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ギルド職員編

冒険者クロノ死す

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 夜鷹との戦いが終わり、やっと日常が戻ってきたと思ったら、ギルド長に冒険者引退を勧められた。


「正直なところ、私もハーゲルも限界なのだよ」

「(我慢の)限界ですか……? 俺はそうは思わないけど……」

「いいや、もうムリだ。この話は、私が提案し、ハーゲルも了承してくれた」

「ハゲまで……そんなにかぁ……」

「我々を助けると思って、引き受けてはくれないか? 君にとっても、悪くない話だと思うんだ」


 悪いに決まってる。まるで悪夢だ。思い返せば、ギルド長の言葉に救われたから、冒険者を続けられたふしがある。そんな恩人に引退を勧められたのは、図太い俺でもショックだった。


 しかし、ギルド長は博識だ。俺が気づいてないだけで、底というものが見えているのかもしれない。そして、見えないところで迷惑をかけているのだろうか。


「少し……考えさせてくれませんか……?」

「構わない。しかし、長くは待てない。先ほども言ったように、我々も限界なんだ。君の力が必要だと思っている」


 冒険者として恩返しするつもりだったのだが、潮時ってやつなのか。まだろくな冒険もしてないのに、クロノ先生の次回作にご期待ください……。


「分かりました。これ以上、ギルド長にご迷惑をかけるわけにはいきません。潔く、冒険者を引退します……っ」

「……うん? 君は冒険者を辞めるのか? 君が辞めたいのなら構わないが、少し惜しい気がするよ」

「……うぅん? ギルド長が辞めろって言ったんじゃ……? あっ、あれか。社交辞令ってやつか。失礼しました」

「いや……何か、誤解していないか? ハーゲル、ちゃんと説明してくれたんだろうね? 先に話を通しておくと私に言ったはずだが?」


 俺とギルド長は揃ってハゲを見る。すると、目を逸した。


「いや、まじすまん。言うの忘れてた。ギルド職員は、冒険者と兼業できるぞ」

「俺の涙を返せ! ハゲだけ過労死しろ!」

「は、話そうと思ってたんだぜ……? でもよ、俺もその……忙しくてだな……頭からすぽーんと抜け落ちたんだよ」


 ハゲはなくなった髪を掻きむしる。お前がハゲたのは、兜が蒸れたからじゃなくて、その無意識の行動が原因じゃないか? まぁ、手遅れだが。


「ブサクロノくん、すまない。私から改めて説明させてくれないか。ハーゲルは減給しておくとも」

「減給はいいんで、説明をお願いします。ハゲが忙しかったのは、俺もそれなりに見てきました。未遂ってことで、ここはひとつ」


 そもそも、ギルド職員とは何か? それは、冒険者たちの憧れ。現役時代に優れた功績を残したものが、培ってきた経験を元に国家に尽くすものらしい。ギルド長の説明は固いな。


 噛み砕くと、レジェンドや殿堂入りって感じだろう。そして伝説へ……。


「ブサクロノくん、引き受けてくれるかはともかく、今日から君はDランク冒険者だ。昇級おめでとう」

「ありがとうございます。何もしてないんですけど」

「不滅の夜鷹を壊滅させた。本来なら君は英雄なのだが、それを証明するのは数百年は先になる」


 英雄なんて御免だ。証明されないのは好都合。交渉材料に使えばいいか。


「ヘルムの強さをこの目で見たわけではないが、説明を聞いた限りではBランクの魔物と同等の強さはあるはず。Dランクでは不服かもしれないが、飛び級はないんだ。嫌味ではないが、まぐれがあるからね」

