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第6話

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「カリーン。重篤患者2名」

陛下は僕たちを医務室に押し込むと後ろ手に鍵を閉めた。
中で待機していたカリンは突然の来訪に目を見開いている。

「陛下……と、ダレス様!?それにサイラスさんまで…」
「患者はこの2人だ」
「患者って…」

訳が分からないというような表情で僕たちを見るカリン。
その視線が物凄く痛い。

「ご機嫌麗しゅう、ダレス様」
「…お久しぶりです、カリンさん」

どうやらダレス様とカリンは知り合いだったようで軽く挨拶を交わす。
イゴール陛下繋がりで面識があるのだろうか。

「…あの、陛下。とりあえず説明を頂いてもよろしいでしょうか」
「俺も何が何だか分からないんだが雰囲気的にどうやら訳アリのようでな。会場で揉めだしたから連れてきた」
「そんな軽く言わないでくださいよ」

ため息を吐くもどうやら解決に力を貸してくれるようでカリンは僕に向けて小さく手招きをした。
それに頷くと医務室の奥にある個室に連れていかれる。

パタリと扉を閉めて椅子に座るように促される。

「それで、一体何がどうしたの?」
「……」
「サイラス?」

心配そうに名前を呼ばれてしまえばもう正直に白状するしかない。
ゆっくり深呼吸をしてからカリンと目を合わせる。


「…少し前、僕の元カレの話をしたの覚えてる?」
「覚えてるわよ。たしか隣国へ旅行に行った時に会った人よね?」

「「……」」

「……まさか、」
「うん。…多分、ダレス様が僕の元カレ……」


カリンは目の前で絶叫に近い声を上げかけたので慌てて両手で彼女の口を押さえた。
扉越しとはいえ騒がれては困る。

「え、嘘でしょ…」
「僕、実は入団前はサイラスという名前じゃなかったの。その時の名前を知っているのは元カレだけだったはず…」
「おっと~…」
「さっきその名前を呼ばれたから間違いないんだよ…」

半泣きになりながら言えば、カリンは同情するかのように背中を撫でてくれた。

「でもこのままだと全部を隠し通すのは難しいと思うわよ」
「分かってる…被害は最小限に抑、」


「サイラス!?ちょっと話がある!!!」



被害は最小限に抑えたい、という言葉を遮って陛下の叫び声が扉越しに聞こえる。
思わずカリンと目を合わせる。

その間にも扉を叩く音はどんどん大きくなっていく。

「うるさい!扉が壊れるでしょうが!!」

耐えきれずカリンが扉を開けると陛下が困惑した表情で立っていた。

「そ、それはすまないと思っている。それよりも、その、本当に嘘を吐かないで欲しいのだが…」
「…何よ」



「……サイラスは女性なのか?」



恐る恐る陛下が聞いてきたので僕もカリンももう諦めるしかなかった。

ここまでよく頑張ったよ。
騎士団に入ってから数年、団長になってから半年もの間濁し続けることができたのだから。

お互いに心の中で健闘を称えつつ、陛下からの言葉に答えようと覚悟を決めた所で陛下はさらに口を開く。

「あとダレスが『サイラスではなくバレッサだ』とか『失踪した自分の恋人だ』とか言っているのだがそれについても聞いていいか?」

「カリン先生…」
「残念ながらもう手遅れです。お気の毒に」
「先生ぇ…!!!」

まるで患者が助からないことを宣告するように首を左右に振るカリンに思わず縋りつく。
ここで唯一の味方である彼女から手を離されてしまえばどうしようもなくなってしまう。

「さて、説明してもらおうか」
「そうだね。俺も久々に会った恋人の話を聞きたいし」

似たような表情をした2人は椅子に腰かけて僕を見つめる。

あぁ…これはもう本格的に逃げられない。


「…分かりました。全てお話しします」
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