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恋ってウソだろ?! 36
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「え、俺は別に天才とかじゃなくて……」
はにかむ悠のようすからは、素直な性格が窺える。
佐々木はひとり腕組みをしながら一つ一つの作品を丁寧に見ていく。
「今年はアクティブだね、画面」
「そうなんですよ、去年と真逆?」
ボソッと佐々木が口にした言葉を聴きつけて、浩輔が絵を見ながら答える。
人間も動物も動きがある。
四階へ続く階段の壁にもゼロ号から三号くらいまでの作品がアクセントのように並んでいた。
「おや、この猫……」
「チビスケです。うちに来てチビスケと遊びながら描いてて」
「仲ええんやな? 随分」
「ええ、悠ちゃん、去年からずっと藤堂さんちにいるんで。たまに、うちでもパソコンの入力とか手伝ったりしてくれてて」
「へえ? そうなん?」
思わず、佐々木は浩輔を振り返る。
言われてみると悠と藤堂とはかなり親しげのようだ。
ふーん、どういう関係かなんて、聞けないが……ほな、藤堂さん、良太ちゃんとは何でもないんかな……。
「俺、森野友香さんの絵も好きで。色とか」
突然飛び込んできた名前に、佐々木はあとから階段を上ってきた悠を振り返った。
「佐々木さんの奥さんですよね? 確か」
驚いたのは浩輔も同じだった。
「ちょ、悠ちゃん……」
「スペインから今年帰国して、確か来年早々、個展やるって聞いて、ぜってぇ見なくちゃって」
「そうか、帰ってきてるんや。彼女とはもう何年も前に別れたよって。意外なところから消息が聞けたな」
佐々木はごく穏やかに笑みを浮かべて絵に戻る。
「え………、すみません……俺、知らなくて」
佐々木の言葉を聞いた悠はさすがに決まり悪そうな顔をしている。
「ああ、気にせんでええよ。もう昔の話やし。個展やるんなら、いっぺん見にいかんとなぁ」
森野友香、などといわれると、不思議なほどその存在が遠くなったのだと佐々木は実感する。
彼女が本来の自分に戻り、そして飛躍を遂げたということは、少なくとも彼女にとっては佐々木と別れたことが吉と出たのだろう。
今となっては、彼女と過ごした時は佐々木にとって切ないけれども既に過去の日々だ。
浩輔と出会ったことでそう思えるようになった。
そして今、そうした昔のことを穏やかに眺めていられるのは、トモの存在が大きいと認めざるを得ない。
仕事中であれ何であれ、トモの顔が自然に頭に浮かんでしまうのだから。
「週末はしばらくここにしましょうか。佐々木さん、結構気に入ってくれたし。でも、雪が降ったら、信州がいいな。俺も久しぶりにスキーやりたいから」
箱根であたりまえのようにトモは言った。
佐々木が否と言うはずがないと思っているようだ。
事実、佐々木が滅多に飲まない薬を飲んだりしたのは、週末を風邪なんか引いてダメにしたくないと心の奥で思っているからだ。
身体だけでなく思考まで操られているな………
はにかむ悠のようすからは、素直な性格が窺える。
佐々木はひとり腕組みをしながら一つ一つの作品を丁寧に見ていく。
「今年はアクティブだね、画面」
「そうなんですよ、去年と真逆?」
ボソッと佐々木が口にした言葉を聴きつけて、浩輔が絵を見ながら答える。
人間も動物も動きがある。
四階へ続く階段の壁にもゼロ号から三号くらいまでの作品がアクセントのように並んでいた。
「おや、この猫……」
「チビスケです。うちに来てチビスケと遊びながら描いてて」
「仲ええんやな? 随分」
「ええ、悠ちゃん、去年からずっと藤堂さんちにいるんで。たまに、うちでもパソコンの入力とか手伝ったりしてくれてて」
「へえ? そうなん?」
思わず、佐々木は浩輔を振り返る。
言われてみると悠と藤堂とはかなり親しげのようだ。
ふーん、どういう関係かなんて、聞けないが……ほな、藤堂さん、良太ちゃんとは何でもないんかな……。
「俺、森野友香さんの絵も好きで。色とか」
突然飛び込んできた名前に、佐々木はあとから階段を上ってきた悠を振り返った。
「佐々木さんの奥さんですよね? 確か」
驚いたのは浩輔も同じだった。
「ちょ、悠ちゃん……」
「スペインから今年帰国して、確か来年早々、個展やるって聞いて、ぜってぇ見なくちゃって」
「そうか、帰ってきてるんや。彼女とはもう何年も前に別れたよって。意外なところから消息が聞けたな」
佐々木はごく穏やかに笑みを浮かべて絵に戻る。
「え………、すみません……俺、知らなくて」
佐々木の言葉を聞いた悠はさすがに決まり悪そうな顔をしている。
「ああ、気にせんでええよ。もう昔の話やし。個展やるんなら、いっぺん見にいかんとなぁ」
森野友香、などといわれると、不思議なほどその存在が遠くなったのだと佐々木は実感する。
彼女が本来の自分に戻り、そして飛躍を遂げたということは、少なくとも彼女にとっては佐々木と別れたことが吉と出たのだろう。
今となっては、彼女と過ごした時は佐々木にとって切ないけれども既に過去の日々だ。
浩輔と出会ったことでそう思えるようになった。
そして今、そうした昔のことを穏やかに眺めていられるのは、トモの存在が大きいと認めざるを得ない。
仕事中であれ何であれ、トモの顔が自然に頭に浮かんでしまうのだから。
「週末はしばらくここにしましょうか。佐々木さん、結構気に入ってくれたし。でも、雪が降ったら、信州がいいな。俺も久しぶりにスキーやりたいから」
箱根であたりまえのようにトモは言った。
佐々木が否と言うはずがないと思っているようだ。
事実、佐々木が滅多に飲まない薬を飲んだりしたのは、週末を風邪なんか引いてダメにしたくないと心の奥で思っているからだ。
身体だけでなく思考まで操られているな………
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