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七章 恋は曲者、あなたは変わり者
恋は曲者、あなたは変わり者【3】
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「下心ばっかりで、全然いい奴じゃないだろ?」
ふっと笑った諏訪くんは、吹っ切れたような顔をしている。反して、私は動揺と困惑を隠せない。
「ここまで話したから全部言うけど、香月と一緒にいるときはずっと我慢してた」
そういえば、なにを我慢させてしまったんだろう。ようやくして追いついてきた思考が、その疑問にたどりつく。
「香月に触れたくて、抱きしめたくて、キスしたいって。ずっと思ってたんだ」
直後、熱を孕んだ囁きが落とされ、反射的に息を呑んでいた。
恋愛経験がない私でも、高校時代の初恋しか恋心を知らない私でも……。さすがにここまで言われたら気づかないはずはない。
彼の本心――とやらに。
「香月が俺を意識してないことはわかってたけど、どうにかして距離を縮めたかったし、男が苦手でも俺への警戒心だけは持たせたくなくて必死に友達のふりをした」
ただ、信じられない気持ちの方が大きくて、思考は収拾がつかないほどに取っ散らかっている。誰かこの状況を説明して、なんて思うくらいだ。
「でも、香月が俺にだけは触れられても平気だって言ってくれたとき、もうどんな手を使ってでも絶対に手に入れたいと思った」
怒涛の勢いで想いを打ち明けられて、いっそ夢かと思った。
「だから、適当な理由付けで香月を言い包めて、触れ合う方法を提案した。まぁ、男に慣れるように……なんていうのもその場限りの建前で、本心では俺以外の男に触らせる気はなかったけど」
そんないっぱいいっぱいの私の脳裏に過ったのは、諏訪くんが提案したリハビリと称した〝練習〟。それすらも、彼には別の意図があったなんて考えもしなかった。
「ほらな? 狡猾で最低だろ?」
自嘲混じりの笑みを浮かべる諏訪くんを見つめ、あまり役に立ちそうにない頭を必死に働かせる。
驚いたし、戸惑っているし、半信半疑どころか半分以上は信じられない。
ただ、それでもやっぱり彼を最低だとは思わなかった。
「ううん、そんなことない」
どんな理由があったにせよ、諏訪くんは絶対に私が嫌がることはしなかったし、いつだって私を気遣い、私のペースに合わせてくれていた。
なにより、一度も私を怖がらせるようなことはなかった。
「諏訪くんにそんな意図があったなんて知らなかったから、びっくりしたけど……。諏訪くんはいつも私の気持ちを優先してくれたし、絶対に怖がらせたり不安になるようなことをしたりしなかったでしょ」
「それはまぁ……。これでも、香月に嫌われたくないと思ってるからな」
だとしても、本当に狡猾で最低なら、きっとそれなりのやり方で言い包めて無理強いすることはできたし、下心だって隠さなかったはず。
決してそんなことをしなかった彼には、やっぱりどれだけ感謝しても足りない。
「私、相手が男の人ってだけで、その人がいい人であっても嫌な記憶が蘇って怖くなることや、足が竦むようなときだってあったの。でも、諏訪くんと一緒にいたこの三ヶ月間、諏訪くんの前では一度もそんな風にならなかった」
諏訪くんへの想いを自覚したのはまだ最近だけれど、最初から平気だったのは相手が彼だったから。他の人だったら、間違いなくこうはいかなかったと思う。
「美容師時代には平気なふりをしようとしても、体が震えたり強張ったりして思うようにならなかったのに、諏訪くんの前ではずっと大丈夫だった。それってきっと、諏訪くんが私に対してひとりの人間として向き合ってくれてたからだと思うの」
今になって気づいたことは、私の諏訪くんへの信頼を裏付けるようで、自然と彼に笑みを向けることができていた。
「だったら言わせてもうらうけど」
引かない私に諦めたのか、諏訪くんがため息を漏らす。
