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月で逢おうよ 14
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「勝浩、いたか?」
幸也の声に顔を上げた勝浩は、首を横に振る。
「ちょっとそこに座ってろ」
すっかり意気消沈した勝浩をそばのブランコに座らせると、幸也は遊歩道を抜けて公園を出て行った。
やがて戻ってきた幸也の手にはポカリスエットが二つ。
その一つを勝浩に差し出した。
「あ、どうも…すみません……」
二人してブランコに腰を降ろし、ポカリスエットの蓋を取る。
ポカリを一気に半分ほど飲み干して、勝浩はようやく人心地ついた。
あたりはすっかり暗くなってしまった。
どこにいる、ユウ!
迷子になって寂しい思いをしているのではないだろうか。
もしや事故にでもあっていたら、どうしよう、ユウ……!
「元気出せって。そう遠くには行ってないだろ。ひょっとして、ホームに舞い戻ってるかもしれないし」
幸也が珍しく神妙に言葉を選ぶ。
「あいつ………、どうやら引越しで前の主人に置き去りにされて、学内うろついてたのをうちの研究会に連れてこられたんです。一年くらい前」
勝浩はユウと初めてあった頃のことを頭に思い描きながらポツリポツリと口にする。
「ったく! 言葉がしゃべれないと思って、勝手なことするよな! ま、そんな飼い主じゃ、一緒にいたって幸せじゃなかったろうさ」
怒りを顕にする幸也を見て、勝浩はちょっと微笑んだ。
「しばらくは何も食べてくれなくて。クラブハウスにおいといたら衰弱していくだけかもしれないと思って、俺、自分の部屋に連れてったんですけど、最初は全然心を開いてくれなかった。でも、辛抱強く世話したかいがあってようやく、ミルク飲んでくれて。それから、ずっと一緒に暮らしてきたのに」
そうだ、ちょうど幸也が留学しているらしいと、七海から聞いたばかりの頃だった。
あの頃の自分にとって、ユウはどんなに頼もしい存在だったことか。
「勝浩…、大丈夫だって、見つかるさ、すぐ」
いや、例え幸也が留学から戻ってきたからといって、たまたま検見崎に頼まれてここにいるだけで、そもそも遠い存在なのは変わりはなかったっけ。
「ユウのことで、できれば保護活動にも手を伸ばしたいって思ったんですが、なかなか簡単にはいかなくて」
「そうだな。学内にシェルター作るってわけにもいかないから、どこか犬猫収容できるような場所をまず探すしかないな」
ボソリと言った勝浩の言葉に、真面目な答えを返す幸也に、勝浩は意外な側面を見た気がした。
「すみません、もういいです。長谷川さん、忙しいのに。俺、ひとりで探しますから」
勝浩はちょっと幸也の存在に浮かれそうになっている自分を叱咤するように立ち上がった。
「勝浩、自分だけで何とかしようってとこ、変わってないよな。あのさ、目の前にいるやつは親でも使え、くらい、図太くなれとは言わないけどな、もちょっと周りに頼ってもいいんじゃないか?」
急に幸也にそんなことを言われて勝浩は戸惑う。
「俺なら全然平気だからさ、これ飲んだら、気取り直して、ユウの捜査再開しようぜ」
「……ありがとうございます…」
「まあた、そんな他人行儀な! 俺と勝浩の仲で」
がしっと肩を引き寄せられて、勝浩はかあっと熱くなる。
「ちょ…悪ふざけはやめてくださいってば」
腕を逃れようとするものの、何となく力も入らない。
「なんか勝浩、とってもいい抱きゴコチぃ」
「長谷川さ……!」
ちょっといい人だと思ったらすぐこれだ。
そんなことしないでほしい。
俺が、どんなに好きだったかなんて、知らないくせに!
今だって、また…………。
その時、勝浩の耳に聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「……ユ…ウ……?!」
勝浩は叫ぶと、幸也の腕を振り解いて駆け出した。
聞こえる。
あれは絶対ユウだ!
きゅうん、きゅうん、と、鳴き声らしきものに耳を澄ましながら、四方を見回す。
どこだ?
じっと木々の間に目を走らすと、大きな銀杏の木の根元に動くものが見える。
「ユウ!」
いた!
勝浩を見つけたユウが、ワン、と一声吠え、嬉しげに尻尾をクリクリ振っている。
駆け寄ってみると、ユウのリードが植え込みの柵に引っかかって動けないでいたのだ。
「まったく、お前は! 人騒がせなやつだ!」
「いたか!」
駆けつけた幸也もしゃがみ込み、しきりと勝浩の顔をなめまくっているユウの頭を撫でまわす。
「よかったな、こら、勝浩に心配かけんじゃねーぞ、ユウ」
「ほんとによかった。どうもありがとうございました!」
勝浩は幸也にぺこりと頭を下げる。
「いやいや。お礼は勝浩のその可愛い笑顔で十分」
「そうやって人をおちょくらなければ、いい人なのに」
唇をムッと尖らせて、勝浩は軽く幸也を睨みつける。
「そういえば、俺の知らないうちに、何で長谷川さんの携帯が登録されてるんです?」
今になって、幸也の携帯を受けたとき、しっかり幸也という文字が出たことを思い出した。
勝浩には幸也の携帯を登録した覚えなどまったくないのに。
「覚えてないのか? 飲み会の時、連絡先交換しただろ」
「え………」
そう言われても記憶がないから、むやみに否定もできない。
「ほんじゃ、車にもどろう。送るからさ」
「え、あの、でもそこまでしていただいたら…」
「遠慮なんかするなって言ったはずだぜ?」
「…じゃあ、お願いします」
「よーし、ユウ、行くぞ」
勝浩とユウを従えて、先頭に立って歩く幸也の背中を見て、勝浩は苦笑する。
幸也の声に顔を上げた勝浩は、首を横に振る。
「ちょっとそこに座ってろ」
すっかり意気消沈した勝浩をそばのブランコに座らせると、幸也は遊歩道を抜けて公園を出て行った。
やがて戻ってきた幸也の手にはポカリスエットが二つ。
その一つを勝浩に差し出した。
「あ、どうも…すみません……」
二人してブランコに腰を降ろし、ポカリスエットの蓋を取る。
ポカリを一気に半分ほど飲み干して、勝浩はようやく人心地ついた。
あたりはすっかり暗くなってしまった。
どこにいる、ユウ!
