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新島真乃(一人称・夢の中で触手攻め・寸止め焦らし)

新島真乃⑤

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 体がちょっと火照っているように感じたので、学校へ行く前に体温を測ってみたけれど、平熱だった。
 体調が悪いわけではなかったから、火照りはあまり気にせず、いつも通り学校へ行った。
「おはよー! 真乃(まの)」
 廊下で友だちのミキと会った。ミキは昨日に引き続いて顔色が良く、テンションも高め。
 やっぱり、また悪夢を見ないで済んだのだろうか。
「うん、おはよう、ミキ。もしかして今日も……」
「もちろんだよ! ぐっすり。だって真乃が解決してくれたんでしょ?」
「えっと……」
 私は言葉に詰まった。本当のことを言えば、問題は解決していないのだけど、ミキは解決したと思い込んでいるから、言い出しにくい。私が「実はちっとも解決してない」なんて言えば、きっとこの笑顔に影が差すだろう。
「実はまだ……半分くらいで」
「そなの? でもすっごい良くなったよ! ありがとね」
 ……ごめん、ミキ。
 とっさに嘘を吐いてしまった私は、心の中で友だちに謝った。
 あの妖魔は、私が絶対にやっつけるから。あなたの友だちとして。それから、退魔師のプライドにかけても。


 午前中は普段通りの日常そのものだった。
 けれど、昼休みが終わって、午後の授業が始まった頃から、私はだんだんと体に違和感を覚え始めた。体が熱っぽくなって、『あれ』が疼くのだ。
 数学の先生が公式の導き方を説明しているけど、全然頭に入ってこないし、練習問題を解くのも、手に付かなかった。自慢じゃないけど、私は高校の授業が分からなくて困ったことは一度もない。でも、今日は勉強どころじゃなかった。
 私は椅子に座ったまま、シャーペンを置いて、脚を閉じて、両手でスカートをぎゅっとつかんでいる。『あれ』が疼いて仕方なくて、脚をもぞもぞと動かす。周りの生徒たちに気づかれないように、こっそりと……。
 こんなの、おかしい。
 だって、ここは現実の世界であって、夢の世界ではない。
 だから、私の体に『あれ』は生えていない。それなのに、ないはずの『あれ』が激しく疼くのだ。最初は気のせいかと思ったけど、時間が経つにつれて、気のせいではないと分かってきた。『あれ』が快楽を求めている。もっと触ってほしい、早くイキたい、出しちゃいたい、って、ビクビクと震えているのだ。
「はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」
 私は座ったまま俯いて、このおかしな疼きがおさまるのを待つ。
 唇の間から漏れてくるのは、熱く湿った空気だ。額には変な汗が浮かんでいて、全身がすごく敏感になっているのが分かる。下手に動くと、疼きがひどくなりそうだ。
 無理よ……。だってここは教室だし、みんながいる。それに、ないものは触ることができない。お願いだから鎮まって……。
 だけど、私のささやかな願いは届かなくて、むしろ疼きは激しくなってくる。スカートから出ている太ももを、机の下ですり合わせて、ヒリつくような感覚を誤魔化そうとするけれど、それも限界がある。
「んっ……♡」
 鼻に詰まった、恥ずかしい声が少しだけ漏れてしまった。だけど幸い、周りの生徒は誰も気づかなかったみたいだ。
「新島(にいじま)、どうした? 体調が悪いのか?」
 不意に先生が私を呼んだので、私の心臓は飛び跳ねた。教室の同級生たちが、一斉にノートから顔を上げて、私に注目する。
 ダメ、やめて……こっちを見ないで……ばれちゃう……。
「新島?」
 先生は私に声が届かなかったと思ったのか、もう一度気遣うように名前を呼んだ。
 私は俯いたまま、必死に疼きに耐えながら、普通の声を絞り出した。
「体調が、ちょっと」
「保健委員、新島を保健室に連れていってくれるか?」
 一人の女子生徒が返事をして、席を立ち、私のそばに移動してくる。
「大丈夫です、一人で行きますから」
 そう言おうと思って口を開いたとき、保健委員が私の肩の辺りにそっと手を添えた。その瞬間、私の体に弱い電流のような快感が走った。
「んあ゛っ♡!?」
 とっさに手のひらで自分の口を塞いだけれど、もう遅かった。クラス中に恥ずかしい声を聞かれてしまったのだ。
「ご、ごめんなさい、新島さん……」
 保健委員の女子が動揺して一歩下がりつつ、私に謝ってくる。クラス中がにわかにざわめき出した。
 最悪だ……。顔から火が出そう。みんなを見ることができない。こんな恥ずかしい思いをしなきゃならないなんて、もう死にたい……。
 ふと、先生が思い出したかのように「静かに! 今、授業中だぞ」と言ったので、教室はまた静かになった。
「大丈夫です、私一人で行きますから」
 その言葉だけ一生懸命に絞り出して、また変な声を出さないように気を付けながら、私は慎重に立ち上がった。どうしていいか分からずにその場に立ち尽くしている保健委員を置いて、ゆっくりと教室を出た。
 

