月で逢おうよ

chatetlune

文字の大きさ
上 下
21 / 25

月で逢おうよ 21

しおりを挟む




   ACT 4


 寒い、と感じて勝浩は目を覚ました。
 まだ夜は明けていないようだ。
 リビングの大時計は夜中の二時過ぎを示している。
 辺りを見回すと、美利も垪和も、隣のソファで眠りこけている。
 大杉や春山たちも死屍累々といったありさまだ。
 かろうじて部屋に戻った者も、まずベッドに突っ伏しているだけだろう。
 勝浩もまた、ついやけになって飲んでしまい、ソファでしばらく眠り込んでいたようだ。
「何か、飲みすぎで頭がバカになりそう」
 勝浩は思わず呟いた。
 それでも、飲んで何も考えたくなかったのだ。
 重い足を引きずるように、階段をゆっくりあがっていく。
 と、ぼそぼそと何か人が言い争うような声が聞こえてくる。
 小首を傾げながら、勝浩はあがっていった。
「なんだよ、じゃ、何も進展してないんじゃん」
 検見崎の声だ。
 聞くつもりはなくても耳に入ってくる。
「だいたい、そうならそうと、俺に、最初から言えよな、姑息な手を使わずに。自分で勝っちゃんと部屋を一緒にしろ、とか言っといて、不満そうな顔してるから、何かクサいと思ってたんだが」
 一緒の部屋って、何? 俺のこと?
 勝浩の足が止まる。
「いや、だから心が痛くてさ、俺は。やっぱだまし討ちみたいで」
 今の、長谷川……さん?
 だまし討ちって、どういうことだ?
「何よ、まったく、幸也ってば意気地なし」
 あれはひかりの声?
「悪かったな、とにかく、今夜、いや、明日の朝までには決める」
「ほんとに決められんのかぁ?」
 幸也の声に対してからかうように検見崎が言った。
 フラリと足が浮くような気がして、勝浩は後ろに下がった。
 と、背中が手すりに当たって、どん、と二階の廊下に鈍い音が響く。
「勝浩…?!」
 その音に驚いてやってきたのは幸也だ。
「朝までに、決める……って、何?」
 勝浩は訊かずにいられなかった。
「え………いや、それは…」
「だまし討ちって?」
 手をのばそうとする幸也から、身を遠ざけようと、勝浩はまた後ろに下がる。
「勝浩、それはつまりだな」
 今度はその声の方を見て、勝浩はぎょっとする。
「何で…二人いる…?」
 同じような顔が二人並んでいる。
 俺、かなり酔ってるのか?
「……また、俺のこと、だましたんだ?」
 勝手に口から滑り出てしまう言葉。
「え? 違う…勝浩、おい、聞けって」
 慌てた幸也が勝浩の腕を掴んだ。
「い、やだ、離せよ!」
 思い切りその手を振り切ると、勝浩は階段を駆け下りる。
 リビングを通り抜け、玄関のドアを開けて外に飛び出した。
「こら、待て、勝浩!」
 幸也の声が、背後で聞こえた。

 
 また、だましたんだ…!
 優しさも嘘っぱちだったんだ!
 何で……
 ひどいよ!
 いくら俺でも、
 そんなの、耐えられないよ!
 バカヤロー!
 
 
 どこを走っているのかわからなかった。
 ただ、走った。
 哀しすぎて、涙も出てこない。
 どれだけ走ったろう。
 スニーカーがもつれ、前につんのめった。
 倒れたときに手を擦りむいていたが、痛みすらももうどうでもよかった。
 起き上がることも億劫で、勝浩はそのまま膝を抱えてうずくまった。
 



