そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第1部

精霊の愛し子とか、そんな重大な設定無理(今さら)

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 「私は風の魔法が使えるんです」

 にっこり笑うアイナ。

 「ナオ様、私は火の魔法が使えます」

 ドリーンも横から鏡の中の梛央にアピールする。

 「魔法? え? ここってそういうところ?」

 「そういうところかどういうところかはわかりませんが、この国では精霊の加護を授かっていれば魔法を使えますよ」

 「精霊……魔法……えぇ……これって流行りの異世界転移っていうやつだったの?」

 ヴァイオリンやピアノのレッスンが自由時間のほとんどを占めていても、優人からもたらされるライトノベルやアニメ、ゲームの話は梛央も知っていた。その題材に異世界転移だとか異世界転生ものが多いということも。

 「そういえば僕のこと精霊の愛し子様って呼んでたよね?」

 「はい」
 
 「ナオ様は精霊の愛し子様です」
 
 何の疑問も持たずに言い切るメイドたち。

 「いやいやいやいや、異世界転移とか、魔法とか精霊の愛し子とか、そんな重大な設定僕には無理」

 今さらながらに自分の立場を理解して梛央は涙目になる。

 涙の浮かんだ目でうるうると見つめる梛央は、かわいそうだとは思うものの抱きしめたくなるくらい可愛いくて、アイナとドリーンは手をうずうずさせる。

 「アイナ、早く髪を乾かして。ナオ様が風邪を引いてしまいます」

 「申し訳ございません」

 テュコに言われて慌ててナオの髪を乾かし始めるアイナ。

 「梛央様。明日はもう少し詳しくこの国のことを説明させていただきますね。精霊のこととか魔法のこととか。よろしければナオ様も、話せる範囲でかまいませんのでどこからどういう経緯でここに来られたのかを私たちにお話しいただけますか?」

 「うん……」

 男子高校生だったこと、母と姉のこと。ここに来る前のことを話す時の梛央は辛そうだった。けれどあえてテュコは聞きたいと思った。

 「私たちはナオ様のお世話をする者です。ナオ様の痛みを知り、それを理解して支えていきたいと思っています。そのためにはナオ様のことを知らねばなりません。つらいこともあるかもしれませんが、私たちを信頼していただけますか?」

 テュコに言われ、梛央は少し考えていたが、やがて頷いた。

 「テュコのことは信頼している。アイナとドリーンのこともサミュエルも。僕のことを理解して支えていきたいって思ってくれていて、すごく嬉しい。だから話すよ。うまく話せるかわからないけど……」

 「ありがとうございます、ナオ様」

 「だって、テュコ言ったよね。僕が愛し子様じゃなくても一生僕のお世話をしてくれるって。僕、この世界に家族も友達も、帰れるところもないから、本当は怖くて心細い。だからたとえ理解してくれなくても支えてくれなくても、お世話してくれなくてもいいから、僕を一人にしないで。この国での、僕の帰れるところになって」

 膝の上に置いた手を握りしめる梛央。その手を包み込むように手を重ねるテュコ。

 「もちろんです。ずっとナオ様のお側にいますよ。そして誠心誠意お世話をします。アイナもドリーンもです」

 「はい」

 「ずっとお側におります」

 メイド2人の優しい声に、梛央の瞳が潤む。

 「うん。お願いします」

 潤んだ瞳で笑う梛央がいじらしくて、アイナとドリーンは、やはり抱きしめたくて手をうずうずさせる。

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