 向かったのは保健室ではなく女子トイレ。今は授業中だから、私以外は誰もいない。一番奥の個室に入ってカギを閉めると同時に、膝から崩れ落ちた。
「はぁ……♡ はぁ……♡ 体が……おかしい……」
 夢の中の男根の幻が、現実世界の私の体を激しく疼かせている。私はふらつきながら立ち上がって、便器に座った。両足を少し開いてスカートのすそをめくり、じんじんしている陰部に人差し指で触れる。
「あっ♡」
 下着の布越しだから刺激は弱いけれど、かゆいところに手が届いたようで、ちょっと気持ちいい。少なくともクリトリスに刺激を与えている間は、疼きが少しおさまるってくれる。
「んっ♡ ……っ♡ んくっ♡」
 学校のトイレでこんなことをしていいはずがない。だけどこうして罪悪感を我慢して、火照った体を慰めてやらなければ、気が狂ってしまいそうなのだ。
 もし急に誰かがトイレに入ってきたらどうしよう。
 そんな不安があるのに、クリを撫でる手はどんどん大胆になっていく。クリを触るのがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。あの触手男のせいで、私の体は開発されてしまったの……?
 愛撫をやめることができない。私はいつの間にか脚を、少しではなく大きく開いている。スカートをすっかり捲り上げたので、正面からパンツが丸見えだ。それだけでも恥ずかしい格好なのに、もう片方の手は、制服のシャツの上から自分の胸を揉んでいる。だけどブラの上から揉むのでは刺激が伝わりにくくて、じれったくて、シャツのボタンを外してブラを押し上げて、乳首を直接指でつまんだ。
 気持ち良くて、脳がとろけそう。乳首もクリもピンと硬くなっているのが分かる。私は興奮しているんだ……。こんなふうに、えっちな格好をして、みんなが真面目に勉強している授業中に、一人だけえっちなことをしているんだ……。
 大きい声を出すわけにはいかないので、ワイシャツを口にくわえて声を抑えながら、私は疼く体を絶頂に向かって導いていく。触手でも男の手でもなく、私自身の指によって、私の体は喜んでいた。
「んっ♡ あっ♡ んんぅ♡ あぅ♡ あぁん♡ だめ♡ ああもう♡! あ゛ッ♡♡ ぅん゛ん゛ッッ♡♡♡!!!」
 初めて自分の指先で達することができると確信していた。実際、全身がびくびくと小刻みに震え、腰が浮き上がって、体の深いところから熱いものが吹き出しそうになった。
 なのに、イケなかった……。
 溜まっていた快楽の泉が枯れていった……。
 絶対に今、イク寸前まで来ていたのに。
「あ゛っ……ぅぅ♡ なんで!? どうしてなの!?」
 一昨日の夜に、人生で初めて体験させられた、たった一度の絶頂。
 その瞬間のことが愛しくて恋しくて、私はまた同じ高みを求めてしまう。
 中途半端な快楽では、いつまでも終わることができない。だから親指と人差し指の腹で乳首を強めにつまんで転がし、割れ目に沿ってクリトリスを縦に強めにすりすりして、もっと大きな快楽を得ようとした。
 私の体は、人間じゃない生き物みたいにビクンッ、ビクンッと跳ねる。ピリピリとした快楽が休む間もなく頭の中で火花を散らして、私を何も考えられなくしてしまう。
「あっ♡ くるっ♡ んん゛っ♡ イクっ♡!! イックぅ――――ッッッ♡♡♡♡!!!」
 こんなに体が激しく痙攣しているのに、得られた快楽は中途半端なもので……つまり、またしても私はちゃんとイケなかった。
 高みに手が届いたと思った瞬間、突き落とされてしまうのだ。それはあまりに残酷で、焦らされて快楽を欲している体はどうすることもできなくて、辛く苦しい。
「なんでよ!? どうしてイケないの!?」
 そのとき、授業の終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。
「うそっ!? もう!?」
 休み時間になれば、トイレは他の生徒がやってきてしまう。タイムリミットだ。
 自分が時間を忘れるほど夢中で自慰にふけっていたことが、ショックだった。しかも結局、一度も絶頂することができず、体の火照りはおさまらないどころか、お預けを食らったせいで、もっと疼くようになってしまった。かといって、残りの授業を全部休むというのも、先生や親にどう説明したらいいのか……。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう?
 たぶん私は今にも泣きそうな、情けない顔をしているに違いない。
 不意に、昨晩の夢の中で、意識が途切れる直前に妖魔に言われたことを思い出した。
『呪いをかけてやる。俺の許可なしでは、イケなくなる呪いだ。呪いを解いてほしいなら、一週間後、またこの場所に来い』
 これが、あの妖魔が私にかけた呪いだというの?
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