「どうかしたの?」 
 勝浩のあとを追って階段を駆け下りてきた幸也と検見崎は、その騒ぎにソファで目を覚ました垪和に見咎められた。
「あ、悪い、いや、ちょっと、勝っちゃんが酔っ払っちゃって。いいから、寝てて、垪和」
 検見崎は適当な言い訳をして、玄関に常備してあるライトを掴むと、先に飛び出した幸也に続いて外に出た。
「おい、勝っちゃん、いたか?!」
 サイクリングロードと林に入る細い道が交差するあたりで、検見崎は幸也に追いついた。
「見失った。俺、こっち行くから、お前、そっち頼む」
「ちょお、待て!」
 検見崎は走り出そうとする幸也の腕を掴む。
「何だよ?!」
「いつだったか、お前、勝っちゃんに嫌われてるって言ってたな?」
 焦りまくる幸也を制して、検見崎が問いただす。
「ああ、言ったさ、それがどうしたよ? 勝浩探すんだろ!」
「待てって。まあ深くは考えずに、お前のステーションワゴンと引き換えに、俺は勝っちゃんの情報を時々お前に流していたが。勝っちゃんにはお前の従兄弟だってことを知られるなっていうから、黙ってた。だから余計ごちゃごちゃになったんだ」
「だから、なんだって?」
 イライラしながら、幸也は聞き返す。
「いや、まさかほんとに、マジだとは思わなかったが」
「だから、マジだって言ってっだろ? あいつ、さっきの聞いて、勘違いして」
 幸也は声を上げた。
「お前がだましたってな。前科があるからだろ」
「……そうだよ!」
 検見崎に指摘され、幸也は苦々しそうに吐き捨てる。
「高三の春、誰かターゲットを決めて落とせるか否かを賭けるって、俺と志央の暇つぶし、ほんの遊びだったんだ。そん時、志央はでっけぇ転校生、俺は勝浩って………。けど勝浩は俺があの手この手で言い寄っても取り合ってもくれなかったし、後になって賭けでそんなことしてたってバレた日には、最低だってオモクソ詰られた」
 幸也の自白に検見崎は一つ溜息をついた。
「なるほど、やっぱりな。だが実はもっとやばいことをやってるんだぞ、お前は」
 したり顔でそう断言する検見崎を、幸也は睨みつける。
「どういうことだ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Tea Time

chatetlune
BL
「月で逢おうよ」の後の幸也と勝浩のエピソードです。 再会してぐっと近づいた、はずの幸也と勝浩だったが、幸也には何となく未だに勝浩の自分への想いを信じ切られないところがあった。それは勝浩に対しての自分のこれまでの行状が故のことなのだが、検見崎が知っている勝浩のことが幸也にとっては初耳だったりして、幸也は何となく焦りを感じていた。

創作BL)死にたがりと春雷

黑野羊
BL
「自分と一緒にいろって……なにそれ。新手の告白? それとも友情ごっこかヒーローごっこ?」 「好きなように思ってろ。変な場所で倒れられるよりマシだ」 中学1年の4月半ば、クラスの保健委員だった春日祐介は、中途半端な時期にやってきて、持病の『発作』でよく倒れる転校生・相模和都を介抱する日々に追われていた。そんな1学期の終わり、相模が女教師に襲われているところを助けた春日。人形のように美しく、他人から異常な執着を受け続ける相模をそばで助けているうちに、春日は弱くて脆い彼の内側に渦巻く、仄暗い願いを知ってしまう。 ーーー 男子中学生たちの、友情以上恋愛未満な花曇りの青春。 ーーー 小説家になろう、Pixiv、クロスフォリオに掲載中の作品です。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

ペイン・リリーフ

こすもす
BL
事故の影響で記憶障害になってしまった琴(こと)は、内科医の相澤に紹介された、精神科医の篠口(しのぐち)と生活を共にすることになる。 優しく甘やかしてくれる篠口に惹かれていく琴だが、彼とは、記憶を失う前にも会っていたのではないかと疑いを抱く。 記憶が戻らなくても、このまま篠口と一緒にいられたらいいと願う琴だが……。 ★7:30と18:30に更新予定です(*´艸`*) ★素敵な表紙は らテて様✧︎*。 ☆過去に書いた自作のキャラクターと、苗字や名前が被っていたことに気付きました……全く別の作品ですのでご了承ください!

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...