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雷鳴轟く四日目
杉並の刺客③
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冷凍庫に漂う冷気が徐々にその脅威を露わにし、体の芯から凍えさせていく。
まだ十分も経っていないのにこの寒さ。隣で黙って話を聞いているだけの神楽耶はより寒さを感じているのか、先程から何度も手に息を吐き出しては手のひらをこすり合わせている。
やはり一刻も早くここを出なければ危険なようだ。
明は野田の反応を待たずに、素早く言葉を紡いでいった。
「それでもまだ、お前が生きているなんて確信は一切持っていなかったんだがな。少なくとも一瞬でその考えを打ち消したりはせず、本当に一井や野田が生きている可能性はないのか。もしくは藤城の言うように十四人目がいないのかを考察してみた。すると初日に起こった出来事に一つ、かなり違和感があることに気づいたんだ」
「お、ついに来た! ボクが君たちに残しておいた最初のヒントだね! 演出の意味も強かったけど、どちらかといえばボクという最強の敵を迎えてしまった君たちへのサービスがメインだったからね。しっかり気づいてもらえたようでよかったよ」
「……そうして気づいてやってきた相手を凍死させるなんて、随分素敵なサービスですね」
明の隣でぼそりと神楽耶が呟く。野田を挑発するようなことは言わないよう頼んでいたが、つい堪えきれずに漏れてしまったようだ。それとも寒さのせいで正しい思考ができなくなってきたのか。
どちらにしろ、今明にできることは限られている。
少しでも暖を取り活動可能時間を延ばそうと、神楽耶の体を抱き寄せお互いの体を密着させる。神楽耶は一瞬驚いた表情したものの、その意味をすぐに悟り自らより体を密着させてきた。
場所が生死のかかった冷凍庫の中でなければもっと素敵な気分になれただろうに。そう残念に思いつつ、明は口を開く。
「俺が感じた初日の出来事における違和感。それは野田の断末魔の叫びが、大広間にいた俺たちの耳に届いたことだ。
野田の――お前の悲鳴が俺たちに聞こえたということは、言うまでもなくお前と一井が本館にいたことを意味している。だが、佐久間主催の親睦会を断った二人がなぜ本館にいたのか。百歩譲って途中で参加する気になったとして、二人仲良く本館まで歩いてきたとは思えない。また仮に一井が野田を殺すつもりでいたのなら、タイミングとして最も適しているのは野田が自室のドアを開けた瞬間だろう。わざわざ本館まで来てから殺す必要性は感じない。
唯一この話に筋道を立てるとすれば、こんなものが思いつく。まず親睦会がやはり気になった野田が単独で本館にやって来ていた。そこに後から斧をもってやってきた一井が現れ、大広間近くをうろついていた野田の不意を突いてその首をはねた、というストーリーだ。だが、俺はこの筋書きにも違和感を覚えた。もし一井が野田の不意を打つことに成功したのなら野田に悲鳴を上げる暇なんてなかったはずだし、不意を突けなかったのなら断末魔の叫びの前に助けての一言でもあってしかるべきだと思ったからだ」
「そうそうそう! これもっと皆気にしてしかるべきだと思ったんだけどね! 一井がボクの死体を持っていくだけでなく、そのあと一井自身が頭を爆発させて死ぬなんてサプライズがあったせいか、誰もそこのところを気にかけてる人がいなくて寂しかったよ! まあその結果ボクの計画は超スムーズに進んだから文句なんて何もないけどね。ぷききききき!」
「……仮に橋爪の件がなくとも、あの時点であれが狂言だったことに気づくことなどできなかっただろうがな」
初日からチームを作るのは難しい。まだゲームの勝手が分かっておらず、他のプレイヤーがどんな人物なのかの情報もない。そんな状況下ではチームを組むことにどんなメリット・デメリットが伴うか判断がつけられないからだ。
そんな中で、まさか二人とチームを組んでいる者がいるなどと誰が考えるだろうか。
と、そこで明はふとあることに疑問を抱き、一旦推理を止めて野田に尋ねた。
