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恋の忘れ形見
妹の看病
しおりを挟む―ガチャ!ガチャガチャ‥‥
「ただいまぁー!」
私は帰宅するなり、息を荒げながらドアに鍵とチェーンを厳重にかけた。
その時、不意に胸の辺りがくすぐったいような気がした。
だけどすぐに無視を決め込んで、凪の部屋へと足を運んだ。
「‥‥ちょっと凪。アンタの学科はどうなってんのよ。
全く、アンタらが未来ある子供達を教育するって考えただけで、私は日本の将来に不安を覚えるわ!」
「‥‥ふや~‥‥。」
ベッドに横たわる凪に説教臭い文句を並べ立てたが、仰向けの状態でまともな返事を返さなかった。
「‥‥ちょっと、病院行って来たの?」
「薬もらった~。あとは寝るぅ。」
「医者は何だって?」
私は話を続けながら朦朧としている凪の脇に体温計を差し込んだ。
「お医者しゃんカッコ良かった~。」
朱色の顔をした凪は、ろれつの回らない口調で意味不明な言葉を返す。
よっぽど熱が高いようだ。
「いや、誰が医者の外見なんか聞いてるか。
ただの風邪?病状は何だったの?」
「私、あのお医者しゃんと結婚するぅ~。」
「‥‥はいはい。」
―ピピッ
体温計が鳴ると、凪の脇からソレを抜いて数字を見た。
「‥‥さ、39.5度!?
今朝より上がってるじゃないの!」
「薬飲んだから平気ぃ~。」
「‥‥って、ちゃんとご飯食べたの?」
「うん~‥‥白いヤツのアレで、緑のと黄色いのとピンクいの食べたぁ~。」
ヤバイ‥‥コイツ、何食べたんだろう?
とりあえず、当てにならないから何か作ってやろう。
「全く‥‥頼むわよホント。
で、明日も学校休むんでしょ?
また私が代わりに行くの?」
私が溜め息をつきながら困ったようにそう言うと、汗だくの凪が予想外の言葉を口にした。
「‥‥いいよもう‥‥。
私、留年するから‥‥。」
すると凪は仰向けの体勢から反転して、壁際を向き出した。
背中を向けてきた妹に、『馬鹿言うな』と説教のひとつでも浴びせたかったが、病人に鞭を打つような気がしたので言葉を喉の奥で塞き止めた。
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