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第一章

13.本当にもう不幸設定はいいのです、シンラ。偽名もいりません

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 部屋を出て膝が笑いそうにくらい長い階段を下る。
 どこからか湧いて出てきた土人形が後に続く。
 ジグラットを出る頃には、驚くほどの人数になっていて、鳴り物や紙吹雪が舞っていた。まるでパレードだ。
 スエンが真っ黒な空を見上げる。
「あいにくの天気ですね。今にも雨が降り出しそう。ほとんど晴れているキ国では珍しい」
 同じく空を見上げたら、肌がピリッとした。
 何だ、これは?
 変な放電でもされているのかと辺りを見回しても、巨大な長方形に小さな長方形を重ねていったデザインの神殿や渦巻き型で空に伸びているジグラットが建っているだけだ。
 大門に向かって長い通路を歩き、外に出る。
 スエンが衛兵や楽隊に軽い挨拶。
 ズズズッと重い音を立てて背後の門が閉まる。鳴り物の音はぴたりと聞こえなくなった。
 門には男と女の像が掘られている。
 長い通路にも至る所に建っていた。
 聖像崇拝がある国なのかもしれないと思っていると、スエンが喋り始めた。
「ここまでが、神殿。もう敷地を出たので貴方はもう自由ですよ。どうぞ。これ」
 スエンが、鞄からさらに小さい鞄を取り出した。
「添い寝の謝礼一式です。一財産なので、みだりに他の土人形には見せないように」
「謝礼なんて。オレ、こんなのを貰うために先生と一晩いたわけじゃ」
「シンラ。貴方と過ごした昨晩は、あり得ないほど楽しかったです。では」
 スエンはスタスタと歩き始めた。
「神様って徒歩で帰郷するのか……てっ、ま、待って!待って下さい。先生!!もしかして、ここでお別れ?!」
 走って追い越し周り込んでようやくスエンを止める。
 スエンが不思議そうに森羅を見下ろしていた。
「渡すものは渡しましたよ。貴方、差し上げた荷物を抱えて駆け出す場面でしょ、今は」
「前の添い寝役にそんなことされたの?」
 質問にスエンは答えず、
「で、私を呼び止めた理由は?」
「どこに帰ったらいいのか思い出せなくて」
「神事は終わりました。本当にもう不幸設定はいいのです、シンラ。偽名もいりません」
「ひ、ひでえ」
 叫ぶ声が震えていた。
「昨晩のこと、オレにとってはすげーいい時間だったのに、先生はオレの嘘話だと思ってずっと聞いていたの?」
 スエンが腰を屈めた。
 目深に被ったフードを少し上げて、緑の目で森羅を見つめてくる。
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