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ほんの少し届かない 20
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「正月の特番、しっかり頼むぜ、お前次第で視聴率左右するんだからな」
「まかせとけって」
「佐々木ぃ、久しぶりじゃん。独立したって?」
ガールフレンドと一緒にきていたロックヴォーカリストのキョウヤが一杯機嫌で焼酎を片手にやってきて、佐々木の隣に座ったので、また佐々木に沢村を紹介しそこねた。
「どうぞ、沢村くんからいただいた『酒盗人』です」
やがて藤堂が皿と箸を携えてテーブルに置いた。
マイセンに盛りつけられた『酒盗人』というのもあまり眼にすることはないだろう。
「越の寒梅』も栓が抜かれ、キョウヤと話していた佐々木や直子も藤堂の方へ向かうのに続いて沢村も立ち上がった。
場は一気にオヤジたちの酒盛りの様相を呈してくる。
イブの夜は深夜に近づいて一層賑やかになった。
藤堂がひとみの持ってきたヴィンテージ物のワインをそろそろ開けようかという頃、ドアフォンのランプが赤くなった。
「はい、須永さん? どうぞ」
マネージャーの須永ともう一人くるからと、さっきひとみに言われていた藤堂は、愛想よくセキュリティを解除する。
リビングの大時計があと数分で午前零時を告げようとしていた。
「わあ、雪」
直子が立ち上がった。
「ウソ、すごい」
「きれい」
直子につられて歓声が上がる中、リビングいっぱいに広がる大きな窓から見える夜景にふわふわと雪が落ちていく。
部屋の中が柔らかいキャンドルライトだけなので、雪の白さを際立たせている。
「工藤さんじゃないですか」
ぼんやり雪に見とれていた良太は、えっと振り返る。
「もう一人なんて言うからどなたかと思いましたよ。ようこそ」
藤堂に案内されて入っていたのは、須永と苦々しい顔を崩そうともしない工藤だった。
「工藤さん、お帰りなさい」
良太は慌てて工藤のもとに駆け寄った。
びっくりした。来るなんて思ってなかったし……
「…………でも、何で須永さんと?」
良太の頭の中に?マークが飛び交う。
だが、それよりもシャンパンを飲んだ上に、日本酒まで味見をさせられてちょっといい気分な良太は、工藤が来たのが嬉しい。
「よお、こっち座れよ、せっかくきたんだ」
こちらもすっかりいい機嫌の下柳が工藤を手招きする。
「ヤギ……もうできあがってるのか」
「どうぞこちらへ」
浩輔がコートを受け取って、ひとみたちの方へ工藤を案内する。
「ひとみさんからいただいたワイン、開けますね」
藤堂はソムリエよろしく澱を舞い上がらせないように静かに栓を抜いてグラスに注ぐ。
「熟成されたいい香りだ」
藤堂が言った。
「ほんと、美味しい」
ひとみもご満悦だ。
「カビくさいんじゃねーの?」
下柳が恐る恐る口をつける。
「ヤギちゃんに飲ませてもわかんないわね~」
「オールド・ブルゴーニュ、何だか懐かしいな~、いい色だ」
藤堂がグラスを掲げて言った。
「懐かしいってどうして?」
良太が聞くと、「若い頃、デュデさんのところに遊びに行ったことがあったんだ」と藤堂は答える。
グラスを前に、工藤はひとみの隣でそんな様子を面白くもなさそうに見やる。
「ちょっと、せっかくのクリスマスパーティにそんな仏頂面、やめてよね、高広」
ひとみの辛らつな声が工藤の眉間にまた一つ皺を刻む。
「せっかくのイブにお前の声なんか聞けば、仏頂面もしたくなるさ」
「何よ、それ、感謝してほしいくらいよ」
「まあまあ、お二人とも。せっかくのクリスマス、楽しくいきましょう」
藤堂は微笑みながら、すぐ横にいつもはただ大きなだけの家具と化しているピアノのふたをあけた。
あまり普段は弾かれることのないスタンウェイだが、毎年調律はされているらしい。
すぐに藤堂の指からジャズにアレンジした『ヒイラギ飾ろう』の旋律が流れ始めた。
「やだ、藤堂ちゃん、ピアノ弾けるの隠してたの?」
直子や悦子が藤堂の傍に歩み寄る。
良太がふと気が付くと沢村は最近人気上昇中の報道キャスター、岡田マリオンと窓辺にいた。
「何だよ、うまくやってんじゃん」
良太は小さく呟いた。
最近沢村と話す時、時折心ここにあらずのように思えたのは、沢村が三冠王を取ったもののチームの成績がふるわなかったことを気にしていたからだろうと思っていたが、彼女でもできればまた張り合いも違うだろう。
肇とかおりに続いて沢村もラブラブか。
ちぇ、また俺だけ置いてけぼりかよ。
「にしても、藤堂さんて、ほんと、侮れない人ですよね」
二人から視線を戻し、良太は工藤に話しかけるが、工藤は相槌を打つでもなく、ワイングラスを口に運ぶ。
全く。
いきなり電話してくるから何事かと思えば。
名古屋の工藤にひとみから電話が入ったのは、九時少し前、藤田会長と料亭から出てきて、東京へ戻ろうかと考えているところだった。
