上 下
131 / 139

第56話 商会作成と離婚の準備③

しおりを挟む
「私、そんな軽い女じゃありません。離婚するからって、すぐに他の男性に靡くような、そんな女だと思わないで欲しいわ。」

 私ばっかりがドキドキするなんて悔しい!そんな気持ちで言った言葉は、きっと可愛げのないものだったろうと思う。けれどアルベルトは、なぜか嬉しそうに微笑んだのだ。

 その笑顔を見てしまうともうダメだった。私はまた悔しく思いつつも、アルベルトにも急速に惹かれつつある自分を自覚したのだった。レオンハルトさまといい、アルベルトといい、私、一体どうしちゃったんだろうか。

 私は椅子に座らされたまま、洗い物は結局アルベルトがすべてやってくれた。ヴィリと約束していたから、アルベルトとはそこで別れて私は町へ向かう馬車に乗った。

 お昼前の時間になり、私はヴィリのところへ商会を作る為にやって来た。ヴィリは笑顔で手を振りながら出迎えてくれた。

 ヴィリの用意してくれた馬車で、まずは銀行用の印章と、商会用の印章を掘ってくれるという工房に向かうこととなった。

「商会を作るには、まずは2つの印章と、なんの仕事をする商会か、代表者は誰か、なんかを書いた書面が必要になるんだ。書き方は僕が教えるから、安心してね。」

「なにから何までごめんなさい。でも、とても助かるわ。ヴィリだって絵の仕事があるでしょう?こんなにたくさん私の為に時間を作ってもらって、申し訳ないわ。」

「気にしないでよ。僕はね、君に頼りになる男性だと思われたいんだから。僕が君にとって役に立つ人間だと、頼りになる人間だと思わせられるのは、絵と商会のことだけだからね。僕はむしろ張り切っているんだ。」

 そんな風に言ってくれた。
「じゅうぶん頼りにしているし、頼りになる男性だと思っているわよ?」
「もしそうなら嬉しいな。」

 ヴィリは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「印章が出来るには時間がかかるから、出来るまでの間にどこかで食事にしようか。」

「ええ、いいわよ。ちょうどお昼にいい時間だしね。そろそろお腹がすいてきたわ。」
 時間を潰すのにももってこいね。

「印章を作る作業というのは、本当はもっと時間のかかるものなんだけどね。君が急いでいると言うし、付き合いの長い工房だったから、お願いして当日仕上げにしてもらったんだ。午後には受け取れると思うよ。」

「本当!?そんなことを頼んでくれたの?ええ、私とっても急いでいたの。ヴィリ、あなたったら本当に頼りになる男性だわ!」
 私は驚いてそう声を上げた。

 ヴィリは照れたように頭を搔いて微笑んでいた。工房に到着すると、印章のデザインを相談された。私は持参したデザインを工房の人に手渡した。

 剣の周囲を百合の花が囲んでいるデザインだ。これが今の私の気持ち。私の中には一本の折れない剣があって、だけど殺伐とした気持ちじゃなく、明るい未来も描いている。

 それを百合の花で現したのだ。いいデザインだね、とヴィリも言ってくれた。印章の作成を任せて、私たちはヴィリのおすすめだというお店でランチをすることにした。

 異国の料理を出すというそのお店は、とても美味しくて大満足だった。
「素敵なお店をご存知なんですね。とても美味しかったですわ。また来てみたいです。」

「あなたを連れてくるならここだと思いました。気に入っていただけて良かったです。」
 食後の紅茶を飲みながらそう告げる私に、ヴィリは嬉しそうに微笑む。

 お茶を飲みながらしばらく話をして、工房に印章を取りに向かった。印章はイメージ通りの仕上がりだった。デザインが同じで、四角い印章と、丸い印章が2つ出来ていた。

 どちらを銀行用にしても構わないとのことだったけれど、通常は丸いほうを銀行用にすることが多いと言われた。丸い印章は大小2つあって、小さい方は小切手用らしい。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた

ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。 マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。 義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。 二人の出会いが帝国の運命を変えていく。 ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。 2024/01/19 閑話リカルド少し加筆しました。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

処理中です...