月で逢おうよ

chatetlune

文字の大きさ
13 / 25

月で逢おうよ 13

しおりを挟む
「こういう車で、サイドシートが犬と男、って面白くない図ですよね」
 沈黙に耐え切れず、勝浩は口を開いた。
 美利と大杉は猫を連れて垪和のワゴン車に乗り込み、ロクは後部座席に陣取った。
 幸也の運転するアウディのサイドシートにおさまったのは、後ろにずらしたシートの前にキャリーケースのユウを置いた勝浩だ。
 後部座席には犬用ペットシートの上にシートベルトで固定されたビッグがおとなしく乗り込んでいる。
「やっと口きいた。勝浩、何か怒ってただろ?」
「別に」
「とかいいながら、目が笑ってないし」
「こういう顔です」
 くっくっと笑う幸也を横目に、勝浩はまたムッとする。
「そういえば、犬とか猫とか飼ってるんですか?」
 そんな話聞いたことはなかった。
 いや、そもそも幸也について噂や聞いた話以外に自分が知っていることなどないのだと、勝浩は改めて思う。
「おや、知らなかったっけ? 俺んち、物心ついた頃から、たくさんいたぜ」
「知りませんよ、長谷川さんちに伺ったこともないんだから。でも、じゃ、検見崎さんとこと一緒ですね」
「ああ、やつんとこもいるな……」
 軽いハンドルさばきで、幸也は車を走らせる。
「何だ、何だ? そんな難しい顔して。俺の運転は折り紙つきだぜ、心配しなくても」
「そりゃ、高二の時から運転してれば、うまくもなるでしょ」
「おい、そんなのもう時効だろ?」
 苦笑いを浮かべて、幸也は勝浩を横目で見やる。
「検見崎さんとは、随分親しいお友達なんですね」
「お友達ってほどのもんじゃないがな」
 ほどなく車は世田谷の老人ホームに着いた。
 残暑は厳しいが天気にも恵まれ、参加者は誰もが嬉しそうに動物たちに触れ、メンバーとも親しげに言葉を交わしている。
 思った以上に幸也は一生懸命老人たちに応対していた。
 そんな姿を見ると、車に乗っているうちずっとふてくされてしまったことを、勝浩はちょっと後悔した。
 俺、何やってんだろ。
 何やら可笑しなことだが、せっかくこんな風に幸也とまた一緒にいられるっていうのに。
 二匹の猫は室内で、犬たちは戸外で入居者たちに愛想を振り撒いている。
「こら、クロ!」
 そろそろ時間かな、とぼんやり幸也の方を見ていた勝浩は、窓の隙間から飛び出してきた黒い塊を認めた。
 慌てて大杉があとを追いかけて出てきたが、かえってクロは彼から逃げようと、犬と戯れている女性の足元をすり抜けた。
 そのとき、驚いたお年寄りが振り上げた手がユウの頭に当たった。
「あ! ユウ! だめ、戻れ!」
 こちらも驚いたユウが、クロを追うように駆け出した。
 勢いでリードが勝浩の手からはずれ、ユウは勝浩の静止も聞かず、あっという間に門から飛び出してしまった。
「すみません、垪和さん、ちょっと俺、見てきていいですか?」
 内心焦りながらも、気を落ち着けて勝浩は言った。
「いいわよ、こっちは気にしなくて」
 大杉のクロはしばらくしてよその家の塀の上にいるのが発見され、勝浩と大杉とで捕まえるのに成功した。
 だが、もしやホームに戻っていないかとかすかな期待も空しく、ユウの姿はない。
「俺も行こう」
 肩を落としてまた探しに行こうとする勝浩に、ビッグを連れた幸也が声をかけた。
「二手に分かれよう。俺、こっち行くから」
「お願いします!」
 一時間ほど探したろうか、依然ユウの影も形も見あたらない。
 携帯が鳴り、幸也が見つかったか、と聞いてくるのだが、見つかりません、と勝浩は力なくうなだれる。
 二人は一旦老人ホームに戻ると、ビッグも他の犬や猫と一緒にワゴンに乗せた。
「すみません、もう少し、探してみますので、ビッグ、お願いします」
 そう言って、ワゴンを見送ったのだが、勝浩はすっかり落ち込んでいた。
「勝浩、そうがっかりすんな。らしくないぞ、いつもの負けん気はどうしたよ」
 ぽん、と幸也は勝浩の肩を叩く。
「だって、俺が悪い…」
 俺が、他のこと考えてたから……
 勝浩は唇を噛む。
「とにかく車であたりをまわってみようぜ。ほら、乗れよ」
 促されて勝浩は、幸也の車に乗り込んだ。
「なんだっけ、犬ってさ、帰巣本能とかあるだろ。家に向かってんじゃないか?」
 窓から辺りに目を凝らしながら必死でユウを探す勝浩を励ますように、幸也は快活に言って車をゆっくり走らせる。
「ええ、そうですね…」
「と、じゃあ、ホームから見てお前んちの方角に、走ってみるからさ」
「すみません」
 三十分ほど車でホームの周囲をあちこち流してみたが、やはりユウの気配はない。
 車がホーム近くの公園に差し掛かった頃には、あたりは夕暮れの色が濃くなり始めていた。
 その時、勝浩は木蔭に茶色い影が動くのを見た気がした。
「停めてください!」
「いたか?」
 幸也が車を路肩に寄せて停めるなり、勝浩はドアを開けて公園に走りこむ。
 後ろから幸也も追ってくる。
 それほど大きな公園ではないが、鬱蒼とした木立の間を遊歩道が続いている。
「ユウ!」
 周りに目を配りながら、勝浩は必死にユウの名前を呼ぶ。
 遊歩道の向こうの方で、わん、わんっと犬の鳴く声がした。
 勝浩は走った。
 だが勝浩が見つけたのは、やがて遊歩道が終わるあたりで、ユウと同じ柴犬を連れた男の姿が道路に出て行こうとしているところだった。
 噴き出す汗を手の甲でぬぐいながら、勝浩はがっくりと息をつく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

Tea Time

chatetlune
BL
「月で逢おうよ」の後の幸也と勝浩のエピソードです。 再会してぐっと近づいた、はずの幸也と勝浩だったが、幸也には何となく未だに勝浩の自分への想いを信じ切られないところがあった。それは勝浩に対しての自分のこれまでの行状が故のことなのだが、検見崎が知っている勝浩のことが幸也にとっては初耳だったりして、幸也は何となく焦りを感じていた。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

処理中です...