月で逢おうよ

chatetlune

文字の大きさ
上 下
22 / 25

月で逢おうよ 22

しおりを挟む
「俺は勝っちゃんから、あいつが好きだった相手ってどんなやつだか、聞いたことがある」
「え?」
「高校の時の先輩で」
 検見崎の言葉に幸也は息を詰める。
「人のことからかってばっかで、ムカツクこともされたし、ろくでもない人、だったと言ってた」
「……………何だって?」
 しばし絶句してから幸也は言葉を絞り出した。




 ユウの声が聞こえた気がして、ふっと勝浩は顔を上げた。
 闇に目が慣れてくるとどちらを向いても木立しかない。
 夜の林の中は何か言い知れぬ澱みを含んでいる。
 ぐんと冷えてきたし、Tシャツに長袖のシャツをはおっているが、じっとしていたから余計に寒くなってきた。
 立ち上がって空を仰ぐと、木々の間からまだ煌煌とした月が覗いている。
 それだけがまだ救いだ。
「こんなとこで死んだら、みんなに迷惑かけるよな。それにユウをまた置いていくわけにいかないじゃないか」
 勝浩は歩きかけたが、とにかくどっちに行っていいかわからない。
 運の悪いことに、携帯も部屋に置いてきてしまった。
「あ……」
 やっぱり、どこかからユウの泣き声が聞こえる。
 勝浩は耳を澄ました。
「ユウ!」
 声に出して呼んでみる。
 ワン、ワン、と応える声がある。
「ユウ! 俺、ここにいるよ、ユウ!」
 ガサガサガサ……
 どこかからそんな音がしたと思うと、きゅんきゅんきゅうん、という声とともにユウが現れた。
「ユウ!」
 しゃがみ込んで思い切り撫でてやると、ユウは嬉しそうに勝浩の顔やら首やらをなめまわす。
「ごめん、ユウ、ごめん……置いてったりしないって、お前を」
 すぐに人間の走ってくる音がして、息を切らしながら現れたのは幸也だった。
「この、バッカやろ! 心配させんじゃねー!」
 勝浩を見るなり幸也は怒鳴りつけた。
 驚いて思わず、勝浩も「すみません…」ととりあえず謝った。
「だいたい、携帯くらい持って歩けってんだ!」
 はあはあと荒く息をつきながら、幸也は続ける。
「確かに、俺が悪い。悪いが……、とにかく、その話はあとだ。タケも心配してるし、とっとと帰るぞ!」
 携帯で検見崎に連絡をとる幸也の背中を見ながら、ひどく怒っている、と勝浩は思った。
 一時の激情にまかせて真夜中に飛び出して迷子になるなんて、子どもじゃあるまいし、いい迷惑だというのだろう。
 確かにその通りだから、何の申し開きもできない。
 でも所詮、幸也はこんな人なのだ。
 優しさをまともに受け取る方がバカなんだと言い聞かせながらも、ユウの後から現れた幸也の顔を見た時、ひどく嬉しいと思ってしまった自分を、勝浩は嗤った。
「勝っちゃん!」
 山荘の前で待っていた検見崎は、幸也の後ろにユウを従えて戻ってきた勝浩を見ると駆け寄ってぎゅっと抱きしめた。
「心配させんなよな、命が縮んだぞ」
「すみません……」
 ほっとしたようすでポンポンと背中を軽く叩いた検見崎を、ようやく離された勝浩はまじまじと見つめた。
「検見崎さん、髭が…」
「ああ、さっき剃ったの」
 検見崎はお茶目な笑みを浮かべる。
「ああ、だからか。長谷川さんとよく似てる。びっくりした」
「だろう? そのことなんだが、俺たち実は従兄弟でさ。昔っから兄弟より似てるって言われてて。黙ってて悪かったよ。これには深いわけがあってだな」
「いや、もういいですよ。ほんとに心配かけてすみませんでした」
 勝浩は検見崎の言葉を遮るように言って弱弱しく微笑んだ。
「風呂入ってよくあったまるんだぞ」
 ユウと一緒に階段を上がっていく勝浩に、検見崎が声をかけた。
 検見崎は、勝浩が二階に消えると、背後に突っ立っている幸也を振り返った。
「どしたんだ? お前。ぬーぼーとして。勝っちゃんに話したか?」
「……勝浩見つけた途端、怒鳴っちまって」
 ボソッと口にする幸也は突っ立ったままだった。
「ああ? 話してないのか? まだ」
 検見崎に呆れられなくても、だ。
 幸也はようやくトボトボと二階へと向かう。
「俺はこれで、勝浩に嫌われたら、もう日本の地は踏まない」
 はあ? と検見崎は眉をひそめた。
「何、言ってんだ、お前」
「永久にな」
 そんな台詞を残して肩の落ちた幸也が階段を上がっていくのを見ながら、検見崎は呟いた。
「タラシのなれの果てが純愛、っつーのもまた、おマヌケな話だよなー。せいぜいうまくやれよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Tea Time

chatetlune
BL
「月で逢おうよ」の後の幸也と勝浩のエピソードです。 再会してぐっと近づいた、はずの幸也と勝浩だったが、幸也には何となく未だに勝浩の自分への想いを信じ切られないところがあった。それは勝浩に対しての自分のこれまでの行状が故のことなのだが、検見崎が知っている勝浩のことが幸也にとっては初耳だったりして、幸也は何となく焦りを感じていた。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...