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第71話:ホンモノ?ニセモノ?
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そろそろ戻ろう、そう声を掛けようとした時。
「…あの、ツェーザル様はお慕いするお相手などいらっしゃるのでしょうか」
ついに勇気を出したサクリスの言葉に、ツェーザルは驚いた。
「え?」
「心に決めた方がいらっしゃいますの?」
「いえ、おりませんけれど…何故そのような事を?」
ツェーザルは、この流れはまさかと信じられない思いでサクリスを見下ろす。
顔を真っ赤にして手を握りしめるサクリス。
しかし再び顔を上げ、勇気を出して思いを口にする。
「わたくし、貴方のことが気になっているのです」
「…それは…男として、ですか?」
サクリスは再び俯き、消え入りそうな声で「…はい」と答えた。
(マジか…え、なんで?)
会話したのは今が初めてで、顔を合わせたのもほんの数回だけ。
いったいいつ惚れられたというのか。
「私はランカスター家の御者に過ぎません、侯爵令嬢である貴女に好かれるような男ではありませんよ」
やんわりと断るツェーザルだったが、サクリスは引かなかった。
「わたくしが想うお相手は、わたくしが決めるのです。初めての気持ちをどうして良いのか分からないけれど、今こうしてお話ができる事も嬉しいのです」
今度はハッキリと目を見て伝えてくるサクリスに、ツェーザルは一瞬息を飲む。
美しいとはいえまだ16歳で顔立ちも幼い少女。
ツェーザルも23歳と若いとはいえ、子供にしか見えない。
「お気持ちは有り難いのですが、身分も年齢も違います」
「慕うことも許してはくださらないのですか」
ただ好きでいたい。
サクリスは今すぐツェーザルと男女の仲になりたいとは思っていなかった。
初恋を自覚したばかりだ、会って話がしたいと願っただけ。
そんな真っ直ぐで綺麗な乙女心がツェーザルには眩しくて、心の奥底から不の感情が湧いてくる。
「…俺はあんたが思ってるような男じゃないぜ」
許可なく素を出す事、そして侯爵令嬢相手に失礼な態度を取る事などを心の中でジークハルトに詫びながら。
ツェーザルは『使用人』ではなく『個人』としてサクリスに接する。
「いままで本気で惚れた女なんて居ない。普段の俺は嘘だらけだ、全部演技だからな」
本当の自分を見失っていると思う時がある。
特に、女相手に理想の相手を演じていると素の自分が消えていくような気がするのだ。
「あんたが俺の何に惹かれたのか知らねえけど、顔だけなら他にもいるぜ。態度とかなら全部嘘だ、後から優しくないなんて言われたくねえから言っとく」
嘘だとバラした時、「そんな人だと思わなかった」と言われることが多い。
それだけ上手く騙せたのだと嬉しい反面、もしも本気で恋愛した時にも同じような事を言われるのではないかと不安を感じるのだ。
(俺は俺だ、なのになんで迷う?)
本当の自分なんて、自分だけが分かっていればいいと思っていたのに。
最近迷いが出てくることにツェーザルは戸惑っていた。
そんな彼に、サクリスは。
「…本当の貴方、偽りの貴方。どちらも『貴方』でしょう?」
急に態度を変えたツェーザルを見ても驚く様子もなく、彼女は静かに話す。
「わたくしは、馬の世話をする貴方に惹かれたの。シズリア様を馬車からエスコートする姿も確かに素敵だけれど、わたくしが見たいのは貴方の表面ではないわ」
動物相手には演技なんてしても意味はない。
サクリスが感じ取った『優しさ』は、間違いなくツェーザルの素の部分だったのだ。
「今から知っていきたいと思ってはいけないかしら。わたくしのことも知って欲しい、そう思うのは間違いだと思う?」
「…あんたがそれで良いなら」
断るつもりだったのに、気づけばツェーザルは今後の交流を約束していたーーー
「…あの、ツェーザル様はお慕いするお相手などいらっしゃるのでしょうか」
ついに勇気を出したサクリスの言葉に、ツェーザルは驚いた。
「え?」
「心に決めた方がいらっしゃいますの?」
「いえ、おりませんけれど…何故そのような事を?」
ツェーザルは、この流れはまさかと信じられない思いでサクリスを見下ろす。
顔を真っ赤にして手を握りしめるサクリス。
しかし再び顔を上げ、勇気を出して思いを口にする。
「わたくし、貴方のことが気になっているのです」
「…それは…男として、ですか?」
サクリスは再び俯き、消え入りそうな声で「…はい」と答えた。
(マジか…え、なんで?)
会話したのは今が初めてで、顔を合わせたのもほんの数回だけ。
いったいいつ惚れられたというのか。
「私はランカスター家の御者に過ぎません、侯爵令嬢である貴女に好かれるような男ではありませんよ」
やんわりと断るツェーザルだったが、サクリスは引かなかった。
「わたくしが想うお相手は、わたくしが決めるのです。初めての気持ちをどうして良いのか分からないけれど、今こうしてお話ができる事も嬉しいのです」
今度はハッキリと目を見て伝えてくるサクリスに、ツェーザルは一瞬息を飲む。
美しいとはいえまだ16歳で顔立ちも幼い少女。
ツェーザルも23歳と若いとはいえ、子供にしか見えない。
「お気持ちは有り難いのですが、身分も年齢も違います」
「慕うことも許してはくださらないのですか」
ただ好きでいたい。
サクリスは今すぐツェーザルと男女の仲になりたいとは思っていなかった。
初恋を自覚したばかりだ、会って話がしたいと願っただけ。
そんな真っ直ぐで綺麗な乙女心がツェーザルには眩しくて、心の奥底から不の感情が湧いてくる。
「…俺はあんたが思ってるような男じゃないぜ」
許可なく素を出す事、そして侯爵令嬢相手に失礼な態度を取る事などを心の中でジークハルトに詫びながら。
ツェーザルは『使用人』ではなく『個人』としてサクリスに接する。
「いままで本気で惚れた女なんて居ない。普段の俺は嘘だらけだ、全部演技だからな」
本当の自分を見失っていると思う時がある。
特に、女相手に理想の相手を演じていると素の自分が消えていくような気がするのだ。
「あんたが俺の何に惹かれたのか知らねえけど、顔だけなら他にもいるぜ。態度とかなら全部嘘だ、後から優しくないなんて言われたくねえから言っとく」
嘘だとバラした時、「そんな人だと思わなかった」と言われることが多い。
それだけ上手く騙せたのだと嬉しい反面、もしも本気で恋愛した時にも同じような事を言われるのではないかと不安を感じるのだ。
(俺は俺だ、なのになんで迷う?)
本当の自分なんて、自分だけが分かっていればいいと思っていたのに。
最近迷いが出てくることにツェーザルは戸惑っていた。
そんな彼に、サクリスは。
「…本当の貴方、偽りの貴方。どちらも『貴方』でしょう?」
急に態度を変えたツェーザルを見ても驚く様子もなく、彼女は静かに話す。
「わたくしは、馬の世話をする貴方に惹かれたの。シズリア様を馬車からエスコートする姿も確かに素敵だけれど、わたくしが見たいのは貴方の表面ではないわ」
動物相手には演技なんてしても意味はない。
サクリスが感じ取った『優しさ』は、間違いなくツェーザルの素の部分だったのだ。
「今から知っていきたいと思ってはいけないかしら。わたくしのことも知って欲しい、そう思うのは間違いだと思う?」
「…あんたがそれで良いなら」
断るつもりだったのに、気づけばツェーザルは今後の交流を約束していたーーー
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