ちょっと飲みすぎたからという藤田は迎えの車に乗り込んだ。
「ちょっと急用なの。今どこ?」
名古屋だと答えると、早く戻れと言う。
「まかせとけって」
「佐々木ぃ、久しぶりじゃん。独立したって?」
ガールフレンドと一緒にきていたロックヴォーカリストのキョウヤが一杯機嫌で焼酎を片手にやってきて、佐々木の隣に座ったので、また佐々木に沢村を紹介しそこねた。
「どうぞ、沢村くんからいただいた『酒盗人』です」
やがて藤堂が皿と箸を携えてテーブルに置いた。
マイセンに盛りつけられた『酒盗人』というのもあまり眼にすることはないだろう。
「越の寒梅』も栓が抜かれ、キョウヤと話していた佐々木や直子も藤堂の方へ向かうのに続いて沢村も立ち上がった。
場は一気にオヤジたちの酒盛りの様相を呈してくる。
イブの夜は深夜に近づいて一層賑やかになった。
藤堂がひとみの持ってきたヴィンテージ物のワインをそろそろ開けようかという頃、ドアフォンのランプが赤くなった。
「はい、須永さん? どうぞ」
マネージャーの須永ともう一人くるからと、さっきひとみに言われていた藤堂は、愛想よくセキュリティを解除する。
リビングの大時計があと数分で午前零時を告げようとしていた。
「わあ、雪」
直子が立ち上がった。
「ウソ、すごい」
「きれい」
直子につられて歓声が上がる中、リビングいっぱいに広がる大きな窓から見える夜景にふわふわと雪が落ちていく。
部屋の中が柔らかいキャンドルライトだけなので、雪の白さを際立たせている。
「工藤さんじゃないですか」
ぼんやり雪に見とれていた良太は、えっと振り返る。
「もう一人なんて言うからどなたかと思いましたよ。ようこそ」
藤堂に案内されて入っていたのは、須永と苦々しい顔を崩そうともしない工藤だった。
「工藤さん、お帰りなさい」
良太は慌てて工藤のもとに駆け寄った。
びっくりした。来るなんて思ってなかったし……
「…………でも、何で須永さんと?」
良太の頭の中に?マークが飛び交う。
だが、それよりもシャンパンを飲んだ上に、日本酒まで味見をさせられてちょっといい気分な良太は、工藤が来たのが嬉しい。
「よお、こっち座れよ、せっかくきたんだ」
こちらもすっかりいい機嫌の下柳が工藤を手招きする。
「ヤギ……もうできあがってるのか」
「どうぞこちらへ」
浩輔がコートを受け取って、ひとみたちの方へ工藤を案内する。
「ひとみさんからいただいたワイン、開けますね」
藤堂はソムリエよろしく澱を舞い上がらせないように静かに栓を抜いてグラスに注ぐ。
「熟成されたいい香りだ」
藤堂が言った。
「ほんと、美味しい」
ひとみもご満悦だ。
「カビくさいんじゃねーの?」
下柳が恐る恐る口をつける。
「ヤギちゃんに飲ませてもわかんないわね~」
「オールド・ブルゴーニュ、何だか懐かしいな~、いい色だ」
藤堂がグラスを掲げて言った。
「懐かしいってどうして?」
良太が聞くと、「若い頃、デュデさんのところに遊びに行ったことがあったんだ」と藤堂は答える。
グラスを前に、工藤はひとみの隣でそんな様子を面白くもなさそうに見やる。
「ちょっと、せっかくのクリスマスパーティにそんな仏頂面、やめてよね、高広」
ひとみの辛らつな声が工藤の眉間にまた一つ皺を刻む。
「せっかくのイブにお前の声なんか聞けば、仏頂面もしたくなるさ」
「何よ、それ、感謝してほしいくらいよ」
「まあまあ、お二人とも。せっかくのクリスマス、楽しくいきましょう」
藤堂は微笑みながら、すぐ横にいつもはただ大きなだけの家具と化しているピアノのふたをあけた。
あまり普段は弾かれることのないスタンウェイだが、毎年調律はされているらしい。
すぐに藤堂の指からジャズにアレンジした『ヒイラギ飾ろう』の旋律が流れ始めた。
「やだ、藤堂ちゃん、ピアノ弾けるの隠してたの?」
直子や悦子が藤堂の傍に歩み寄る。
良太がふと気が付くと沢村は最近人気上昇中の報道キャスター、岡田マリオンと窓辺にいた。
「何だよ、うまくやってんじゃん」
良太は小さく呟いた。
最近沢村と話す時、時折心ここにあらずのように思えたのは、沢村が三冠王を取ったもののチームの成績がふるわなかったことを気にしていたからだろうと思っていたが、彼女でもできればまた張り合いも違うだろう。
肇とかおりに続いて沢村もラブラブか。
ちぇ、また俺だけ置いてけぼりかよ。
「にしても、藤堂さんて、ほんと、侮れない人ですよね」
二人から視線を戻し、良太は工藤に話しかけるが、工藤は相槌を打つでもなく、ワイングラスを口に運ぶ。
全く。
いきなり電話してくるから何事かと思えば。
名古屋の工藤にひとみから電話が入ったのは、九時少し前、藤田会長と料亭から出てきて、東京へ戻ろうかと考えているところだった。
ちょっと飲みすぎたからという藤田は迎えの車に乗り込んだ。
「ちょっと急用なの。今どこ?」
名古屋だと答えると、早く戻れと言う。
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