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第72話:ジークハルト目線〜片想い編〜

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俺はシズリアが好きだ。

契約のためとはいえ頑張ってくれている姿を可愛いと思うようになって、愛おしく感じるようになって。

妊娠中、不安定になったシズリアに愛を伝えたら「分からない」と言われてしまったが無理もない。

俺はとことん卑怯な男だと自分でも思う…逃げられない彼女が拒めないのは当然だというのに、どこへ行く気もない様子に安心してしまっている。

自分では頑張っているつもりだが、キリアからは今更何をしても合格点など貰えないと思えと言われた。

そして最近気になるのは、どうにもツェーザルとの距離が近いこと。

あのツェーザルがシズリアにちょっかいを出すとは思えないが、もし彼女の方が惚れてしまったら?

俺にシズリアの気持ちを支配する権利なんてないのに、モヤモヤしてしまう。

いつか、好きな男ができたと言われたら…俺は彼女を手放してやれるだろうか。

考えたくもない事だが、覚悟はしておかなければならない。


ーーーそしてあの日、陛下の前で真実を告げた後。

改めて母から扇子で殴られた。


「お前をそんな男に育てた覚えはないわ。これまで自由にさせてきた事が間違いだったのかしら」

「申し訳ございません…」

「わたくしに謝ってどうするの。お前が償うべきはシズリアでしょう」

「分かっています」

「分かっているつもり、では駄目だという事を理解している?」

「…はい」

「まったく…アイリスがいるのだからシズリアが出ていかない、そう思って調子に乗ってるんじゃないでしょうね」


ぐうの音も出ない俺に追い討ちをかけたのは、父。


「ジークハルトよ。支えてくれる人を大切にしなさい、お前にできることはそれだけだ」

「…はい、父上」

「シズリアには自由を。それが彼女の権利であり、お前の義務だからな」

「…はい」


最大の味方であり続けてくれたクラウスにすら「こんな情けない姿を見るのは20年ぶりくらいですね」と言われた。

契約婚から始まった俺の初恋は、自業自得とはいえ前途多難だ。


ーーー毎朝の日課は頬への口付け。


「おはようシズリア、よく眠れたか?」

「おはようございます、ジークハルト様。昨夜は夜泣きがあって目が覚めましたが、大丈夫です」

「そうか…今夜は俺が代わろう」

「大丈夫ですか?朝お早いのに」


言葉を交わしながら顔を近づけると、シズリアは嫌がらずに頬を差し出してくれる。

アイリスを授かって以来彼女を抱くのを我慢しているが、警戒はされていない…と、思いたい。

ちなみにエミルにもかなり驚かれ白い目で見られたが、


「兄さんが急に結婚するって言い出したのはそういう理由だったんだね。まあ、らしいといえばらしいのかな…義姉君を泣かさないでよ?可愛いアイリスのこともね!」


釘を刺されて終わった。

少しずつでも心を開いてくれたら…そして俺のことを意識してくれたら。

そう願いながらシズリアの周辺をウロウロする俺を見たクラウスは、珍しく腹を抱えて笑っていたーーー
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