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新島真乃(一人称・夢の中で触手攻め・寸止め焦らし)
新島真乃③
しおりを挟む「あ、真乃(まの)~!」
触手男と戦った翌朝。昇降口のところで、友だちのミキが私を見つけて駆け寄ってきた。
ミキは昨晩私が入った夢の主であり、悪夢に苦しんでいた本人だ。
私はドキッとして、手に持っていたローファーを落っことした。だって、私は昨晩、ミキの夢に入ったのに、妖魔を倒せず、撤退したのだ。「私に任せておけば余裕よ!」なんて自信満々に宣言した、数日前の自分を殴ってやりたい。カッコ悪すぎる!
「何してるのさ、おはよう、真乃!」
ミキは持ち前の明るさで元気に挨拶してきた。ショートカットが似合う、爽やかな娘。
「う、うん、おはよう」
私はローファーを拾って、ぎこちなく挨拶を返した。
どうしよう……まさかいきなり依頼人と対面してしまうなんて。しらばっくれて全然関係ないことを話そうか? それとも、ミキの夢には入れたけど悪夢の原因はまだ調査中だ、とか言って誤魔化す? または――友だちとして正直に、原因は妖魔だけど倒せなかったと言うべきか……。
私が迷っていると、ミキがまさにその話題を切り出してきた。
「昨日の夜、もしかして真乃がうちの夢の中に来てくれたの?」
ミキの真っ直ぐな瞳が私を見ていた。
「えーっと、まあね。ちょっと様子見に」
私は目をそらして中途半端な言い方をした。
「やっぱり? 昨日は悪夢、見なかったんだよね~」
「えっ……?」
「こんなに早く解決しちゃうなんて、思ってなかったから、嬉しくて。やっぱり持つべきは天才超能力者の友だちだよね!」
私は実際は超能力者ではなく退魔師なのだけど、表向きは『なんだか知らないうちに他人の夢に入れるという特技を身に付けちゃってました』ということにしてある。
それはそれとして。
「本当に、昨日は悪夢を見なかったの?」
「だよ? だから久しぶりに気分がいいんだ~」
確かに今日のミキは最近のミキよりテンションが30%高い。
でも、おかしい。妖魔は確かにミキの夢の中にいた。私が夢から脱出した後も、あそこに居座って夢の世界を荒らすことはできたはずだ。でも、何もしなかった? どうして?
「一緒に学食行こう。うちのおごりでさ」
「で、でも……」
「お弁当、持ってきちゃった?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど……」
「オッケー、じゃあ、決まり! 昼休みに教室に迎えに行くからね」
「あっ、ちょっと!」
私の制止を聞かずに、ミキは上機嫌で先に教室のほうへと走って行ってしまった。
ミキが悪夢を見なかったのは、いいことだけど、問題を解決したわけではないので、なんだか後ろめたい。
それにしても、今までさんざん暴れてミキを困らせていた妖魔が、昨日だけ大人しくしていたなんて、どう考えても不自然だ。
あの触手男、やっぱり何か企んでいるに違いない。
***
真夜中の廃校は静まり返っていた。
割れた窓ガラス、砂埃(すなぼこり)の積もった床、脚の折れた机や椅子――これらは現実の世界ではなく、ミキの夢の世界だ。
私は愛用の武器であるトゲ付きのムチを持って、廊下の角から辺りの様子をうかがっている。私は高校の制服姿――夏らしい白シャツと、チェックのスカート――だけど、本当の肉体は自分のうちのベッドの上で、水玉のパジャマを着て眠っている。
実を言うと、昨日の今日でまたここに来るのは、ちょっとイヤだった。でも、ミキを失望させないためには、今夜、あの妖魔を退治するしかないのだ。一度はひどい目にあわされたけど、本来なら、この私があんなヤツに後(おく)れを取るわけない。昨晩は、偶然、何かおかしなことが起こって、それが妖魔に有利に働いただけ。そうに決まってる、と結論付けて、私はここへ戻ってきた。
それでも念には念を入れて、こちらが先制攻撃をしかけられるように、状況を探っている。あいつを見つけたら、最初から問答無用で、本気の全力で、叩き潰してあげるんだから。
さあ、早く現われなさい!