「俺は香月と付き合いたいと思ってる」
刹那、きっぱりはっきりと言い切られた彼の願望に、胸が大きく高鳴った。
ふっと笑った諏訪くんは、吹っ切れたような顔をしている。反して、私は動揺と困惑を隠せない。
「ここまで話したから全部言うけど、香月と一緒にいるときはずっと我慢してた」
そういえば、なにを我慢させてしまったんだろう。ようやくして追いついてきた思考が、その疑問にたどりつく。
「香月に触れたくて、抱きしめたくて、キスしたいって。ずっと思ってたんだ」
直後、熱を孕んだ囁きが落とされ、反射的に息を呑んでいた。
恋愛経験がない私でも、高校時代の初恋しか恋心を知らない私でも……。さすがにここまで言われたら気づかないはずはない。
彼の本心――とやらに。
「香月が俺を意識してないことはわかってたけど、どうにかして距離を縮めたかったし、男が苦手でも俺への警戒心だけは持たせたくなくて必死に友達のふりをした」
ただ、信じられない気持ちの方が大きくて、思考は収拾がつかないほどに取っ散らかっている。誰かこの状況を説明して、なんて思うくらいだ。
「でも、香月が俺にだけは触れられても平気だって言ってくれたとき、もうどんな手を使ってでも絶対に手に入れたいと思った」
怒涛の勢いで想いを打ち明けられて、いっそ夢かと思った。
「だから、適当な理由付けで香月を言い包めて、触れ合う方法を提案した。まぁ、男に慣れるように……なんていうのもその場限りの建前で、本心では俺以外の男に触らせる気はなかったけど」
そんないっぱいいっぱいの私の脳裏に過ったのは、諏訪くんが提案したリハビリと称した〝練習〟。それすらも、彼には別の意図があったなんて考えもしなかった。
「ほらな? 狡猾で最低だろ?」
自嘲混じりの笑みを浮かべる諏訪くんを見つめ、あまり役に立ちそうにない頭を必死に働かせる。
驚いたし、戸惑っているし、半信半疑どころか半分以上は信じられない。
ただ、それでもやっぱり彼を最低だとは思わなかった。
「ううん、そんなことない」
どんな理由があったにせよ、諏訪くんは絶対に私が嫌がることはしなかったし、いつだって私を気遣い、私のペースに合わせてくれていた。
なにより、一度も私を怖がらせるようなことはなかった。
「諏訪くんにそんな意図があったなんて知らなかったから、びっくりしたけど……。諏訪くんはいつも私の気持ちを優先してくれたし、絶対に怖がらせたり不安になるようなことをしたりしなかったでしょ」
「それはまぁ……。これでも、香月に嫌われたくないと思ってるからな」
だとしても、本当に狡猾で最低なら、きっとそれなりのやり方で言い包めて無理強いすることはできたし、下心だって隠さなかったはず。
決してそんなことをしなかった彼には、やっぱりどれだけ感謝しても足りない。
「私、相手が男の人ってだけで、その人がいい人であっても嫌な記憶が蘇って怖くなることや、足が竦むようなときだってあったの。でも、諏訪くんと一緒にいたこの三ヶ月間、諏訪くんの前では一度もそんな風にならなかった」
諏訪くんへの想いを自覚したのはまだ最近だけれど、最初から平気だったのは相手が彼だったから。他の人だったら、間違いなくこうはいかなかったと思う。
「美容師時代には平気なふりをしようとしても、体が震えたり強張ったりして思うようにならなかったのに、諏訪くんの前ではずっと大丈夫だった。それってきっと、諏訪くんが私に対してひとりの人間として向き合ってくれてたからだと思うの」
今になって気づいたことは、私の諏訪くんへの信頼を裏付けるようで、自然と彼に笑みを向けることができていた。
「だったら言わせてもうらうけど」
引かない私に諦めたのか、諏訪くんがため息を漏らす。
「俺は香月と付き合いたいと思ってる」
刹那、きっぱりはっきりと言い切られた彼の願望に、胸が大きく高鳴った。
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