132 / 192

第56話 商会作成と離婚の準備②

しおりを挟む
 ……何がしたいのかよくわからないわ。私は不思議に思いながら、アルベルトの注いでくれたお茶を飲み干した。

「今日は用事があって、絵のモデルは必要ないんだよね?」
 紅茶を飲みながらアルベルトが言う。

「そうね、商会を作って、銀行口座用の印章と、商会印章を作らないといけないの。魔塔から支払われるお金の振込先を商会にしないと、イザークに私の財産を半分渡さなくちゃならなくて、離婚の際に不利になるから。」

「わかった。無事離婚出来るといいね。」
「そうね。早く落ち着きたいわ。
 ──そろそろ行かなくちゃ。アルベルトも仕事があるでしょう?」

「うん、そうだね。」
「片付けるわ。」
「手伝うよ。」

 アルベルトはそう言うと立ち上がり、ティーカップを四角いお盆に乗せるのを手伝ってくれた。本当に働き者だわ。

 私も茶渋がつかないように、出かけるまでに洗い物をしないとね。そう思って立ち上がると、思いの他、空になった筈のティーセットが重たくて、足元がふらついてしまう。

「──危ない!」
 アルベルトが声をかけてきて思わず振り向いた。私に手を伸ばす姿が見えた。

 するとすぐ側にいたアルベルトは私を抱き寄せて、私を支えつつ、四角いお盆をも落ちないように片手で持って支えてくれた。

「あ、ありがとう……。」
「気を付けて。それ、結構重たい。」
 アルベルトは、お盆を私から受け取ると、それをテーブルに置いて、私を支えつつ、そして私の肩を抱いてきた。

「怪我はない?」
 そのまま椅子に座らせてくれた。
 ……なんだろう?なんだか距離が近い。

「え、ええ。アルベルトが支えてくれたから何も問題はなかったわ。」
 私はちょっとドキドキしながらアルベルトにそう答えた。

 ……あら?私はなんでドキドキしてるのかしら?相手はかなり年下の男性なのに。でもなんだかやっぱり気恥ずかしいわ。私は少し俯きながら、アルベルトから目をそらした。

「洗うんでしょ?俺がやってあげるよ。おっちょこちょいだから、心配になる。」
 すると彼は少し笑って言ったのだ。
 ──まるで恋人に言うみたいに。

 それはそれは甘くて優しい、私を甘やかしたくて仕方のない恋人のようだった。
 私が心の中で葛藤している間も、アルベルトは甘く優しく私にささやき続けた。

「あなたには優しくしてあげたくなるんだ。どうしてかわからないけど。
 ただ、これだけは言えるよ。
 ──逃がさない。俺のものになって。」

 そんな不穏な言葉を言ってくる。
「あ、ありがとう?でも、別に私は逃げたりしないし、誰かのものになるとか、今はまだ考えられないの。わかって欲しいわ。」

 私は戸惑いつつも、なるべく平静を装って答えたのだった。……だいたい今日のアルベルトは、ちょっと変じゃない?

 私ばかりがドキドキして、なんだか馬鹿みたいじゃない!と内心で思う。
 するとアルベルトが目を細めて口を開いたのだ。そして言った言葉がこうだった。

「──毎日、お茶を飲みに来るよ。その時あなたを口説きに来るから覚悟して。騎士さまにも、旦那さんにも、負けない。」

 私はアルベルトの大胆な言葉に驚いて顔を上げた。するとアルベルトは、私の頬に手を添えて優しく撫でながら、甘く微笑んでいたのだった。

 ……もう!なんなの?今日のアルベルトってば!私はなんだか悔しくて恥ずかしくて、でもドキドキして……。そんな気持ちを誤魔化すように口を開いたのだ。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

【改稿版】夫が男色になってしまったので、愛人を探しに行ったら溺愛が待っていました

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
外観は赤髪で派手で美人なアーシュレイ。 同世代の女の子とはうまく接しられず、幼馴染のディートハルトとばかり遊んでいた。 おかげで男をたぶらかす悪女と言われてきた。しかし中身はただの魔道具オタク。 幼なじみの二人は親が決めた政略結婚。義両親からの圧力もあり、妊活をすることに。 しかしいざ夜に挑めばあの手この手で拒否する夫。そして『もう、女性を愛することは出来ない!』とベットの上で謝られる。 実家の援助をしてもらってる手前、離婚をこちらから申し込めないアーシュレイ。夫も誰かとは結婚してなきゃいけないなら、君がいいと訳の分からないことを言う。 それなら、愛人探しをすることに。そして、出会いの場の夜会にも何故か、毎回追いかけてきてつきまとってくる。いったいどういうつもりですか!?そして、男性のライバル出現!? やっぱり男色になっちゃたの!?

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

処理中です...