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恋の忘れ形見
見破られる
しおりを挟む「‥‥ところで、今日はまた一段と可愛いですね。」
―ドン
人気の無い廊下に差し掛かったのを見計らった千鶴は、綺麗な顔に笑みをひとつ浮かべると私を壁に押し付けて囁いた。
「‥‥え、ちょっと待ってよぉ~千鶴さぁん‥‥。」
何だコイツ!?
まさか、凪にまでちょっかい出すつもり?
私は目と鼻の先にある千鶴の顔から目を反らし、その腕から逃れようとした。
しかしもう一方の手で腰を捕まれてしまい、たちまち身動きが取れなくなった。
畜生‥‥!
凪のフリなんかしていなければ、1発殴ってやるのに!!
歯を食いしばりながら目の前の端正な顔を一瞥した。
すると千鶴は、コテで丁寧に巻かれた私の髪を指に絡ませ、それを自分の口許へ寄せると静かに口を開いた。
「‥‥澪、髪なんか巻いて今日はお洒落ですね。
どうしたんですか?」
フフンと笑うと、千鶴は流し目を寄こしてきた。
コイツ‥‥気付いてたのか!
「‥‥なっ!何言ってるんですかぁ、千鶴さぁん。
いくら双子だからって、お姉と私を間違えないで下さいよぉ。」
私は必死に笑顔を取り繕いながら上ずった声を上げると、千鶴を引き離すようにして、その胸に腕をグイグイと押し付けた。
しかしその腕も簡単に奪われてしまい、なかなかヤツの懐から逃げ出すことが出来ない。
「フッ‥‥僕が澪を見間違えるわけ無いじゃないですか。
どう見たって貴女は、僕の可愛い澪だ。」
ニコリと千鶴は微笑むと、私の腰に当てた手をゆっくりと下へ下ろしていった。
「‥‥っ!
どこ触ってんのよぉ!!」
―バキャッ!!
「ぐはぁッ!」
私の拳を顔面にモロに喰らった千鶴は、1メートルほど先の廊下に吹き飛んだ。
「‥‥ハァ、ハァ‥‥。
‥‥は!今ので決定的にバレたじゃないのよ!私の馬鹿ぁ!」
ギャーッと小さく叫ぶと、私は両手で顔を覆い隠して落胆した。
「‥‥まぁ、澪がお馬鹿なのは今に始まったことでは‥‥ぅごふッ!」
再び立ち上がった千鶴の腹を思い切り蹴ると、私はその場から脱走した。
逃げるが勝ちよ!
ただし、この変態から逃げ切れるかどうかが問題だけどね!
息を切らせながら、風より速くマンションめがけて走りまくった。
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