そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第1部

なんで僕はナチュラルに女装してるのか

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 「髪が乾きました。新しい寝間着に着替えましょう」

 テュコが梛央の手を引いて立ち上がらせると、ドリーンがバスローブを脱がせる。すかさずアイナによって穿かされた下穿きは、三分丈でウエストで紐を結ぶタイプだった。

 しめつけがまったくないためストレスフリーではあるがなんとなく落ち着かない。伸縮性のない薄い布地がつるつるしていて、必要以上にぴらぴらしているのも落ち着かない。

 「そういえばナオ様」

 下穿きの紐を結ぶ手をとめてアイナが声をかける。

 「なに?」

 「この痣は以前からおありでしたか?」

 「ん?」

 アイナが下穿きを少し下げて目で指し示す。

 そこは臍の左斜め下、左の鼠径部の少し上で、親指の爪くらいの大きさのピンクの痣があった。

 五つの花びらの形をしている。

 「五弁桜みたい……ここに来るまではなかったよ? アイナ、早く穿かせて」

 微妙な位置で下穿きの位置が止まったままで、梛央はアイナをせかせる。

 無事に下穿きの紐が結ばれると、上半身には下穿きと同じシルクのような布地のフレンチスリーブが着せられた。

 丈は太ももくらい。裾に行くほど広がっているフレアタイプで、そこからちょっとだけ下穿きがのぞいている。

 「ん? なんだろう」

 梛央が首をかしげる。

 「なんでしょう?」

 「お可愛らしくてよくお似合いですよ?」

 アイナとドリーンも首をかしげる。

 「ベビードールだ」

 自分の着ている下着は、薫瑠がリビングで見ていた女性ものの下着のカタログに載っていたベビードールだった。

 油断していた。

 まさか蓋をあけてみれば自分が女性ものの下着を着せられているなんて、警戒もしていなかった。

 この感覚は学園祭のクラスの催しものに出た時と同じだった。

 あの時も、普通にダンスするだけかと思ったら当日になってコスプレダンスだから梛央はこれね、と優人に笑顔でメイド服を渡されたのだった。

 なんで僕はナチュラルに女装してるのか。

 梛央は一気に打ちひしがれる。

 「ナオ様、ベビードールとは?」

 「その前に寝間着を着ましょう」

 アイナとドリーンに手際よく寝間着を着せられるが、それも梛央に言わせればネグリジェで。

 「僕、男だけど。この下着と寝間着であってる?」

 梛央に聞かれて、テュコはすっと目線を逸らした。

 「テュコも僕にナチュラルに女装させてるんだ……」

 「違います。女装ではなく、その恰好は高貴な家のお子様の下着と寝間着なんです。サミュエル殿からナオ様の容姿が報告されていて、それをもとに用意されたものです」

 「かわいらしいものになったのはサミュエル様の報告のおかげですね」

 「実際よくお似合いですもの」

 うん、うん、と頷くメイド2人。

 「どれだけ子供だと思われてたんだろう……」

 でも僕が小さいんじゃないんだ。この世界の人が大きいんだ。アイナとドリーンだって僕より大きいし。

 小さい声で自分に言い聞かせる梛央。

 実際は子供というより『この上なくお綺麗らしい幼い愛し子様に着せたいもの』をコンセプトに王城で用意されたものだったのだが。

 「ナオ様。私たちの到着が遅れたのは、ナオ様に必要な品々をそろえるのに時間がかかったせいで、それでもまだいろいろなものが足りておりません。服はナオ様の採寸をしてから仕立てることになっています。これから必要なものはこの国の慣習に則って揃えていくことになりますが、ナオ様の意見ももちろん取り入れていきたいと思っています」

 落ち込んでいる梛央にテュコが提案する。

 「いろんなものを揃えるっていっても、僕には支払いは……」

 「急なことだったので今回は陛下の私財から費用が出ています。ナオ様が愛し子様だと広く認められれば王国から予算がつくことになるでしょう。愛し子様は王より尊い存在とも言われていますから」

 「愛し子って言われても僕が何かできるわけじゃないよ? 広く認められるのってちょっと怖いし」

 「異なる国から精霊の泉に迎えられただけでナオ様は尊い存在ですよ。それに、一人でこの国に来られたナオ様が快適に過ごせるようにお世話をするのは私たちの生涯をかけての任務です」

 うんうんと頷くメイド2人。

 「じゃあ、この国の慣習に則るように僕もがんばるから、僕も今まで過ごしてきたようなことをしてもいい?」

 「もちろんです」

 「ナオ様のされたいようになさってください」

 「ナオ様は可愛いのが一番です」

 最後のドリーンの言葉だけはちょっとわからない梛央だった。

 「じゃあ、僕から1つお願いがあるんだ。みんな僕のお世話をしてくれてありがとう。おかげで快適で楽しいよ。だからもうちょっと気楽に話してくれないかな? 親しくなった人とは、そうやって話したい」

 「まあ」

 「まあ」

 アイナとドリーンは目を見合わせる。

 「だめ?」

 小首をかしげる梛央。

 「私たちを親しい人と言っていただきありがとうございます」

 「メイド冥利につきます。けれど」

 嬉しいけれど、いくら主とはいえその言葉に甘えることはできない、と躊躇している2人。

 「この国の慣習に則って形式を崩すことはできません」

 テュコにも拒否されてしょんぼりする梛央に、
 
 「けれど、私たちだけの時には少しくだけてもいいことにしましょう。アイナとドリーンはくだけすぎないように。今ですらくだけすぎてるところがありますから」

 「はーい」

 梛央も加わって三人で声を揃えて返事をする。

 そうすると仲のよい姉妹のようで、テュコは微笑ましかった。


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