私は息を殺して、触手男が現れるのを待った。だけど廃校はいつまでも静かなまま。もしかしたら、あいつ、本当にミキの夢から出ていったのかもしれない……。そんなふうに思い始めた頃。
カタカタカタカタ……と校舎が揺れ始めた。
「……何!?」
私はムチを構え、警戒態勢を取る。
揺れは大きくなり、校舎の柱が軋(きし)み、砂埃(すなぼこり)が舞う。
夢の中では地震なんていう自然現象は起こらない。つまり、この揺れは――。
床と壁を突き破って、無数のグロテスクな触手が突然現われたかと思うと、一斉に私に襲い掛かってきた。揺れはこいつらのせいだったのだ。
槍のように飛んでくる触手を、私は正確にムチで叩き落とし、引き千切っていく。だけど相手の手数が多すぎて、反撃が間に合わない……!
「くっ……!」
床、壁、窓、天井――前後に加えて上下左右――あらゆる方向から襲ってくる触手をさばききれず、私は手足を拘束されてしまった。触手が二の腕や太ももに巻き付き、引っ張る力は思いのほか強く、私は空中で両手両足を大の字に開いた格好で動けなくなる。
「どうして、こっちの位置が……」
見つかるようなヘマはしてないのに、今の攻撃は私の居場所が分かっていたとしか考えられない。なんで……?
コツ、コツ、コツ、と足音が近づいてくる。廊下の先からこちらに向かって歩いてくるのは、あの触手男だった。勝ち誇った顔が憎らしい。
「やあ、待っていたぞ」
そんな馴れ馴れしい挨拶に、私は答えないで睨み返す。
「お前が来るのは分かっていた。退魔師――新島真乃(にいじま まの)」
「あんた、何者なのよ」
「見ての通り、妖魔だ」
男の片方の腕は、肩のところから触手の束が生えて、波に揺れるイソギンチャクのようにうねうねしている。人間のようで、人間ではない存在。
「お前の敵。お前を犯す者だ」
気持ち悪くて、ゾッとする。夢の中であいつが何をしようと、現実の私の肉体に指一本触れることはできないけれど、気持ち悪いものは気持ち悪い。
「どうして私がここにいるって分かったの」
「俺が、神だからだ」
わけが分からない。夢の世界に神なんて存在しないのだ。唯一、神のように全てを支配できるとしたら、それは夢の主だけ。ここはミキの夢だから、こいつが神みたいな力を手にすることはできない。
じゃあ、どうしてあいつは二度も私を出し抜くことができたの? 分からないけど、こうなってしまった以上、現実の肉体を目覚めさせて、この夢から脱出するしかない……。悔しいけれど、背に腹は代えられないのだ。
私は胸の中で強く念じる。――目を覚まして!
すると一瞬のうちに、目の前が真っ暗になって、私はいつも寝ている自分の部屋に戻ってくる。
――そのはずなのに。
私は触手に縛られたままだった。
「なんで!? また戻れなくなってる!?」
私の悲痛な叫びを聞いて、触手男が高笑いした。
「言っただろうが。俺が神なんだ!」
「違う! だって昨日は、ちゃんと……」
「お前が現実世界に戻れるように、俺が許可してやったからに決まってるだろう?」
あいつが、私に許可をした……?
信じがたい言葉に、私は首を振った。
「ありえない! だって、ここはミキの夢の中なのよ!?」
パチン、と男が人間のほうの手で、指を鳴らした。
「おしゃべりは終わりにしよう。お前はそっちのほうがお似合いだ」
「あ……。う……そ……」
下腹部に感じる、熱と、肉の突っ張り。
スカートを押し上げている、それ。
――男根。
「いや……」
また、この男に犯される……。
「こんなの、いや……」
昨晩の悪夢が蘇り、悪寒が背筋を駆け抜けた。これから起こることを想像してしまい、絶望的な気持ちになった。
この体は、私じゃない。二度もなんて。絶対にありえない……!
「夢の中くらい、ありえないことを体験したいと思わないか?」
そう言って男は笑い、触手を伸ばして私のスカートをめくりあげた。
腕ほどの太さの立派な男根が、再び私の体から生えていた。
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