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第3部
警戒モード
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週が明けて、2の光。
「閣下! 宰相閣下!」
宰相の執務室では、若手の文官、ナスティが新聞を片手にローセボームに詰め寄っていた。
「週明けから騒々しい」
ローセボームは憮然とした表情を広報担当の若い部下に見せる。
「宰相閣下! なぜ新聞の写真がデビュタントたちが大勢が並んでいる写真なんですか。今回のデビュタントの目玉は王太子殿下とエルランデル公爵家のご子息のダンスでしょう! 私も写真を撮っていたはずです! なぜ採用されなかったんですか!」
髪の毛は青いのに顔を赤くしてナスティは絶叫する。
「デビュタントとは貴族の子女たちが社交界にデビューした祝宴のことだ。それにふさわしい写真だと思うが?」
「それはそうですが!」
「大事なことは、ものごとの本質を記事や写真にすることだ。決してその中の華やかな部分だけをクローズアップすることではない」
「そ、それはそうですが……」
ローセボームの言うことはもっともで、ナスティは次第にトーンダウンしていった。
「さらに付け加えるならば、王城から国民に発信する情報は、より公正でなくてはならない。誰かが得をして、誰かが損をしないように最大の配慮をしなくてはならない。……誰かがその情報で、何かを企むかもしれないからな」
ローセボームはそうならないことを願うように呟いた。
その頃、王立学園。
「おはよう」
「おはよう、アシェルナオ」
公爵家の馬車から学園の馬車寄せに降り立つアシェルナオに、スヴェンたちが集まってきた。
アシェルナオが無事に学友たちと合流したことを確認して、テュコは馬車を出発させる。
それを見送ると、
「おはよう。今日から2年だね」
アシェルナオは学友たちを振り向いた。
「うん。今日から2年の校舎だよ」
ハルネスに言われて、1年の校舎に行きかけていたアシェルナオは、にこりと微笑む。
「笑ってごまかしましたね?」
相変わらず可愛いことをしてくれるアシェルナオに笑みがこぼれるクラース。
「自分で今日から2年だって言ったのに」
ハルネスが笑いながら言うと、トシュテンやスヴェンも笑った。
「2年になるのはわかってたけど、校舎が変わるところまで頭が回ってなかった」
へへっ、と笑うアシェルナオが可愛らしすぎて、デビュタントで王太子と堂々としたダンスを披露した者と同一人物には見えなかった。
王立学園では学年ごとに校舎が決まっており、学年が変わると校舎も変わるのだが、クラスは変わらない。アシェルナオとスヴェンたちはみな同じクラスで、楽しく話しているうちに高等科2年の校舎に着いた。
2階の端にある教室に行くと、すでにほとんどの生徒が席についていた。
高等科2年に進級して初めて顔を合わせる者たちのほとんどがデビュタントの話題を口にしており、現れたアシェルナオを見て羨望の眼差しを向ける者も少なくなかった。
突然婚約をしたために王太子妃選定の舞踏会もなく、今まで誰ともダンスを踊らなかった王太子が、唯一踊った相手。
凛々しくも美しい王太子は婚約をしても年頃の男女から大人気で、その相手役を務めたアシェルナオにどれほどの影響があるか、スヴェンたちは緊張しながら席についた。
だが公爵家の次男ということもあり、あからさまな冷やかしの言葉などはなく、ほっとするスヴェンたちとは対照的に、アシェルナオは新しい校舎の雰囲気を確認するようにあちこちに目を向けていた。
教師棟にある学園長室で、窓際に並べた鉢植えを眺めていたドレイシュは、よくない何かを感じた。
「リュリュ、全教員に警戒モードを発令。ブロームに愛し子を保護するように連絡をしてくれ」
ドレイシュの言葉に、扉近くの執務机に座っていた清楚な女性がすぐにそれに応じる。
同時に扉が叩かれ、リュリュはドレイシュの目を見て頷くと、扉を開けた。
「リュリュ殿、ドレイシュ様に王弟エンゲルブレクト殿下がお見えだと伝えてくれ。応接室にお通ししている」
そこにいたのは学園の警護をしている警護団の団長、クスターだった。
「クスター」
クスターの声が聞こえていたドレイシュが姿を現した。
「はい、ドレイシュ様」
「護衛団にも警戒モードを発令する。学園内に配置させてくれ」
そう言うとドレイシュは長い白髪を靡かせて応接室に向かった。
ドレイシュが応接室の扉を叩くと、つなぎで対応していた副学園長のスレヴィが扉を開ける。
「代役ご苦労、スレヴィ」
ドレイシュは自分が室内に入る替わりに廊下に出るスレヴィに目で合図する。スレヴィが微かに頷いたのを見届けて、室内のソファに座っているエンゲルブレクトの前に座った。
「これはこれは、エンゲルブレクト殿下。今日はどのようなご用件でしょう」
自分が学園の生徒だった頃から外見があまり変わらないドレイシュを、エンゲルブレクトは懐かしそうに見つめる。
「少し心が疲れていたのか、母校が懐かしくなりまして。よければ校舎や中庭などを見て当時を偲ぶことを許してもらえるでしょうか」
「誰でも学園の頃を懐かしく思うことはありましょう。ですが、ここはいつでも生徒の保全が一番です。王弟殿下の訪問に生徒たちが委縮しないよう、短時間でお願いできますかな」
「もちろんです。ありがとうございます」
頷くエンゲルブレクトに、
「では私もお供しましょう」
ドレイシュはエンゲルブレクトの後ろに控えるハハトに向かって言った。
※※※※※※※※※※※※※※※※