「そういえば、一井は結局お前と秋華の仲間だったのか? いや、そもそも秋華とお前はいつ仲間になったんだ? 藤城が見た秋華の行動からするに二日目には仲間になっていたのだろうが、それは大広間での自己紹介が終わった後に……」
ここまでの推理では特に語ってこなかったが、ゲームルーラーXの正体を一井でなく野田だと考えたのは、偏に野田の死ぬ瞬間を見ていなかったことにある。
どんなスペルで死体の偽装(?)をしたのかは分からなかったが、スペルの力を信じていたとしても一度死んでみせるという真似ができるとは思えなかった。となると死体を作り出すような能力や、物を変身させる能力が妥当だと考えられた。なので大広間にて実際に動き喋っていた一井ではなく、死体となって皆の前に現れた野田の方こそがXであると推理したのだ。
ただ、野田がXとした際に残る疑問として、やはりどのように仲間を作ったのかという問題がある。初日の時点で野田の計画に付き合うなど、二人の性格――特に一井の性格的にないように思えた。
大広間での一件でしか彼を知らないとはいえ、誰かに殺される恐れのある中――実際殺されたわけだが――全く物怖じすることなく参加者全員を挑発したあの獰猛さ。彼なら野田が自身のスペルを教え身替り計画を告げた時点で、何の躊躇もなく野田を殺してスペルだけ奪っていくように思えた。
そんな相手を、一体どうやって仲間に付けることができたのか。
しかし、明のそうした疑問とは裏腹に、野田は気軽い口調でさらりと答えた。
「一井も秋華ちゃんも、佐久間が自己紹介の勧めをしに来る前に仲間にしておいたよ。与えられたスペルが何かを見た時からこの計画は考えてたからね。初日から人を殺しても誰も違和感を持たなそうな一井と、ちょろちょろ館を歩き回っていて伝達や運搬に使えそうだった秋華ちゃんを仲間として選んだわけ。ボクの計画では仲間となる人のスペルを必要としていないからね。この計画の面白さと有効性をボクの巧みな弁舌にのせて話したら二人ともコロッとOKしてくれたよ」
「……そうか」
どこか納得いかない気もするが、この状況で野田が嘘をつく理由は思い浮かばない。
考えすぎも時には真実から遠ざかる要因になるかと軽く自分を戒め、明は野田の存在に至った最後にして最大の要因について話しだした。
まだ十分も経っていないのにこの寒さ。隣で黙って話を聞いているだけの神楽耶はより寒さを感じているのか、先程から何度も手に息を吐き出しては手のひらをこすり合わせている。
やはり一刻も早くここを出なければ危険なようだ。
明は野田の反応を待たずに、素早く言葉を紡いでいった。
「それでもまだ、お前が生きているなんて確信は一切持っていなかったんだがな。少なくとも一瞬でその考えを打ち消したりはせず、本当に一井や野田が生きている可能性はないのか。もしくは藤城の言うように十四人目がいないのかを考察してみた。すると初日に起こった出来事に一つ、かなり違和感があることに気づいたんだ」
「お、ついに来た! ボクが君たちに残しておいた最初のヒントだね! 演出の意味も強かったけど、どちらかといえばボクという最強の敵を迎えてしまった君たちへのサービスがメインだったからね。しっかり気づいてもらえたようでよかったよ」
「……そうして気づいてやってきた相手を凍死させるなんて、随分素敵なサービスですね」
明の隣でぼそりと神楽耶が呟く。野田を挑発するようなことは言わないよう頼んでいたが、つい堪えきれずに漏れてしまったようだ。それとも寒さのせいで正しい思考ができなくなってきたのか。
どちらにしろ、今明にできることは限られている。
少しでも暖を取り活動可能時間を延ばそうと、神楽耶の体を抱き寄せお互いの体を密着させる。神楽耶は一瞬驚いた表情したものの、その意味をすぐに悟り自らより体を密着させてきた。
場所が生死のかかった冷凍庫の中でなければもっと素敵な気分になれただろうに。そう残念に思いつつ、明は口を開く。
「俺が感じた初日の出来事における違和感。それは野田の断末魔の叫びが、大広間にいた俺たちの耳に届いたことだ。
