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七章 恋は曲者、あなたは変わり者

恋は曲者、あなたは変わり者【4】

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(そっか……。諏訪くんが私を好きでいてくれたってことは……普通はこういうことなんだ)


 当たり前の流れなのかもしれないけれど、今の私はそこまで思い至らなかった。
 というよりも、諏訪くんがそこまでのことを望んでいると考えていなかったのかもしれない。


「私は……」


 私だって、初恋相手だった彼のことが好きだと自覚している。
 けれど、イコール付き合いたいか……と尋ねられれば、すぐに浮かんだ答えは〝否〟だった。


 本当は、敦子のように普通に恋をして、大切な人と結婚する未来を夢見ている。ただ、普通に触れ合えもしない今の状況では、その一歩を踏み出すのが怖かった。


 諏訪くんのことは好きだし、彼の隣に他の女性が並んでいるところを想像するだけで、胸がズキズキと痛む。一方で、自分が恋人としての務めを果たせる気がしないことが、私から自信を根こそぎ奪っていった。


 私の事情を知った上で『付き合いたい』と言ってくれる諏訪くんは、私にとってはなかなか出会えないような素敵な人だけれど……。彼の目線に立てば、私以上にいい人はたくさんいる。
 少なくても、身近にいる篠原さんは魅力のある女性だ。


「うん、わかってる。香月がまだ恋愛に踏み出せるところまで来てないのも、トラウマのせいで怖いって気持ちがあるのも。ただ、俺が知りたいのはそこじゃない」

「え?」

「香月にとって俺は恋愛対象になれる? それとも、絶対にそうはなれない男?」

「そ、れは……」


 素直に言ってもいいのなら、言ってしまいたい衝動に駆られる。けれど、付き合ってもなにもできないかもしれないのに、本心を打ち明けるのは身勝手に思えた。


「俺は、香月を見てると触れたくなるし、キスしたい、抱きたいって思う。でも、今の香月に同じことを求める気はないよ」


 戸惑い悩む私に、諏訪くんが瞳をそっと緩める。今日初めて見た彼の柔和な微笑みが、グラグラと揺れる私の心を優しく包み込んでくれた。


「香月がそんなことまで考えられないのは当たり前だし、別に今すぐ無理にどうこうしようなんて思ってない。ただ、香月が俺と一緒にいたいと思ってくれる気持ちがあるのなら、今の自分の不安だけを見るのはやめてほしい」

「でも、先のことなんてわからないでしょ……。私、もしかしたらずっとこんな感じかもしれないし……」

「確かに先のことはわからない。香月はずっと今のままかもしれない。でも、逆に言えば、今の不安が杞憂に終わるかもしれないってことでもあると思うよ」

「あっ……」

「わからないっていう意味でなら、いい方か悪い方かどっちに転ぶかもわからないってことだ。俺は香月は大丈夫だと思ってる。現に、俺には自分から触れただろ?」


 目から鱗だった。
 私は悪い方にばかり考えていたけれど、言われてみればいい方に転ぶ可能性だってありえる。

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