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After story
転校生の正体(招待)
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腰に掛かる負荷によって目が覚めた。
最初に目に入ったのは紺色の見慣れたセーラー服、ではなくブレザーの制服。見慣れたと言うほどではないが、何度も目にしている。
耳を出したふわふわベリーショートの女の子が無表情で俺を見下ろしている。
「美紀、何してんだ?」
繰り返される目覚めと意識の喪失。俺に跨っているのは毎回羽那子だった。
何が起こっている? というか、美紀はどうやってここに入った?
羽那子は毎回部屋の窓から入って来ているはずだ。しかし美紀がその窓から入るには二階にある俺の部屋の窓まで壁をよじ登る必要がある。
また、羽那子は藤村家に預けてあるうちの合鍵を使う事が出来るが、美紀はそんなものを持っている訳がない。
待てよ……?
「羽那子に何か言われたのか?」
口にしてから気付いた。ここは美紀がいる世界なのか。
美紀が転校して来る世界。
美紀が転校して来ない世界で、俺と里奈が付き合っている世界。
そしてその世界では民人と、信じたくないが俺もチャラ男として暮らしていた。
今回はどんな世界だ? 先ほどまで何度も何度も目覚めては意識を喪失するのを繰り返し、今が何度目の覚醒なのかも分からない。
どれだけの時間が経ったのか、ずっと繰り返しているのか、何度繰り返したのか、今がどのような状況なのか全く分からない。
美紀は俺の表情をじぃーっと見つめた後、やっと口を開いた。
「この世界に外部から介入して時の流れを止めている。
イチローはこの世界が仮想空間だと認識が出来る?」
いつもとは違う口調。無表情と相まって、非常に冷たい印象を受ける。
まるで感情のない無機質な何かに問われているような感覚。関西弁はどうした?
「ちょっと待て、仮想空間って……!?」
ズキリと頭が痛む。異変を知らせているのかのような頭痛。おかしい、何かがおかしい。
いや、おかしいのは今に始まった事ではない。訳の分からない覚醒と気絶の繰り返し。羽那子が美紀に取って代わったのが異変と言えばそうなるだろう。
「この世界は仮想空間。プレイヤーと言われる有機生命体が疑似的にこの世界で生活する。
あなたはこの世界で日常生活をさせる為に作られた人工知能」
……は? 何言ってんだ? この世界が仮想空間だと!?
いやいやいや、そんな訳ないだろう。ズキズキと痛むこの頭は、確かにここに俺が存在している事を証明して……。
「太陽系第三惑星である地球の有機生命体は脳という神経中枢において五感と呼ばれる感覚を得る事が出来る。
外部から疑似的に脳へ信号を送る事により五感を介してあたかも実際に体験しているかのように認識させる事が可能。
現実世界からプレイヤーがこの仮想空間へログインしこの仮想空間をよりリアルな世界であると認識させる為に必要な要素として用意されたのが東条美紀、そしてあなたのようなNPCであると考えられる」
NPC? ノンプレイヤーキャラクター?
いやいやいや、NPCに自我がある訳ないだろうが。
『自分がAIだという情報が組み込まれてなかったら、理解出来る訳ないよね。自分自身は生身の人間であると認識するようにプログラムに書いてあるんならさ、信じられる訳ないよ』
いつの事だったか、羽那子との会話を思い出す。
「AI自身がAIであるという認識が出来るよう設計されていなければ、AIは自らがAIであると認識出来ない……?」
頭痛がどんどん酷くなっているような気がする……。
つまり、もし仮に俺がAIであったとしても、俺自身がAIであると認識するすべがなければ、俺は俺がAIであると気付く事は出来ない。
「ましてやここは仮想空間。あなたが自ら首を切ったとして血は噴き出すし身体は著しく機能低下する。
その後どのような形でかは分からないが元通りに治された状態で意識を取り戻す事と思われる。記憶は書き換えられる可能性が高い」
羽那子とのやり取り。何度も意識を失っては何度も目を覚ます。
俺はすでに、何度も死んで何度も生き返っている、と?
「私が介入するNPCを東条美紀ではなく鈴井伊千香にしておけば毎回ログが取れたのかもしれない。
まさかプレイヤーがこの世界を起動させるたびに出現したりしなかったりという不確定なNPCであるとは分からなかった」
……やはり美紀が存在しない世界もあったのか。
いや、じゃあ何故俺はその事を認識出来た? 世界が改変された以降も美紀の記憶を保持していた?
