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第一章

12.喘ぎはこの程度。こんなつたなさでは、そうそうに物足りなくなる

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 ベールの向こう側には、小柄な男らがいた。
 それは昨晩の赤毛の大男に比べてという意味だ。
「スエン様。今回のはそのう、お楽しみいただけたのでは?」
 男らの一人が言うと、
「ああ。一夜の玩具としてはな」
と背後のスエンが今まで聞いたことがないような硬い声を出す。そして、カプッと森羅の肩を噛んできた。
「あうっ」
「喘ぎはこの程度。こんなつたなさでは、そうそうに物足りなくなる」
 ベールの外で男は揉み手の仕草。
「で、では、スエン様が仕込んでくだされば」
「仕込んだことろで、脆く崩れ去るだけしか能が無いだろうが、お前らは」
 スエンが乱暴に毛布を跳ね上げる。
 彼の着ていた夜着が太ももの付け根までめくれていて、白い肌が見えた。
「お許しください。キ国に厄災だけは」
と悲鳴が上がる。
「まあ、もう少しだけ可愛がってやるとするさ」
「百年後にはもっと優れた土人形を用意しますのでっ!」
 男らが去り、スエンが森羅の背中から離れた。
「みっともないところをお見せしましたね」
「い、いえ」
 本当は、まるで別人みたいで驚いていた。
 スエンには二面性、というより土人形へ向ける顔と普段用の顔があるようだ。
「湯を浴びたら、ジグラットを出ましょう。出てしまえば、シンラは晴れて自由の身です」
 ジグラット?確か、聖塔という意味だ。
 また一つ手がかりが。
「自由の身になっても、オレ、故郷がどこかも思い出せてないんですけど」
 すると、スエンがポンポンと痛めていない方の肩を叩いてくる。
 まるで、面倒な神事はもう終わったんだから勘弁してくれとでもいうように。
 その仕草で昨晩の濃い時間が、一瞬で打ち壊されたような気分になった。
 浮かれていたのは自分だけ。
 湯をざっと浴びると、スエンが昨晩の軟膏をまた塗ってくれた。
 肩の痛みはほぼ消えていた。手の甲の赤黒かった部分は薄くなっており、足の甲の擦り傷に至っては消えている。
 すごい効き目だ。
「残りはあげます。神々の薬を土人形に与えるのは禁じられていますので、内緒ですよ。必ず自分のためだけに使ってくださいね」
 手当が終わると、新しい長衣を着させられローブを羽織らされた。さらにはフードを目深に。大きいので鼻先まですっぽり隠れる。
「私と一夜を過ごした貴方は注目の的ですから」
 ここまでくると気遣いが過ぎるというか
 スエンは闇夜みたいなフード付きのローブを羽織った。なぜか猫耳みたいなかざりがついている。長身がさらに際立って猫耳の可愛さは完全に打ち消されていた。
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