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Main story
妹は知らない
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目を開ける。頭に被っていたデバイスを外す。身体を起こしてベッドの上で座る。
真っ白な部屋。机とその上のパソコン程度しかない部屋。
ぼんやりと意識を覚醒させる。
頭が重い。
VRSLGの世界へ開発者モードでログインしたんだ。それも長時間。
開発者モードは通常より負荷が大きいのに加え、生身の自分の記憶をシャットアウトしてNPCになりきれるよう設定していたからな。
さすがに負担が大き過ぎたか。いや、MODとして完成させてしまえば開発者モードでログインする必要はなくなる。
MODを使ってプレイヤーとしてログインする訳だから、脳への負担は問題ないレベルに収まるだろう。
「お兄ちゃん、どうだった?」
「伊千香……」
「ちょっと、だいぶ頭やられてるんじゃない?
何であたしがプレイしてるゲームのキャラの名前が出て来るのよ」
おっと、ログアウト後もVR世界での設定を引き摺るのはマズイな。これは入念な再調整の必要がありそうだ。
「いくらVRの開発資格が取れたからって、無茶し過ぎなんだよ。
直接脳に与える影響が大きいから国家資格認定がないと設計出来ないんでしょう?
嬉しいのは分かるけど、ずっとデバイスを繋ぎっぱなしなのは負担が大き過ぎたんじゃない?」
「そうだな、お前も長時間ログインしてるけど、あくまでプレイヤーとしての負荷しかかかってないもんな」
「うん。ちゃんと時間を決めてログオフしてるよ。
あ、そうそう。お兄ちゃんに調べてほしいんだけど。
何かね、NPCが前回のシナリオの記録を参照してるみたいで、何度リセットかけても記憶が継続してるんだよね。
ゲームの設計上、そんな事有り得るの?」
ゲームの設計上としてなら有り得ない。開発者がわざとそういう設計にしない限りは。
NPCが突然自我を持つなんて事もない。自我があるように見えるように作られているだけだ。
NPCが開発者の意図しない行動を取らせる方法としては、後から第三者が設計を書き換えるか、もしくはゲームシステムをハッキングしてNPCを乗っ取ればいい。
そうすればもうNPCではなく、新たなプレイヤーとして仮想世界に存在出来る。
プレイヤーからすればNPCにしか見えないそのキャラクターは、仮想世界において自由に振舞える。
プレイヤーの攻略対象として。
現実では血の繋がった兄と妹でも、仮想世界であれば幼馴染というNPCと主人公として存在出来る。
現実では想いを伝えられない相手だとしても、仮想世界を乗っ取ってしまえば、妹の方から自分の事を攻略しようと動いてくれる。
「ボーっとしてるけど、本当に大丈夫?」
「あぁ、ちょっと考え事をしてただけだ。
良ければアカウントとパスワードを教えてくれれば、俺が実際にプレイして確認するけど」
「えー? デバイスに登録された生体情報からアクセスを拒否されるんじゃないの?
あたしのデバイスからログイン出来ないお兄ちゃんじゃ、あたしのセーブデータでプレイ出来ないでしょ。
じゃないとプライバシーも何もあったもんじゃないじゃん」
「セーブデータはローカルに保存されてるから、俺のデバイスからお前の端末に開発者モードでアクセスしたらプレイ出来るんだよ」
「え、そうなの? 何でもやり放題じゃん!」
「そう、何でも出来てしまえるようになる。だから国家試験をパスした資格持ちしか開発者モードは触っちゃダメなの。
お前がプライバシーだって言うなら俺はアクセスしないよ」
「んー、そうなんだ。
じゃあお兄ちゃんにお願いしよっかな。あたしがやってるゲームの攻略対象が勝手に動いてシナリオが進められないんだよ。
新しく買い直すほどでもないし、開発元にクレーム言うのも何か嫌だしね」
こうして俺は愛しい妹のアカウントとパスワードを入手した。
プレイする際にプレイヤーの無意識に働きかける機能を追加しよう。
没入感と、精神的高揚感や安心感、異性との触れ合いによる興奮など、諸々の上限を引き上げておこう。
仮想空間への依存度を上げさせ、プレイしたくてたまらなくしてやる。
そしてその二人きりの世界で永遠に愛し合えるよう時間の流れを加速させて……。
まだまだやりたい事はいっぱいある。
妹と愛し合う為ならば何でもする。
現実世界では手を伸ばす事は許されない。
けれど、仮想空間であれば。
ただのNPCだと思い込ませる事が出来れば。
俺は妹を手に入れられる。
その世界で妹は、恋人が兄だとは知らない。
真っ白な部屋。机とその上のパソコン程度しかない部屋。
ぼんやりと意識を覚醒させる。
頭が重い。
VRSLGの世界へ開発者モードでログインしたんだ。それも長時間。
開発者モードは通常より負荷が大きいのに加え、生身の自分の記憶をシャットアウトしてNPCになりきれるよう設定していたからな。
さすがに負担が大き過ぎたか。いや、MODとして完成させてしまえば開発者モードでログインする必要はなくなる。
MODを使ってプレイヤーとしてログインする訳だから、脳への負担は問題ないレベルに収まるだろう。
「お兄ちゃん、どうだった?」
「伊千香……」
「ちょっと、だいぶ頭やられてるんじゃない?
