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web拍手再録(本編設定)
拍手お礼SS フェリクス陛下は民を愛している(2020/12/31)
しおりを挟む「――陛下、式典のアレはどういうおつもりですか」
「盛り上がって良かったじゃない?」
へらりと笑って軽く手を振るフェリクス。若干六歳にしてこのアルスター王国の王である。彼は玉座に座りながら隣に立つ護衛のユーグを見る。ユーグの目の色は呆れが含んでいて重々しくため息を吐いた。
「祝福の名も、本来ならば違う日に教会で授けるのが……」
「式典でまとめてやっちゃったほうが予算が他のに回せるでしょ。この国、割と問題だらけなんだから……。それに……」
「それに?」
「――人の命は短いものだよ、ユーグ」
子ども特有の高い声。だが、その言葉の重さを感じ取ってユーグは息を飲む。昨年、この国の王になった少年は臣下たちが舌を巻くほどの手腕でこの国を支えている。理由はわかっている。――記憶継承。それは、この国の王になった者の記憶が全て受け継がれると言うこと。
(……その記憶の重さに耐えられず、自らの命を絶つ者も多かったと伝えられているが……。この少年は、逆だ。王であることを、自ら受け入れた)
ユーグを見つめたまま、フェリクスはふふっと笑った。頬杖をついて、目を伏せると彼は言葉を続ける。
「僕の命だって何年で消えるかわからない。ま、この国は世襲制じゃないし、僕が死んだらまた別の誰かがこの記憶を受け継いで『王』になる。今、僕が死んだら一番危ないのは精霊の祝福を持つヒビキさんだ。……そう言う意味でも、あの式典には意味があった」
ヒビキとアデルのことを思い出して、フェリクスは緩やかに息を吐く。式典で見せた彼らの実力。精霊が姿を現したのは彼が精霊に愛されているからだ。そして、恐らく唯一であるアデルの魔物使いのスキル。アデルが従える魔物は理性が残っている。だからこそ、精霊と協力が出来たのだ。
「彼らは協力することが出来る。助け合うことが出来る。だが――彼の性格なら、王になったらその重圧に押し潰されるだろう」
「あなたは、違うと?」
「気付かない? ユーグ。ヒビキさんが気を遣う相手って、大体ルード関係の人のみなんだよ。それは、彼の中心にルードが居るからだ。それだけはブレていないようだし……式典のアレだって、彼、なんて言って提案してきたと思う?」
その時のことを思い出して、フェリクスは肩をすくめた。
『フェンリルも精霊です。人が、精霊のことを恐れたり傷つけたりしなければ、精霊は人のことを愛してくれるって伝えたいんです。――だって、だってそうすれば……ルードがフェンリルの契約者でも、それはフェンリルがルードのことを好きだからで……えっと、とにかく、ルードのことを誤解しなくなるんじゃないかと思って!』
どれだけ深く、ルードのことを愛しているのかと内心呆れるほどだった。だが、彼がその気になれば人なんてあっという間に精霊に見限られるとも悟った。それだけ強大なスキルなのだ、精霊の祝福は。
だからこそ、使える、とも思った。最近、精霊のことを蔑ろにしている民の姿を多く見た。自分が生きているのが、魔法を使えるのが当たり前だと思っている人たち。特に貴族たちだ。その傾向が強いのは。
「――何と言うか、変わっていますよね」
「ルードを想う気持ちの強さはかなりだけどね。彼の原動力、ルードじゃない?」
「……否定はしませんが……。いや、変わっていると言えば陛下も変わってますけどね」
そう言って、ユーグがフェリクスの前に移動して視線を合わせるように跪いた。フェリクスは「そうだろうねぇ」とくすくすと笑う。記憶継承のスキルを持っていると言っても、彼はまだ六歳だ。
「もう少し、子どものままでも良いのですよ、陛下」
「あははっ。そうだね、きみの前くらいなら子どものままで良いのかもしれないけど――それは、民のためにならないだろう?」
ゆっくりとユーグへと視線を向けて不敵に笑うフェリクス。子どもらしからぬその笑みに、ユーグは彼の中の決意を見出し、その手を取って手の甲に唇を落とした。
「騎士の誓いは去年もらったけど?」
「改めて、誓います。あなたを護り抜くことを、我が命に代えて」
「……毎度思うんだけどさぁ……その命に代えてって逆じゃない?」
すっとフェリクスはユーグの手から自分の手を引きぬいて、玉座から立ち上がる。スタスタと歩いてそのままばっと両腕を広げた。
「僕はこの国の王だ。民が幸せに暮らす手伝いをすることしか出来ないけれど、王は王だ。僕は僕の命に代えて民を守る。――この国の民である、ユーグ、きみもだよ。僕のことを思うのなら、自分の身も守ってよね。そもそも僕はワガママなお子さまだし、ね!」
フェリクスはそう言葉を切ると、ユーグへ振り返る。民を守るのが、王の務め。その王を守るのが、彼の務め。フェリクスはそのことをよく知っている。そして――王のために命を落とす者たちのことも。フェリクスはすべてを知り、受け入れ、ここに立っている。最年少の王として――……。
「そう、お子さまだから……、もう眠いや」
ふわぁとひとつ欠伸をすると、ユーグがフェリクスの近くに行き背を向ける。どうやら今日はおんぶしてくれるらしい。
(――後悔しない道を、歩んで欲しいんだ。僕が愛すると決めた、この国の民たちに――……)
去年よりも少し重くなった身体を、揺らさないように気をつけながらユーグはフェリクスを寝室まで運んだ。その小さな身体に背負い込んだものの重さを、少しでも軽く出来れば……と、そんなことを、考えながら。
ベッドに横にさせて、布団を掛ける。ぽんぽんと優しくフェリクスの頭を撫でて、ユーグは小さく頭を下げてから寝室から出て行った。
この小さな王が、せめて夢の中ではゆっくりと休めることを願いながら――……。
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