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第42話 公爵は……

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 本陣らしき場所にはおじさんがいた。
 一人だけ金色の鎧を着ているので悪目立ちしている。
 周囲はすすけた色の鎧の兵士ばかりだった。
 明らかにこのおじさんがアウグスト公爵だろう。
 結構あっさりとたどり着いてしまった。
 
 本当なら、その辺の偉そうなヤツに吐かせる予定だったのに、たどり着いてしまった。
 それなら、本人から聞き出す方が手っ取り早いな。
「お前がアウグスト公爵か!」
「アーサー王子、自国の公爵の顔ぐらい覚えておくものですよ?」
 おじさんに説教された。
 ド正論だ。
 何も言い返せない。

『ピュア』『催眠術』「人質を取るなんて卑怯だぞ!どこに隠した?」
 無視して、話を進めてみた。
『催眠術』にかかってしまえば、そいつの記憶はあいまいになる。
 あれ?
 どうしてだろう?
 さっきから何かが刺さる。

 あ、視線だ。

 身内を含めた周囲の視線が痛いんだ。
 
 耐えるしかない。
 僕は政治にはまったく興味がないし、パーティではスミで小さくなっていた。
 おかげでガーベラとも知り合えたし、これはこれでいいと思っているんだ。
 だから、こんな断罪ムーブもしたことないんだよ。
 許してください。

「人質はもう解放してある。この後、邪魔になるからな。ふっふっふっふ……」
 なんかありますよ的な笑いをしだしたな。
 これは危険だ。

『ピュア』『催眠術』「そんなことはさせない。危険なことや、怖いことは全てやめさせるんだ!」
 ドヤァ!
 ちょっと、主人公っぽくないかな?

「いや、もう発動してしまっているから我々ではどうしようもない。すまない」
 謝られたけど、止められないんだ。
 これは困ったな。
 すごくカッコ悪い。
 それに、僕のスキルではどうしようもない。

「発動って、何をしたんですか?」
「ああ、ちょっと、魔族をたくさん召喚しているよ」
 ちょっとなのか、たくさんなのかどっち!?
 バレたからか、開き直ってるし。
 なんなんだよ、あの小デブおじさんは。

「どうやって召喚したんですか?」
「ああ、城内のワインに召喚の依り代となる血を混ぜたんだ。それを口にしたものは体に異常があったはずだ。」
 あの、片足動かなくなる症状か。
 ということは、宰相も危ない。

「あ、ちなみに私の体が依り代になってるので、魔王は私に憑依すると思います」
「え? 魔王も召喚してるの?」
「ええ、ポーター大公の研究を引き継ぐ形で、さらにパワーアップさせました」

「アーサー、もう、公爵は殺しましょう」
「ああ、そうだな。何言ってるのか分からないし。ガーベラ、頼んでもいい?」
「ええ」

 ザンッ

 公爵の頭と胴体が離れ、頭が転がる。
 胴体は馬上にある。
 体勢は崩れない。
 馬上にある。

 腕が動く。
 馬の首をつかみ、引きちぎる。
 無くなった頭の代わりに馬の頭を付ける。

 様子がおかしいと気づいた部下たちが逃げ出す。
 僕たちも逃げる。
 ガーベラは戦いたそうにしていたが、押さえつけて逃げる。
 サルビアは魔法を打ち込んでいたが、一緒に逃げる。
 アイリスはガーベラを、僕はサルビアを引っ張って逃げる。

 振り返ってみると、3mほどの巨大な馬面の魔物がいた。
 いや、魔王なのか。
 
 僕たちは城へ避難しようとしたが、周囲の様子がおかしい。
 やはり、片足動きにくい人が魔族化している。
 このままでは城内の半数が魔族化する。
 このまま魔族化が進んでしまえば取返しがつかない。
 
 あ

 思いついてしまった。
 魔物相手なら通用する手段が。
 魔王に通用するかはわからない。
 でも、今やらないと、魔王に近づくチャンスすらこないだろう。

 逃げることをやめ、立ち止まる。
 振り返るみんな。
 僕は思いを告げる。

「ガーベラ、サルビア、アイリス。僕は三人同時に結婚したい、わがまま王子なんだ。そんな、わがまま王子の話を聞いてくれないか?」
 
「私はいつでも聞きますよ」
 ガーベラは真剣に聞いてくれた。
「私だって聞くよ」
 サルビアは賢そうに聞いてくれた。
「はい、私も聞きます」
 アイリスは僕の言葉を信じて聞いてくれた。

「ありがとう。今から魔王を倒しに行く。ついてきてくれ」

「わかりました」
「わかったわ」
「承知しました」
 それぞれの思いを乗せて答えてくれる。

 この思いを受け取り、僕は魔王の元へ向かう。
 魔王は待ち構えていた。
 魔族の召喚がうまくいったので、城は落ちたものだと思っているのだろうか?
 僕は確実に声が届く距離まで行き、叫んだ。

『ピュア』『催眠術』「テイム! 魔族を全員引き連れて元通りに帰ってしまえ!」

 魔王は固まる。
 動かない。
 何か抵抗しているのだろうか?
 全く動かない。
 これが効かないようならまずいな。
 使用回数も無いしな。

「ぎぃきうgじょあhろいふじこごrjごえjrg」

 魔王の挙動がおかしい。
 どうした?
「スキルが効かなかったのですかね?」
「もっと使ってみたら?」
「もう、今日の分は今ので使い切ったんだ」
 サルビアの質問に答える。
 ガーベラの質問には答えを用意できない。

「アーサー、先ほど、回数と言いましたが、あなたのスキルは回数制限があるのですか?」
「うん。1日にレベルの数だけ使えるんだ。今なら6回だね。それがどうしたの?」
「いえ、時間的に日付は越えてそうなので、回数はリセットされているのでは?」
「なるほど。それは考えつかなかったな。試してみるよ」
 ガーベラ天才!

『ピュア』『ピュア』『催眠術』『催眠術』「テイム! 魔族を全員引き連れて元通りに帰ってしまえ!」

 絶対に効く三回重ねを試してみた。
 魔王の様子はおとなしくなった。
 効果はある。
 どうやら、日付は変わっているらしい。

 そして、魔王の首が取れた。

 馬の頭が取れて、体がみるみる小さくなる。
 最終的には人のサイズになった。
 公爵の体だろう。

 近くにいた、魔族の体から黒いモヤが出ている。
 魔族の素となっていた何かなのだろうか?
 黒いモヤが出た人はその場に倒れた。
 体に異変はなさそうなので放置した。
 あたりは倒れた人だらけになっていた。

「これで終わりだよね?」
 サルビアがつぶやく。
「ああ、終わりみたいだな」
 僕が答えた。
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