となりは異世界【本編完結】

夕露

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トラブルだらけの学園祭

46.トモダチ友達みんなでにっこり

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どうやら猫ココアがウケたらしくお店はなかなか人気でお客様が外に出て並んでいる状態だった。
猫可愛いもんね。やっぱり猫最強。
紫苑先輩と一緒に列に並びながら猫談議に花を咲かせる。そんな呑気なことができたのは案内線と仕切りがあったおかげだ。目で見てはっきり分かる境界線があれば人はちょっと遠慮してくれるものらしい。これからこの2つを紫苑先輩絡みの対策に組み込んでいくのもいいかもしれない。ときどきシャッター音が聞こえるけど平和だ。

「にしても混んでますね~」
「大人気ですね。わっ、猫ちゃんクッキーもあるんですか?」
「あ、そうなんですよー是非猫ちゃんティーセット頼んでみてください。すっごく癒されますよ」
「可愛い……」

ネコちゃんティーセットの写真を見せれば紫苑先輩はほうっと溜め息を吐いてこの台詞。気に入ってくれて何よりです。
癒されるといえば波多くんはどうなってるだろう。休憩は許されたみたいだけど基本メインで出ることになってるからかなり精神状態危ないことになってる気がする。そんなところに騒ぎを呼ぶ美女を投入したら……うん、これ絶対あとでグチグチ言われるやつだ。猫の写真送ってちょっとご機嫌とっておこう。
紫苑先輩がメニューに夢中になっている間に波多くんこと猫苺に写真を連投しておく。きっと休憩時間に見つけてひとりニヤニヤしてくれることだろう。いい仕事したなー。

「3名様ご案内でーす。あ、もう少しお待ちぃ……え゛!桜先輩!?」
「え?!あ、こ、こんにちは」
「わー、いい反応」
「え?」

前に並んでいたお客様を案内した接客班の1人がいよいよ次になった私たちを見て大声をあげる。あんまりにもいい声だったから教室中に響いてお茶を楽しんでいたお客様もなんだなんだとこちらをうかがってきた。ひぇ……。

「お疲れ様でーす。猫ココアを飲んでみたいとのことで来ちゃいましたー」
「わっ、ふあ、いっいらっしゃいませ」
「のんびり待たせてもらいまーす。あ、オーダー入ったみたいですよー」
「わあ……」

呆けながら紫苑先輩を見上げる彼女は現実を忘れてしまったようだ。一応もう一度オーダーの話をしたら渋々と動いてくれたけど、恨みがましい視線はきっと気のせいですよね??
へへへと笑いなが紫苑先輩を横目で見れば困ったように微笑む顔を見つけた。そんな顔をするからだ。紫苑先輩が店内を見渡せば慌てて視線を逸らす殊勝な人と、もう目が離せないって感じで目を見開く人に分かれる。
皆さん気にせずお茶を楽しんでくださいねー。私に視線を移して眉を寄せないでくださいねー。というか紫苑先輩はこんなの慣れっこなんだからいちいちそんなに狼狽えなくてもいいんじゃないですかね?豆腐メンタルすぎやしません??
不安そうな紫苑先輩を笑顔でなだめながら心のなかで悪態ついていたら、真っ黒になっていく私を救ってくれる声が聞こえてきた。


「佐奈ちゃーん!よかったら一緒にお茶しよーよ!」
「お、桜(おう)先輩もよければ!」


亜美ちゃんに里香ちゃん!
お店の窓際にある席に座って手を振る2人はキラキラお日様を浴びて眩しい限りだ。紫苑先輩が目当てなのがすっごいよく分かるけど誘いに乗らない手はない。

「お友達ですか?」
「はい!クラスの友達です。紫苑先輩、いいですか?」
「ええ!勿論ですっ」

嬉しそうに頷く顔は破壊力抜群だ。
目をハートにする男子生徒たちを見つけてなんともいえない気持ちになるけど、これでもう私は一人じゃない。無敵な気持ちになって亜美ちゃんたちのテーブルにお邪魔して早速猫ココアを注文……と、うまく事は進まなかった。席に座った瞬間、歓喜の悲鳴が響き渡る。

「こんにちは、ご一緒させていただきますね」
「王子だー!生王子!キャー」
「桜先輩その恰好すっごく似合ってます!」
「あ、ありがとうございます」
「紫苑先輩そこ照れるところですか??」
「「紫苑先輩??」」

あいかわらず褒められたらなんでも喜んでしまう紫苑先輩に突っ込んだら逆に私が突っ込まれた。まんまるな目。反射的に私の唇はにっこり吊り上がる。

「あ、そうそう。実は紫苑先輩って皆に呼んでほしかったんだって。里香ちゃんも亜美ちゃんも紫苑先輩って呼んであげてー、ね?紫苑先輩」
「はいっ!是非そう呼んでください」

