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トラブルだらけの学園祭
45.一緒に
しおりを挟む剣くんたちと別行動することにして後悔したのは紫苑先輩がにっこにこの笑顔で何度も話しかけてきた瞬間だ。
人がいっぱい学園祭。あいもかわらず一般の人も同じ学校の人も他校の人もみんな紫苑先輩を見て「キレー」だの「芸能人?」なんて噂してる。となるとやっぱりそんな人が話しかける私にも視線が刺さるわけですよ。いや、私は風紀でしてね、へへへっ。いやあほんとにね?なんで2人きりで学園祭見て周ってるんでしょうかねえ?へへ。
心の中で違うんですと言い訳しながら他のチームの出し物を見て周っていたら凄いことに気がついた。城谷先輩を呼べばいいんだ。城谷先輩なら昨日のように周りを仕切ってくれるだろうし紫苑先輩と周れるなら喜んでやってくれるはずだ。
「近藤さん近藤さん!ライブ凄いですね!」
こっそり携帯をとりだして連絡をとろうとしたら有志によるライブを観ていた紫苑先輩が左手を興奮に握り締めて右手は舞台を指さしてと楽しそうに話しかけてきた。満喫してらっしゃる……。
「凄いですねー体育館に響き渡ってますねー」
もうなんていうか大声を出しに出していてもうそろそろしたらハウリングを起こしそうだ。
「すっごく気持ちよさそうですよね!俺もあんなふうに歌ってみたいです」
「え、歌うの好きな感じですか?紫苑先輩がカラオケ行くイメージがまったくありませんでした」
「じ、実はときどき1人で行くんです」
「まさかのヒトカラ!もっと想像できない!」
「あっ、いえそんな大袈裟な感じではなく……それに俺は誰かとカラオケといってもそもそも誘われないですし、機会があってもただたんに大勢だと歌うどころじゃないといいますか「あ、なんとなく察しました」
私には見える……紫苑先輩をカラオケに誘おうとしながらも抜け駆けを牽制し合う人たちの姿が……そして密約結んだうえ大勢で行くことになったらなったで紫苑先輩に話しかけることに夢中になって歌うどころじゃない光景が……。
ああなんだか凄く可哀想。友達と一緒に下手な歌けなしあいながら特製ドリンク飲んだり好きな歌一緒にうたって踊ったり写真撮ったり動画撮ったりっていうのできないんだろうなあ。
でもそうだよね。紫苑先輩って学校だけで生きてるわけじゃないしそりゃあたりまえにプライベートがあって、それで……そこでも嫌って言えない状況なのか。
なんだかなあ。
微笑んで首を傾げる紫苑先輩には似合わないバックサウンドがついにハウリングを響かせる。うーん、本当に、なんだろう。ちょっとこの人が「嫌です」って言う場面を見てみたい。というか「嫌です」って言わせてみたい。
「そうなんですねーでも紫苑先輩、誘われないんだったら自分で誘えばいいじゃないですか。なんだったら城谷先輩とかどうですか?ちょうどいま連絡とろうと思ってたのでお誘いチャンスで、す?」
いい感じに理由もできたから堂々と携帯を取り出したらガシッと手を掴まれてしまう。え、この人結構力あるな。
「ご、ごめんなさい。でも」
謝罪しながらも私に携帯を触らせないようにする紫苑先輩は気まずげに視線をおとす。
城谷先輩って普段どんなアピールしてるんだろ……。紫苑先輩が即反応するぐらいだから城谷先輩の存在は大きいみたいだけど、嫌と言えない彼女がここまでするってアピールが逆効果になってるんじゃないだろうか。余計なお世話かもしれないけど心配だ。
「分かりました。では明人さんはどうですか?」
「っ!明人さんですか?そういえば彼も風紀の対象なんですよね」
「え?あー、あ!そうですねえ」
「お会いできるのが楽しみです」
「へへ、風紀の対象……?」
そうだったっけ?