野田の――お前の悲鳴が俺たちに聞こえたということは、言うまでもなくお前と一井が本館にいたことを意味している。だが、佐久間主催の親睦会を断った二人がなぜ本館にいたのか。百歩譲って途中で参加する気になったとして、二人仲良く本館まで歩いてきたとは思えない。また仮に一井が野田を殺すつもりでいたのなら、タイミングとして最も適しているのは野田が自室のドアを開けた瞬間だろう。わざわざ本館まで来てから殺す必要性は感じない。
唯一この話に筋道を立てるとすれば、こんなものが思いつく。まず親睦会がやはり気になった野田が単独で本館にやって来ていた。そこに後から斧をもってやってきた一井が現れ、大広間近くをうろついていた野田の不意を突いてその首をはねた、というストーリーだ。だが、俺はこの筋書きにも違和感を覚えた。もし一井が野田の不意を打つことに成功したのなら野田に悲鳴を上げる暇なんてなかったはずだし、不意を突けなかったのなら断末魔の叫びの前に助けての一言でもあってしかるべきだと思ったからだ」
「そうそうそう! これもっと皆気にしてしかるべきだと思ったんだけどね! 一井がボクの死体を持っていくだけでなく、そのあと一井自身が頭を爆発させて死ぬなんてサプライズがあったせいか、誰もそこのところを気にかけてる人がいなくて寂しかったよ! まあその結果ボクの計画は超スムーズに進んだから文句なんて何もないけどね。ぷききききき!」
「……仮に橋爪の件がなくとも、あの時点であれが狂言だったことに気づくことなどできなかっただろうがな」
初日からチームを作るのは難しい。まだゲームの勝手が分かっておらず、他のプレイヤーがどんな人物なのかの情報もない。そんな状況下ではチームを組むことにどんなメリット・デメリットが伴うか判断がつけられないからだ。
そんな中で、まさか二人とチームを組んでいる者がいるなどと誰が考えるだろうか。
と、そこで明はふとあることに疑問を抱き、一旦推理を止めて野田に尋ねた。
「そういえば、一井は結局お前と秋華の仲間だったのか? いや、そもそも秋華とお前はいつ仲間になったんだ? 藤城が見た秋華の行動からするに二日目には仲間になっていたのだろうが、それは大広間での自己紹介が終わった後に……」
ここまでの推理では特に語ってこなかったが、ゲームルーラーXの正体を一井でなく野田だと考えたのは、偏に野田の死ぬ瞬間を見ていなかったことにある。
どんなスペルで死体の偽装(?)をしたのかは分からなかったが、スペルの力を信じていたとしても一度死んでみせるという真似ができるとは思えなかった。となると死体を作り出すような能力や、物を変身させる能力が妥当だと考えられた。なので大広間にて実際に動き喋っていた一井ではなく、死体となって皆の前に現れた野田の方こそがXであると推理したのだ。
ただ、野田がXとした際に残る疑問として、やはりどのように仲間を作ったのかという問題がある。初日の時点で野田の計画に付き合うなど、二人の性格――特に一井の性格的にないように思えた。
大広間での一件でしか彼を知らないとはいえ、誰かに殺される恐れのある中――実際殺されたわけだが――全く物怖じすることなく参加者全員を挑発したあの獰猛さ。彼なら野田が自身のスペルを教え身替り計画を告げた時点で、何の躊躇もなく野田を殺してスペルだけ奪っていくように思えた。
そんな相手を、一体どうやって仲間に付けることができたのか。
しかし、明のそうした疑問とは裏腹に、野田は気軽い口調でさらりと答えた。
「一井も秋華ちゃんも、佐久間が自己紹介の勧めをしに来る前に仲間にしておいたよ。与えられたスペルが何かを見た時からこの計画は考えてたからね。初日から人を殺しても誰も違和感を持たなそうな一井と、ちょろちょろ館を歩き回っていて伝達や運搬に使えそうだった秋華ちゃんを仲間として選んだわけ。ボクの計画では仲間となる人のスペルを必要としていないからね。この計画の面白さと有効性をボクの巧みな弁舌にのせて話したら二人ともコロッとOKしてくれたよ」
「……そうか」
どこか納得いかない気もするが、この状況で野田が嘘をつく理由は思い浮かばない。
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