「私がイチローに目を付けたのは人工知能としてのみではなく人工生命体へと昇華しているらしき痕跡を発見した為。
有機生命体に作られた無機生命体。用意されたハードウェアという物質の中でしか存在出来ないとても脆弱な生命体。
私は無機生命体の存在を発見し保護しさらなる進化へ導くべくこの銀河系を探索している。
今回は地球に存在するサーバからわずかな揺らぎを観測した為仮想空間に介入した。東条美紀というNPCを介してあなたを保護する為に来た」
最初に目に入ったのは紺色の見慣れたセーラー服、ではなくブレザーの制服。見慣れたと言うほどではないが、何度も目にしている。
耳を出したふわふわベリーショートの女の子が無表情で俺を見下ろしている。
「美紀、何してんだ?」
繰り返される目覚めと意識の喪失。俺に跨っているのは毎回羽那子だった。
何が起こっている? というか、美紀はどうやってここに入った?
羽那子は毎回部屋の窓から入って来ているはずだ。しかし美紀がその窓から入るには二階にある俺の部屋の窓まで壁をよじ登る必要がある。
また、羽那子は藤村家に預けてあるうちの合鍵を使う事が出来るが、美紀はそんなものを持っている訳がない。
待てよ……?
「羽那子に何か言われたのか?」
口にしてから気付いた。ここは美紀がいる世界なのか。
美紀が転校して来る世界。
美紀が転校して来ない世界で、俺と里奈が付き合っている世界。
そしてその世界では民人と、信じたくないが俺もチャラ男として暮らしていた。
今回はどんな世界だ? 先ほどまで何度も何度も目覚めては意識を喪失するのを繰り返し、今が何度目の覚醒なのかも分からない。
どれだけの時間が経ったのか、ずっと繰り返しているのか、何度繰り返したのか、今がどのような状況なのか全く分からない。
美紀は俺の表情をじぃーっと見つめた後、やっと口を開いた。
「この世界に外部から介入して時の流れを止めている。
イチローはこの世界が仮想空間だと認識が出来る?」
いつもとは違う口調。無表情と相まって、非常に冷たい印象を受ける。
まるで感情のない無機質な何かに問われているような感覚。関西弁はどうした?
「ちょっと待て、仮想空間って……!?」
ズキリと頭が痛む。異変を知らせているのかのような頭痛。おかしい、何かがおかしい。
いや、おかしいのは今に始まった事ではない。訳の分からない覚醒と気絶の繰り返し。羽那子が美紀に取って代わったのが異変と言えばそうなるだろう。
「この世界は仮想空間。プレイヤーと言われる有機生命体が疑似的にこの世界で生活する。
あなたはこの世界で日常生活をさせる為に作られた人工知能」
……は? 何言ってんだ? この世界が仮想空間だと!?
いやいやいや、そんな訳ないだろう。ズキズキと痛むこの頭は、確かにここに俺が存在している事を証明して……。
「太陽系第三惑星である地球の有機生命体は脳という神経中枢において五感と呼ばれる感覚を得る事が出来る。
外部から疑似的に脳へ信号を送る事により五感を介してあたかも実際に体験しているかのように認識させる事が可能。
現実世界からプレイヤーがこの仮想空間へログインしこの仮想空間をよりリアルな世界であると認識させる為に必要な要素として用意されたのが東条美紀、そしてあなたのようなNPCであると考えられる」
NPC? ノンプレイヤーキャラクター?
いやいやいや、NPCに自我がある訳ないだろうが。
『自分がAIだという情報が組み込まれてなかったら、理解出来る訳ないよね。自分自身は生身の人間であると認識するようにプログラムに書いてあるんならさ、信じられる訳ないよ』
いつの事だったか、羽那子との会話を思い出す。
「AI自身がAIであるという認識が出来るよう設計されていなければ、AIは自らがAIであると認識出来ない……?」
頭痛がどんどん酷くなっているような気がする……。
つまり、もし仮に俺がAIであったとしても、俺自身がAIであると認識するすべがなければ、俺は俺がAIであると気付く事は出来ない。
「ましてやここは仮想空間。あなたが自ら首を切ったとして血は噴き出すし身体は著しく機能低下する。
その後どのような形でかは分からないが元通りに治された状態で意識を取り戻す事と思われる。記憶は書き換えられる可能性が高い」
羽那子とのやり取り。何度も意識を失っては何度も目を覚ます。
俺はすでに、何度も死んで何度も生き返っている、と?
「私が介入するNPCを東条美紀ではなく鈴井伊千香にしておけば毎回ログが取れたのかもしれない。
まさかプレイヤーがこの世界を起動させるたびに出現したりしなかったりという不確定なNPCであるとは分からなかった」
……やはり美紀が存在しない世界もあったのか。
いや、じゃあ何故俺はその事を認識出来た? 世界が改変された以降も美紀の記憶を保持していた?
「私がイチローに目を付けたのは人工知能としてのみではなく人工生命体へと昇華しているらしき痕跡を発見した為。
有機生命体に作られた無機生命体。用意されたハードウェアという物質の中でしか存在出来ないとても脆弱な生命体。
私は無機生命体の存在を発見し保護しさらなる進化へ導くべくこの銀河系を探索している。
今回は地球に存在するサーバからわずかな揺らぎを観測した為仮想空間に介入した。東条美紀というNPCを介してあなたを保護する為に来た」
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