風紀の対象者は面倒そうな人が多いから首をつっこまなかったけどここにきてツケがまわってきた。ああでも、ということは風紀の誰かも一緒に合流できるかもしれないから私への視線は減らせる……うん。つぎ颯太くんに会ったらお詫びの猫ちゃんクッキーをあげよう。颯太くんを責められない。私も注目避けるために道連れ探してるよ……。
「ちょっとここじゃ聞こえづらいので移動しますね」
「あ、俺も行きます」
「はーい」
雛鳥のように後ろについてくる紫苑先輩を確認しながら藤宮くんに電話をかける。さてさて、きっと紫苑先輩と似たような状況だろう藤宮くんは気がついてくれるだろうか。とりあえず前回と同じようにコール音7回まで待ってみる。
しかし藤宮くんも風紀の対象か……いやにモテるとは思ってたけど、そういや、この学校ってやっぱりおかしいよね。モテるから風紀の警護対象って頭おかしすぎる。
海棠先生がいうにはこの学校はセキュリティとか設備が充実しているから御曹司や芸能人がくるようになって、そうした特殊な人がいることで生じるトラブルを民間の警護とかを使わずに解消する方法として風紀委員という仕事があるって言ってたけど……モテるからって。モデルの颯太くんは、まあ、ちょっと理由は分かるとしてもモテるからって。
「電話をかけてきたくせにずっと無言とはいい度胸ですね」
「え?あー!すみませんちょっと後ろが騒がしくって気がつきませんでした」
「どこにいるんです?ずいぶんな騒音ですが」
「ライブ会場になっている体育館ですねーあ、いまそこから出て体育館裏の垣根あたりにいます」
「どこに行ってるんですか……」
「ほら、藤宮くんがよく告白されてる場所です」
「やっぱりあなた結構覗き見してますよね」
「え?うわ、またライブ始まったようですねーとにかくですね、よければ学園祭見て周りませんか?私いま紫苑先輩の警護してるんですよねー」
口が滑ったけどなんとか本題に移ったら携帯は落とさないまでも衝撃に息を飲むのが聞こえてきた。「紫苑さんと学園祭……?」なんて聞こえてくる独り言を聞きながら紫苑先輩を見ていると手を合わせたくなるのはなんでだろう。
「いまっ今すぐ向かいたいところですが今は……っ」
「あ、それならしょうがないですね」
「なぜそこで諦めるんですか!」
「こいつめんどくさい」
「だからあなたは……まあいいでしょう。1時間後はどうでしょう?1時間後なら、いえ、間に合わせます」
「分かりましたーでは1時間後にいつものところで」
「いつものところってあなた」
イケメンボイスがなにか言ってた気がするけど騒音のせいで聞こえなかったことにして電話を切る。
「あと1時間どうしましょうか」
「そうですねーなんだか疲れちゃいましたし、へへっ。猫ココアでも飲みに行きませんか?」
往復も考えれば丁度いい感じに過ごせるだろうし、もう他のチームの出し物にも顔をだしたからいいだろう。写真館に屋台にゲームにライブにとみんないろいろやってて面白かったなあ。
なんだかんだ楽しんでる学園祭に口がニコニコ、目の前の美女は口を震わせていて、
「……はいっ!一緒に行きましょう!」
美女が胸の前で両手を握り締めて嬉しそうに笑う。うーん、眼福。これはチームのみんなの反応が楽しみだ。笹岡さん──もとい真奈はまだいるかなあ?紫苑先輩が来たらニヤリと悪い笑顔を浮かべてくれるはずだ。そしてチームの売り上げになるよう気持ちよく紫苑先輩を利用してくれることだろう。
「行きましょ行きましょー」
あ、もしかしたら真奈なら東先輩も安心して風紀の仕事を任せられるって思うんじゃないだろうか。紫苑先輩を異性として見ている感じ全くないし……ふふ、これは楽しみだ。早速打診してみよう。
「学園祭ってすっごく楽しいんですね」
心底嬉しそうな声が隣から聞こえてくる。
藤宮くんの独り言のように手を合わせたくなった気持ちには気がつかないようにした。
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