迷子になって寂しい思いをしているのではないだろうか。
もしや事故にでもあっていたら、どうしよう、ユウ……!
「元気出せって。そう遠くには行ってないだろ。ひょっとして、ホームに舞い戻ってるかもしれないし」
幸也が珍しく神妙に言葉を選ぶ。
「あいつ………、どうやら引越しで前の主人に置き去りにされて、学内うろついてたのをうちの研究会に連れてこられたんです。一年くらい前」
勝浩はユウと初めてあった頃のことを頭に思い描きながらポツリポツリと口にする。
「ったく! 言葉がしゃべれないと思って、勝手なことするよな! ま、そんな飼い主じゃ、一緒にいたって幸せじゃなかったろうさ」
怒りを顕にする幸也を見て、勝浩はちょっと微笑んだ。
「しばらくは何も食べてくれなくて。クラブハウスにおいといたら衰弱していくだけかもしれないと思って、俺、自分の部屋に連れてったんですけど、最初は全然心を開いてくれなかった。でも、辛抱強く世話したかいがあってようやく、ミルク飲んでくれて。それから、ずっと一緒に暮らしてきたのに」
そうだ、ちょうど幸也が留学しているらしいと、七海から聞いたばかりの頃だった。
あの頃の自分にとって、ユウはどんなに頼もしい存在だったことか。
「勝浩…、大丈夫だって、見つかるさ、すぐ」
いや、例え幸也が留学から戻ってきたからといって、たまたま検見崎に頼まれてここにいるだけで、そもそも遠い存在なのは変わりはなかったっけ。
「ユウのことで、できれば保護活動にも手を伸ばしたいって思ったんですが、なかなか簡単にはいかなくて」
「そうだな。学内にシェルター作るってわけにもいかないから、どこか犬猫収容できるような場所をまず探すしかないな」
ボソリと言った勝浩の言葉に、真面目な答えを返す幸也に、勝浩は意外な側面を見た気がした。
「すみません、もういいです。長谷川さん、忙しいのに。俺、ひとりで探しますから」
勝浩はちょっと幸也の存在に浮かれそうになっている自分を叱咤するように立ち上がった。
「勝浩、自分だけで何とかしようってとこ、変わってないよな。あのさ、目の前にいるやつは親でも使え、くらい、図太くなれとは言わないけどな、もちょっと周りに頼ってもいいんじゃないか?」
急に幸也にそんなことを言われて勝浩は戸惑う。
「俺なら全然平気だからさ、これ飲んだら、気取り直して、ユウの捜査再開しようぜ」
「……ありがとうございます…」
「まあた、そんな他人行儀な! 俺と勝浩の仲で」
がしっと肩を引き寄せられて、勝浩はかあっと熱くなる。
「ちょ…悪ふざけはやめてくださいってば」
腕を逃れようとするものの、何となく力も入らない。
「なんか勝浩、とってもいい抱きゴコチぃ」
「長谷川さ……!」
ちょっといい人だと思ったらすぐこれだ。
そんなことしないでほしい。
俺が、どんなに好きだったかなんて、知らないくせに!
今だって、また…………。
その時、勝浩の耳に聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「……ユ…ウ……?!」
勝浩は叫ぶと、幸也の腕を振り解いて駆け出した。
聞こえる。
あれは絶対ユウだ!
きゅうん、きゅうん、と、鳴き声らしきものに耳を澄ましながら、四方を見回す。
どこだ?
じっと木々の間に目を走らすと、大きな銀杏の木の根元に動くものが見える。
「ユウ!」
いた!
勝浩を見つけたユウが、ワン、と一声吠え、嬉しげに尻尾をクリクリ振っている。
駆け寄ってみると、ユウのリードが植え込みの柵に引っかかって動けないでいたのだ。
「まったく、お前は! 人騒がせなやつだ!」
「いたか!」
駆けつけた幸也もしゃがみ込み、しきりと勝浩の顔をなめまくっているユウの頭を撫でまわす。
「よかったな、こら、勝浩に心配かけんじゃねーぞ、ユウ」
「ほんとによかった。どうもありがとうございました!」
勝浩は幸也にぺこりと頭を下げる。
「いやいや。お礼は勝浩のその可愛い笑顔で十分」
「そうやって人をおちょくらなければ、いい人なのに」
唇をムッと尖らせて、勝浩は軽く幸也を睨みつける。
「そういえば、俺の知らないうちに、何で長谷川さんの携帯が登録されてるんです?」
今になって、幸也の携帯を受けたとき、しっかり幸也という文字が出たことを思い出した。
勝浩には幸也の携帯を登録した覚えなどまったくないのに。
「覚えてないのか? 飲み会の時、連絡先交換しただろ」
「え………」
そう言われても記憶がないから、むやみに否定もできない。
「ほんじゃ、車にもどろう。送るからさ」
「え、あの、でもそこまでしていただいたら…」
「遠慮なんかするなって言ったはずだぜ?」
「…じゃあ、お願いします」
「よーし、ユウ、行くぞ」
勝浩とユウを従えて、先頭に立って歩く幸也の背中を見て、勝浩は苦笑する。
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