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第三章

39:違法なバイトな

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「それよりも」
と氷雨が話題を逸らす。
「佐伯尚のこと、神様市役所経由で人間の市役所に検索をかけてもらった。戸籍には佐伯尚だけしか記載が無かった」
「それって、結婚して新しい住所を作り直したってこと?尚が結婚していた??」
 それが妙に納得出来なかった。
 でも、やがてあり得ないという気持ちに変わる。
 あの様子ではデートすらしたことがないだろうからだ。
 結婚なんてとてもとても。
 氷雨が答えた。
「いや、分籍しただけのようだ。二十歳になった当日に。住民票、戸籍の閲覧制限もしっかりされていた。現在戸籍では、親の存在は確認できないが、原戸籍でたどることができる。母親の名前は、佐伯美穂子。五十四才。最近、死亡している」
「尚は、十五歳まで救世教団にいた。大人になってまで、彼らに居場所を辿られたくなかったんだね」
「それか、母親。宗教二世で脱会までしているんだから、そこに入れた母親は鬼みたいなもんだろ」
「でも、救世教団に骨壷を取りに行っているみたいなんだ。そして、血の跡がある短刀を所持していて記憶が飛んでいる」
「憎いけれど、取りにいくことだってある」
「そうかな?」
 すると、氷雨が肩をすくめる。
「時雨は人間の心の機微に鈍感すぎる。馬鹿にしているから、無節操に寝られるんだ」
「馬鹿にしてる?僕がどんな気持ちで芙蓉さんと過ぎしてきたと思ってんの?」
「気持ちがあろうと無かろうと、鈍感は鈍感。尽くすことだけに快感を覚えて、他を見ていない」
「尽くすのは当たり前。あ、この話は一旦ここで終りね。尚たち戻ってきたし」
「ああ。一生分喋った」
 無愛想に返事をした氷雨が、右手にたこ焼き、左手に串焼きを持って戻ってきた翠雨を見て軽く微笑む。
 後ろには尚がいて、お好み焼きとからあげのパックを落とさないように慎重な顔で持っている。
 その姿に、ヒートアップした時雨の気持ちが和んだ。
 あれ?
 時雨の言うことも一理あるような気がする。
 自分は神様だから人間に与える側であって受け取る側でないと、今まで疑ったことは無かったのだ。
 そういえば、今は癒やしを、一緒に過ごすようになってからは何度か充実感も貰っている。
「お帰り、尚。たくさん、ありがとう」
「いや、これ、全部翠雨さんが。俺、財布はリュックの中で。あとで返すから」
と尚が途中から翠雨に向かって言う。
「いいって。バイトしてるし」
「違法なバイトな」
「闇バイト」
と氷雨と時雨がほぼ同時に答えた。
 それを信じた尚が、
「そ、そういうのは止めたほうが。一生を失うってネット記事で」
と真面目に翠雨を諭す。
 途端に、翠雨が頬を膨らませた。
「何だ、闇バイトって。普通に病院で医療補助のしてるっつの」
「え?高校生でしょ?そんなこと出来るの?掃除とか?」
と尚が聞き返す。
「だーかーら、医療補助!そしてオレ、大学生だかんな!医大生はそういうことできんの!」
 すると、氷雨がチラッと尚を見た。
「この人、翠雨が本物の医者になっても、診てもらいたくないなあ、だって」
「い、言ってない。思ってない!」
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