「構いません。実際のところ、まぐれ勝ちですよ。そして、相性が良かった」

「冷静な判断だね。君を選んだのは正しかったと確信したよ」


 王都はレジェンド=ギルド職員だが、アルバは違う。受付など基本的なことはもちろん、新人冒険者の教育に力を注ぐらしい。実力そのものはさほど重要じゃないようだが……。


「君の渋とさは素晴らしい才能だ。ぜひとも、教育に役立てて欲しい」

「俺は誰かに何かを教えられるほど、できた人間じゃありませんよ」

「私は適任だと思う。それに、『やってみなければ分からない』そう言ったのは誰だったかな?」


 俺のことだろう。初めの頃も、引退勧告されてたなぁ。


「分かりました。ギルド職員になります。ただし、条件があります」

「君らしくなってきたね。いいとも、聞こう」


 ひとつ、ヘルム討伐および夜鷹壊滅の話を秘密にすること。


 ふたつ、お偉いさんなどに問い詰められた場合は、話していい。ただし、性格に難があり、犯罪者ではないがまっとうな人間でもないことを口添えすること。


「そしてみっつめですが……テレサを冒険者にしてください。夜鷹滅亡は、テレサの協力なしには実現しなかった」

「……すまない、急用ができた。続きはハーゲルに任せる」


 交渉の場で、急用か。こりゃ失敗かねぇ……。


「ブサクロノ、ギルド長は責任ある立場だ。同時に、権力を握っているわけじゃない。アインの存在に気づきながら、見ないふりをしてくれた。だからみっつめの条件だけは飲めない」


 そう甘くはないか。司法取引の概念はいずれ探る。今は見逃して貰ったことを感謝しておくか……。


「……分かった。諦めるよ」

「報奨金は2倍出す。それで納得してくれ。そもそも、ギルド職員は冒険者すべての憧れだ。それを条件を付けるとは、内容も含めて変わってんなぁ」

「まともだったら、初めて会ったあの日に、俺は聖職者になってるぜ?」

「がっはっは! 違いねぇ! まだ条件があるなら聞いてやるぜ? まともな内容ならな」

「歪んだ俺をギルド職員にする意味が分かってるよな? 基本的なことには従うが、おかしいと思ったことには、ねちっこく抵抗するつもりだ」

「多少は覚悟してるさ。でも、意外だな。お前はこっそりやるタイプだと思ってたよ」


 チーム一丸という言葉がある。同じ目標にみんなで取り組む。実に素晴らしい言葉だと思う。組織に所属するなら、必須とも言える人間スキルだ。


「だが、俺の考えは違う。みんなで同じ目標を見ているチームは、脆いんだ」


 その昔、FPSゲームをやったときにそう思った。


 仲間と同じ光景を見ることはできないかもしれないが、俺は俺なりに考えてギルドに貢献するつもりだ。それを認めてくれるなら文句はない。


「へっ、記憶喪失がまた訳の分からないことを言い始めたぜ。まぁ、いいだろう。目に余るようだったら、ギルド長がお小言で釘を刺すさ」

「交渉成立だな。ギルド職員になるよ」

「引き受けてくれるか! ではさっそく、試験を始めようか」


 はぃぃ!? 試験とかあったの!? してやられた。ニヤつくハゲがまじうぜぇ。


「お前はギルド職員として、単独で実地調査をしてくれ。場所は『魔術師の塔』だ。大昔からある、よく分からん塔だ。生息する魔物は、シャドーウルフ。こいつらを片付けて、報告書を提出して貰う」

「シャドーウルフか……俺へのあてつけか?」

「半分くらいだよ。強くなったんだろ? リベンジしてこい!」


 またしてもハゲがニヤついた。憎めないハゲである。


「期限はあるか? 今すぐ行けってわけじゃないだろ?」

「なるべく早く。あんまりのんびりされると、俺たちが倒れる」

「了解した……えーっと、部長?」

「ギルド長が頭で、俺たちは横のつながりだ。堅苦しいことは抜きにしようや。まぁ、お前じゃ失敗するかもなぁ」

「言ってろ。シャドーウルフなんざ、まとめて片付けてやるよ……テレサちゃん、帰るぞ」


 テレサちゃんの肩に手を回し、ドーレンさんの工房をあとにした。


 何事もなく家に戻ってきた俺たちは、血だらけの砕けた鎧や服を投げ捨て、風呂に入る。身を清めたらベッドに倒れ込んで泥のように眠った。明日から本気出す。



 あとがき

テレサちゃんとラブラブファックさせようかなって思うんだけど需要あんのかね
見たい人はなんかアクションくだせぇ
アイン調教日記で出番ありすぎたし書いていいのかわからなくなった
期限は1週間くらいかな
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