92 / 399
恋の忘れ形見
妹の看病
しおりを挟む―ガチャ!ガチャガチャ‥‥
「ただいまぁー!」
私は帰宅するなり、息を荒げながらドアに鍵とチェーンを厳重にかけた。
その時、不意に胸の辺りがくすぐったいような気がした。
だけどすぐに無視を決め込んで、凪の部屋へと足を運んだ。
「‥‥ちょっと凪。アンタの学科はどうなってんのよ。
全く、アンタらが未来ある子供達を教育するって考えただけで、私は日本の将来に不安を覚えるわ!」
「‥‥ふや~‥‥。」
ベッドに横たわる凪に説教臭い文句を並べ立てたが、仰向けの状態でまともな返事を返さなかった。
「‥‥ちょっと、病院行って来たの?」
「薬もらった~。あとは寝るぅ。」
「医者は何だって?」
私は話を続けながら朦朧としている凪の脇に体温計を差し込んだ。
「お医者しゃんカッコ良かった~。」
朱色の顔をした凪は、ろれつの回らない口調で意味不明な言葉を返す。
よっぽど熱が高いようだ。
「いや、誰が医者の外見なんか聞いてるか。
ただの風邪?病状は何だったの?」
「私、あのお医者しゃんと結婚するぅ~。」
「‥‥はいはい。」
―ピピッ
体温計が鳴ると、凪の脇からソレを抜いて数字を見た。
「‥‥さ、39.5度!?
今朝より上がってるじゃないの!」
「薬飲んだから平気ぃ~。」
「‥‥って、ちゃんとご飯食べたの?」
「うん~‥‥白いヤツのアレで、緑のと黄色いのとピンクいの食べたぁ~。」
ヤバイ‥‥コイツ、何食べたんだろう?
とりあえず、当てにならないから何か作ってやろう。
「全く‥‥頼むわよホント。
で、明日も学校休むんでしょ?
また私が代わりに行くの?」
私が溜め息をつきながら困ったようにそう言うと、汗だくの凪が予想外の言葉を口にした。
「‥‥いいよもう‥‥。
私、留年するから‥‥。」
すると凪は仰向けの体勢から反転して、壁際を向き出した。
背中を向けてきた妹に、『馬鹿言うな』と説教のひとつでも浴びせたかったが、病人に鞭を打つような気がしたので言葉を喉の奥で塞き止めた。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる