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第7話:国王の目
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手荒れの残る手を静かに見つめる国王。
育ちなどに言及されるのでは、と緊張しながらシズリアは口を開く。
「私には親がおらず、身の回りのことは全て自分でしてまいりました。貴族の皆様のような美しい手ではございません、肌触りの悪い手で御座います、どうかお許しください」
嘘はついていない、国王はそっと手を離す。
「苦労してきたのだな、決して悪いことではない。何も恥じることなく胸を張りなさい」
思わず見上げると、優しい眼差しと目が合った。
国王はそれ以上シズリアには何も言わず、隣で膝をつき頭を下げ続けているジークハルトの肩に手を乗せる。
「良き娘だ、大切にしてやりなさい」
「は。」
「ディルク、ディアナ。其方らも安心だな」
「はい」
「もう下がって良いぞ、次はシズリア嬢が正式な夫人となった暁に祝いの品を贈らせて貰うとしよう」
退室の許可を得て、シズリア達は謁見の間を後にした。
「…緊張しました」
城の外まで出てからようやくホッと力を抜くシズリア。
ディアナが手を握ってくれる。
「お疲れ様、シズリアさん。陛下も気に入ってくださったみたいで良かったわ」
「認めて頂けたのでしょうか」
「お優しい方なのよ、貴女も何度かお会いすれば分かるようになるわ」
あの緊張感を何度も味わうことになるのか。
シズリアは改めて自分が踏み込んでしまった世界を思い知る。
チラリとジークハルトに視線を送ると、少しだけ微笑んでくれた。
(合格点ってことかしら)
ひとまずよかった、帰りの馬車に乗り込もうとしたシズリア。
エスコートするジークハルトの手を取った時、ふと視線を感じて周囲を見渡す。
(…ん?なんだか見られてる気がする)
「どうした、シズリア」
ジークハルトは何も感じないのか、突然止まったシズリアを不思議そうに見下ろした。
「いえ、視線を感じたのですが…気のせいだったみたいです」
笑顔を取り繕うシズリアに、ジークハルトは頷く。
「なかなかに敏感なようだな、気のせいではないぞ」
「え」
「あの赤い花が咲いている木の方を見てみろ」
言われて振り向くと、噴水の奥に生えている木の下に人影が。
ピンク色のドレスを着た女性のようだ、白い日傘をさしている。
「どなたでしょうか」
「宰相の娘、エレナ嬢。二年ほど前からやたらと俺の視界に入ろうとしてくる」
それは狙っているのでは?
視線で問うシズリアに、溜息だけで応えるジークハルト。
「どうした、二人とも」
「何かあったの?」
公爵夫妻に声をかけられ、なんでもありませんと答えて馬車に乗り込む。
ドアを閉めるまでずっと、シズリアは突き刺さるような視線を感じていた。
(あれは明らかに嫉妬の目だわ、これはこの先大変かも)
女の嫉妬は恐ろしい。
職場で嫌と言うほど見聞きして体験もしてきたシズリアは、気付かれないように息を吐くのであった。
育ちなどに言及されるのでは、と緊張しながらシズリアは口を開く。
「私には親がおらず、身の回りのことは全て自分でしてまいりました。貴族の皆様のような美しい手ではございません、肌触りの悪い手で御座います、どうかお許しください」
嘘はついていない、国王はそっと手を離す。
「苦労してきたのだな、決して悪いことではない。何も恥じることなく胸を張りなさい」
思わず見上げると、優しい眼差しと目が合った。
国王はそれ以上シズリアには何も言わず、隣で膝をつき頭を下げ続けているジークハルトの肩に手を乗せる。
「良き娘だ、大切にしてやりなさい」
「は。」
「ディルク、ディアナ。其方らも安心だな」
「はい」
「もう下がって良いぞ、次はシズリア嬢が正式な夫人となった暁に祝いの品を贈らせて貰うとしよう」
退室の許可を得て、シズリア達は謁見の間を後にした。
「…緊張しました」
城の外まで出てからようやくホッと力を抜くシズリア。
ディアナが手を握ってくれる。
「お疲れ様、シズリアさん。陛下も気に入ってくださったみたいで良かったわ」
「認めて頂けたのでしょうか」
「お優しい方なのよ、貴女も何度かお会いすれば分かるようになるわ」
あの緊張感を何度も味わうことになるのか。
シズリアは改めて自分が踏み込んでしまった世界を思い知る。
チラリとジークハルトに視線を送ると、少しだけ微笑んでくれた。
(合格点ってことかしら)
ひとまずよかった、帰りの馬車に乗り込もうとしたシズリア。
エスコートするジークハルトの手を取った時、ふと視線を感じて周囲を見渡す。
(…ん?なんだか見られてる気がする)
「どうした、シズリア」
ジークハルトは何も感じないのか、突然止まったシズリアを不思議そうに見下ろした。
「いえ、視線を感じたのですが…気のせいだったみたいです」
笑顔を取り繕うシズリアに、ジークハルトは頷く。
「なかなかに敏感なようだな、気のせいではないぞ」
「え」
「あの赤い花が咲いている木の方を見てみろ」
言われて振り向くと、噴水の奥に生えている木の下に人影が。
ピンク色のドレスを着た女性のようだ、白い日傘をさしている。
「どなたでしょうか」
「宰相の娘、エレナ嬢。二年ほど前からやたらと俺の視界に入ろうとしてくる」
それは狙っているのでは?
視線で問うシズリアに、溜息だけで応えるジークハルト。
「どうした、二人とも」
「何かあったの?」
公爵夫妻に声をかけられ、なんでもありませんと答えて馬車に乗り込む。
ドアを閉めるまでずっと、シズリアは突き刺さるような視線を感じていた。
(あれは明らかに嫉妬の目だわ、これはこの先大変かも)
女の嫉妬は恐ろしい。
職場で嫌と言うほど見聞きして体験もしてきたシズリアは、気付かれないように息を吐くのであった。
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