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拍手お礼SS 4章『愛する家族へ』返信(2020/12/27)

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前略、保科響希さま。いえ、ヒビキ・K・ホシナさまへ。



 メールありがとう。このメールは届いているかな。届くと、良いな。最後のメール、確かに受け取りました。思えばこの八年、色々なことがあったね。

 響希があっちの世界に行ってしまって……最初はあまりにも見つからなくて『保科響希』そのものがまるで夢のように消えてしまったかのように思っちゃった。父さんや母さんも慌てて日本に戻ってね、仕事があるのに上司に無理を言って少しの間日本で響希を探したんだよ。

 そして、あの満月の日。響希から電話が来て驚いたの。響希が居なくなって、すぐに電話やメールをしたのに、音沙汰なしだったのになんで? って。だけど、響希の声を聞いたらそんなのも吹き飛んじゃった。だって、すっごく不安そうな声をしていたから。

 響希はずっと、ひとりで耐えていたんだってわかったから。不安だったよね、知らない世界に連れて行かれちゃって。しかも私が知っている世界とは言え、ストーリーは全然違うみたいだし……ううん、もしかしたら、それで良かったのかもしれないね。だって、アデルが攻めになっているのなら、アデルの魂を持つ響希は受け主人公になっちゃうし。最初にルードに拾われていてよかったわぁ。……なんてね。

 父さんと母さんに、響希の言葉、しっかりと伝えたよ。ふたりとも泣いていた。そして、「愛している」と「元気でね」を伝えて欲しいと言われたわ。

 ストーリーが全然違うから、響希の話はすごく楽しかったよ。まさかサディアスとニコロが結婚するなんて思わないもん。ゲームじゃそんな関係性なかったんだよ? いや、本当に! そしてアデルはシリウスを選んだんだね。シリウス……元凶と言えば元凶だから素直におめでとうって言えないなぁ、私は。

 あと、メイドさんもおめでとう! 幸せそうな姿が目に浮かぶわー。あ、もちろんこっちもそっちに負けないくらい幸せだから、そこは安心するように!

 ねえ、響希。響希は私たちが愛したからって言ってくれたけど、それは違うよ。響希が私たちを愛してくれたから、生まれてきてくれたから、私たちは響希を愛せたの。ずっといつか居なくなっちゃうんじゃないかって、怯えていたけれど……。こうして電話をしたりメールをしたりして、もしかしたら今までの中で一番話した時間だったかもしれないね。

 あと、双子! めっちゃ可愛かった! いやもう私も伯母さんかーって感慨深かったよ。五年前にはテンション上がりまくって言えなかったけどさ。



 響希のメールを読んでいて思ったんだけど、響希はとても良い人たちに出会ったね。きっと、響希のことを誰かが守ってくれたんだと思う。そっちの世界に合わせるなら、それはきっと精霊だと思うの。精霊が響希を守ってくれたんだって、勝手に思ってる。感謝しなきゃね。

 これからきっと、色んなことがあると思う。子育てもそうだけど、つらいことや嬉しいこともたくさんあると思う。そんなときには、ちゃんと周りを頼って。そして、思い出して欲しい。私たちが響希のことを想っているってことを。

 響希が居なくなって、響希のクラスメイトたちも響希のことを探してくれたんだよ。口止めされていたけど、最後ならバラしちゃっても良いよね。響希はすっごく幸せ者なんだから、これからも幸せだと胸を張って言える人生を歩んで欲しいなぁ。ルードと一緒に。



 私も今、二児の母をしているんだ。そっちはコウノトリが運んでくれるけど、こっちは響希の知っての通りの出産だから、色々大変だった。だけどね、我が子はやっぱり可愛いの。子育ては大変だけど、私もみんなの力を借りて何とかやってるよ。父さんと母さんも海外から日本へと戻って来たしね。時々、響希の話をするよ。幸せなら良いって言ってた。

 電話の内容だったり、メールの内容だったり、父さんたちにも伝えているの。なんで私のメアドにしか送れなかったんだろうねー? それが不思議。



 あ。そう言えば……この前、父さんから、父さんの親戚にやっぱり響希のように突然消えちゃった人が居るって教えてくれたよ。その人は結局どこに居るのかわからないみたいなんだけど……。なんと、その人ね……響希が中に入ったBLゲームの開発者のひとりなのよ! そんなこともあるんだねーって聞いていたけど、もしかしたら同じ世界に居たりして。もしも出会えたら、その人に素晴らしいゲームをありがとうございましたって伝えて欲しいなぁ。



 写真、ちゃんと見られたよ。本当に幸せそうでなぜか涙が出そうになった。素敵な写真をありがとう。こっちも、ちゃんと添付されるかわからないけど送るね。幸せそうな私たちを見て涙すると良い! ……いや、泣かなくていいや、笑ってくれたらいい。



 ――ばいばい、響希。そうだね、どうせならまた……今度はちゃんと最期まで響希の傍でお姉ちゃんしたいなぁ。ルードのことも弟して可愛がってあげるから、覚悟しときなさい! って伝えておいて。――それじゃあ、ね。元気で暮らすんだよ。私たちが響希たちのことを愛していること、忘れないでね。愛する弟たちへ。草々



(添付された写真には歳を取った両親が微笑んでいる姿、歌奏と夫が子どもたちを抱っこしている姿、子どもたちがピースしている姿が写っていた。そのどれも幸せそうに笑っていて、最後に一枚、歌奏と旦那が手を繋いで幸せそうに微笑んでいる姿が写されていた)









「ヒビキパパどうしたの?」

「ルードパパ、ヒビキパパ泣いちゃった……」

「……良いんだよ、オトハ、ハルト。泣かせてあげなさい。ヒビキは、今、胸がいっぱいになっているんだと思うよ」



 姉からのメールを読んで、涙が止まらない。溢れ出る涙を無理矢理止めようとしたけれど、ぼろぼろと零れ落ちるだけで全然泣き止まない。それを心配して双子の姉、オトハと双子の弟、ハルトが心配そうにルードを見上げて聞いた。



「……しあわせ、だって。姉ちゃんたちも、しあわせだって……」



 涙を流しながらそう言うのが精いっぱいだった。ルードはおれに近付いてそっとおれを抱きしめる。オトハとハルトもぎゅうっとおれに抱き着いて来て……おれって本当に幸せ者だなって思いながら、幼い双子を抱きしめて、ルードの胸に甘えるようにすり寄った。

 涙を舐めるルードに、「もう」と口にすると、ルードは優しい眼差しでおれを見て、オトハをひょいと抱き上げる。良いなぁとばかりにハルトがルードを見て、ルードはハルトも抱っこした。

 ――姉ちゃん、おれ、胸を張って言えるよ。おれは……ものすごく、幸せ者だって!







―Fin―
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