した。
 その様子はまるで、刀一本で”絶対領域”を作り出したようにも見える。

「す、凄い・・・!」

 氷狼神眼流は”受け”に特化した流派。だからこそ征夜は、防御にも自信があった。

 しかし、男の剣捌きは明らかに自分を凌駕している。
 冷静に考えれば当然であるが、刀を取り回す速度は征夜の比ではない。それに加えて、まるで未来が見えているかのように精密な動作で、迫りくる物を弾いているのだ。

 交信を終えた男は、自らの顔を隠す布を僅かに取り払った。
 そして、露出した口元を刀身に近づけ、大きく息を吹きかける。

「ハァァァァァ・・・。」

 まるで冬の日に凍える手を温める時のような、深い息吹が七色の刀身を包み込む。
 季節は冬だが、この世界は常夏だ。ならば、息は透明のはず。しかし、男の吐息は霧のように白かった。

 それは、もはや息ではない。体内の水分を沸騰させた”水蒸気”なのだ。

 突如として、男の纏った暴風は更に肥大化した。
 頭上に広がる雲海が、文字通り霧散したことがそれを表している。

 そしてーー。



<<<<<限無凍殺剣げんむとうさつけん絶体霊弩ぜったいれいど>>>>>

<<<<<Én vagyok az igazi ős örököse!!!!!>>>>>

 青白い閃光を纏った刀と、赤黒い波導を放射する大鎌が、空中で激突した。
 その衝突は、海を真っ二つに裂くほどの衝撃波を生み出した。そして、その衝突点には青白い雪が舞い散りながらも、赤黒い稲妻が炸裂している。
 征夜はピリピリとした放電が、自分の元にも伝わって来るのを感じる。それと同時に、周囲の気温が急激に下がった事も悟った。

 今度もやはり、先程と同様に互角だった。
 大気を凍て付かせるほどの吹雪に晒された敵対者と、大気を震わせるほどの稲妻が直撃した男。
 片方は完全に凍り付きながら、片方は全身が丸焦げになりながら、先程と同様に落下していく。

 しかし今回は、男の復帰が早かったーー。

「まだまだ・・・行けるぞ!!!」

 大きく両手を広げ、再び戦場に向けて飛翔した。
 全身の服が発火しながらも、その肉体と闘志は健在なのだ。

 太陽の光を背に浴びながら、悠々と天空を舞うその姿。
 身に纏わりつく炎を、ものともしない様子。それは正に、”不死鳥”だったーー。

「望むところだぁぁぁッッッ!!!!」

 敵対者もまた、生きている。
 全身の細胞が凍て付いても尚、死ぬという選択肢は無いのだろう。

 こうして二人は、再び上空で睨み合った。
 その決闘は、まだしばらくの間は続きそうである。

(凄い・・・!凄すぎる・・・!)

 もはや完全に決闘の観衆と化していた男は、心の中で同じことを叫び続けている。
 その戦いに秘められた悲しみを見ても尚、武人としての本能が興奮を掻き立ててしまうのだ。



 ふと気が付くと、男の顔を覆っていた布が消えている。
 おそらく、身に纏った服とは違い防火性が無かったのだろう。だからこそ、焼け落ちてしまったのだ。

(どんな人なんだ・・・!一体、どんな人なんだろう・・・!)

 自らの師さえも凌駕する武人。その尊顔を、拝まずにはいられない。
 征夜は急いで、顔が見える角度へと移動した。そして、望遠鏡のレンズを向ける。

 その時、男は彼の存在に気付いたのだろう。
 悠々とした様子で、その視線を彼へと向けたーー。




「あっ!?あがぁっ!?が、がぁっ!!!???ぐあぁぁぁッッッッッ!!!!!ぐぎゃああぁぁぁッッッッッ!!!!!!!!!!」

 突如として、征夜は奇声を上げながら卒倒した。
 左胸を抑えながら、泡を吹いてのたうち回っている。

 目と目があった途端、恐怖が全身を駆け巡った。そして、心臓に激痛が走ったのだ。
 その男の眼に、特別な能力があるわけではない。ただ、その覇気だけで、征夜の筋肉を硬直させたのだ。

 生物の本能は、強すぎる存在に出会った時に、逃避行動に出る。人間の場合は、それが"恐怖"と言う感情として発露するのだ。

 男の眼光は、征夜に"限界を超えた恐怖"を齎した。
 決して、睨み付けたわけではない。ただ、観衆に向けて視線を振り向いたに過ぎない。
 
 全身に激痛が走り、呼吸困難に陥っている。神経が麻痺して、痙攣する以外に出来る事がない。

 そして、気を失ったーー。
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