恋ってウソだろ?!

chatetlune

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恋ってウソだろ?! 30

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 予期せず呼び覚まされるトモの声や笑顔や指の熱さ。
 頭の中をトモが支配して沸騰しそうになり、どうしようもなくなって、佐々木は自分のデスクを離れざるを得なくなるのだ。
 ただし、風がきつく空気がかなり冷え込んでいたらしい。
 お陰でどうも風邪気味だ。
 トモが約束どおり佐々木を迎えに来て箱根に向かったのは先週末、正確に言えば金曜の夜のことだった。
  
 
  
 
 仕事のことで考え込むと、佐々木の場合、時間というものがあることさえ忘れてしまう。
 必然的に食事にせよ睡眠にせよ不規則になるわけで、一時間ほどトモを来客用のソファで待たせた上、車に乗ってから東名に入る頃には既にぐっすり眠っていた。
「随分、お疲れのようですね」
 トモが車のドアを開け、外の冷たい空気を感じた時、佐々木はようやく目を覚ました。
「いや、不規則なだけで……」
 もう十年来使っている洗面用具や着替えを入れた旅行用ポーチと一緒に、言い訳のように愛用のモバイルもバッグに入れて車の後ろに放り込んできたが、おそらく開くこともなさそうだ。
 別荘の玄関を開けるとセンサーで灯りがついた。
 トモは玄関脇のテーブルに置いてあったリモコンの空調ボタンを押し、同時に窓を覆っていたローマンシェードを上げる。
 トモに起こされて、肩を抱えられるように別荘の中に入った時は、寝起きの状態であまり周りに目をくれることもしなかったのだが、リビングに通されてまた落ちそうになる瞼をしっかと開いたのは、トモが暖かいカフェオレを持ってきてくれた時だった。
「どうぞ。インスタントですけど。俺、コーヒーとか入れるのうまくないんで」
 湯気のたつカップを口に持ってくると、ほっと息をついて、佐々木は初めて室内を見渡した。
 まず目に飛び込んできたのは、一面のガラス窓の向こうの鬱蒼とした樹木が風にざわめくさまが、庭園灯の明りにぼんやり映し出されている光景だった。
 リビングは何十畳あるのか、高い天井へと吹き抜けになっていて、贅沢過ぎるほど広い空間はひんやりと静かだった。
 一階は、部屋を区切る壁が窓へ向かう途中で終わり、どうやら隣の部屋へ行くにもドアがない。
「……すごい夜の庭やな。ここは?」
 佐々木は呟くように言った。
「俺の母親の持ち物で、ガキの時からよく遊びにきてるんですよ」
 別荘というより、邸宅だ。
 やはりトモはよほど富裕層の出自なのだろう。
 後ろの壁にかかっているのは、著名な画家の百号の油彩だ。
「松木洋介の大作をここで見られるとは思わんかったな」
 松木洋介は昭和初期に活躍した画家で、戦後間もなく若くして亡くなっている。
 佐々木が好きな画家の一人だ。
 その横にはベンシャーンの小品やヨーロッパの風景画が並ぶ。
「母親が好きなんです。でも、統一性がないでしょ」
「かまへんて、そんなん。ええもん観てられたらそれで」
 しばし、佐々木は立って絵の一つ一つに見入る。
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