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第33話:暗躍するツェーザル

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さて、ジークハルトの元で御者として働くツェーザル。

シズリアが来てからは彼女の移動時を任されているが、シズリアはあまり出掛けない。

そのため空き時間に馬の世話をしたり屋敷の事を手伝ったりしているのだが、極秘任務を受け表向き休暇をとることになった。


「ツェーザルがまとまった休みを取るなんて珍しいわね、どこか行くの?」


数日休暇取るからと挨拶に来たツェーザルをお茶に誘ったシズリア。

キリアにも怪我が治るまで休暇命令が出ているため、今側にいるのは別宅からついて来ている侍女のシェリルと、本宅据え置きの侍女マリン。

まだ本宅の使用人たちに慣れていないため、気を張っているシズリアは見慣れたツェーザルまで不在になることに不安を感じていた。


「実家に顔を出そうかと思いまして。借金が多く多忙な両親ですから、旦那様から頂いたお給料を届ければ喜ぶと思いますし」


半分以上嘘である。

親の借金のせいで夢を諦めることになったツェーザルは、親を恨んでいた。

見捨てて逃げようか、それとも盗みでも働いて捕まってしまおうかと考えていたところをジークハルトに拾われ、その後は一応仕送りをしている。

金だけ送って、もう何年も会っていないのだ。


「親孝行な息子を持ったご両親が羨ましいわ、気をつけていってらっしゃい」


事情を知らないシズリアの笑顔に、ツェーザルも笑顔で返す。

彼が素の姿を見せるのは、ジークハルトから許可を得た時だけ。

普段の彼は、常に従順なランカスター家の使用人を演じているに過ぎない。

---休暇と称して屋敷を離れたツェーザルの目的は、あの日突然参戦してきたエレナの取り巻き達に接触する事。

近々茶会が開かれるらしく、恐らくはその場でシズリアとの騒動をふれ回るつもりだろう。

そうなる前に黙らせるべく、彼女らがよく出掛ける場所を調べ上げ偶然を装って接触するつもりだ。


(三人とも婚約者は無し。エレナの学生時代からの友人で、卒業後もベッタリ癒着。親子共々カーチェス宰相の権力にあやかろうとしている雑魚、っと)


獲物を狙う目になりながら目的地へ向かうツェーザル。

笑顔ひとつで赤くなっていた彼女達なら落とすのは簡単そうだ、一人笑みを浮かべながら女達の元へ向かう。

あの騒ぎはエレナが計画したことなのか、その辺りの情報も聞き出さなくてはいけない。


(ジークハルト様のためなら男娼まがいのことだってするさ。あの日死んでもよかった俺に、未来をくれたあの人のためなら…なんでもする)


舞台の主役に抜擢されて役者人生これからだというときに発覚した親の借金。

「家に戻れ、もう役者などさせる金がない」と言われた時の絶望。

一人暮らしすると言ったら、ここまで育ててやったのに見捨てるのかと殴られた時の痛みと怒り。

家を飛び出して裏路地に逃げ込んだツェーザルに救いの手を差し伸べてくれたのは、ジークハルトだった。

ジークハルトにはやり過ぎなくていいと言われたが、ツェーザルは必要ならば体をも使うつもりでいる。

全ては恩に報いるために。
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