皆を強調して言えばまんまるな目はにっこり安心して笑ってご機嫌になる。
あー……薄々勘づいてたけどこれは危ないかもしれない。

「お二人は近藤さんと仲がいいんですか?」
「クラスではいっつも一緒にいますよ!」
「佐奈ちゃんって面白いですしーあ、し、紫苑先輩はなにを注文しますか?」
「この猫ちゃんティーセットにしようと思ってるんです」
「あー!それオススメです可愛いですよね!」

紫苑先輩の言葉に即座に反応した接客班の数人がわっと集まってきて話に花が咲く。数秒後にはさらに人が集まって昨日のグラウンドでみた応援席のように紫苑先輩を中心に輪が出来上がった。

「凄い……魔性すぎる」
「ほんとそれ。佐奈のいうとおり回転率悪すぎる」

輪から抜け出して呟けば真奈が立っていて「売り上げが……」とため息を吐いた。ああやっぱり最高だ。

「ところで風紀になってみない?」
「ところでが最悪すぎてウケる。無理無理ぜったい嫌」
「じゃあ今度一緒に風紀室に行って話を聞いてみようよ」
「ウケる。ってか風紀といえば今まさにその仕事をしなくちゃいけないんじゃない?接客班が仕事してないんだけど」

真奈がくいっと親指を向けたほうを見れば、輪に加わっている接客班と輪に加わりたそうに棒立ちしている接客班の向こう側でひとり注文に応える波多くんを見つけた。普通にお茶を楽しんでくれてるお客様もいるみたいだ。よかったよかった。波多くんはそんなお客様に応えてまたオーダーをとりにいく。

「わ……波多くんが1人で……変に真面目だから……」
「っていうわりにすごい顔笑ってるけど。まあ、私も自分の仕事してくるねー」
「頑張ってー」
「佐奈もね。でもきっと佐奈が作ってさっさと持って行ってあげたほうがいいと思うけどー?」

そう言って紫苑先輩を見たあと私を見た真奈はさっき私が波多くんを見てたときにしただろう顔をしている。酷い話だ。でもまあ言ってることはもっともだから猫ちゃんティーセットを2人分作りに行く。

「おい近藤、アレをなんとかしろ」
「今すごく慎重さが求められる仕事してるので話しかけないでくださいねー」
「なんとか、しろ」
「おおお、これは最高傑作」
「チッ」

舌打ちしながら現れた波多くんは無視し続けると言葉を発する代わりに舌打ちしながら私の返事を催促するようになった。チッチッチッチ聞いてるとスヌーズ機能のように思えてくる。目覚ましの音を波多くんの舌打ちにしたら面白い夢が見れそうだ。

「できたー!よし、持っていこ」
「おい」
「あ、大丈夫だよーこれ飲んだらすぐ出て行くので安心してねー。あと携帯見た?」
「……?」
「癒されるよー」

ハッとして目を見開く波多くんの顔を最後に賑やかな場所に戻る。相変わらずの人だったけど、悲しいことに慣れてしまって「通りまーす」なんて言いながら人込みを割って入るのは簡単だった。そしてそんな苦労の末のご褒美は今回も同じ。

「お待たせしましたー猫ちゃんティーセットです」
「っ!」

目元に涙が滲んでるような気がするほど感激に唇震わせる美女は眼福でいい仕事したと胸を張ってしまう。カシャカシャカシャーとシャッター音。紫苑先輩と猫ちゃんティーセットが仲良く並んだ可愛さ100点満点の写真は学校の裏掲示板にも流れることになるだろう。

「キャー!紫苑先輩可愛いー!」
「王子こっち向いてくださいっ!」
「笑って笑って!」

目の前で紫苑先輩と話せることになってヒートアップしていく里香ちゃんと亜美ちゃんに紫苑先輩は言われるまま視線を向けて微笑む。私の友達ということで遠慮しているのかたじろぐ言葉さえ言わない。カシャカシャ、カシャカシャ。嬉しそうだった顔は現実を思い出して困惑気味。この人も私も学ばないな……。

「あーそろそろストップな感じでお願いー。紫苑先輩もお茶飲みたいでしょうし……えーっと、それを撮るのももう止めてあげて?」

お茶を飲むならティーアートしたコップを傾けつつ視線をこっちに、なんて指示をだしはじめた里香ちゃんにはっきり言えば瞬いた目がすうっと細められる。おっとお……。

「あー……だねー」
「佐奈ちゃんはいいよねー……でも、そーだよね!紫苑先輩ありがとうございましたー!」

目くばせした亜美ちゃんと一緒に携帯をしまう里香ちゃんはにっこり笑顔で私もにっこり笑顔。さすがに紫苑先輩も空気を読んだのか困惑MAXに視線を彷徨わせながらも、ココアを飲んで美味しいと頬を緩めて幸せそう。
紫苑先輩って結構図太いですよね。







 
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