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第三章

58.どうした?何故、黙る?誰よりも生きることへの執着が強いですって認めろよ

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とスリーナインがわざとらしく届出書の末尾を指で突く。


「まあ、今、ホラ吹き王の息子を辞めようとするのは賢明な判断だな」


 そして茶封筒に戻しひらひら振る。奪い返そうとすると、もみ合いになり茶封筒が斜めに激しく破れた。

 スリーナインが、主導権を見せつけるようにパンッと音を立てて勉強机の上に破れたそれを置いた。


「ほら。行くぞ、ホラ吹き王の支配が及ばない場所に」

「ふ、ふざけたことっ、言わないでくれよ。だ、誰が一緒に行くかっ!」


 怖かったが精一杯の勇気を振り絞ってアンジェロは叫んだ。


「俺は忘れてないからな。スリーナインが蹴落としあえって子供らをけしかけて殺しあいをさせたこと」

「オレは本物そっくりに絵を描け、そうすりゃあ生き延びれるって言っただけだ。それに生き残ったお前も同罪だろ?」


 図星を突かれて、アンジェロは一瞬固まる。

 やがて、顔を歪めてスリーナインに訴えた。


「俺は嫌だった!嫌で嫌でたまらなかった!昨日食べ物を分け合った奴を蹴落とさなきゃならないあの生活が」

「なら、さっさと死ねばよかっただろ。死のレースを放棄してさ」


 正論が胸を刺す。

「---っ」

「生きたかったんだろ?だから、絵を描いた。いや、猿真似か。それを必死にやった。そもそも、負けるのはプライドが許さないもんなあ」


 スリーナインがクククッと喉を鳴らす。


「どうした?何故、黙る?誰よりも生きることへの執着が強いですって認めろよ。それって今もだろ?オン・ユア・マークのコールで滾るんだろうが、お前は」


 アンジェロは返す言葉が見つからない。

 スリーナインはニヤつき始めた。


「にしても、お前の傲慢さは相変わらずだな。あそこにいたガキは誰もが相当な腕を持っていた。なのに、お前は誰よりも絵を上手く描けるって思っていた。だから、みんな、死んじゃう、可哀想っていつも上から目線。そういう態度、あそこにいたガキどもは感じ取っていたと思うぜ。だから、嫌われるんだよ」 


 アンジェロはスリーナインに腕を取られる。彼は抜けるほど強く掴んできた。


「お?都合が悪くなると、だんまりになるところは変わってねえな。悪かった。悪かったって。いじめすぎた。お前との再会があまりにも嬉しくて、はしゃいじまったんだ。さあ、行こうぜ」


「俺は行かない」

 はっきり拒絶を示すと、急にみぞおちにこぶしを入れられる。

 痛みで息が止まりそうだ。

 身体を丸めかけると、喉に手刀を入れられ阻まれた。


「あとな、オレの名前はメリージだ。スリーナインはクソ組織の管理番号」


 そして、耳元で囁かれる。


「そこんとこ、覚えとけ。フォー・ナ・イ・ン」


 同じ穴の狢だぞと彼は言いたいようだ。

 首元を掴まれ激しく揺さぶられ、最後には言わされた。
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