何であたしがプレイしてるゲームのキャラの名前が出て来るのよ」
おっと、ログアウト後もVR世界での設定を引き摺るのはマズイな。これは入念な再調整の必要がありそうだ。
「いくらVRの開発資格が取れたからって、無茶し過ぎなんだよ。
直接脳に与える影響が大きいから国家資格認定がないと設計出来ないんでしょう?
嬉しいのは分かるけど、ずっとデバイスを繋ぎっぱなしなのは負担が大き過ぎたんじゃない?」
「そうだな、お前も長時間ログインしてるけど、あくまでプレイヤーとしての負荷しかかかってないもんな」
「うん。ちゃんと時間を決めてログオフしてるよ。
あ、そうそう。お兄ちゃんに調べてほしいんだけど。
何かね、NPCが前回のシナリオの記録を参照してるみたいで、何度リセットかけても記憶が継続してるんだよね。
ゲームの設計上、そんな事有り得るの?」
ゲームの設計上としてなら有り得ない。開発者がわざとそういう設計にしない限りは。
NPCが突然自我を持つなんて事もない。自我があるように見えるように作られているだけだ。
NPCが開発者の意図しない行動を取らせる方法としては、後から第三者が設計を書き換えるか、もしくはゲームシステムをハッキングしてNPCを乗っ取ればいい。
そうすればもうNPCではなく、新たなプレイヤーとして仮想世界に存在出来る。
プレイヤーからすればNPCにしか見えないそのキャラクターは、仮想世界において自由に振舞える。
プレイヤーの攻略対象として。
現実では血の繋がった兄と妹でも、仮想世界であれば幼馴染というNPCと主人公として存在出来る。
現実では想いを伝えられない相手だとしても、仮想世界を乗っ取ってしまえば、妹の方から自分の事を攻略しようと動いてくれる。
「ボーっとしてるけど、本当に大丈夫?」
「あぁ、ちょっと考え事をしてただけだ。
良ければアカウントとパスワードを教えてくれれば、俺が実際にプレイして確認するけど」
「えー? デバイスに登録された生体情報からアクセスを拒否されるんじゃないの?
あたしのデバイスからログイン出来ないお兄ちゃんじゃ、あたしのセーブデータでプレイ出来ないでしょ。
じゃないとプライバシーも何もあったもんじゃないじゃん」
「セーブデータはローカルに保存されてるから、俺のデバイスからお前の端末に開発者モードでアクセスしたらプレイ出来るんだよ」
「え、そうなの? 何でもやり放題じゃん!」
「そう、何でも出来てしまえるようになる。だから国家試験をパスした資格持ちしか開発者モードは触っちゃダメなの。
お前がプライバシーだって言うなら俺はアクセスしないよ」
「んー、そうなんだ。
じゃあお兄ちゃんにお願いしよっかな。あたしがやってるゲームの攻略対象が勝手に動いてシナリオが進められないんだよ。
新しく買い直すほどでもないし、開発元にクレーム言うのも何か嫌だしね」
こうして俺は愛しい妹のアカウントとパスワードを入手した。
プレイする際にプレイヤーの無意識に働きかける機能を追加しよう。
没入感と、精神的高揚感や安心感、異性との触れ合いによる興奮など、諸々の上限を引き上げておこう。
仮想空間への依存度を上げさせ、プレイしたくてたまらなくしてやる。
そしてその二人きりの世界で永遠に愛し合えるよう時間の流れを加速させて……。
まだまだやりたい事はいっぱいある。
妹と愛し合う為ならば何でもする。
現実世界では手を伸ばす事は許されない。
けれど、仮想空間であれば。
ただのNPCだと思い込ませる事が出来れば。
俺は妹を手に入れられる。
その世界で妹は、恋人が兄だとは知らない。
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