心が折れる(T_T)
「閣下! 宰相閣下!」
宰相の執務室では、若手の文官、ナスティが新聞を片手にローセボームに詰め寄っていた。
「週明けから騒々しい」
ローセボームは憮然とした表情を広報担当の若い部下に見せる。
「宰相閣下! なぜ新聞の写真がデビュタントたちが大勢が並んでいる写真なんですか。今回のデビュタントの目玉は王太子殿下とエルランデル公爵家のご子息のダンスでしょう! 私も写真を撮っていたはずです! なぜ採用されなかったんですか!」
髪の毛は青いのに顔を赤くしてナスティは絶叫する。
「デビュタントとは貴族の子女たちが社交界にデビューした祝宴のことだ。それにふさわしい写真だと思うが?」
「それはそうですが!」
「大事なことは、ものごとの本質を記事や写真にすることだ。決してその中の華やかな部分だけをクローズアップすることではない」
「そ、それはそうですが……」
ローセボームの言うことはもっともで、ナスティは次第にトーンダウンしていった。
「さらに付け加えるならば、王城から国民に発信する情報は、より公正でなくてはならない。誰かが得をして、誰かが損をしないように最大の配慮をしなくてはならない。……誰かがその情報で、何かを企むかもしれないからな」
ローセボームはそうならないことを願うように呟いた。
その頃、王立学園。
「おはよう」
「おはよう、アシェルナオ」
公爵家の馬車から学園の馬車寄せに降り立つアシェルナオに、スヴェンたちが集まってきた。
アシェルナオが無事に学友たちと合流したことを確認して、テュコは馬車を出発させる。
それを見送ると、
「おはよう。今日から2年だね」
アシェルナオは学友たちを振り向いた。
「うん。今日から2年の校舎だよ」
ハルネスに言われて、1年の校舎に行きかけていたアシェルナオは、にこりと微笑む。
「笑ってごまかしましたね?」
相変わらず可愛いことをしてくれるアシェルナオに笑みがこぼれるクラース。
「自分で今日から2年だって言ったのに」
ハルネスが笑いながら言うと、トシュテンやスヴェンも笑った。
「2年になるのはわかってたけど、校舎が変わるところまで頭が回ってなかった」
へへっ、と笑うアシェルナオが可愛らしすぎて、デビュタントで王太子と堂々としたダンスを披露した者と同一人物には見えなかった。
王立学園では学年ごとに校舎が決まっており、学年が変わると校舎も変わるのだが、クラスは変わらない。アシェルナオとスヴェンたちはみな同じクラスで、楽しく話しているうちに高等科2年の校舎に着いた。
2階の端にある教室に行くと、すでにほとんどの生徒が席についていた。
高等科2年に進級して初めて顔を合わせる者たちのほとんどがデビュタントの話題を口にしており、現れたアシェルナオを見て羨望の眼差しを向ける者も少なくなかった。
突然婚約をしたために王太子妃選定の舞踏会もなく、今まで誰ともダンスを踊らなかった王太子が、唯一踊った相手。
凛々しくも美しい王太子は婚約をしても年頃の男女から大人気で、その相手役を務めたアシェルナオにどれほどの影響があるか、スヴェンたちは緊張しながら席についた。
だが公爵家の次男ということもあり、あからさまな冷やかしの言葉などはなく、ほっとするスヴェンたちとは対照的に、アシェルナオは新しい校舎の雰囲気を確認するようにあちこちに目を向けていた。
教師棟にある学園長室で、窓際に並べた鉢植えを眺めていたドレイシュは、よくない何かを感じた。
「リュリュ、全教員に警戒モードを発令。ブロームに愛し子を保護するように連絡をしてくれ」
ドレイシュの言葉に、扉近くの執務机に座っていた清楚な女性がすぐにそれに応じる。
同時に扉が叩かれ、リュリュはドレイシュの目を見て頷くと、扉を開けた。
「リュリュ殿、ドレイシュ様に王弟エンゲルブレクト殿下がお見えだと伝えてくれ。応接室にお通ししている」
そこにいたのは学園の警護をしている警護団の団長、クスターだった。
「クスター」
クスターの声が聞こえていたドレイシュが姿を現した。
「はい、ドレイシュ様」
「護衛団にも警戒モードを発令する。学園内に配置させてくれ」
そう言うとドレイシュは長い白髪を靡かせて応接室に向かった。
ドレイシュが応接室の扉を叩くと、つなぎで対応していた副学園長のスレヴィが扉を開ける。
「代役ご苦労、スレヴィ」
ドレイシュは自分が室内に入る替わりに廊下に出るスレヴィに目で合図する。スレヴィが微かに頷いたのを見届けて、室内のソファに座っているエンゲルブレクトの前に座った。
「これはこれは、エンゲルブレクト殿下。今日はどのようなご用件でしょう」
自分が学園の生徒だった頃から外見があまり変わらないドレイシュを、エンゲルブレクトは懐かしそうに見つめる。
「少し心が疲れていたのか、母校が懐かしくなりまして。よければ校舎や中庭などを見て当時を偲ぶことを許してもらえるでしょうか」
「誰でも学園の頃を懐かしく思うことはありましょう。ですが、ここはいつでも生徒の保全が一番です。王弟殿下の訪問に生徒たちが委縮しないよう、短時間でお願いできますかな」
「もちろんです。ありがとうございます」
頷くエンゲルブレクトに、
「では私もお供しましょう」
ドレイシュはエンゲルブレクトの後ろに控えるハハトに向かって言った。
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心が折れる(T_T)
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