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第26話

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医務室に入った時から相当時間は経っていたようで今では廊下に使用人や兵士が結構見られる。
行きは手を繋がれて焦っていたが、今はこちらが手を引いている始末だ。
挨拶されるが今はそれどころではない。
一刻も早くこの王太子をどうにかしたいのだ。

僕の部屋に近づくにつれ、部下が部屋の前に立っていることに気づいた。
彼はダレス様に向けて敬礼してから僕に向き直って腕に抱えている書類を差し出してきた、

「サイラス様、報告書の受理をお願いします」

枚数的にも各隊の隊長から報告書を集めてから持ってきてくれたのだろう。

「ありがとう。そうだ、これから5日ほど諸事情で書類対応ができないから緊急性がある書類に関しては直接イゴール陛下に渡してもらえるか?」
「分かりました。各隊に伝えておきます。そちらの書類はどうしましょうか」
「これは受け取るよ。じゃあ伝言頼んだ。…あと追加でお願いすると僕の部屋には極力人を近づけさせないでほしいかな。何かあったらカリン先生も頼っていいから」
「はい、ではこれで失礼致します」

彼は深く頭を下げると持ち場に戻って行った。

僕は彼を見送ってからダレス様を連れて部屋の中に入る。
扉を閉めた途端にダレス様が口を開いた。

「説教は後だ」
「え?」

僕が聞き返すより早くダレス様は僕の手を引っ張りベッドへ押し倒した。

「まっ、待ってください!せめて書類は置かせてください!!」

私が目の前に書類を突き付けるとダレス様はそれを奪い取り、僕の執務机に放り投げた。
バサッという音をかき消すようにカーテンを引かれる。

「書類ならこれでいいだろ」
「雑…」
「置いてもらえただけ感謝しろ」

そう言うとダレス様は再び私に覆いかぶさってきた。
昼間のはずなのに薄暗くなった室内にベッドが軋み音がやけに大きく聞こえる。

「いいか、こうやって不意を突かれて押し倒されればいくら騎士団の団長様と言えど抵抗できないだろ」
「……何が言いたいんですか」
「お前がラズワルドの相手をしている隙に誰かもまた侵入して契約書を奪うと仮定する。…その時お前は、」

「ラズワルド様に組み敷かれてそのまま抱かれるでしょうね」

彼が言い淀んだ先の言葉を続ければダレス様は僕を抱きしめてきた。

「俺はお前が傷つく姿を見たくない」
「……」
「だから誰にも触れさせないでくれ、頼むから」

掻き抱くように抱きしめられながら言われた言葉に心が締め付けられる。
自分は大丈夫だと伝えたいのに上手く言葉が出てこない。

「何年も探し続けてやっと見つけたのに…今もずっと欲しているというのに……何であんなクソ野郎にはそんな簡単に体を許そうとするんだよ!!」

叫ぶように吐かれた言葉と共にダレス様の顔は苦しそうに歪められた。
今にも泣きそうな彼の頬に思わず手を添える。

「ダレス様がいてくださるからですよ」
「は?」

何を言っているのか分からない様子のダレス様に微笑んでから言葉を続ける。

「ダレス様が私を待っていてくださると信じているから私は強く在れるのです」
「……意味分かんねえよ」

私の言葉にダレス様は表情を歪ませたまま唸り声をあげて僕の首元に顔を埋めてきた。
髪の毛が首に当たって少しくすぐったいがそれ以上にダレス様の体温と重さが心地良い。

「私は他人の為ならすぐに自分を差し出します。だからダレス様が私を引き留めてください」
「……俺はどんな手段を使ってでも引き止めるぞ」
「私が本気で嫌がりそうなことはしないでくださいね」
「善処はする」

ダレス様が私の首筋に顔を埋めたまま話すものだから声が近くで聞こえてしまい思わず身じろぐ。
それに気づいたのか、彼は体を起こすとじっと見下ろしてきた。

「何ですか」
「…脅すためだったのに結局怯えなかったな」
「私だって生半可な気持ちであの案を提案したわけではありませんから。それなりの覚悟はしています」

そう言って笑うとダレス様は軽く額を小突いてきた。

「そんなこと言ってると本当に襲うぞ」
「どうぞ」
「……だから、」
「さっきの言葉でダレス様の本気度は理解しました。以前のように傷1つ無い体ではありませんがそれでもよろしければどうぞ」

彼はギラギラとした熱の籠った瞳で私を見下ろしている。
その視線を受け止めるように見つめ返し、彼が動くのを待った。
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